ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

29 / 31
ハクの中の人の藤原啓治さんが病気で休養だそうです。
しっかり休んで早く復帰してもらいたいものです。


29話

★月∂日

 

 ウズールッシャでの最初の戦いの翌日、俺達は敵の本拠地であるフレペケレチュプを目指して再度進軍を開始した。

 先の戦いで捕虜となったウズールッシャ兵は思っていたよりも従順でこちらの言うことを大人しく聞いている。

 強き者を尊ぶ彼らにとって、圧倒的な力を見せつけた虚人兵(アシル・アベル)、延いてはそれを操る俺の存在は畏敬の念を抱くに値するものであったようだ。更にそれに加えて、俺は彼らに腹一杯の飯を食わせてやった。その結果、まるでオルケが群れのボスに向けるような眼差しを向けてくるようになった。

 

 それでいいのかウズールッシャ人!?

 

 まぁ、捕虜の話では、グンドゥウルア配下でも腹一杯食えるなんて事は無いようだから、それだけ嬉しかったのだろうが、これはあまりに酷い。

 餌付けであっさり裏切られるグンドゥルア。哀れである。

 

 とはいえ、ウズールッシャ人の全てがこんな阿呆なわけではないだろう。

 言うなれば、こいつらはZ(ジード)のモヒカン。恐らくこの先、KING軍や拳王軍、聖帝軍レベルのモヒカン達が待ち構えていることだろう。・・・あんまり変わらんか。

 

 それはさておき、捕虜(モヒカン)達の扱いについてだが、彼らはヴライの監視下に置いて、いろいろKYO・U・I・KUしてもらう事にした。

 というのも、南部の住人の様に開拓村に送るにしても既にだいぶ遠くまで来てしまっており、ここからあっちに送る事が大変なのと兄貴教の使徒として覚醒したヴライが帝の素晴らしさを骨の髄まで教え込むと張り切っているからだ。(尚ヤクトワルトも教化の対象にされた模様)

 ヴライの下で肉体言語でKYO・U・I・KUされれば、こんな捕虜(モヒカン)達でも立派な人類になる事が出来るだろう。

 

 ・・・元々ヴライはラオウっぽかったが捕虜(モヒカン)達の前に立つとそれに拍車がかかるな。

 そうか、こいつらが拳王軍のモヒカンだったのか・・・。

 

 

 

 

 

★月〒日

 

 オシュトルとミカヅチに付けているノスリ衆から二人の状況の報告を受けた。

 

 國境で別れた2人は、俺達と同じようにウズールッシャ人を懐柔しながら、それぞれ南部を東と西に向かって進み、それぞれの担当区域である東部と西部に侵入した。

 

 まず、東部に侵攻したオシュトルだが、この地域は渓谷が多く、落石がよく発生する場所で、途中何度か巻き込まれそうになったり、岩で道が塞がれている事があったようだが、オシュトルは虚人兵(アシル・アベル)を上手く使ってそれらを迅速に処理。更に渓谷の底という奇襲や罠を張られ易い場所を進むとあって、常にノスリ衆を放って周囲の状況を確認し、危険を事前に察知して排除する事で隊に被害を与える事無く侵攻しているようだ。

 

 次に西部を侵攻しているミカヅチの方だが、こちらはウズールッシャでも比較的豊かな土地で、敵との遭遇も多く戦闘が頻発しているようだ。だが、練度が低いウズールッシャ兵相手にミカヅチが苦戦する訳もなく、難なくそれらを撃破し、見かけによらない優しさを持って捕虜の心を掴み、今では兄貴と呼び慕われているらしい。

 

 ・・・ミカヅチの方が若干変な事になっている気がするが、二人共問題無く進んでいるようだな。

 だが、そろそろこちらの動きがグンドゥルアに伝わっている頃だろう。

 ノスリ衆に伝令兵を率先的に潰す様には言ってあるが、戦闘が頻発している西部では、逃げ延びる兵も多く、これにより相手に情報が伝わっている事だろう。

 まぁ、國土の中央部まで侵攻を許してしまっている辺り、相手の危機感の無さというか、こちらを舐め腐っている態度がありありと目に浮かんでくるが、そもそもこちらから攻めてくるとは夢にも思っていなかったであろうウズールッシャ方は今頃大慌てで反攻の準備をしている事だろう。

