ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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6話

★月¶日

 

 村を出て数日、盗賊に襲われることもなく旅は順調である。

 今の世界が自然溢れるものだと分かってはいたが、人間が住めなくなった地上を知っている身として、見渡す限りの雄大な自然の中を鳥や虫の鳴き声を聞きながら旅するのはなかなか感慨深かった。

 まぁ、そんな風に感じるのも俺がウマ(ウォプタル)に乗っているからなんだろうが。

 これがもし徒歩であったなら、自然を満喫する暇などなく、ヒーヒー言いながら歩いていたことだろう。

 ホント、ウマ(ウォプタル)に乗れるようになってて良かったぜ。

 

 そんな事を考えていると沢が見えてきた。

 すると兵たちは荷物を置き出し、各々に休み始めた。

 どうやらここで昼食を取るようだ。

 

 俺もウマ(ウォプタル)から降り、手頃な石に座って荷袋から饅頭(マントゥ)を取り出した。

 

 饅頭(マントゥ)はアマムなどの粉を伸ばした生地で餡を包み蒸し上げた料理だ。まあ、言ってしまえば中華まんだ。

 こいつは朝食時に昼食用として配られたもので昼食の調理時間を無くし、手早く食べてその分移動距離を長くするために巡視の際によく食べられるそうだ。

 本来は茶請けや軽食として食べられているものだが、何代か前の巡視隊の隊長が導入してから恒例となったようである。

 

 とはいえ、本来熱々を食うのが美味い饅頭(マントゥ)である。

 すっかり冷めてしまったそれは若干味気なく物足りなく感じてしまう。

 

 それを食いながら、もうちょっと味が濃ければなぁ、と考えているとオシュトルが近づいてきた。

 

 疲れていないか?と俺に聞きつつクワサの入った瓢箪を渡して来たので問題ないと言ってありがたく瓢箪を受け取り、中のクワサを喉に流し込む。

 

 くぅーーーーっ!!たまらん!!

 

 やはり昼から飲む酒は格別である。

 

 と言っても飲み過ぎるわけにはいかないのでそれだけで瓢箪をオシュトルに返しておく。

 それを受け取ったオシュトルも俺と同じように一口飲んで一息つくと俺の隣に座って饅頭(マントゥ)を食べ始めた。

 

 何故だろう、同じ饅頭(マントゥ)を食っているはずなのにコイツからは気品を感じる。

 俺の饅頭(マントゥ)を食う姿が「なけなしの金で昼飯を食う疲れたサラリーマン」だとしたら、コイツは「優雅にランチを楽しむ王子様」である。

 

 くそぅ、二股に別れた面白眉毛している癖に!これだからイケメンは!!

 

 しかもコイツの場合は身も心もイケメンのパーフェクトイケメンである。

 巡視兵の話によると既に帝都の幼女から婆さんまで幅広い女性に大人気で警邏中には黄色い声が挙がるとか。

 

 リアルであるんだなそんなこと。

 そんなのは少女漫画や乙女ゲーの中だけだと思ってたぜ。 

 

 なんて考えてるうちにオシュトルは饅頭(マントゥ)を食い終わっており、慌てて俺も残りの饅頭(マントゥ)を平らげた。

 

 昼飯のあとは対人戦の訓練である。

 

 正直昼休憩の時間に訓練なんて、と思うが、ウマ(ウォプタル)に乗っている俺はあまり疲れんし、夜になったら野営の準備やら何やらで忙しい上に流石にウマ(ウォプタル)に乗っている俺でも疲れているので今の時間帯が訓練するのに丁度いい時間なのだ。

 

 オシュトルとの訓練はもっぱら相手の攻撃を受け流す訓練をしている。

 

 亞人(デコイ)である彼らに比べ、人間である俺はどうしても筋力で劣る。

 よって、武器同士で打ち合うのは自殺行為と言っても良い。

 それを考慮してオシュトルに相談した結果がこの訓練である。

 

 オシュトルの振るう木刀を俺の持つ木刀の腹、所謂しのぎに当てて受け流していく。

 この時直立の状態で受けても抵抗が大きく相手の攻撃を受け流せない。

 受け流すのであれば身体を傾け、それに添うように己の武器を操作して相手の攻撃を受け流すのである。

 

 と簡単に言っているが、実際にはかなり難しい。

 

 加減した攻撃ならば俺でも受け流せる。しかし、実際戦う時は相手はこちらを殺す気で攻撃してくるのだ。

 早く重くこちらを殺す為に振るわれる攻撃を同じように受け流せる訳が無い。

 とは言ってもこれが出来ると出来ないとじゃ俺の生存率が全然違うため、どんどん剣速を早めてそれを受け流すといった訓練を続けている。

 もう少し木刀での受け流しに慣れたら、武器を使ってこれを行うことになっている。

 

