薙切になった男   作:こそ泥

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今週のソーマで薊総帥がはっちゃけてたのではっちゃけた
時系列的には春先辺りを想定しているけどどうなんだろう


とある秘密の会合

「ようこそ、司瑛士くん。歓迎するよ」

「いえ、こちらこそ。まさか貴方にお会いすることがあるとは思いませんでしたよ、薙切薊さん」

 

とある一室、天気の良い昼下がりであるというのに関わらずカーテンを閉め切った部屋で二人の男が対峙していた

一人は司瑛士。現遠月学園十傑の一人にして頂点の第1席。その卓越した調理技術と食材への献身的姿勢から食卓の白騎士(ターフェル・ヴァイスリッター)という異名を持ち、数多の傑物が相手でも、それこそ学外に存在する料理人と比べてもその技術は見劣りしない。ある種完成された料理人と言っても過言ではないだろう

 

そんな彼と対峙する相手もまた並み居るものではない。遠月学園卒業生にして元、第1席。高校入学して直ぐに第3席まで登り詰め、二年生に上がると共に数多ひしめく上級生を抑え遠月学園第1席の座を獲得。卒業までその座を明け渡すことなく維持した此方も傑物の中の怪物

 

そんな二人が暗い一室で話あっているのにはワケがある。薙切薊、彼は確かに傑物だった。だが、優秀過ぎた。彼は『真の美食は限られた一部の人間だけが享受するべきである』という考えの元、自らの子である薙切エリナへと徹底的な教育を施し、それを知った義父、薙切仙左衛門により遠月からの永久追放を受けその名は地へ堕ちたのである

 

そんな彼が遠月にいることをバレないためにもこうして外界と遮断された状況を作ったのである

 

「それで、手紙にあった『今の料理界の現状について話がある』とは?」

 

先日、入学式が終わり一息ついた司の元に一通の手紙が届いた。最初こそ訝しんだ司だが、『今の料理界について話がある。』という一言とそこに記されていた名前を見て考えが変わった。一度は話を聞いてみるべきだと判断した彼はこうして話し合いの場をセッティングしたのである

 

「ふむ、言葉通りの意味だよ。君は今の料理界に関してどう考えているのかね?」

「・・・、悪くはないと思いますよ。貴方の言いたいこともわからなくはないですがそれを強行するほどではないでしょう」

「・・・ふむ」

 

確かに、今の料理界は良い状態とは言えない。味の違いがわからない人間も増え、料理以外で評価を覆される人間もいないわけではない。それでも司は薊の言う世界を作ることに賛同するつもりはなかった

司の言葉を聞いた薊は言葉少なに立ち上がる。その足が厨房へと向かい少し経つとその手に一枚の皿を持って戻ってくる

 

「・・・っ!?」

 

そこにあったのは形容し難いモノだった。湯気が立ち香ばしい香りを放つ炙ったイカのゲソ。そこに絡まるは甘さと独特の匂いがするピーナッツバター。匂いを嗅いだだけでわかる。コレは食への冒涜以外の何物でもないと。特に、司にとっての料理とは、食材への敬意を込め食材の持てる真価を引き出し、食材が織り成すハーモニーを楽しんでもらうもの。この様な物は料理とは呼べない

 

「こ、コレは・・・」

「コレはとある大衆料理店で出されているものさ」

「!!?」

 

薊の口から出た言葉は司にとって許容できるものではない。つまるところ、それが意味するのはコレを料理とは言い張り提供している店があるということに他ならない

 

「そ、そんなことがあるはずが・・・」

「ふむ。言いたいことはわかるが一口食べてみてはどうだい?」

「・・・・・・」

 

食べるのか、コレを?こんな料理とも呼べない代物を?イヤ、待て。世の中にはゲテモノ料理というものがある。それを考えれば実は美味しい代物なのではないか?そう、きっとそうに違いない

震える手を意志の力で押さえつけ恐る恐るといった様子で一口

 

「〜〜〜〜〜!!、!ッ、!!??!」

 

口に入れ、最初に感じるのはピーナッツバターの独特の甘み。鼻を抜けるピーナッツバターの香りにイカの、魚介特有の匂いが混ざる。噛むとイカの芳醇な香りが増し、旨味がピーナッツと絡みつき口の中を蹂躙する。唾液とイカの旨味がピーナッツバターと混ざりヌチャヌチャと口の中にいつまでも残り続ける

 

それはまるで食材の墓場。不快感が体を突き抜け吐き気を催す。もしもこの時、第2席の彼女がいたら「うおっ!?スゲぇ顔してんな!・・・写メ撮っとこ」と言い出したに違いない

 

「コレは・・・、こんなものが・・・」

 