 できれば相手が準備を整える前に攻めたいところだが、あちらも北方の國々を攻める準備をしていた事から、こちらが中央部を抜ける前には体勢を整えるだろう。

 なのでそうなる前に中央部と北部の境に位置する砦を攻略する必要がある。

 ここを落とし拠点とすれば北部攻略も円滑に進める事ができるだろう。

 

 だがしかし、ここを守る男がなかなかの強者だ。

 その男の名は「ゼグニ」。勇猛果敢な歴戦の勇士であり誇り高き武人。その実力は八柱将に匹敵するのではないかと言われる程の男だ。

 そんな男が守る砦だ。落とすのも一筋縄ではいかないだろう。更に今回はこの砦をできる限り無傷で落としたいので虚人兵(アシル・アベル)を使うわけにも行かない。だが、なにも力攻めだけが戦ではない。何を隠そう、俺はこの砦を無傷で落とす為の調略を既に始めていたのだ!

 

 実のところ、このゼグニという男は、以前調べさせた『民の為にグンドゥルアに従っている将』の一人なのだ。

 元々西部の有力部族の長であったゼグニは、ウズールッシャでは比較的豊かな土地で生きてきた為か、他のウズールッシャ人に比べて穏和な性格であった。それ故に過酷なウズールッシャに生きる者達の現状に心を痛め、ヤマトへの臣従も考えていたそうだが、そこに圧倒的な武力を持つグンドゥルアが現れた事で状況が一変する。民は彗星の如く現れた(オゥルオ)を信奉し、奴の号令に従い周辺國征服に向けて動き出したからだ。

 ゼグニは弱き民を見捨て、更に女子供さえも戦に駆り出すグンドゥルアの政策に内心反発していたが、既に動き出した流れをたった一人で止めることなどできるはずもなく、ならば一人でも多くの民を生かそうとグンドゥルア配下としてその力を振るってきた。

 だからこそ俺はコイツに目を付けた。ウズールッシャ人でありながら、力のみを崇敬せず、民を深く思い遣る心を持つコイツだからこそ、この圧倒的な不利な状況――既に國土の50%以上が侵略され、兵数以外の全てで劣っている――でより多くの民を生かすにはどうすればいいのか。この男ならば自ずと分かるはずだ。

 

 とはいえ、こちらの力を見せ付けない事には、ゼグニも決心がつかないだろう。だが、前述した様に虚人兵(アシル・アベル)を使うわけにはいかない。

 そこで最近漸くアクセス権を手に入れた”アレ”の出番である。

 ”アレ”である種の奇跡を起こしてやれば、ゼグニだけでなく砦を守る兵達にもヤマトの、イヤ、皇弟である俺の力を知らしめる事が出来るだろう。

 

 フッフッフッ・・・。今から度肝を抜かれるウズールッシャ兵の姿が目に浮かぶぜ!!

 

 

 

 

★月☁日

 

 ウズールッシャの夜は寒い。

 何故ならば、雨が少ない土地故に熱を遮る雲が殆どなく、熱が放射冷却でアッという間に外に逃げてしまう為だ。

 だが、雲一つない空には満天の星が輝き、帝都でも見る事の出来ない美しい光景が眼前に広がっている。

 この雄大な星空を前にすると自分が如何にちっぽけな存在か思い知らされる。

 どれだけ強大な力を持っていようと所詮は人。何時か必ず死ぬのだ。それが早いか遅いか、それだけの違いしかない。ならば俺の生きている意味とは・・・・・・・・・なんて、哲学的な事を言ってみたが、深い意味は無い。ただ、明日の仕込みが終わり、テンションが高くなってカッコイイ事を言ってみたくなっただけだ!

