『モニュメントバレー VS 相模女子』の続きです。
緑の壁は、回転砲塔に載せられた15cmの大型榴弾砲を狂い無くこちらに照準していた。
「全速後退ッ!」
その合図は九六式十五糎榴弾砲が火を吹くのとほぼ同時だった。旋回しつつ後退するヘルキャットの前方にあった建造物に榴弾が直撃すると、建造物の中で信管が作動し起爆、爆音と業火が吹き出す。
「あっつい!えーこちら3号車!敵最後の1両は『大型伊号車』!注意されたし!オーバー!」
「オイ車...っ!?わ、分かりました」
通信はフラッグであるファイアフライに届いた。その一報を聞き、夏摘は困惑した。
「オイは前面200mm、側面110mm、後方150mm、砲塔200mmの超重装甲...なかなか抜けないだろうな...しかも護衛の2両もいる。どうするか...」
チャーフィーはまず戦力にならない。ヘルキャットはあの紙装甲を晒せばチリ車にぶち抜かれるだろう。だとしたらオイを殺れるのはファイアフライしかいない。
「二号車は建造物を登って偵察を、三号車は速度を活かしてかく乱してください。くれぐれも殺られないように!」
「「Roger!!」」
二号車は先ほどオイ車の砲撃で破壊された商業施設併設の立体駐車場にやってきていた。その上りスロープにチャーフィーを停め、車両から降りて観察を開始する。
「敵発見。東から、チリ車、ケホ車、オイ車の順です。マリンタワー前広場にて密集していますね」
「なるほど、分かりましたありがとう。...だったら、仕掛けていこうか。二号車の位置まで移動。大回りでね」
ファイアフライはB1地点から移動を開始する。マリンタワーの横を通ると敵に発見されてしまうため、大回りに海沿いを回っての移動となる。遠くにちらりと敵の姿が見えたが、こちらはまだ気づかれていはいないようだ。
大きく回り込んでチャーフィーと合流する。チャーフィーは崩れた建造物の破片を車両に乗せて偽装していたため、それに倣って隠蔽工作をした後スロープへ。
「どうするの?隊長」
「オイを倒すのは難しいけど、逆に言えばオイさえいなければそんなに難しいことじゃない。私たちがオイを仕留めれるかにかかってるね」
砲をスロープの塀から突き出す。俯角を取り、オイの薄い上面装甲を狙う。
「オイが向こうを向いた時に、砲塔後ろの天板を狙って」
「...任せてください」
ジャンバラヤが覗くスコープの先には、的確にオイ車の上面が映し出されている。東を向くその瞬間まで、息を潜めて待つ。
「...撃て!」
合図と共に轟音。17ポンドの砲弾は寸分の狂いもなく上面装甲を照準していたが、突然オイ車が後退したために頑丈な砲塔後部に直撃した。さらに今の砲撃で気づかれてしまったため、位置を移動する必要がある。
「全速後退!西から脱出してください!」
必然的に1ブロック後退を余儀なくされる。ヘルキャットが敵陣に切り込んでかく乱してくれたおかげで逃げる時間を確保することはできた。しかしながら、背には下関駅。これより後ろに市街地は無い。
「これ以上下がれない...こうなったら、乱戦に持ち込むしかない」
機動戦を得意とするモニュメントバレー。敵味方入り混じっての乱戦なら超重戦車でも食える自信があった。
「三号車は隊長車と一緒に切り込みます。まずはオイから狙ってください。二号車は私たちから少し後、乱戦になってから突撃、ケホ車を仕留めに行ってください」
「「了解!!」」
「『ごちゃごちゃ作戦』開始です!」
作戦内容としては単純明快。機動戦でオイを撃破、ケホとチリを分断したら戦闘力に任せて各個撃破、といった感じだ。だがオイを撃破するのに代償ナシという訳にはいかないだろう。
次の交差点を右折したらマリンタワーだ。熱い機動戦が始まる。
「...行くよ!」
飛び出すと同時に3両の戦車がこちらに向き直る。チリ車の三連射を正面装甲で受け止めてオイに接近する。ヘルキャットとファイアフライで挟み込んで、側面に展開。しかしチリの次弾によってヘルキャットは移動を余儀なくされる。ファイラフライの17ポンド砲が火を吹くが、側面装甲にはじかれてしまう。
