¥月∵日
先日謁見の間にて、重犯罪及び汚職役人に対する警察組織である
この八柱将さえも逮捕する権限を持つ組織の発足に集まった者達は、ある者は納得し、ある者は戦慄していた。
今まで暗黙の内に見逃されていたヤマトの闇にメスを入れるこの組織の存在は、汚職に手を染めている者にとって脅威と言える。しかも、皇弟であり、演説で悪を許さないと宣言した俺が長官を務めるので揉み消しもできないし、下手な誤魔化しも悪手だ。そして、捕まったが最後、幽閉か首チョンパである。
流石に八柱将の連中は約一名を覗いて大きな反応を見せなかったが、何人かはこちらに興味深そうな目を向けてきた。
特に要注意人物であるライコウが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見てきたのでかなりハラハラした。
こいつは常に何か企んでいるんじゃないかって気がするから苦手だ。まぁ、直接話した事が無いから見た目と周囲の評価から判断しているだけなんだが、こいつだけは信用するなと俺のスピリットが叫んでいる。
流石に絶対遵守の力なんてないだろうが、策士であり、自分の能力に絶対的な自信を持っているこいつがこちらに牙を向いたらかなり厄介だ。最悪気付いた時には周りが皆敵になっているなんて事も有り得るからな。
だからこいつにはノスリ衆の中でも腕利きを付けて動向には常に注意する様にしよう。
それと
オシュトルの話じゃこいつが麻薬事件の黒幕である可能性が高いみたいだし、それ以外にも違法行為に手を染めている可能性があるからな。しっかり調べるとしよう。
そして、それから数日経った今日、
まぁ、発足に際して式典も行われたが、自分の出番以外は殆ど目を開けながら寝てた様なもんだったのでよく覚えていない。
特に参加してもらった両近衛大将からの長い話は催眠効果のある呪術なんじゃないかってぐらい眠くなり、仮面が無ければ完全に落ちていた。あれでまったく寝なかった隊員達は素直にすごいと思ったね。まぁ、俺と違って緊張と興奮があったからだろうけどな。
ちなみに人員に関しては、オシュトル達のリストを元にノスリ達に素行調査をしてもらい、問題無い者を面接して決定した。
皆正義感の強い連中を集めたので悪の誘惑に乗ったり、口車に載せられる事もまずないだろう。
問題は実力が高い者が多くない点だが、ここはハートマン軍曹式訓練をミカヅチにやってもらうか?・・・いや、やめておこう。あまりの恐怖で隊員がショック死しそうな上に成功しても精神に異常をきたしてミカヅチに襲いかかりそうだ。まぁ、ミカヅチなら返り討ちにしそうだが。
それじゃあ、オシュトルを隊長としてオシュトルズブートキャンプをやらせてみるか?・・・ダメだ、大勢の男があのエクササイズをやってる姿はシュール過ぎる。
やっぱりオシュトル達に相談して訓練内容を決めてもらおう。素人の俺が考えてもネタしか思い浮かばないからな。
¥月∥日
予定より少々時間が掛かってしまったがようやくアベル・カムル改(仮)の汎用機が完成したので聖廟地下の箱庭にて起動実験を行った。
アベル・カムルを生体CPUを使って動かしたという記録は無かったのでちゃんと動くか心配だったが問題無く起動。データを見ても動力は正常に動いており、擬似神経にもきちんと信号が行っているようだった。
そして、起動後は携帯端末を使用して一つ一つの動作を確認し、問題のあるところを修正していった。
これをちゃんとやらないと動作不良を起こす可能性が高いからな。
特に動作データの元になった人間とアベル・カムルじゃ体格に違いがあるから踏み込みの仕方にも違いが出る。なのでデータを見ながら十全に力を発揮できる動作に修正していく必要があるのだ。
