ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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9話

〓月▲日

 

 今日はオシュトルが友人を紹介してくれるというので仕事終わりに行きつけの居酒屋に行くと、麻呂がいた。

 いや別に何かの比喩とかではなく完全な麻呂である。

 

 平安貴族を思わせる服に白塗りの厚化粧をしており、麻呂眉。そして喋り方まで麻呂。

 

 どこからどう見ても麻呂である。

 

 あまりの麻呂具合に思わず爆笑しているとそいつの隣に座っていたオシュトルがその麻呂を友人のマロロだと紹介してきた。

 

 見た目だけでなく名前まで麻呂!!

 

 俺はあまりの笑いに腹が捩れ呼吸困難に陥ってしまった。

 

 危うく麻呂に殺されるところだったぜ!

 

 その後なんとか落ち着いた俺は改めてその麻呂・・・マロロと挨拶を交わした。

 もっともマロロの奴は出会い頭に爆笑されてショックを受けていたが。

 

 それでこのマロロ、やはりというかなんというか貴族らしい。

 しかし、祖父や父が放蕩のため家は没落。

 自身は家を立て直す為に最高位の文官である殿学士を目指して研鑽中らしい。

 

 ちなみに殿学士になるには最高試問である殿試を通らなければならず、試験中受験生は十日程の試験日程を終えるまで学舎に住み込み、外出も許されないらしい。

 それでいて合格者は数年に一度程度しかおらず、いかに難しいかが伺える試験である。

 

 そしてこのマロロ、貴族特有のプライドの高さなんてものが欠片も存在せず、かなり気さくで人懐っこい性格のようだ。

 

 そんなわけだから俺たちはすぐに仲良くなったが、コイツ距離感が近すぎやしないか?

 酔っているからだとは思うが、さっきからベタベタとしてくる。

 

 ハッ!?

 

 まさかコイツ、そっち系の趣味が!?

 

 ということはコイツと友人であるオシュトルも!?

 

 俺の尻が狙われている!?

 

 なんて考えているとオシュトルに頭を叩かれた。

 

 痛てぇ。オシュトルの野郎、ホントに勘のいい奴だなっ!と思っていたら、考えが顔に出ているらしい。

 

 

 その後、マロロが完全に酔い潰れたためお開きに。

 

 オシュトルはマロロに肩を貸しなが帰っていった。

 ちなみにマロロは金がないので俺とオシュトルで割り勘だ。

 あいつが殿学士になって高給取りになったら奢ってもらうとしよう。

 

 しかし、オシュトルに友人がいたとは驚きだ。

 あいつは真面目すぎて友達は俺くらいしかいないんじゃないかと思ってたぜ、なんて考えながら自分も帰路についた。

 

 あとで気づいたが、俺こそ友達がいなかった。地味にショックである。

 

 

 

 

▼月凹日

 

 今日も今日とて仕事であるが、休憩中にトウカが焼きモロロを出してくれた。

 

 モロロというのはトウカの故郷で主食とされている芋のようなもので痩せ地でも容易に栽培できる上に保存性も優れており、主に蒸す、焼く、磨り潰して他の食材と混ぜるなどして食するようだ。

  

 たまたま市で売っているのを見つけて、それを落ち葉で焼いて持ってきてくれたらしい。

 

 小火(ぼや)を起こさなかっただろうな、とからかってみると顔を真っ赤にしながらアタフタと否定してきた。

 

 うーん、やはり面白い。最近はこういう反応が面白くてついからかってしまう。

 なんだか出来の悪い妹の相手をしている気分だ。

 

 それはさておき焼きモロロである。

 ホクホクとした食感にほんのりとした甘さが良いが、なにか物足りない。

 

 そうか、バターが足りないんだな。

 

 そう思った俺は厨房に直行し、料理をしている女子衆(おなごし)さんにスイェトペというバターのようなものを貰い、焼きモロロに乗せて食す。

 

 うん!うまいっ!

