ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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26話

∀月‡日

 

 ウズールッシャに進軍する準備が整った。

 

 聖廟前には広場を埋め尽くさんばかりの兵が整然と並んでいる。

 その中にあって一際目を引くのが、黒い全身鎧に身を包んだ全長5mを超す巨人アシル・アベルだ。

 総数30体に及ぶそれらは柄頭を両手で押さえるようにして大剣を地面に突きたて、兵を挟むように向かい合って佇んでいる。

 兵には事前に今回の戦で皇弟が生み出した新兵器が運用される事を知らせていたので動揺は少なかったが見物しようと集まった民は騒然としていた。

 デカいというのはそれだけで威圧感があるからな。しかもそれが30体も居たんじゃ驚くのもしょうがない。 

 

 そして、俺はそんな彼らを視界に収めつつ壇上に登る。すると、それまでざわついていた民衆も静まりかえり、広場にいる全ての人間の視線が俺に集まった。

 それに俺は内心怯むが、自身を奮い立たせると専用機を背に演説を開始した。

 

 「屈強なるヤマトの兵士達よ。現在北の地にて騒乱の芽が芽生えようとしている。近頃長年ヤマトに略奪を繰り返してきた蛮族の國であるウズールッシャがある男の下統一された。その男の名はグンドゥルア。粗野で残忍でありながら、圧倒的な武力を持つ蛮族の覇王である。そしてこの男はウズールッシャを統一するだけでは飽き足らず、更なる支配を求めて隣国へ戦を仕掛けようとしている。現在は本拠地のある北部に面する國々への侵略を目論んでいるが、いずれはその矛先をこのヤマトに向けることだろう。これは本当に愚かな事だ。全知全能たる帝が治めるこのヤマトに歯向かおうなどと余りに不遜。その驕り高ぶった魂胆を叩き潰さねばならぬ!更にこの者、國を治める立場にありながら、民を己が欲望を満たす為の道具として扱い、女子供であろうと戦に駆り出し、戦えぬ者を価値無き者と殺す暴君である!よってこの戦いは救済の為の戦でもある!悪辣なる暴君を滅ぼし、ウズールッシャの民に帝の威光を遍く知らしめるのだ!!」

 

 オォーーーー!!!!

 

 「全軍、出撃!!」

 

 俺の号令の下、兵が大通りを進んでいく。

 規則正しく並んだ兵と巨大なアシル・アベルが列をなして進んでいく姿は壮観だ。

 これ程の大軍が俺の指示の下に動いていると思うとゾクゾクする。

 それと同時にこれだけの命に対する責任を背負っている事に恐怖を感じる。

 そんな俺を気遣ってか、ウルゥル達が俺の手を握ってくる。

 それに恐怖心が和らいだ俺は二人に頷くと移動すべく馬車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都を出発した俺達は、これから進軍しながら各地の兵と合流し、その後三手に別れてウズールッシャに侵攻する事になっている。

 本隊は俺が率いるのは当然として、分隊はオシュトルとミカヅチがそれぞれ率いる事になっている。

 この人選には事前の会議で実力を懸念する声も上がったが、二人の上司であった両近衛大将が賛成した為、大きな反対も無く決まった。

 まぁ、今回の遠征は俺の権力を磐石のものとする為でもあるので、その側近である二人にも実績を積ませる必要があった。なので、事前にウォシスや両近衛大将に話を通してそうなるようしていたのだ。

 これでオシュトル達が某七光りみたいな無能であったならウォシス達も賛成しなかっただろうが、二人はこれまで着々と実績を積み重ね、実力も両近衛大将がお墨付きを付ける程なので問題はなかった。

 ただ、流石に八柱将が一人も参加しないのは問題だとして、ヴライがアドバイザーとして参加する事になった。

 

 オーマイゴット!どうせならムネチカにしてくれよ!

 

 と内心叫んだが、決まってしまったものはしょうがないので諦めて、ヴライに認められるチャンスだと思う事にした。

 コイツの場合、自分で見たものしか信じなさそうだからな。だから今回の件は都合がいい。

 しかし、コイツが納得する戦果を俺が挙げられるかが問題だ。アシル・アベルなら無双できると思うが、それじゃダメとか言わんよな? 自分だって仮面(アクルカ)っていうチート使ってるんだから大丈夫だよな? 心配だ・・・。

 

 ちなみに俺達が遠征にいっている間、弾正台(だいじょうだい)は左近衛大将のハラキに任せ、補佐にオウギを付ける事になっている。

 普段から検非違使(けびいし)を統率する立場にあり、曲がった事が許せない質のハラキならば、弾正台(だいじょうだい)も問題無く運営できるだろうという理由での人選だ。

 とはいえ、皇弟である俺が居ないとあって馬鹿をやる連中が必ず出るだろう。そういう馬鹿はこれを機に証拠を集めて後でまとめて豚箱にぶち込んでやるとしよう。

 

 

 

 

∀月※日

 

