褐色のサイヤ人、ナメック星に来たる   作:ろくでなし

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ドラゴンボールの映画上映直前という影響で書いてしまいました。私が書くターレスは下級戦士とエリートに対して、こだわりを見せるキャラになりそうですので、少し小物かもしれません。(実際に劇場版では下級戦士、下級戦士と言いまくりで相当コンプレックスがありそうというイメージがあったため)作中で二番目に年を取ったサイヤ人として描いていきます。

ターレスは惑星ベジータから脱出した猛者なので、結構強めです。サイヤ人であるため伸びしろも高く設定しています。ベジータとの仲は作中で書いていきます。



苦渋の選択

 闇に包まれた宇宙の片隅――惑星ベジータ付近の宙域を通過するのはアタックボールと呼ばれる宇宙船。それは流星のような軌跡を描きながら、宇宙の闇の中を横切ってゆく。

 

 アタックボールに乗るのは、色黒のくすんだ肌の青年だった。青年が地球人ならば今学校へ通うような年頃であろうが、生憎彼は異星の住民――戦闘民族サイヤ人であった。

 

 サイヤ人には地球人の常識は通用しない。彼らは老若男女問わず殺し合いを望み、血を好む傾向が強いため、また彼も肉体に非情な精神を宿している。その証拠に青年は、異星人の住む星を幾つか陥落させ、侵略を生業とする異星人へ『惑星そのもの』を売り飛ばしてきたばかりであった。

 

『惑星ベジータへ到着です』

 

 スピーカから発せられる機械的なアナウンスボイスに、青年はゆっくりと目蓋を起こしたその時。

 

『随分と戦火をあげたな、ターレス。本当にお前は下級戦士の出身なのか?』

 

 通信回線から入ったオペレータの声に、ターレスと呼ばれた青年は不機嫌そうに眉を寄せる。

 

「俺を底辺の下級戦士如きと一括りにするな」

 

『お、怒るなよ。俺はお前を下級戦士だと思っちゃいない』

 

「下らないご機嫌取りより、メディカルマシーンの用意だ。三番の着艦マットに俺は降りる。さっさと出迎えの準備しろ」

 

『あ、ああ』

 

 ターレスと呼ばれた青年が無造作にスカウターの通信回線を切った。彼の乗ったアタックボールは惑星ベジータへ着艦するために大気圏突入を開始する。

 

「……惑星ベジータか、三ヶ月ぶりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惑星ベジータ内にある酒場、荒くれ者どもが集うこの場所では昼夜問わず、皆が酒を酌み交わす。男女が本能のまま絡み合い、男共が自分の戦果を語っている一角のテーブル。そこでターレスは同じ下級戦士出身であるトーマと酒を飲んでいた。

 

「お前、戦闘力上がったな? 一体どうやってそこまで戦闘力を上げた?」

 

「さあな。……いつの間にか異星を侵略していたらこうなっただけだ」

 

 ふと笑うターレスにトーマは酒を注ぐが、酒の量はいつもの数倍に達している。

 戦闘力向上の秘密を聞きだそうとしてくるトーマの下心に、ターレスは嘆息する。

 

「聞きだそうとしても無駄だぜ? お前も自力で戦闘力を上げるんだな」

 

 ターレスは酒を奢りかえすと、トーマは忌々しそうに舌打ちする。

 

「バーダックと違って瀕死になってる訳じゃねェのによぉ……。単純な戦闘で上がったとしたらそれは大したもんだ」

 

 サイヤ人は瀕死になることで戦闘力を飛躍的に向上させることが出来る。とはいえ、いくらサイヤ人でも瀕死の苦痛を伴う勇気はないだろう。トーマがその典型的なサイヤ人の例だった。

 

 しばらく二人の情報交換は続いた。バーダックが魚人型の宇宙人――カナッサ星人の不意討ちで、意識不明の重体であること。トーマ達がバーダックを置いてこれからすぐに惑星ミートへ向かうことの決定など。酒の肴は尽きることなく盛り上がり、飲み始めて数時間が経過した頃、ターレスは唐突に本命である話題を切り出した。

 

「――お前には三ヶ月前、フリーザが裏切る可能性が高い……と以前に話したことがあったな」

 

「ああ、あの笑い話か」

 

「……まあ聞けよ。近頃、惑星フリーザで嫌な噂を聞いたのさ。ベジータ王は今、行方知れずだろう?」

 

「おいおい。まさか……フリーザ様が殺した、とかいうんじゃねぇだろうな?」

 