 

 やはり芋にはバターである。

 あとを追いかけてきたトウカとその場にいた女子衆(おなごし)さんにも食べさせたが好評だった。

 特にトウカは今までにない焼きモロロに感動していたようだった。

 

 ついでに残っているというモロロでアレを作ることにした。

 

 2~3ミリにスライスしたモロロをしばらく水につけ、そのスライスモロロと油を同時に熱して、高温で揚げていく。

 そして少し茶色になったら油から上げ、余分な油を取り塩を振る。

 

 そう、ニートの必需品ポテトチップスである。

 

 完成したそれを食べるがなかなかの出来だった。

 

 これをツマミに一杯やりたいぜ。

 

 と考えているうちにどんどん女子衆(おなごし)さん達が集まってきてポテチはあっという間になくなってしまった。

 しかももうモロロも無くなったので追加で作ることも出来ない。

 

 くそぅ。今夜の肴が・・・。

 

 そう落ち込んでいる俺に

 

 「モロロにこんな食べ方があったとは!ヒロシ殿は物知りでござるな!また作って欲しいでござる!」

 

 と笑顔で言ってくるトウカにムカついたので頬を引っ張ってやる。

 

 お前が一番食ってたの知ってるんだからな?食物の恨みを思い知れ!

 

 そう言いながら、グニグニと形を変える頬とホニャホニャ言うトウカの姿を楽しんで溜飲を下げる俺であった。

 

 

 

 

▼月卍日

 

 今日は休みなので大書庫に行くことにした。

 今回は生物について調べるかと思い本を探しているといつの間にか例の二人組が後ろに立っていた。

 

 全く気配がしなくてビビったがとりあえず挨拶すると頭を下げて挨拶を返してきた。

 相変わらず喋らない連中だなと思いながら、とりあえず、突然現れるのと居なくなるのをやめろと言ってみる。

 二人共首をかしげる動作をしたので、前者は驚くから、後者は挨拶がしたいからと説明したところ、頷いて肯定の意を示してきた。

 

 うむ、素直なのはいい事だなと思いながら、前回と同じように本を頼む。

 今回は生き物が載った図鑑のようなものが見たいと伝えると二人は競い合うように本を探しにいった。

 オイオイ、大書庫では走るなよ、と言うと途端動くスピードが遅くなったのには軽く笑った。

 

 手頃な席に座っていると頭に白い帯が付いた方がウキウキとした様子で本を持ってきた。黒い帯が付いた方は明らかに項垂れている。

 

 とりあえず白い方が持ってきた本を受け取って礼を言いながら頭を撫でてみると犬が尻尾を振っている姿を幻視するほど嬉々とした雰囲気を出してきた。 

 

 そして、項垂れている黒い方にも礼を言って頭を撫でてやるとそれまでの落胆した様子から一変、全身から幸福感を浮かび上がらせていた。

 

 なんでコイツらこんなに嬉しそうなんだ?とか、よくその格好でそこまで感情表現できるもんだとか思いながら、持ってきて貰った図鑑を読むことにした。

 

 さてさて、どんな生物がいるのやら。

 

 マランとラニャとタンタンは、まんま羊とラマとイルカだな。

 うぇ、極彩色で人の身長の5倍の大きさの肉食の巨鳥キョロリなんてのがいるのか。辺境に生息しているみたいだからシシリ州にもいたのかもな。出会わなくてよかったぜ。

 緑色のウサギっぽいフロムン。コイツの胆囊には一匹で千人を殺せる猛毒があるのか。可愛いくせに恐ろしいやつだ。だが、心臓は心の病の特効薬になるみたいだな。精神安定剤みたいなもんか?

