★月¥日
國境を越え、ウズールッシャへと入ったが、想像以上の有様に愕然とした。
事前の知識として、ウズールッシャが荒野であるとは知っていたが、それでもなんらかの植物は生えているだろうと思っていた。だが、実際俺の目の前に広がる荒野にはそんな物は一つもない。見渡す限り赤土の大地が広がっているのみである。
これが常にこういうものなのか異常気象によるものなのかは判断できないが、およそ人が住むような環境ではない。
略奪を肯定する気はないが、ウズールッシャの民がそれをするのも納得してしまう程だ。
これは早々にグンドゥルアを倒して、ウズールッシャを統治下に置く必要があるな。
この環境をどうにかする方法は二通り考えているが、できれば万全を期す為に両方やりたい。
片方は俺が頑張ればいいが、もう片方はウルゥル達に掛かる負荷が大きいんだよなぁ。
まぁ、その辺はまだまだ時間がある事だし、おいおい考えるとしよう。
それはそうと、ウズールッシャに入ってからまだ敵との接触はない。
ウズールッシャに送り込んでいた密偵からの情報で、あと1日程行った場所に集落があるようだが、先行させたノスリの話によると、集落に居るのはおよそ20人ほどで、いずれもガリガリにやせ細り、何をするでもなく座り込んでいたり、食べる為に植物の根や虫を探してひたすら地面を掘ったりしているそうだ。
・・・まさかここまで酷いとはな。
國民皆兵政策とかいうのを発令しているから、多少の食料供給ぐらいはしていると思ったんだが、こりゃ南部に居る連中は端から捨て駒にする気だな。
本拠地から遠い上に、ヤマトが近く、それでいて土地の荒れ具合が酷い。
こんな土地に住んでいる連中を兵にするぐらいなら、他のまともに動ける連中に食料を回して質を上げようって事なんだろう。
更にここの連中はヤマトとの戦の際に真っ先に襲われる事になるが、それは自軍の士気を上げる事に使える。
" ヤマトは無抵抗な民を虐殺した悪である。彼らを弔う為に奮って戦え! "
てな具合にな。
だが、これは諸刃の刃とも言える策だ。
何も知らない一般兵や奴を信奉する将兵以外でまともな思考をする奴が居れば、こういった策に嫌悪感を示すだろう。
事実、グンドゥルアに従いながらも、内心反発している者も少なくないようだが、そういった者達も困窮する民の為に私心を捨てて、大勢を生かす為に少数を犠牲にする道を選んだようだ。
できればそういった奴らの中でも将クラスの奴と接触を測り、民の安寧と土地の改善を条件にこちらに取り込みたいところだ。そうすれば、ウズールッシャ征伐の難易度もぐんと低くなるからな。
すでに密偵達に探らせて何人か候補が挙がってるが、ヘタをすればこちらに危険が及ぶ事になるので慎重に精査する事にしよう。
★月◆日
件の集落に到着した。
集落と言っても遊牧民である彼らの家はテント状のものでそれが密集するように建てられている。
念の為、先行させていたノスリにヤマト襲来を知らせる伝令が出ないか監視させていたが、彼らはこちらを確認しても逃げる事すらせず、抵抗も無く俺の前に引き立てられた。
彼らの姿は事前に聞いていたようにガリガリにやせ細り、目には生気が感じられない。
そのあまりに凄惨な姿は兵はもちろん、ヴライですら眉をひそめる程だった。
俺はそんな彼らの中で最も年上らしき男の前で膝をつくと目を合わせながら話しかけた。
‐ どれだけ食べていない? ‐
‐ 分からない。長い間まともな食事を食べてない ‐
‐ 今まで何を食べて命を繋いだ? ‐
‐ 植物の根や虫、
‐ グンドゥルアをどう思う? ‐
‐ どうでもいい ‐
‐ 生きたいか? ‐
‐ ・・・生きる? ‐
‐ お前達には今二つの道がある。ひとつはグンドゥルアの統治の下、いつ解放されるかも分からぬ地獄の様な苦しみを味わいながら生きるか。そして、もうひとつはヤマトの統治の下、ヤマトの法と文化を受け入れ安寧を得るか ‐
‐ ヤマトで生きる? 俺達が? ヤマトの民に? ‐
‐ そうだ、お前達がヤマトの民と成るならば、私はこの土地を潤そう。そして、農耕を教え、土地を耕し、飢える事の無い國にして見せよう。私にはできる。他でもない、帝の弟である私にならできる。さぁ、生きたいというのなら私の手を取れ。私はお前達の様な弱き民を決して見捨てはしない ‐
男は飢餓で力の入らない手をゆっくり持ち上げ、差し出した俺の手を握ってきた。
その手を握る力は、とても弱々しいものだったが、男の目にはそれまでなかった生気が宿っていた。
俺はその手をしっかり握り返すと彼を支えながら立ち上がり、周囲の兵を見渡しながら宣言した。
「今この時よりこの者達はヤマトの民となった! ならばやる事は一つ!食事の用意をせよ! この者達の飢えを満たしてやるのだ!」
応!!