とはいえ、搭載している生体CPUには学習機能が備わっているので、ある程度修正してやれば後は勝手にデバッグするのでそれほど大変ではない。
なので歩行動作のデバッグを行った後は、半自動モードに切り替え、各種動作のデータを見ながら方向性を指示し、アベル・カムル自身にデバッグをさせていく。
これにより本来ならうん百時間も掛かるデバッグ作業を数日で終わらせる事ができる。
そして、早く完成した分、模擬戦なんかで戦闘データを多く取り、より高度な戦闘を行えるようにして万全の状態でウズールッシャ征伐を迎えたい。
まぁ、征伐時はアベル・カムル以外にも多くの兵を連れていくので最悪俺の専用機だけでもいいんだが、やはり、相手を威圧する為にも汎用機は持っていきたい。
こんな馬鹿デカいのがずらりと並んでいるだけで相手の戦意を削ぐ事が出来るだろうからな。できる限り血を流させたくない俺としては、戦わずして勝つ、っていうのが理想だ。
それに征伐後はウズールッシャもヤマトに組み込まれ、そこに住まう者達もヤマトの民となる。だから、そういう意味でも必要以上の殺しはしたくないのだ。
ああ、そうだ。征伐前にウズールッシャの現状を確認しないとな。
兄貴の話じゃもうすぐ統一されそうだって話だが、強引な遣り口で反発している奴もいるだろうし、國内の情勢も気になる。あの地方は乾燥地帯で飢饉がよく発生するらしいから、食糧難になっているかもしれん。
そうと決まれば早速オウギに連絡して潜入部隊を編成させよう。
こういう事はノスリに頼むよりオウギに頼んだ方がいいからな。あいつならピッタリの人選をしてくれるだろう。
潜入する者には大分危険が伴うだろうが、ヤマトの為にも頑張ってもらうとしよう。
◆月卍日
まぁ、闇組織の逮捕の為に突入する際、オシュトルとノスリ達も一緒に突入するが、この場合はミカヅチの指揮下に入って行動する事になっている。
指揮系統をはっきりさせないと現場を混乱させる事があるからな。特にノスリは正義感が強すぎて度々暴走してしまうので現場ではミカヅチの指示に従うように厳命してある。
このノスリの暴走のせいで一度犯人に逃げられそうになった事があったからな。もし破れば1週間の謹慎だ。ヤマトの為に働きたいノスリにとってこの謹慎はこの上ない罰なのだ。
ちなみに発足からまだひと月も立っていないが、既に2つの組織を壊滅させた。
この2つの組織は
内容としては違法賭博と人身売買だ。
しかも、この2つの組織は協力関係に有り、人身売買組織が地方から上京してきた者を騙して監禁し、商品として違法賭博組織に売却。そして、違法賭博組織はその買った人間同士を闘わせてどちらが勝つかで賭けを行っていたのだ。
更に人身売買組織の取引先には貴族や豪商がおり、違法賭博の方にもこれらの関係者が出入りしていた為、今後更に逮捕者が出る事だろう。
たがしかし、今回の件ではデコポンポが関与していた証拠までは見つからなかった。
奴は
まぁ、この件に関しては本当に関与していなかったという可能性もあるが、現在捜査中の案件でちらほらとその影が伺えるのでこいつを逮捕する日もそう遠くないだろう。
ホント、兄貴はなんでこいつを八柱将にしたんだか。
◆月∀日
久しぶりに兄貴と東屋で茶を飲む事になったので、デコポンポについて、なんであんな明らかに問題しかない奴を八柱将にしているんだ?と聞いてみた。
すると兄貴は苦渋の表情を浮かべながら奴が八柱将になるに至った経緯を話し始めた。
かつてヤマトにはポイヤンペという英雄がいたそうだ。
その男は常勝不敗の剣豪でその戦いぶりは鬼神そのもの。
ひとたび戦闘が始まると敵であればおかまいなしに切り刻み、敵の里をぶち壊して滅ぼす。
そんな破天荒なポイヤンペではあったが、仲間に対しては強い思いやりを持った男だったので多くの者に慕われていた。