「その通りだが、まさか不服でもあるのか?」

 

「だっははは!! クールなお前からそんな冗談が聞くことが出来るなんてな!!! こりゃ今日は忘れられない日になりそうだ!」

 

 トーマはまるで信じていない。どうやら冗談だと思っているようだった。ターレスはその様子に苛立つ。

 

「真面目に聞け……。トーマ」

 

「いらん心配だ。酒に吞まれているんじゃないか?」

 

「下らん冗談かはいつか分かる。だが、その時はもう遅い……!」

 

 気分が悪くなったターレスは椅子から立ちあがり、テーブルへと金銭を叩き付けた。

 

「は? お、おい!! 待てよ、ターレス!! まだ飲んでいくんじゃないのか?!」

 

「俺にそんな暇はない。言ったろう? フリーザは俺たちを殺すつもりだとな!」

 

 飲む気が一気に失せたターレスは思わず怒鳴る。何度もフリーザは危険だと忠告したはずが、その効果は全く見受けられなかったからだ。

 ……皆、フリーザから提供される仕事に夢中で危機感を失っているに違いない。

 ターレスは机を拳で砕いて抗議して見せると、一瞬でその場は静まり返った。先ほどまでの穏やかな雰囲気は消え去り、ターレスから溢れ出るのは鋭い殺気だけだった。

 

「―――俺はもう行くぞ。フリーザの計画が俺の妄想であることをせいぜい祈っておけ」

 

 ターレスは吐き捨てるようにそう告げると、トーマは肩を竦める。

 

「一体、カナッサ星でやられたバーダックといい、お前といい、最近何か調子が悪いんじゃねぇのか? 少し冷静になったらどうだ?!」

 

 トーマは肩を掴んで引き止めようとするが、ターレスはそれを振り払う。

 酒のせいで気が昂りやすいとはいえ、フリーザに甘んじるサイヤ人の現状への憤り。それはターレスが素面のときでも変わらない。ただ感情を隠せるか、隠せないかの紙一重の差である。

 

「間抜けが……。俺の言うことが本当だと考えたら――落ち着いていられる状況だと思うか?!!」

 

 ターレスが怒号を響かせた瞬間、野次と哄笑が酒場全体に広がった。

 

「お前は考えすぎた! 隣にいるトーマが可哀そうだろう?」

 

「妄想もそれぐらいにしとけや」

 

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるぜ? ギャハハハハハ!!」

 

 このほかにも飲んだくれ、底辺の下級戦士、キ●ガイ野郎などの中傷が酒場の中を飛び交う。口の悪いサイヤ人たちにとって、互いの中傷は日常茶飯事だとしても――サイヤ人全体のことを想っての発言を中傷で切り返されれば、ターレスの失意は大きくなるのは当然である。

 

 緑と青の星惑星ベジータ。それはサイヤ人の故郷であり、ベジータ王が失踪する前まで、階級制度で統治されていた王国でもある。

 サイヤ人は下級戦士とエリートで区別されており、ターレスは幼い頃、比較的戦闘力の低い下級戦士に属していた。その名残は今でも残っており、ターレスの扱いは決していいものとは断言できない。証拠に誰もターレスの意見を尊重せず、笑い話とするのもその悪習の一つであった。

 ターレスは辣腕したのち踵を返すと、ボソリと呟く。

 

「矜持を失ったサイヤ人の己の末路など所詮こんなものか……。なぜフリーザの下でのうのうと笑っていられる?」

 

 名残惜しさもあり、思い入れもあるが、差し伸べてもその手を振り払う者を助けることはできない。

 ターレスは自分の未熟さと生まれの悪さを呪いながら、引き止めるトーマの静止を振り払い、哄笑で包まれた酒場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ターレスの自室。寝台で寝そべりながらターレスはある男の到着を待っていた。

 

「ターレス様、訃報ですぜ……。やはり、ベジータ王失踪の原因は『フリーザ』への反抗だそうです」

 

 急いだ様子で、部屋に入ってきたその男の名は――アモンドという。

 アモンドは三つ編みの頭髪をした巨漢で、ターレスがスカウトした異星人の中では屈指の戦闘力を誇っている。

 また、外見に似合わず情報処理を得意としているので部下としては非常に使い勝手が良かった。 

 

「よくやった。……お前を殺さずにスカウトした甲斐があったな」

 

「へへ……。この宇宙じゃ強い者に従う。それが掟ですから」

 