 

 ちなみに明日の仕込みというのは、ゼグニが守る砦を無血開城させる為の仕込みである。

 まずは、”アレ”にアクセスして、砦一帯を範囲指定して、設定を入力する。

 そして、ノスリを通じて既に何度か手紙で遣り取りをしているゼグニに、

 

 『今宵、白熱するウズールッシャの赤き大地を、我が力を以て白く染め上げよう。』

 

 てな感じの書状を送った。

 

 あとは”アレ”が設定通りに動作し、砦周辺を白く染め上げれば仕込みは完了だ。

 

 これさえうまくいけばゼグニも決心が付くだろう。なんたって、ウズールッシャではまず起こりえない事が起こるんだからな。ゼグニは勿論、兵にも大きな衝撃を与える事ができるだろう。

 

 とはいえ、”アレ”の機能を本格的に使うのは初めてなので、これから夜通し監視しなくちゃならんがな。

 気温が極端に下がる夜の内に砦周辺を真っ白にした上で、俺達が到着するまで残っている様にしたいから、1メートル以上は欲しいところだ。あとは、日中の気温があまり上がらないように曇りにしておく必要もある。

 ともあれ、明日が楽しみである。

 

 

 

 

★月❄日

 

 ウズールッシャの名将が守る砦を堕とさんと気炎を上げていた兵達の間に困惑が広がる。

 ここ中央部と北部の境目は砂漠地帯となっており、進むにも砂に足を取られて体力を消耗しやすい場所なのだが、砦に向けて歩みを進める兵達の足は別の物を踏みしめている。

 それは本来ならばウズールッシャの気候では決して見る事が出来ないであろう物で、それの現物を初めて見る捕虜達も信じられないといった表情をしている。

 そして、溶けて湿り気を帯びたそれを踏みしめながら進む俺達の前に真っ白いそれ――最早言わなくても分かると思うが、雪に覆われた砦が姿を現した。

 

 そう、これが俺が昨晩”アレ”を使って起こした奇跡――気象制御衛星アマテラスの力だ。 

 

 ”気象制御衛星アマテラス”――環境破壊により崩壊した地球の自然環境を回復させる為に造られた気象を操作する事ができる人類の遺産。

 これを使えば、砂漠に雨を降らせる事も沼地を干上がらせる事も果ては台風を好きなように作って好きなように動かす事まで可能な恐ろしい”兵器”である。

 そう兵器である。アマテラスは地球環境を回復させる為の装置であると同時に兵器でもあるのだ。その証拠にアマテラスにはサテライトレーザーなんてモノまで搭載されており、実際タタリ発生の際にはどっかのバカがバカスカ撃って地形が変化・消失した場所があるくらいだ。 

 

 今回、俺はそんなアマテラスをハッキングしてアクセス権を手に入れ、自由に操作できるようになった。

 ウズールッシャに雪が積もっているのもアマテラスで大気を操作して寒気と低気圧を砦周辺に集めて雪を降らせた結果というわけだ。

 

 さて、あとは俺達の姿を確認したゼグニがどういった反応を見せるかだ。

 これだけの事をやったんだ、潔く降伏してくれればいいんだが、どうなる事やら。

 

 そんな事を考えていると砦に白旗が掲げられた。そして、ゆっくりと門が開くと武装を解除したゼグニとウズールッシャ兵が姿を現した。

 彼らは俺達の数十メートル前まで近づくと立ち止まり跪いた。

 

 俺はヤクトワルトとヴライを伴い先頭にいるゼグニの下まで行くと、面を上げよと厳かな風体で言った。

 それを聞いて顔を上げたゼグニの顔には俺に対する畏敬の念が浮かんでおり、俺のサプライズが効果覿面であった事が窺えた。

 

 

 どうだ? お前達の熱は冷めたか?

 

 

 「ハッ。グンドゥルアによって齎された熱は去りました。然りとて、我らの胸には別の熱が宿りました。オキクルミ殿。ウズールッシャの未来、貴殿に託しまする。」

 

 

 こうして俺達は血を流す事無く、無傷の砦を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




・フレペケレチュプ
 アイヌ語の「赤い:フレ」「太陽:ペケレチュプ」を合わせた言葉。
 ウズールッシャの北部にあるグンドゥルアの本拠地。
 本拠地と言っても大きな砦といった様相で、グンドゥルア直属の兵以外は砦の周りで野営生活を余儀なくされている。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。