彼はいつも通り言った
「まぁね、俺は百握りだから」
彼が続けて言った
「まぁ俺が分かっているのは君たちが思うこの事件だが」
「え、この事件にないはずのA組以外何か問題があるのか?」
と言おうとしたが彼のこの言葉に遮られた
「それでは早速先生、聞きたいことがあるのですが」
「えぇ・・・ワシに答えられることなら」
名前は・・・加藤先生・・・だったかな
50代後半くらいの数学教師だ
「佐藤先生、このハンコに書いてある盛川先生は、僕たちが中学3年生になった頃
つまり、2年前にすでに定年退職していますね?」
あ・・・佐藤先生か・・・
佐藤先生が口を開いた
「えぇ、そうです、彼が定年退職したのは2年前、君たちが中学3年生になった頃です
ですがなぜ知っているのですか?」
彼が微笑んだ
「俺はこの学校の教員を全員知っています
もちろん去年の教員も暗記している、だが盛川という教員はいなかった
普通科にも、商業科にも、定時制にも
という事は俺たちが入ってくる頃にはもう転勤か定年退職していた教員だ
だから、俺は2年上の定時制の先輩、つまり定時制4年生の知り合いに
さっき皆が考えていた時間に、ラインで聞いてみたんだ、
『定時制にA組は存在しますか?それと盛川先生を知りませんか』とそしたらすぐに
『A組は聞いたことないけど2年前に定年退職した先生に盛川と言う人がいたよ』
と返ってきたんだ
つまり、盛川先生は2年前に定年退職したことは確かだが
先輩の証言から先輩が1年生の時にも4年A組は存在しない、
つまりは先輩のさらに4年以上上の先輩という事になる
ここから分かることは俺たちの2年上の先輩の
さらに4年以上上の先輩が2年生の時のプリント
つまりハンコは、最低でも8年以上前に押されたという事だ
ここまでで分かったことを整理するとこの4つが言える
・今の碧高校にはA組は存在しないという事
・プリントにある盛川先生のハンコは少なくとも8年以上前のものであるという事
・盛川先生のハンコは3年前を最後に押されることはありえないという事
・プリントは間違いなく碧高校のものという事
これで分かっただろう?8年以上前にA組は存在するという事を」
か・・・完ぺきだ、僕たちがA組が存在しないことに頭を抱えていた頃には
彼は、盛川と言う教師が碧高校にいたこと、このプリントは間違いなく碧高校のもの、
そしてそれが8年以上前に存在したクラスA組と言う結論に辿り着いていたのか・・・
皆が納得した表情を見せた
そうか!
なるほど
それならあり得る
彼の推理に称賛の言葉が送られた
そうか8年以上前のクラスか
8年以上前のクラスだったのか・・・
8年以上前・・・
8年以上・・・
「「は、8年以上前!?」」
香坂くんも気付いていたようだ
それにしてもありえない、ありえない!絶対にありえない!!
なぜ8年以上前のプリントが今・・・
なぜ8年以上前のプリントが8年以上後の今に存在するのだ?
タイムトラベルした来たのか?
そんなことはSERNかエメット・ブラウン博士が開発に成功していない限りありえない!
彼が安堵した表情を見せた
「やっとそこに辿り着いたか・・・」
あ、彼の推理をほめる前に批判から入ってしまったことに気が付いた
「い、いや君の推理には納得している、納得しているのだが・・・」
「あぁ、納得しているのは顔を見ればわかる
君が言いたいのは『なぜ8年以上前のものが今になぜそこに存在するのか』だろ?
君たちが悩んでいる時に言っただろ
“問題点はそこじゃないだろ!なぜそこに存在するのか考えろ”
と、だがそこが今も俺にはわからない・・・」
先ほどここまで完ぺきな推理を見せた彼から
わからない
という言葉が出たのは少し意外だった
彼は僕の席に座り
両肘を机につけて、手を合わせ
親指を顎につけて
人差し指の横側を鼻につけた
決してかっこいいポーズではないが
彼から少しではあるが名探偵の雰囲気を感じ取ることができた
香坂くんが微笑んだ、おそらくは彼とずっとコンビを組んできたのだろう
僕があんなに反論するから彼の推理にとって無駄な時間
無駄な説明の時間を取ってしまったのだ
説明の間は彼は推理ができない
早くこの事件の真相を知りたい人には無駄な時間だった
だから香坂くんは反論しなかったんだ
放課が終わるまであと3分・・・この時間で終わることなど不可能だ
自分の机に8年以上前のプリントが置いてあります
さて、なぜそこに存在するのでしょうか?