 アモンドは媚びるように頭を掻きむしると、へらへらとした笑みを浮かべた。

 

 サイヤ人であるターレスでは不都合が生じる諜報活動。そこで、異星人であるアモンドの出番である。彼は完全な異星人型でフリーザ側から全く警戒されない人材であった。

 そこに目を付けたターレスは打ち負かした異星人たちをスカウトし、自分の配下を作りあげると、フリーザに目をつけられないような異星人軍団を編成した。それはターレスをリーダーとした異星侵略部隊――クラッシャー軍団である。

 もちろん、指揮するのは名目上アモンドではあるが、背後で彼を動かすのはターレスであった。

 ――つまり、ターレスは影の頭領としてクラッシャー部隊を裏で率いているのだ。クウラやフリーザの目を誤魔化すために。

 

 そんな敵側の盲点をついた諜報活動は捗った。

 フリーザのサイヤ人へ対する粛清の計画は軍団員の諜報活動によって鮮明に輪郭を見せ始めると、ベジータ王の反乱が浮き彫りになった。

 そこでターレスは確信したのだ。―――フリーザは必ずサイヤ人を裏切ると。

 

「ですがターレス様。このままじゃ、サイヤ人の弾圧が始まります。それに惑星ベジータの視察と称して、フリーザは何を仕出かすか分かりません」

 

 胸糞悪くなるような情報にターレスは切歯する。

 

「本当にいいんですかい。サイヤ人として仲間を助けなくて。異星人の俺からのリークなら、他のサイヤ人はあっしの言うことを信じてくれるかもしれませんぜ」

 

「無理だな。コルド一族への叛意が知られれば、フリーザだけではなくクウラたちが直接出向く可能性がある。誰から情報が洩れるか分からん。迂闊な行動は絶対にとれないのが今の現状だ」

 

「確かに……そうですが」

 

「不満があるのか?」

 

「普段はサイヤ人のことを大切に想っているターレス様がサイヤ人を見捨てるなんてあまり考えたことがないもんで……」

 

 確かにアモンドのいうことは正しい。それをターレスも重々承知だ。

 このまま事態を放っておけば全てフリーザの思惑通りにことは進み、多くのサイヤ人が粛清されるだろう。

 だが、ターレスは自分の感情を一切消し去った、跡形もなく。

 

「……考えろ。この状況は詰み。今すぐコルド一族に対抗できる駒は俺の手中にない。このまま情に流されれば犬死にするだけだ」

 

 一番不味いのはサイヤ人の全滅だ。そうすればフリーザへ対抗する者は消え失せ、全てが台無しになる。

 サイヤ人の尊厳が失われ、猿という蔑称で宇宙の歴史に名を残すのは、ターレスにとって不本意なのだ。

 

「それにこれはお前のためでもある。お前はサイヤ人ではないし、表面上は俺の同僚扱いに過ぎん。よって、多少の行動は確かに疑われんが……繋がりを知られた場合、死ぬのはお前だぞ? 死にたくなければ俺の命令だけを聞いていろ」

 

「……は、はあ」

 

「なあに、甘い蜜だけは吸わしてやる。―――神精樹の実があれば、お前もすぐにギニュー特選隊程度、捻れるようになるさ」

 

「あっしが……あのエリート部隊を?」

 

「それだけじゃあない。俺はコルド一族を抹殺したのち、この全宇宙を掌握する。そのとき、お前にはいい椅子を用意してやる」

 

「その話、信じてますぜ」

 

「任せておけ。……この宇宙は必ず俺が手に入れるやるさ」

 

 寝台の上。不敵な笑みを浮かべながらターレスは起き上がると、アンダースーツの上にプロテクターをまとい、出発の準備をする。

 惑星ベジータを長期間離れるための任務を数か月前から予定していたターレス。彼はザーボンやドドリアの怒涛の反対を押し切って惑星攻略の任に就くことに成功していた。

 

 出来るだけ計画は用意周到に。それがターレスの生き方であり、用心深い処世術である。それが今や功をなし、堂々と惑星ベジータを出発することができる。

 

 ターレスは自室の中心に置いてあるテーブルからスカウターを手に取ると、期待に目を輝かせるアモンドを連れて、もう使うことのないであろう自室を出た。

 

 

 

 

 

 緑がかった青空が見える。雲と太陽があるこの美しい景色も今日で見納めかも知れない。ターレスはそう思いながら大空を見据えていた。

 

