今回は『冬季杯』編から、一回戦第四試合『太井社大学附属相模女子学院 vs モニュメントバレー田園高等学校』の試合をお届けします。
『砂塵の戦車隊』の戦いです!
水族館の前に、3両の戦車が並んでいた。全体的に小さく纏められ、砲塔側部にとぐろを巻いた蛇が描かれた、二号車 チャーフィー軽戦車。サイズは小さいが砲は非常に長く、高速・高火力の三号車 M18改 スーパーヘルキャット。そして丸みを帯びたボディ、高い車高、長い砲を持つ隊長車 M4A1 ファイアフライ。
『砂塵の戦車隊』の異名を持つモニュメントバレー戦車隊は、戦闘前の整備に取り掛かっていた。
「三号車準備完了!いつでも行けるよ」
ヘルキャットのボディをばんばんと叩いたトルティーヤ。キツめにウェーブした茶髪を揺らしてはにかんでみせた。試合前だというのにこの余裕は、単に緊張感が無いだけだろう。
「二号車も大丈夫。全兵装チェック完了したよ〜」
地面につきそうなほど長い銀髪を揺らしてキャセロールが言う。口にはいつもどおりカンロ飴があり、カラカラと音を立てる。
「隊長車チェック完了。いつでもいけます」
金髪のショートヘアと鼻まで上げたネックウォーマーが特徴のジャンバラヤ。非常に優れた砲手で、全国大会の3大砲手と比べても遜色ない戦闘力を持っている。
「よし、皆大丈夫ですね。じゃあ戦車に乗り込みましょう」
「「
小豆色のロングコート風パンツァー・ジャケットを身にまとったモニュメントバレー戦車隊員たちは、勇ましい合図と共に敬礼をした。
信号弾が空を照らす。冬季杯 一回戦第四試合の開戦の合図だ。
「Go ahead!」
隊長である私の合図と共に、3両の戦車が履帯を軋ませ進む。まずは手はず通り二号車が強行偵察のため前進していく。隊長車と三号車は援護できる距離で待機だ。
チャーフィーより三号車のヘルキャットの方が速度は速い。しかし二号車を斥候として使うのは、ヘルキャットが火力的主力になるからだ。M18改の90mm砲は非常に強力であり、敵の装甲を易易と貫通出来るだけの火力を誇る。しかしながら装甲は薄く、かすっただけで致命傷になる可能性もある。前線に出すには惜しいのだ。
「今回の敵は相模女子。強力な戦車を投入してきているはず...」
どんな流派にも縛られず、現代風ののびのびとしたスタイルを取る、純粋な日本の高校。太井社大学という大きなバックボーンを持ち、非常に潤沢な資金を持つ。故に強力な日本戦車を用いる事は想像に容易かった。
「とにかく気をつけて。いくら高速のチャーフィーでも、大戦末期の強力な戦車相手では分が悪いから」
「隊長が心配してくれるなんて、珍しいねぇ」
自然と出た言葉だったが、普段こんな言葉をかけることはない。何故か恥ずかしくなる。
「...と、とにかく。なんだか胸騒ぎがする。悪い予感が、的中しなければいいんだけど...」
しばらく進み、市街地に突入しようかというところで、二号車から通信が入る。
「敵発見!こちらはまだ発見されていないようなので、降車して偵察します!」
「了解。お願いします」
車両を晒すよりも生身の方が撃破される可能性が少ない。危険ではあるが、まだ交戦は始まっていない。賢明な判断と言える。
「えっと...五式中戦車、五式軽戦車ですね。もう1両はまだ見えません」
「...やっぱり。強力な戦車だね」
五式中戦車がどの砲を搭載しているかはわからないが、
五式軽戦車は高い機動力を持つ軽戦車だ。砲性能も悪くないが、一番の特徴はその軽さだろう。10tを切る重量は非常に軽快なフットワークをもたらし、単純な速度や旋回性以外にも様々な恩恵をもたらす。
「もう1両はわかりませんか」
「...まだ見えませんね。もう少し進んで偵察しましょうか?」
「いえ。私たちが合流したら、前進して機動戦に持ち込みましょう」
「Roger!」
ファイアフライとヘルキャットが前進を再開する。市街地に進入し、裏道を最大速の半分ほどで進む。敵の位置はおおよそ掴んでいるため、この辺は安心して走行できる。
「このまま目撃地点に突っ込んで、一撃離脱を図ります。付いてきてください!」
「Ten-four!」
チャーフィーと合流し、路地を右折。砲塔を左旋回しながら前進していく。
視界が開けて、こちらの3両の砲が火を噴く。しかし当然ながら行進間射撃の上狙いをつける時間が殆どなかったため、かすりもしなかった。敵の2両はこちらに追撃をかけてくる。
「三号車は路地右折、待伏せて!」
ヘルキャットが路地を右折し、敵が来るのを待つ。そして目の前を通り過ぎると同時に路地から飛び出し、射撃。狙いをつけたものの、敵の車長の判断だろうか。回避行動をとられてヒットはしなかった。
「大回りに後退、B1地点へ」
市街地に突入する前に待機していた地点へヘルキャットを誘導する。敵の2両は追撃を中止したようで、再び元の位置へ戻っていった。つまり最初に発見した地点を起点に動いているわけだ。
「...だったら...」
ヘルキャットは大きく敵陣を回り込んで敵の尻を突くことになった。おそらくそれも警戒されているだろうが、この90mm砲の貫通力を生かしたアウトレンジからの攻撃なら、こちらを見られずに撃つことも可能かもしれない。
「さて。このくらいなら大丈夫じゃない?」
遥か遠く。敵車両が霞んで見えるほどの距離で、建造物の角に半分身を隠して敵を照準していた。道が少しだけ曲がっているため右側の建造物の影に隠れてしまうが、ギリギリ敵車両の後部が見えていた。
「照準、五式中戦車。フラッグから仕留めるよ」
遠距離からの身を隠しての狙撃。これが駆逐戦車の本領である。
「...ファイア!」
撃ち出された砲弾は、寸分の狂いもなく五式中戦車の後部を捉えていた。
刹那。当たるはずだった砲弾は、左に弾き飛ばされた。
「...な、何...!?」
オープントップ砲塔と蓋の隙間から、唖然とした顔で照準していたはずの五式中戦車を見た。そこに五式中戦車の姿はなく、代わりに緑色の壁が出現していた。
街角から現れたその戦車は、まさしく異形。道路を軋ませ、舗装を剥離させながら、ゆっくりと前進してくる。
全体的に垂直に構成されたボディ。前方2基の砲塔には戦車砲、後方1基の砲塔には2門の機銃。車体中心に堂々と鎮座するのは、約15cmの大型榴弾砲。
『試製超重戦車 オイ車』。日本が生んだ怪物が、こちらを見据えていたのだった。
正直書きたかっただけです。そのために相模女子は登場させたようなものなので...
番外編その1も近々更新するつもりです。