離脱し、再び接近。今度はチリ車が接近してきたため、ファイアフライで応戦する。履帯と履帯がぶつかり合い火花が散るほどの接近戦。その間にヘルキャットがオイを大立ち回りを繰り広げるが、ケホがそれを妨害しようと懐に飛び込む。
「二号車!今!」
「ん。今行くよ!」
トルティーヤの呼び声に応え、チャーフィーが先ほどの駐車場の塀を突き破って戦場に割り込む。ケホを体当たりでヘルキャットから離し、戦場を離れるとケホは追いかける。作戦通り事が運んでいる。
広場で4両の戦車が社交ダンスのように舞い踊る。火花が、コンクリートが、弾丸が飛び交うダンスホールは、鉄と油と排気の臭いでむせ返るような熱気を帯びていた。
三号車がオイから離れる。距離をとって再び接近。ドリフトしながらオイの側面に垂直に砲を突き立てようとする。
「行けるか...いや、行けっ!」
ドリフトで回り込もうというところで、オイの榴弾が地面をえぐる。爆風で軽量なヘルキャットは軽く浮き上がる。破片で転輪が破損しスピン。しかし回転しながらもしっかりと側面装甲を垂直に照準している。
「...ファイア!」
射撃音。オイ車の側面装甲を貫徹し、爆発音と共にエンジンから火が上がり、白旗が上がる。
「よしっ、次!」
「いや、次って、履帯が...」
戦場に戻ってきたケホ車の砲撃が貫徹、ヘルキャットも戦闘不能となった。
「三号車、ありがとう。これでなんとかなるかも」
「いいってことよ。後でアイス奢ってね」
「...考えておくよ」
そんな会話をしつつも、ファイアフライとチリ車は熱い機動戦の真っ最中だった。砲と砲が弾き合い、車長と車長がにらみ合う。装甲に弾丸があたっては弾き、明後日の方向で建造物に穴を穿つ。まるで猫のケンカのようにくるくると回り、ぶつけ合い、撃ち合う。
「...次で決めようか」
チャーフィーは、追いかけてくるケホ車と交戦していた。フェリー乗り場の近くにある小さなコンテナターミナルでくるくると回り、隠れ、飛び出して撃つ。チリとファイアフライの戦闘が猫なら、さながらネズミだ。
コンテナの影からケホが現れ射撃。こちらは停止してそれを躱し、追撃。全速で回り込む頃にはそこにケホはいない。先程からこれの繰り返しなのだ。
「どうするか...このままやってても堂々巡りだけど、時間稼ぎをして増援を待つのも」
少し逡巡し、決心した。
「ここで仕留めよう。そこ入って」
指示した場所は、コンテナ。一箇所空いているコンテナがあったのだ。ここで敵を待つ。
カタカタ。履帯の音が近づいてくる。
バリバリと地面に残った砂利を踏む音。
ケホのシルエットが視界に飛び込む。
「今よ、撃て!」
ケホの薄い装甲を貫き、白旗が上がった。
ファイアフライとチリ車は一旦距離を取ってにらみ合っていた。互いの間合いを計るためだ。
「...前進!!」
合図と共にファイアフライが先に動いた。しっかりと助走をつけて、最高速度まで速度を上げる。チリ車も同じようにこちらに接近してきている。
近づく距離。音が、熱がこちらへ向かってくる。
「...今です!」
それはチリ車の砲撃が始まるのと時を同じくして。ファイアフライはフェイントモーションから豪快にドリフトして旋回、チリは停止して半自動装填の砲弾を3連続で発射した。しかしドリフトで正面を向けているためそう簡単には抜けない。
ファイアフライに側面を取られまいとチリ車は車体を旋回させるが、ファイアフライの旋回の方が速い。側面に砲をゼロ距離で突き立てた。
発砲音。乾いた音と共に試合が決まる。
『五式中戦車、走行不能。よって、モニュメントバレー田園高校の勝利!』
『砂塵の戦車隊』は以上2話で完結ということになります。これからさらに忙しくなりますので、更新はほぼままならないかもしれませんが、極力更新していこうと思っています。