そして、ポイヤンペはその破天荒さ故に兄貴にも気さくに接してきて、何時しか帝として孤独であった兄貴にとって掛け替えのない友になっていたそうだ。
もちろん帝である兄貴に対してそんな態度のポイヤンペは周りの者から批難される事が多かったが八柱将としての確かな実績とヤマトに対する忠誠でそんな声を黙らせ、それでも五月蝿い連中は腕力で黙らせていたらしい。
しかし、そんな英雄であっても老いには勝てず、とうとう起き上がる事さえできなくなった。そして、命の灯火が消えるその直前に息子であるデコポンポを自分の降任にと兄貴に懇願して息を引き取ったのだそうだ。
その当時はデコポンポも未熟ではあるが将来有望な武人であった為、兄貴もそのポイヤンペの最後の願いを受け入れ、デコポンポを後任として八柱将に任命した。
だが、ポイヤンペが居なくなった事と若くして強大な権力を手に入れた事により、それまで押さえつけられていたデコポンポの欲望が爆発。あっという間に今のような状態になってしまったそうだ。
兄貴はそれに愕然としたが、今更親友との約束を破るわけには行かない上に、デコポンポの政治的手腕が悪くなかった為、そのまま八柱将として直轄領の統治を任せ、今に至るそうだ。
そうして話し終えた兄貴は緑茶を一口飲むと哀しみの表情を浮かべながら重いため息を吐いた。
はぁ、まさかデコポンポの親父がそんなすごい奴だったとはね。
しかも兄貴の親友で、その親友の最後の願いな上にデコポンポも昔はまともだったなら兄貴が八柱将に任命したのも頷ける。
とはいえ、今ではヤマトに巣食う癌細胞の親玉みたいなもんだ。こいつをこのまま放置しておくわけにはいかない。
俺は兄貴にデコポンポの罪の確固たる証拠が見つかれば必ず逮捕し、それ相応の処罰を下す事を伝えた。
兄貴も事ここに至ってはしょうがないとそれを認め、デコポンポ逮捕の際には決して口を出さない事を約束してくれた。
よし。これで後顧の憂いは無くなったな。
あとはデコポンポの罪の証拠を見つけるのみだ。
まぁ、こいつを捕まえたところでヤマトの悪が無くなるわけではないが、恐らく芋蔓式にいろいろ判明するだろう。
引き続き入念な調査を行うとしよう。
だがそれより今は落ち込んでしまった兄貴を励まそう。
恐らく兄貴は親友の息子が変わってしまうのを防げなかった事に対する自責の念に囚われているのだろう。
俺にはそんな兄貴にどんな言葉をかけてやればいいのか分からない。だが、それでも兄貴の傍に居てやるくらいはできる。
俺は空になった兄貴の湯飲みに茶を注ぐと気分を変える為にショウギに誘った。
兄貴は突然の事に目を丸くしたが、俺の意図を察したのかその誘いに乗ってくれた。
そして、俺がショウギの準備をしていると
「有難うな、ヒロシ。」
と言ってきた。
俺はそれに気にすんなと返し、将棋盤に駒を並べ終えると歩の駒を掴み、パチリと一歩進ませた。そして、兄貴に向かってニヤリと笑いながら、
悪いが兄貴。俺は老いぼれ相手でも手加減してやる気は更々ない!全力で叩き潰してやるぜ!
と威勢良く宣言してやった。
すると兄貴はそれに苦笑した後、
「抜かせ小童!数百年の重みを思い知らせてやるわ!」
とノリノリで返してくれた。
こうして宿命の兄弟対決が勃発したわけだが結果は0勝5敗で俺の惨敗。しかもその内1回は二歩で反則負けだった。
チクショウ!次までに練習して一勝くらいできるようになってやるからな!
そう叫ぶ俺に兄貴は笑いながら百年早い!と言ってきた。
その顔に最早憂いは無い。
よかった。もう大丈夫みたいだな。
俺はその事に安心すると今度はスゴロクで兄貴に勝負を挑むのだった。
・箱庭
聖廟の地下に存在する地上の環境を再現した施設。
古代において植生実験や地上に出た際のシミュレートに使用していた。
・ ポイヤンペ(オリキャラ)
アイヌの
イメージは前田慶次