と聞かれて1時間以内でも正解を導けたら
その人は間違いなくシャーロック・ホームズになれる才能を持っている人だ
ましてやあと3分以内に答えるなど人間には不可能だ
30秒ほどたっただろうか(残り2分30秒)
彼が早口で何かを呟き始めた
「なぜそこに存在するのか・・・なぜそこに存在するのか・・・
なぜそこに存在するのか・・・なぜそこに存在するのか・・・
考えろ・・・考えるんだ・・・考えろ!・・・考えろ!・・・
なぜそこに存在するのか・・・なぜそこに存在するのか・・・
考えろ・・・考えるんだ・・・考えろ!・・・考えろ!・・・
考えろ・・・考えるんだ・・・考えろ!・・・考えろ!・・・」
その後も何かを呟いている
先生を含め他の人が彼の周りにいるものの絶句している
おそらく彼の放つ鬼気迫る雰囲気に
言葉を発すると彼の思考の邪魔になることを察したのだろう
1分30秒後(残り1分)いきなり大声を出した
「あぁ!そうか!俺はバカだ!精神的に向上心のないものはバカだ!
なぜそこに存在するのか、存在しうる理由を考えるんだ!!」
と言って彼が、あのプリントを手に取った
プリントをあらゆる方向から素早く観察している
彼はいきなり立つと同時にプリントを机に叩きつけた
プリントは裏の状態だった
それを立った状態で机の天板の横を持ち
ずっと眺めて、たまにブツブツ何かを言っている
15秒後(残り45秒)
彼がゆっくり前を向き普通の大きさの声で言った
「そうか、そういうことか・・・
あるはずのものがない!あるはずのものがないんだ!
そうかこれは裏が表だったんだ・・・
ねぇ誰か視聴覚室の使用時間割表見てきてくれる?」
香坂と僕が見に行った
僕らが歩いているときに彼は言った
「おそらくこの時間の前に使われた授業は・・・
2年4組の世界史、担当の先生は・・・おそらく今山先生だ」
2年4組は理系でいうところの6組だ、かなり荒れているとは聞いたことがある
今山先生は優しい、いや、気の弱いと表現した方がいいだろうか
まぁそういう社会科の先生だ、1年生のころ倫理を教えてくれた
皆寝ていたり、別の教科の宿題をやっていた
ぼ、僕はそんなことしてないからな!・・・絶対にしてないからな!
ホントだぞ!(※嘘です)
時間割表を見た僕らは驚嘆した
「「あ・・・当たりだ!2年4組の世界史!担当は今山先生だ!!」」
彼は完ぺきに言い当てて見せたんだ
そして彼は微笑んだ
僕は言った
「どうやら、全ての謎を解いたようだね」
彼はいつも通り言った
「まぁね、俺は百握りだから」
その言葉を言い終わると同時に授業開始のチャイムが鳴り響いた
・
・
・
僕たちは先生のご厚意で授業中も彼の推理を聞くことを許してくれた
おそらく先生も気になるのだろう
早速彼が口を開いた
「まず最初の疑問点、『なぜこのプリントが8年もの間捨てられずにいたか』だ
それはどこだ!普通の教室はどの机やロッカーの中に入れても
1年したらクラス替えが行われてしまう、職員室もそうだ!
ここから逆算して残るものは特別教室!
生物室や地学室、物理室もあるが一番有力なのが
ここ、特別棟の第1視聴覚室だ、俺たちが前使ってたのが教室棟の第3視聴覚室だ」
だが疑問点が出た
「でもこの教室も1年ごとのクラス替えは無くても毎日の掃除はあるよ?」
彼が笑いそして僕を指さした
「そう!ここも掃除は行われる、しかも毎日
でも誰も気が付かなかったんだ
理由は2つある
1つ目は掃除のメニューだ、決まりすぎている
毎日毎日同じところを掃除する
だが、いつかは気づくかもしれない
そこで理由の2つ目
万人の死角の場所に位置する
どうせ掃除している人が見るのは
黒板
机の上
床
窓
の4つだろう
だがその隠し場所はその4つにも当てはまらない
この教室の机は長机でものを置くスペースがない
ということは・・・」
彼がおもむろに歩き出した
歩く先は・・・教壇
黒板の中央周辺で立ち止まり
こちらを見た
そして教卓の上に手をおき体重を乗せた
「ここ!教卓の中!
