そんな彼を見つけたアグリアス。
その2人の間におこった夜のお話
異端者たち、教会の教えに従わぬ愚か者たち。つまり最大の正義であるグレバドス教に従わぬ、世の中全体への反逆者。
本当に神をも恐れぬ所業を行った者たちもいるのだが、教会の利益に反する行為を行った者たちも同じ異端者となる。そんなことは、世間は知らず、そして教会もそれほど気にはしていない。敵対するものは排除すればいいという思考で彼らは動いているのだった。
そしてそのレッテルを張られたラムザたちは今日も、教会からの刺客と戦いを繰り広げていた。
「お前らは、今日もしつこいんだよ!!燃え散れ!!
岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち 集いて赤き炎となれ! ファイア!」
ラッドが、極寒の砦で火の玉を刺客に放つ。しかし、その火の玉は、刺客の髪をかすめただけ。異端者を狩るための部隊、審問者なだけはある。
「ちっ、異端者め。こざかしい。貴様らは存在そのものが罪なのだ。おとなしく死ね!!」
そして刺客は、ラッドへ向けて切りかかる。だが、そう簡単に切られるラッドでもない。
魔法使いとはいえすでに歴戦の戦士となっている彼にとって、かわすことは困難ではない。彼の肩口を狙った一撃は、空を切った。その拍子で少し体勢を崩す刺客。
そうして生まれた隙に乗じて、別の敵を難なく処理して手の空いたラムザが切りかかる。彼の剣は先ほどの刺客の剣とは違い、敵の胴に深くはいりこんだ。
飛び散る鮮血。そして倒れこむ刺客。
「ぐはあ…、私たちの正義がお前らのような異端に破れるはずが…」
「正義、それは皆が持っているものだよ。そして僕もこんなところでは死ねないんだ。特にここでは」
そう刺客に返すラムザ。だが、そんな言葉を聞く前に刺客はこと切れていた。彼の答など必要としていないかのように。そんな彼を見下ろしているラムザに、少し離れたところで戦っていたアグリアスの声がかかる。
「ラムザ。こっちはなんとかなったわ。そっちも終わったようね」
「はい、アグリアスさん。けが人を出さずに何とかできましたよ」
襲い掛かってきた刺客は10人。町で依頼された盗賊退治のため、ジークデン砦に赴いた彼らだったが、そこで待ち伏せを受けたのだった。
だが、そんな待ち伏せに対して異端者たちは実力の差を見せつけた。一人もけがもせず、撃退したのだ。
「で、ラムザよ。今日はもう日が落ちそうなんだが。どうする。この砦を使うか?」
そう声をかけてきたのはムスタディオ。ゴーグの機工士である彼も教会の闇に気付き、ラムザとともに戦う仲間であるが、この砦の過去は知らない。そのため、ここで泊まるという提案をしてしまう。
「私も疲れたぁ。一晩は休みましょうよ。」
そこにアリシアも加わる。彼女もまたここで起きた出来事については知らない。だからここを使うという提案に乗る。そしてその言葉に同意していく仲間たち。
「わかりました。みんな。今日はここでキャンプを張ろう。先ほどの戦闘の片づけをしたら設営の準備をお願いするよ」
表情に出さないが、過去を思い出すこの場所を好きではないラムザ。だが仲間が休みたがっているのを止める彼でもない。彼の人生を変えたこの砦で一泊することに決めたのだった。
そうして、ジークデン砦で止まるための準備をしていく異端者たち。そんななか、ラムザは時折、火薬庫後の前で立ち止まったり、そちらのほうをちらほら眺めていた。そしてそんな彼に気付くものは一人しかいなかった。
誰もがいつものように夜の支度をして、あわただしく時間が過ぎていく。豆とトマト、そしてウサギの肉のシチューを食べ、寒いイヴァリースの夜を超える準備をしていく彼ら。
教会の刺客を撃退するのも何度目かわからない彼らにとって、普段と変わらない夜。
そんな彼らの上に雪がちらほらと降ってきた。
「今日は冷えそうだなあ、酒でも飲みたくなる夜だ」
雪が降る中、シチューを食べながら酒をほしがるムスタディオ。そこにラッドも加わる。
「いいなあ、ちょっと疲れたし、今日ぐらい酒をかっくらって寝たいぜ」