 ここはアタックボールの出艇港であった。港と言っても比較的簡易な構造をしており、落ちてきた衝撃でクレーターができないよう着艦マットのみが施設にある。この簡易で便利な出艇港とアタックボールは、間違いなくフリーザからの資金提供や施設贈呈の賜物であろう。

 だが、それもフリーザが抜き打ち視察に来るという三日後には全て失われる可能性は高い。

 

 フリーザの甘言と特権階級ぶりの優遇で満足し、背後からの一撃でこの宇宙から消えさるサイヤ人の末路。その見事なまでの道化姿を思い浮かべるターレスはどうしてもやりきれない思いがあった。

 

「ど、どうしたんですか……? タ、ターレス様」

 

 ターレスは怯えるアモンドの声に、はっとなった。いつの間にか地面が砕け、惑星べジータ中の大気がターレスの気迫だけで震えていた。

 鳥は怯えたように羽ばたき、森の木々たちはおののくかのごとく、その枝を激しく揺らし、世界が重苦しい地鳴りを轟かせている。

 ターレスが感情の昂りを抑えると、次第に地鳴りは終息していった。

 

 ターレスは名残惜しさよりも、憤怒を感じていた。戦闘民族であるサイヤ人がなぜ攻め滅ぼされなければならないのかと。

 コルド一族やサイヤ人に伝わる超サイヤ人が事の発端とアモンドは語っていたが、そんな馬鹿馬鹿しい伝説は、サイヤ人であるターレス自身も半信半疑だった。

 

 ターレスはアモンドと共に、クラッシャー軍団と合流すべく、遥か遠い惑星を目指してアタックボールに乗り込む。

 ターレスはほとぼりが冷めるまで遥か遠い星まで行こうというのだ。

 流石に行き来に数年かかる辺境の彼方まで行ってしまえば、フリーザの性格上ターレスを見逃すと踏んでのことであった。

 もしそれでもフリーザやクウラが追ってくるのならば、自分も死を迎えるだろうが、その時はその時だと、ターレスは割り切っていた。

 

(その時は……ただでは死なん。その時はこの神精樹の実を食って刺し違えてやる)

 

 ターレスは手ににある紅い果実を自分のアタックボールに放り込むと、自分もすぐに乗り込んだ。

 

 何光年も先の惑星へ向かうプログラムを打ち込むなか、ターレスはあの時のことを思い出す。あの酒場での嘲笑の渦。――それは彼にとって、今でも耐えがたい屈辱であった。

 

(馬鹿が……。なぜ、フリーザを信じて俺を信じない……)

 

 ターレスは悔やみつつも、己の生まれの悪さを呪った。もし、自分がエリート出身であれば、彼らを説得することは可能だったのかもしれないと。

 

 だが、それは今となっては夢物語だ。――下級戦士と馬鹿にして、仲間であるはずの自分の話を信じなかったようでは、こちらとしても手の施しようがなかったのだ。

 結論から言って、惑星ベジータに住むサイヤ人はもう終わりだ。今のサイヤ人は現状に甘んじ、己が狩られる側になり得るということを忘れてしまっている。不穏なフリーザの動向すら掴めずに大勢のサイヤ人が滅びゆくのだとしたら、それは間違いなく運命なのだろう。

 

(だが、俺だけは他のサイヤ人とは違う)

 

 ターレスはそう自分に言い聞かせると、コールドスリープ装置のパネルに手をやる。

 

(待っていろ、フリーザ。コルド一族で最初に死ぬのはお前だ)

 

 そして三日後。今はコールドスリープで眠るターレスの予想通り、惑星ベジータへのフリーザ侵攻は現実のものとなった。

 

 




 間違っていたり、おかしな部分あったら報告お願いします。(誤字・脱字・矛盾点など)

 惑星ベジータ王の反乱とバーダックの反逆の時系列は自分のオリジナルとなっております。これは原作に明記されていないからで、あくまで自分の想像です。

また、ベジータ王が返り討ちになったことは秘密裏に処理されたと私は考えています。でなければ気性の荒いサイヤ人が、フリーザへ反抗心を抱いていないはずがないからです。※スペシャル版で酒場にいたサイヤ人の発言から推測。

 ――特殊な例としてベジータはベジータ王が返り討ちにあったことを知っていたのでしょう。なぜなら、惑星ベジータが消滅したとき、彼は全く驚いていなかったからです。

 過去の話は知っているつもりですが……ほとんどが自分の解釈だけになってしまう傾向にあります。もし誰か公式情報を知っている人がいたら教えてくれれば幸いです。

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