ここならまず生徒は見ない
なぜなら人間の心理には一貫性の法則っていうのがある
簡単に例を挙げるとしたら授業中に知らない人から
『ごめん、消しゴム貸してくれない?』と聞かれて
それをOKをした場合
『じゃあ、シャーペンも貸して!』
と言われたらシャーペンを貸そうと思うだろう?
その逆も然り
消しゴムが1つしかなくて
『ごめん貸せない』
と言ったら
だったらシャーペン貸してと聞かれても
『他をあたってくれ』
って言うだろ?
まぁその人が知らない人だったらの話だが
みんな掃除にやる気はないだろ?
だから掃除の場合は
やる気がない=知らない人
と思ってほしい
つまり他の長机は見る必要がないから
教卓の中の物を置くスペースも見ない」
と言って彼は腰を落とし教卓の中に手を入れた
「お!あったあった!よし、どうやら俺の推理は当たっているらしいな」
と言って彼は一枚のプリントを取り出した
そこの名前にはこう書いてあった
( 2 )年( A )組( 9 )番( 村田 尚路 )
皆驚いた
あ!
えー!
とか驚きの声が上がった
すげー
やばい!
とかの声が収まったとき彼は話を再開した
「たぶん定時制の生徒はこの使用済みのプリントを持ち帰るのが面倒臭かったんだろう
A組の人は授業が終わると先生が教室から出るのを友達と話しながら待って
先生が通り過ぎたらここに捨てたんだろう
おそらくその前にごみ箱に捨てたのがバレて先生に怒られたんじゃないのかな?
そして先生が言った、『絶対に捨てるな!今度から確認するかな!』と
人間の心理にはカリギュラ効果と言って、
ある行動を禁止されるとその禁止された行動をやりたくなってしまうという心理が
働くんだよ
だからと言ってごみ箱に捨てれば先生にバレて怒られてしまう
その結果見つけたんだ絶対に見つからない万人の死角を」
なるほど、だから8年以上もの間見つからなかったのか
だけど絶対に見つからないなら疑問も生まれる
「だったらなぜその『万人の死角』であるその教卓の中から
このプリントを取り出すことができたんだ?
まさか取り出した人は、君並みの推理ができたわけじゃないだろう?」
また彼は笑いながら僕を指さした
「そう!そうだよ!さすがワトソン役!今度から君を助手にしよう!」
なんと!彼が僕をを助手《ワトソン》として認めてくれた!
って、なんで助手なんだよ!
僕はシャーロック・ホームズが好きなの!
まぁ顧問探偵で収入が安定しないのシャーロック・ホームズより
開業医で収入が安定しているワトソンの方が
人生としてはいい人生を送っているのかもしれけど・・・
彼は推理を続けた
「そう、それが最後の疑問にも直結する
もうここから一気最後まで言うぞ
万人の死角からそのプリントを取り出すことができたのは・・・
その理由ができたからだ」
「「「「「当たり前だろ!!」」」」」
皆一斉に言った
彼は笑った
「あっはっはっはっはっはww
でも冗談ではないぞ
佐藤先生、荷物を見せてください」
「はいどうぞ」
佐藤先生が教卓の上に荷物を置いた
「やはりそうだな、今回も俺の推理は当たっている」
と言いながら佐藤先生の荷物の一つであるノートを見ている
彼は話を続けた
「数学の先生も、世界史の先生も荷物はそう変わらないだろう
だから佐藤先生に荷物を見せてもらった
つまりこれはそのまま世界史にも当てはまるんだ」
誰かが言った
「世界史?日本史じゃなくて?」
彼が答えた
「おいおい、いつの話をしているんだよ、まったく
それは8年以上も前の話だろ?