砦の中でたかれた焚火の前でそんなことを話す2人。もう周りは真っ暗で星明りしかない。焚火の明かりが異端者たちを照らしている。その明かりの中でさらに盛り上がっていく異端者たち。
「いいわね。今日はアリシア様の秘蔵の一本空けちゃいますか」
「あら、アリシアの秘蔵の一本って、そんなものあったかしら。いつもの一本でしょ」
「うるさいわね、ラヴィアン。飲みたい時に飲む酒がおいしいお酒なの」
そんな風に明るく話は盛り上げっていく。厳しい戦いの中、彼らが倒れずに前へ進み続けているのは、こういったお気楽さもある。張りつめているだけでは人間持たないものであるから、当然といえば当然でもあるが。
だがその中にラムザがいないことに気付いたアグリアス。先ほどから少し様子がおかしかった彼について、妙に気がかりだった彼女はこの明るい場を抜けることとした。
「すまないけど、私はちょっと抜けるわ。少しお酒を飲む気分になれなくて」
「そんな隊長…隊長を酔わせてラムザさんとのお話を聞きたいのに」
「それにお付き合いする気もないわ。まあ次の機会にお酒は飲むから、ごめんなさいね」
こうして、酒盛りの場となった焚火の前から抜け出、一歩外を出た彼女の前には、しんしんと雪が降り続いていた。
このように雪が降り、息も凍るような冷たさの中で一人、アグリアスはラムザがいるであろう火薬庫へ向かう。何か思い出しているかのような彼の表情にいたたまれなさを感じながら。
果たして、ラムザは彼女の予想通り、大きな穴が開いた黒ずんだ火薬庫に一人で佇んでいた。そして、ある一点を眺めているのであった。
「ラムザ、さっきからどうしたのよ。ここで泊まるといったとき、いえ雪が降り出してから何かおかしいじゃない」
そんな彼を眺めていたアグリアスは、何か彼女の知らない彼がそこにいるように見えて不安を感じつつ、彼に声をかけた。
「ああ、アグリアスさん。大丈夫ですよ、ちょっとだけ一人になりたかっただけですから」
「そんな、大丈夫じゃないわよ。ずっとラムザはここに来てから変よ」
突然かけられたアグリアスの声に驚きながらも、ラムザは心配かけまいと言葉を返す。だが、その言葉も何か少しだけ何時もの彼とは違う。少し悲しい声である。 そこに更なる心配の声をかけられたラムザ。
さすがに隠し通すのは無理だと感じ、ぽつぽつと話し始める。
「やっぱり、あなたには気づかれちゃいましたか。そう、ここは僕が昔の僕から、ルグリアに代わったところなんですよ」
「ルグリア?前、傭兵と名乗っていたころのあなたが名乗っていた姓ね。何かあるとは思っていたけど」
「ええ、母の名前なんです。そう名乗りたくなってしまった場所なんです。ここは」
そのように過去を思い出しながら、空から降る雪を眺めるラムザ。そんな彼が遠くに見えるアグリアスは彼の一言一言を聞き逃さないように、彼の瞳を見つめる。
「昔、僕は士官アカデミーに通っていました。そこには僕の親友もいて、そしてうちに帰れば僕の妹と彼の妹の笑顔が迎えてくれていました。」
「士官アカデミーか。私は近衛のほうを志望したから、ちょっとお邪魔したぐらいしか記憶にないわね」
「へえ、アグリアスさんも一度来たことがあるんですか。いいところでした。それはさておき、僕が通っていたころは、オルダーリアとの戦争も終わり、やっと落ち着いてきたころ、世間を骸旅団が騒がせていました。」
過去の彼の話に、少し言葉をはさみながら、彼の言葉を聞くアグリアス。先ほど前空を眺めていたラムザもそんな彼女に向き直りながら話を続ける。
「そこで僕たち士官候補生もできる仕事として治安維持を仰せつかりました。僕らは喜びました。やっと兄さんの手伝いができる、一人前になれると」
そこまでは、楽しい思い出の一ページを語るようなラムザ。だが、次の彼の言葉からは表情が落ち込んでいく。
「だが、現実はそう甘くはありませんでした。豆のスープだけで耐えてきた骸旅団の人々、リーダーの妹が僕に言った言葉に、僕はその時何も言い返せなかった。」
「そして、最悪の事態が起こったんです。親友の妹が骸旅団にべオルブの娘と勘違いをされて誘拐されてしまった」