 帝都を出て5日経つが問題なく行軍している。

 ウズールッシャまでまだまだ時間が掛かるが、続々と兵が合流してきて、帝都を出た時よりも更に大所帯になっている。

 さて、そうなると兵糧が問題となってくるが、今回は兵糧を安全且つ大量に運べ、長期間保存できるように鋼鉄製の冷蔵車を造ってアシル・アベルに運ばせている。

 これはウズールッシャの過酷な環境下で食料をダメにしない為でもあるが、今回の征伐では食料を配って各部族を懐柔する予定なので、通常の戦より大量の食料が必要だからでもある。

 更にこの冷蔵車は鋼鉄製なので戦の時にはバリケードにも使える為、なかなか重宝しそうだ。

 

 ちなみに軍を分ける際には、冷蔵車を牽引させる為にアシル・アベルを5体ずつオシュトル達に貸し与えるつもりだ。

 オシュトル達には概要を説明して命令できるようにはしてあるが、どのように使うかは任せている。

 仮に土木作業をさせたとしても問題ない。既に食料運搬をさせているくらいだからな。だが、本来の使用用途である戦で使わないと兵達にそういう物だと勘違いされそうだから、戦闘になったら積極的に使うように言ってある。

 

 それともう一つ、今回の為に造ったのが、俺専用の馬車だ。

 馬車といっても普通の馬車ではなく、中に居住スペースがあるキャンピングカーのような物である。

 しかも安全の為にチタン合金の上から耐呪術コーティングを施した装甲で覆われており、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない。

 更に冷暖房完備で防音もバッチリなので快適に旅をすることができる。

 なので、暑い中黙々と歩き続ける兵達を横目に冷房の掛かった車内で悠々自適に読書ができるというわけだ。

 

 いや、ホントご苦労なことだ。燦々と太陽が降り注ぐ中、一日中歩き続けるなんて俺には無理だぜ。

 特にあの無駄に図体がでかくて暑苦しいヴライの周りなんて、体感温度が5℃位高そうだから、一緒に馬車周りを警護しているヤクトワルトが熱中症にならないか心配だ。いや、兄貴からの称号を断ったせいか、兄貴信者のヴライのヤクトワルトを見る目は冷え冷えとしていたから、逆に涼しいかもしれん。

 あとで労わってやろう。

 

 ちなみに、シノノンも今回の遠征に連れてきている。

 当初は白楼閣に預ける予定だったんだが、ヤクトワルトが数ヶ月もの間離れて過ごすのが心配過ぎると言い出したのでしょうがないから許可したのだ。

 心配のし過ぎで仕事に身が入らないと拙いからな。幸い馬車が防音の為、周りの兵にも迷惑が掛からないから普段は馬車の中に居させれば大丈夫だろう。

 まぁ、これのせいでヴライのヤクトワルトを見る目が更に冷たくなったが、そこは自業自得なので戦働きで力を示して認められるように頑張ってもらうとしよう。

 

 

 

 

★月△日

 

 ウズールッシャとの國境も近づき、全ての兵が合流した為、ここから軍を三つに分ける事になる。

 なので、その前に景気付けに酒盛りをすることにした。

 ここまで國内の移動だけとはいえ、戦の為の行軍という事で酒は禁止となっていた。

 しかし、帝都を出て半月余り。そろそろ兵達にもストレスが溜まってきただろう。

 ここから先は敵地であり、休むことにさえ気を使わなければならなくなるので、ここでパァっと騒いでストレスを発散させておこうという寸法だ。

 というか、俺が酒を飲みたい。

 俺もここまで兵達に合わせて禁酒してきた。だが、もう我慢の限界だ。酒の代わりに茶を飲んだり、甘いもの食べたり、シノノンのほっぺたツンツンしたり、ウルサラの太ももを堪能したりして気を紛らわせてきたが、もうこれ以上は無理だ。身体が酒を欲している。禁断症状で手が震え、空飛ぶ酒瓶の幻覚が見える程だ。

 

 そんな私欲に塗れた考えの下決定した酒盛りの為にまずノスリ達を周辺と國境の偵察に行かせた。

 酒盛り中に襲撃されたら堪ったもんじゃないからな。ゆっくり楽しむためにもしっかり調べる必要がある。

 そして、その結果、敵影は一切無し。どうやら奴さん、こっちから攻めてくるとは思ってもいないようだ。

 自分では虎視眈々と牙を研いでいるつもりなんだろうが、全部バレてるからマヌケもいいとこだ。

 普通こうならない為にも隠密が必要なんだが、君主がおらず、定住もしないで遊牧民として暮らしていたウズールッシャの民にはそんな事ができる人間が殆どいなかったのだろう。

 密偵として放っているノスリ衆から、グンドゥルアがそのような組織を作ろうとしているとは伝えられているが、それがたった数ヶ月で使えるようになるわけもなく、こうしてこちら側に情報がダダ漏れの状態になっている。

 まぁ、こっちからすれば有り難いだけで問題は一切無いので、そんなものが組織される前にさっさと叩き潰してしまうとしよう。

 

 だが、その前に酒盛りだ。

 

 ノスリ達のおかげで安全が確認できたので、早速酒盛りの事をオシュトル達に伝えようと思い、馬車から出るが、そこでヴライの姿が目に映った。

 