 かなり不安ではあるが、いきなり実践でやるよりは遥かにマシである。

 それにオシュトルの剣の腕は本物だ。寸止めすることも態と受け流させることもお茶の子さいさいである。

 とは言え、オシュトルの腕が良くても万が一ということもある。

 武器を使っての訓練になったらさらに気を引き締めて挑むとしよう。

 

 

 

 

〓月△日

 

 大分長いこと旅をしてきたがようやく帝都に到着しそうである。

 オシュトルが言うには今日の昼過ぎには到着できそうだ。

 

 帝都に着いたらまずどうするか。

 貯めた金で暫くダラダラ過ごすのもいいが、情報収集もしたい。

 そういえば一般にも開放されている大内裏内大書庫というのがあるらしい。

 なんでも所蔵されている書物は開架閉架含めて100万冊以上と言われ、貴重な歴史書もあるとか。

 うん。暫く此処に入り浸るのもいいかもしれないな、と考えていると前の方が何やら騒がしい。

 すると先頭を歩いていた兵士が俺の隣を歩くオシュトルの元に走ってきた。

 

 どうやら賊が商隊を襲っているらしい。

 

 するとオシュトルはすぐさま周りの兵に指示を飛ばし始めた。

 そして俺にその場に居るように言うと数人の兵を残して商隊が襲撃されている方に兵を引き連れ行ってしまった。

 

 うーん。流石オシュトル。無駄のない一糸乱れぬ統率である。

 

 そして暫くの喧騒の後、前方は静かになった。

 どうやら賊の討伐は完了したようだ。

 

 そうホッとしていると脇の林から茂みをかき分ける音が聞こえてきた。

 騒ぎに驚いて動物でも出てきたのかとそちらの方を見ると、山賊然とした男が数人現れた。

 

 「なぁ~に~!?こんなところに兵士がいるじゃん!?まさか抜け道を知られていたじゃん!?」

 

 と如何にもキャラを作っていそうなボスっぽい男が大声を上げた。

 

 まさか盗賊がこっちまで来るとは思っていなかったので軽くパニックになったが、周りに兵が居たこともあり、なんとか武器を抜き身構えた。

 

 盗賊達も戦う気のようで 

 

「こうなったら他の連中が来る前にコイツら殺して逃げるじゃんよ!!」

 

 と言って襲ってきた。

 

 しかもあろうことかボスっぽいじゃんじゃん野郎が俺目掛けて走ってきたのである。

 そして上段から斧を振り下ろしてきた。

 

 俺は咄嗟にバックステップで躱したが同時におや?と思った。

 

 思っていたより攻撃に迫力が無く、速度も遅かったのである。

 

 恐らくそれはオルケを一撃で仕留め、木でさえ一振りで切り倒すオッサンの一撃を知っていた事と素早いオシュトルの攻撃を受け流す訓練をしてきた故の感覚だ。

 

 体勢を立て直した俺は剣鉈を中段で構えて相手の攻撃を待った。

 

 それと同時に大振りな一撃を空振ってバランスを崩していたじゃんじゃん野郎も体勢を立て直し再び上段から斧を振り下ろしてきた。

 

 俺は相手の攻撃の瞬間、身体を右に倒してそれに添うように剣鉈を操作し、剣鉈の腹で斧を受け流し下に落とした。

 そして、攻撃を受け流されて前のめりの状態で唖然としているじゃんじゃん野郎の顎に膝を叩き込み、フラついたところを金的で沈めてやった。

 

 荒い息を整えつつ周りを見ると他の盗賊たちも無力化されたところだった。

 

 そしてすぐにこちらの騒ぎを聞きつけたオシュトルたちが現れ、他の盗賊同様縄で縛られ拘束された。

 

 それを見届けると不意に足の力が抜け尻餅をついてしまった。

 どうやら安心して腰が抜けてしまったようだ。

 

 そんな俺の元にオシュトルが近づいてきて、よくやったと言い、拳を突き出してきた。

 俺は苦笑しながらも当然だろうと返し、その拳と自分の拳をぶつけ合わせた。

 

 

 

 その後帝都の方からも兵がやってきて盗賊たちは連行されていった。

 

 俺たちも助けた商隊と共に帝都を目指して移動を再開し、日が傾き始めた頃には帝都を見渡す丘まで到着した。

 

 

 それは圧巻の一言だった。

 

 

 高い城壁に囲まれ、碁盤の目のように区切られた街並み。そして街を分断するように正門から奥の巨大な建造物まで大きな通りが走っている。

 それが見渡す限りに広がっているのだ。

 思わずどんだけデカいんだと漏らしていた。

 

 そんな俺の隣にオシュトルが立つとこう言った。

 

 「ようこそ。ヤマトを開きし全知全能且つ叡聖たる(ミカド)がおわす帝都へ」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

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