 肝が万病に効く霊獣ミキューム。なんか旅の途中で見たことある気がする。

 うん?こっちは伝説上の生物か。なになに神獣ヌコ?・・・完全に猫だな。ということは今は猫はいないのか。猫派の俺としては残念な限りだ。

 

 といろいろ見てきたが、俺が知らん上に物騒な生物が結構いるな。

 コイツらの中には人間が創ったやつもいるだろうが、大半は人間が地下に潜ってから独自に進化したやつらなんだろう。

 とはいえ人の身長の5倍の大きさなんて時代を逆行したような進化しているキョロリなんてのがいるのは放射能汚染なんかの影響なんだろうな。というかよく考えると人の身長が1.7メートルだとすると5倍だと8.5メートルだ。これが本当なら恐ろしすぎる。コイツの大きさ、ティラノサウルスレベルだぞ。

 

 そこでふとあることに気がつき、もう一度図鑑をくまなく探してみる。

 

 何故だ?何故あいつのことが載っていない?

 

 そう思いながら目次や説明文に至るまで調べてみたがやはり名前すら載っていない。

 

 どういうことだ?何故タタリのことが書かれていないんだ?

 アレだけ危険で皆その存在を知っているはずの生物なのに一切の情報が無い。

 

 そういえば、オッサンがタタリをヤマトで最も禁忌とされている存在だと言っていた。

 その生態以外にも忌まれる理由が何か存在するのか?

 そうだ、二人組ならタタリについて書かれている本を知っているかもしれん。

 

 そう思い、二人組にタタリについて書かれた本を頼んでみたが首を横に振られてしまった。

 

 まさか、少しの情報を記すことさえ忌まれる存在だというのか?

 それとも(ミカド)がそれをすることを禁止しているのか?

 

 ありえるな。この國の人間にとって(ミカド)は絶対的な存在だ。

 (ミカド)が白と言えば黒も白になるほどに。

 

 そんな存在がタタリについて調べるのを禁止していたとしたら?

 そして、そうするだけの理由がタタリにあるとしたら?

 

 そういえば名前についても気になる。

 

 タタリ・・・祟りである。

 

 祟りとは神仏や霊魂などの超自然的存在が人間に災いを与えることだ。

 もしこの言葉の通りだとしたら、タタリは神ということになる。

 そしてこのヤマトでの神は大いなる父(オンヴィタイカヤン)・・・

 

 いや、まさか、そんな馬鹿な話があるはずがない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんてことあるはずがない。

 

 そんな悪い予感を振り払うように俺は席を立った。

 

 そして、心配そうにしている二人に帰ることを伝えると、そのまま白楼閣に帰って布団に倒れ込むが頭の中にグルグルといろんな考えが浮かんできて眠ることさえできない。

 

 俺の常識で考えれば、人間があんなスライムの様になるなんて有り得ない。

 しかし、呪術や仮面(アクルカ)なんてものがある今の世界ならそんなワケの分からん現象が起こってもおかしくないんじゃないか?

 それに思い当たるフシもある。タタリに出会った時にその体から浮かび上がった人の顔、そして苦しみの声を上げているかのような鳴き声。あれがタタリになった人間の叫び声だとしたら・・・。

 

 ・・・もしかしたら天罰が下ったのかもな。

 人間は地球環境を破壊した挙句、生命を創り出し弄び神様気取りだ。そんな人間に神様が罰を与えたなんてこともあり得るかもしれない。それだけ人間は罪深い。

 

 ああつまり、兄貴もチィちゃんもホノカさんもあんな姿に・・・。

 

 そんな風にいつの間にか、俺の中ではタタリ=人間の図式が固まっていた。

 

 体から血の気が引いていく感覚が襲い、クラクラと世界が揺れる。極度のストレスで吐きそうだ。

 

 そんな時どこからともなく唄が聞こえてきた。

 

 少女のような声で唄われるそれを聴いているとだんだん気分が落ち着いてきて、いつの間にか眠っていた。

 

 翌朝目が覚めた時には昨夜とは打って変わって晴れやかな気分になっていた。

 眠っている間に心の整理がついたようだ。

 

 どうやら俺は是が非でも(ミカド)に会わにゃならんようだ。

 そして、タタリの正体。ひいては人類失踪の謎について確かめなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 




・スイェトペ
 バターの事。
 アイヌ語で「スイェ=振る」「トペ=乳」を合わせて作った造語。
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