その時のことを語るラムザは、すでに悲しみの表情であった。そんな彼を見て、アグリアスは声をかけようとする。だが、まだ彼の話は続く。
「僕らは彼女を助けようとここまで必死に追いかけました。僕に平民の悲しみ、怒りをぶつけてきた彼女を倒し、そして平民のためと立ち上がったウィーグラフも倒して、ただ助けるために必死だった。」
そこで、彼の言葉は止まる。何かつらいことを吐き出したいけど吐き出せないような表情をしながら。苦しそうな彼にさすがにアグリアスは躊躇せずに声をかける。
「いいのよ、もう。聞いた私が悪かったわ。そこまで言わなくても」
「いえ、アグリアスさん。やっぱりあなたには聞いてほしい。僕の大事な過去であるこの話は。」
そのアグリアスの心配する声をラムザは押しとどめる。誰かに聞いてほしい悩みだったのだろうか、それとも彼女にだけ伝えたかった話なのだろうか。それはともかく、話は続く。
「そう、この砦。ジークデン砦まで逃げた、骸旅団を負って僕たちはここまで来ました。だけどすでに、この砦は北天騎士団に包囲されていました。もう骸旅団は壊滅寸前だったのです」
「だが骸旅団は信じていました、さすがにべオルブの娘がいたら攻撃などしかけないだろうと。僕の親友も信じていました。彼の妹を絶対助け出すといった僕の兄の言葉を」
そこで、また言葉を止めるラムザ、もう彼にアグリアスは何も言わない。彼の言葉を待つだけである。
「だけど現実は違った、彼の妹を盾にした骸旅団ごと攻撃は開始され、ティータは二度と目を覚ましませんでした。そして僕と彼もここで道を分かつこととなってしまったんです。」
ここまで話し終えて、ラムザはアグリアスを見つめた。彼のことを思い、ここまで来てくれた彼女に対して、こんな話をしてよかったのだろうか。そんなことを思う彼らの上では雪が降り続いている。
数分時間がたった。アグリアスもラムザもまだ言葉を発しない。どちらも言葉を出せなくなってしまったのだろうか。そんな時にアグリアスは言葉を開いた。
「聞こう、あなたは何を思って今を生きている」
この話を聞いてからの質問である。ラムザが一度自分を捨ててしまって、そして自ら立ち上がるまで、何を思って生きてきたか。それを問われた気がラムザにはした。
「僕は、信念を貫くために。自分が信じる道を皆が歩けるように剣をふるって生きている。」
一度すべてを捨てた気になり、そして自分の道を見失いかけた。だが、これだけは守っていきたいと思う彼の信念。これを取り戻し、そして信じなおすことができた彼女の前で彼は、こう返した。
「なら、私はその道を助ける。私は貴方を信じる。貴方が進む道に私もともに行こう。」
そこに彼女もまた、言葉を返す。あのときの言葉のように。
また数分時間がたった。その間ずっと彼らは見詰め合っていた。自分の信じる相手、そして少し気になる相手。そんな感情が入り混じった時間であった。
しかし、そんな静寂は、空気の読めない声によって破られる。
「おーい、ラムザぁあああ。お前も飲まないかぁあっぁぁ」
焚火のほうから酔っぱらったラッドの声が聞こえる。
「た~いちょう、私の酒を飲む気になれんのかああ」
さらには、アリシアの声も重なる。さらには笑い声。明るい焚火のほうでは、彼らの仲間が大騒ぎをしている。
そんな声によってハッとする二人。お互い見詰め合っていたことに今更のように恥ずかしがる。
「ああ、あの娘たち。相当よっているわね。あとで絞めてやりましょ」
「僕はお酒がまだ飲めないのですが。でもあんな感じになると思うとさらに飲む気がなくなりますよ」
さっきまでのちょっと恥ずかしい感覚と難しい空気を振り払うかのように、話題を変える二人。彼らの酔いっぷりに恐怖とあきれを感じているふりをする。本心でも感じていることではあるが、いつもの彼らに戻ろうとした。
「なんにしても、戻りましょう。ここは冷えて辛いわ」
「そうですね、アグリアスさん」
だが、いつもとちょっと違う部分があった。少しだけラムザを待ったアグリアスが彼の手を取り、引っ張っていく。そんな彼らの上を雪はまだ降り続けていた。