 拙いな。お堅そうなあいつが酒盛りを許可する気がしない。

 俺の命令ならなんであれ受け入れるだろうが、不和の原因になったら堪ったもんじゃない。

 うーん。どうするか・・・・・・いや、そうだな。ここは思い切って相談という形で意見を聞いてみるか。

 そもそも俺は先入観のせいでヴライに苦手意識を持ち、まともに会話もした事がなかった。

 これから少なくとも戦が終わるまでは否が応でも一緒にいなければならんのだから、会話ぐらいはできるようにならんとな。

 

 そう決心した俺は、休憩を取っているヴライの近くまで行き、声をかける。

 それにヴライは少し目を見開くと、何か御用でしょうかとすぐに話を聞く体勢をとった。

 

 うーん、これはもしかして驚いたのか? あんまり表情を変えん奴だから分からんな。だが、ちゃんと敬意は持ってくれているみたいだ。まぁ、これも俺が兄貴の弟だからなんだろうが、この遠征中に俺に対する忠誠を得られるように頑張ろう。

 

 そんな事を考えながら、酒盛りの件と偵察させた結果を伝えたところ、あっさり賛成されてしまった。

 理由を聞いたところ、いくら統率の取れたヤマトの軍勢といえど、長い行軍による疲れとストレスで軍規の乱れや戦力の低下が発生する事が否めない為、國境を越える前に英気を養い、それらを解消させておいた方が良いでしょうと言われた。

 

 てっきり、ヤマトの兵にそんな軟弱者はおらんっ!!と言って否定されると思ったが、案外話が分かるみたいだな。

 まぁ、無意味な事だったらにべもなく否定されそうだが、必要な事だったらちゃんと話を聞いてくれそうだ。

 それに兵や軍については一番理解しているのはコイツなんだから、これからはいろいろ相談した方がいいかもしれんな。

 

 

 

 そうしてヴライの了承を取った後、オシュトル達を通して、全軍に酒の解禁が伝えられた。

 それに一同大喝采で大喜びしたが、流石に騒ぎ過ぎてヴライに一喝されて静かになっていた。

 そして、兵が静かになった後、殿下の御厚意に感謝せよと言っていたのが意外だった。

 とはいえ、隣で突然大声を出すのは勘弁して欲しい。物凄い迫力で危うくちびりそうになった(汗)

 

 こうして酒盛りの開催が正式に決まった。

 だが、流石に見張りを無しにするのは拙いので、酒の飲めない者を中心に交代で見張りをしてもらうことにした。この者達には後で砂糖をたっぷり使った菓子を配って労うとしよう。

 

 そして野営と酒盛りの準備を終え、乾杯の時を今か今かと待ちわびている兵達の前に立ち、

 

 「明日より我らは敵地に入るが、今日の所は存分に英気を養い、明日からの活力として欲しい。それでは、乾杯!!」

 

 「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」

 

 と乾杯の音頭を取り、酒を一気に飲み干す。

 

 あ゛ぁ゛~!うまい!! 五臓六腑に染み渡るとはこの事だ! 禁酒の後の酒は最高だぜ!!

 

 

 その後もアマムニィ等を摘みながらウルゥルのお酌でドンドン杯を重ねていき、いい気分になってきたところで周りを見回してみる。

 俺の周りにいるのは隊長格以上の者達で、オシュトルとミカヅチがそれぞれグループを作って飲んでおり、ヤクトワルトがその間を行ったり来たりしながら酒を注いで回っていた。

 彼らは皆久々の酒を大いに楽しんでおり、その顔には笑顔が浮かんでいた。

 本当ならそんな彼らの輪の中に入っていきたいところだが、悲しかな、今の俺は皇弟である。俺が居たのでは気を使ってしまって楽しむ事ができないだろう。

 

 そして、その事を残念に思いながら、今度は供回りの者達と酒を飲んでいるヴライの方を見る。

 こちらは一変して物静かな様子で、会話もあまりしていないようだった。

 まぁ、ヴライが居るからあんな感じなんだろうが、それでも皆リラックスした様な表情をしていたから、あれはあれで楽しんでいるのだろう。

 

 俺はそんな彼らに満足しながら再び杯を煽った。

 

 明日からいよいよウズールッシャである。

 いろいろと不安はあるが、俺には頼もしい部下とアシル・アベルがある。

 グンドゥルアがどれだけ強かろうと率いるのは烏合の衆。

 統率の取れたヤマトの兵が遅れを取る事は先ずないだろう。

 だが、不測の事態が起こらないとも限らないので情報収集を密にして、状況をよく確かめる様に努めよう。

 

 

 

 

 

 




・冷蔵車
 食料の鮮度を保ちつつ大量に運ぶ為の鋼鉄製の荷馬車。
 クール宅急便のコンテナの様な物。

・皇弟専用馬車
 チタン合金と耐呪術コーティングの施された装甲を持つ馬車。
 馬車とは言うものの内部はキャンピングカーのようになっており、冷暖房完備で簡易キッチンにトレイとシャワーまで付いている。
 
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