俺の言葉に従い、兵達が動き始める。
ある者はかまどを作り、食事の支度を始め、またある者は村人に寄り添い、水を飲ませ、体調の確認をしている。
そこにウズールッシャの民に対する積もりに積もった悪感情は無く、新たに加わったヤマトの民に対する慈しみがあった。
俺はそれがたまらなく嬉しかった。
もちろん村人の姿に同情したり、俺の言葉に従っているというのもあるだろう。
それでもこうしてヤマトの兵が弱き者の為に動く姿は心動かされるものがある。
俺は人間が無くしてしまった他者を思い遣る心を持つ彼らをとても愛おしく思った。
★月〓日
あれからいくつもの集落を回ったが何処も同じような有様だった。
何処も彼処もカラカラに乾き、場所によっては
村人曰く、ただでさえ雨が少ない土地なのに今年は例年以上に雨が少なく、夏に入ってからは全く降っていないそうだ。
ふむ。どうやらこの状態は異常気象によるもののようだ。
流石に常にこんな状態だったら、とっくの昔にウズールッシャは滅んでいるだろうからな。
それにしても、こんな環境であんな姿になっていても生きているウズールッシャ人の何と強きことか。
恐らく長い間過酷な環境のこの土地で生きてきたウズールッシャ人だからこそ生きていられたのだ。
ホント、人の適応能力ってのは凄いな。
それはそうと、俺達はそんな彼らを保護して食事を取らせた後、護衛と共にヤマトとの國境まで送っている。
彼らはそこで後詰め部隊として控えているオーゼンの指揮の下、開拓村の建設に参加する事になっており、更に略奪に頼らない安定した生活を送れるようにヤマトの法や文化、農業などを教育される事になっている。
また、この開拓村はウズールッシャでの農村のモデルケースであり、今回の為にトゥスクルから大量に輸入したモロロを試験栽培する事になっている。
モロロはトゥスクルで主食とされている芋の様なもので痩せた土地でも育つ作物だ。
この作物がウズールッシャで栽培できる様になれば、ウズールッシャの食糧事情は大幅に改善するだろう。
まぁ、その前に水を何とかしなくちゃならんが、國境付近ならば水の確保も可能なので試験栽培するのには問題ないだろう。
問題はウズールッシャの大地がモロロすら育たない土壌だった場合だが、そこはウズールッシャ人得意の牧畜で大量の家畜を育てさせ、その糞で堆肥を作り、活用する方法を考えている。
もしこれがうまくいけば、
[モロロができる→葉や茎を家畜に与える→家畜が出した糞を堆肥にする→畑に投入→モロロができる]
といったサイクルが生まれ、効率良くモロロの栽培と家畜の育成ができるようになるだろう。
もっとも、堆肥だけでうまく育つわけではないので他にも肥料を投入する必要があるだろうが、そこらへんは専門家のオーゼンに任せるとしよう。
とはいえ、この方法を取るにしてもウズールッシャ人の牧畜は遊牧が主なので、まず牧場という概念を教え、家畜をきちんと管理する方法を教えなければならない。
これまでのほぼ放置といった方法から家畜小屋や柵の内部で育てる方法に変えるのは抵抗があるかもしれんが、家畜の管理が容易になり、生存率も上昇するのできちんと学んでもらうとしよう。
そして、いずれはこの開拓村で培った技術と知識でウズールッシャ全土で農業を行い、ウズールッシャをヤマトの一大食料生産地にするのが目標だ。
ウズールッシャはその國土の殆どが平地なので、水の問題さえ何とかなれば、開拓も比較的容易だろう。
その為にも現在” アレ ”のハッキングの真っ最中だが、流石は人類の切り札と言ったところか。
今までハッキングしてきたどの施設よりも強固なファイアーウォールで中々入り込む事ができない。
だが、こいつが使えるようになれば、水対策以外でも色んな事ができるようになるので何とかグンドゥルアとの決戦前に使えるようにしたいところだ。
・・・これは今夜も徹夜だな。
・エムルン
アイヌ語で「ねずみ」を意味する言葉。
ウズールッシャに生息する黒い体毛と大きな耳、顔に毛が生えないのが特徴のねずみ。
鳴き声は「ハハッ」ではない。
・ハラム
アイヌ語で「トカゲ」を意味する言葉。
赤い皮膚と二股に分かれた尻尾が特徴のトカゲ。
危険が迫ると二足歩行で走って逃げる。
・” アレ ”
ウズールッシャの水問題のみならず、いろいろな事ができる人間の遺産。
うたわれるものをプレイしている人なら察しがつくと思うが言っちゃダメだよ!