これは今の話をしている
つまり事件が起きたのは
この数学の時間の一つ前に視聴覚室が使われた時間
つまり2年4組の世界史の時間だ
佐藤先生のノートには板書するであろう内容と
教科書の問題の答えが書いてある」
と言って彼はみんなの方にノートの中身を見せた
「教科書はご覧の通り普通の教科書だ
あとは進度を書くための筆箱、それだけで十分なんだ
それでは事件の全貌を明らかにするぞ
この2年4組の世界史は授業崩壊しているんだ
おそらくはあちこちで寝ている人がいて
別の教科の宿題をしている人がいる
おそらくは今山先生はそう言う生徒を放置していたんだろうな
だが今山先生はある生徒を見つけた
おそらく教科書だけか、それすらも持ってきていない生徒だ
間違いなくノートは忘れている
だが起きている
おそらくそういう生徒を見たことがないのだろう
基本的に忘れ物をする生徒は寝ているから
だから何とかしてあげたいと思ったんだ
でもノートを破ってあげることは
他の生徒がほしいといった場合、限界がある
だから先生は『いらない紙』の置き場所の代名詞、教卓の下
からそのプリントを渡したんだ
そう、俺が考えているときに言った
“そうかこれは裏が表だったんだ・・・”
とはこれに気付いた時だったんだ」
なるほど、だが一つ不可解な点がある
「だったなんで裏が白紙なんだ?」
「ふ、さすがは智弘、いい質問をするじゃないか
言っただろ?授業崩壊しているって
その人もやる気のない生徒の一人だったんだよ
ただ忘れ物をして
そしておそらく前の時間でぐっすり寝てしまっていたんだろう
目が覚めていたんだ
それを先生がたまたま忘れたと勘違いして
紙を渡した
だが生徒はその厚意を・・・今山先生の厚意を踏みにじった
何も書かず、授業にすら耳を傾けなかったんだ
僕が考えているときに言った
だから何も書かなかったんだ
“あるはずのものがない!あるはずのものがないんだ!”
とはこれに気付いた時だった」
やや憶測で話しているところがあるな・・・
授業にすら耳を傾けなかったんだっていうのは間違いなく言い過ぎている
驕っている《おごっている》
「何も書かなかったからと言ってそんな言い方・・・
もしかしたら授業は聞いていたかもしれないじゃないか」
彼は静かに言った
「うん、さすがだよ、俺の助手
でも俺には分かるんだよ
そのプリントを一番最初に見た人いる?」
1人が手を挙げた
彼が言った
「じゃあそのプリントを最初の状態に戻して」
その人がもとの位置に、最初の状態に戻した
それは僕と彼が最初に見た状態と一緒
四つ折りの状態、名前が見えている
彼が話を続けた
「やはりそうだな、俺の推理は当たっている
なぜそれだと思う?
名前が上になっている
どうせ皆分からないだろうから言うよ
全く興味なくて取り敢えず最初の四つ折りの状態に戻しておいた
その折り目はかなり前のものだ
間違いなく8年以上前そのプリントの持ち主が折ったものだ
つまり最初から4つ折りも状態だったんだ
普通自分のものだと思ったら表
つまり何が書いてあるか分かる方向に折る
簡単に言うと表が見えるように折る
さっきも言ったがそのプリントは表が裏なんだ
だけどそれは最初の状態で置いてあった
それはつまり
先生がこれに書いてと言って
自分に書かないという事を禁止した
それを聞いたせいで
カリギュラ効果が出てしまって
書く気すらしなかった
授業を聞く気すらしなかった
先生は何でこんなことをするんだ
面倒臭い
絶対にやらんぞ
この白紙の紙は自分のものじゃない
あーはやく授業終わらないかな
次の授業は○○だなー
と言う気持ちの表れだ俺は思う
これで俺の推理を終了する」
それを聴き終えた僕らは自然に拍手をしていた
完ぺきでまるで推理小説の探偵の推理を聞いたような気分だった
彼は僕が不可能と思っていた3分での解決をして見せたのだ
彼は気付いていないだろうが僕は気付いた
百握りの彼が進むべき道を
彼に合っている道を
彼に向いている道を
僕は彼のことを心の中でこう呼ぶ
“百握りの探偵” と・・・
拍手が終わると先生が彼に近付き彼の肩に手を置いた
あーやっと一つの事件が終わったー・・・
疲れました
次の事件まではちょっと時間がかかります
次回は今回のオチです
ヒントは今回の話の中に存在しています