こんなものを料理と言い張り提供している店があるのか、もしもそうならば彼、薙切薊の言うことには一理あるのではないか。司の頭にそんな考えが浮かぶ。だが、同時にこうも思う『果たして本当にこんな品を出す店があるのだろうか?』『コレを嬉々として食べる人間がいるのだろうか?』

 

「ふむ、信じられないといった顔だね?まあ、無理もない。この品を出す様な大衆料理屋があると僕も調査するまで知らなかったからね」

 

だから、このビデオを見てみるといい

 

そう言いながら薊が持ち出したのは小型の端末。そこでは一人の軽薄そうな男がインタビューを受けている

 

『ええ〜と、こんな感じででいいんですかね?』

 

いやぁ~、緊張するなぁ。と言いながら画面の中央に映るのは軽薄そうなメガネの優男。少し自信がなさそうな様子も相まって頼りない印象がある

 

【大丈夫です。まずは貴方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?】

『え?あ、ああ。そうだね。僕の名前は富田友哉。[弁当のとみたや]という店の二代目でね。これでも商店街の商店会長をさせてもらってるよ』

 

画面に店の写真が現れる。実際に存在する店の様で現住所まで明記されている。少なくとも、ここまでは嘘の話ではないだろう

 

【では、本題に移らせてもらいます。この品をご存知でしょうか?】

「・・・・・・・・」

 

画面に映し出された一品。何を隠そうゲソのピーナッツバター和え。画面越しに見るだけでも司の身に震えが走り顔が歪む。対照的に画面の中の富田さんの顔に浮かぶのは笑顔

 

『ああ〜!コレか!!なるほど、これについて聞きたかったんだね?遠月の関係者って言うから何事かと思っちゃったよ!』

 

納得がいった、といった表情で頷く富田さん。この品を見ても彼の顔に嫌悪の色は見えない

 

【貴方はこれを週に何度食べますか?】

『う〜ん、そうだね。多くて週に3度。いつもなら週に1〜2回かなぁ』

「週に・・・、3度・・・!?いつもなら・・・!?」

 

司の顔に困惑が浮かぶ。あんな代物、一回でも食べたなら二度と食べたと思えないものを恒常的に摂取しているのかと考えると画面の男が得体の知れない化け物に見えてくる

司の困惑を他所に話は進む

 

【貴方はコレについてどう思いますか?】

『う〜ん、味は美味しくないけどコレを食べると、ああ!この味だ!って思うんだよねぇ。ただ、無理やり食べさせてくるのはやめてほしいけど』

 

司は思う。それは拷問ではないのか、と。自分の味覚が優れているのはわかるがそれでも、一般人がコレを食べて美味いと思うものなのか、と。ふと前に座る薊の様子を伺うと口元に手を当てまるで親の仇の様に動画の男を見つめている。時折「・・・食べれるだなんて、・・・週に3度」と呟いているが司の耳に入らなかったのが幸いだろう

 

【その時の様子はどういった感じですか?】

『いつものことだからねぇ。みんなワイワイガヤガヤ楽しそうに食べてるよ』

 

アレは決してワイワイガヤガヤしながら食べるようなものではない。断じてそのようなものではないだろう。だが、画面の男は嘘を言っているようには見えない。つまり、そういうことなのだろう

 

【ご協力感謝します】

『いやいや、此方こそ。ところで、コレってなんの』

 

ビデオが終わる。部屋に訪れたのは沈黙。動揺を隠せない司に薊が声をかける

 

「それで、率直に聞こう。君は今の日本がこのままでいいと思うかい?」

「・・・・・・・・・」

 

なるほど。この現状を知ったからこそ彼は立ち上がったのだろう。自分の考えは甘かったと言わざるをえない。確かにあの様な人間に自分の料理を食べさせたいかと聞かれれば頷く人間は多くないだろう。そういった区別をつけるためだと考えれば、

 

「このままではダメ、ですね。・・・わかりました。協力しましょう」

「協力感謝するよ。では、後日詳しい話をするとしよう。なにせ、ここに僕がいることがバレては元も子もないからね」

「ええ。では俺の方からも十傑の人間に掛け合っておきますよ」

「よろしく頼むよ」

 

かくして、会合は終了した。これ以降、司は十傑の中でも共感を得ることが出来そうな数人に話を持ちかけ、薊をトップに置いた新しいシステムの構築に精を出す。今の料理界に変革をもたらすために!

 

 




ゲソのピーナッツバター和え試食時
司「こんなマズいもの食べたことがない!」
薊「真似て作ったから美味く出来なかったかな」

インタビュー時
司「こんなゲテモノを食べて笑顔!?料理への冒涜だ!許せない!」
薊「こんな美味しいものを食べてマズいだと・・・?許せん!」

ちなみに、会合時の作成物に関しては薊総帥が美味しく頂きました
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