ARIA The SUBMARINER   作:ルナ中尉

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第1話 〜その、偶然の予約は〜

「なるほど、休暇を取れ、か。長官も困った事を仰る。ただでさえ人手が足りないというのに。」

 

「は。申し訳ありません。しかし長官直々の命令ですので、背く訳にも…。」

 

「分かってるよ。冗談だゆっくりと休んでこい。どうせ蒼龍は修理の為にドック入り、内部も補修しなければいけないからな。」

 

基地司令長官と話をした後、火星は自分の属する第1潜水艦隊群の直属の上官、山口政宗司令官に面会していた。

優しく言葉を発しながらも、何処か氷のような冷たさを感じささる容姿。

齢30にして階級は大佐。海軍士官学校を首席で卒業し前線で実戦を積んだ後、若くして国防省の幹部として抜擢され今は潜水艦隊の司令官という異例の経歴を持つ男である。

 

火星は、このエリート街道を突っ走ってきた海軍一筋の男にある種の憧れの感情を抱いていた。周りの人間を無意識に威嚇するこの氷の様な雰囲気も、軍人として本当は火星も身につけたいと思っているものであった。

 

「で、どれ程の間休暇を頂くことになった?長官から直々に頂けるのだろう。出来るだけ多く頂いたんだろうな?」

 

ニヤッと口角をあげそう言った山口は、ポケットからタバコを出すと、口にくわえ火をつけ一服----

 

煙の臭いが、部屋に充満する。

 

「は。それが…。2ヶ月ほど、ゆっくりしてこいとのことで…。」

 

その発言に山口はブホッ!とタバコを吐き出した。カーペットの上をタバコが転がる。ハッキリ言って危ない。

 

火星は今までしっかりとした休暇を取った事がない。他の皆が休暇を取っている間も、基地に残り1人仕事をするような人間だった。

 

「2ヶ月!?長期休暇にしても長過ぎるだろ!?………なるほど。今まで貴様が取ってこなかった休暇を一度に全て取らせるつもりか。2ヶ月もいないとなるともはやこっちにとっては除隊レベルだが……。まぁ、仕方がない。ドック入りの後蒼龍には潜水艦艦長経験者から艦長代理を立てる。本当は許されん事だがな。特例中の特例だ。長官の御命令ならな…。貴様、しっかりバーチャルシステム使って訓練だけはしておけよ。」

 

「………存外、すんなりと認めて下さるのですね。」

 

「当たり前だ!基地長官が下した命令に、意見なんざできるか!………それに、長官は本当に貴様の事を心配なさっているからそれだけの休暇を与えたのだ。貴様、本当に思いつめた面をしていたからな。その休暇は本当は直属の上官である俺が与えるべきなのだろうが、それ程の休暇を与える権限は俺には無かった。俺も責任を感じてるんだ。だから少しホッとしてるんだよ。お前に休ませる事が出来るようになってな。…気に病むな。ゆっくりしてこい。」

 

山口は、一瞬氷のような雰囲気を溶かしたかと思うと、普段より優しい口調で火星にそう語りながら、新しいタバコに火をつけた。ああ、本当にいい上官に恵まれたのだな、俺は----

火星は込み上げてくる感情をグッと抑えながら深々と一礼し、司令官室を去った。

 

 

 

 

火星が山口の部屋を去った後、山口は先ほどまで火星に見せていた優しさを含んだ表情を消し、外の景色を睨むように眺めていた。

 

「長官直々に、2ヶ月の休暇命令…。いくらあいつが今までまとまった休暇を取った事が無かったとしても、一度に取らす休暇にしては余りにも長過ぎる……。」

 

月に照らされ妖しく光る海面を睨みながら、山口はある確信を抱こうとしていた。

 

「長官の意図には、何か裏がある。」

 

誰もいない閑散とした部屋で、山口は微かに抱いた確信を呟いたのであった。

 

 

 

「はぁ…疲れた…。」

 

そう漏らすのは他でもない、天城火星だ。火星は山口の部屋を後にしてから4本目となる煙草に火をつけ、1人そうボヤいていたのであった。

 

「長官と司令官、連続で面会…2時間も経ってんじゃねぇか…気が狂いそうになるっつーの…。」

 

火星は極度のヘビースモーカーだ。山口も煙草を嗜みはするが、火星程ではない。火星は1日に2箱近く吸う。煙草を吸う時だけが、火星にとっての何よりのリラックスタイムなのであった。

 

「お疲れ様です。艦長。聞きましたよ。2ヶ月も休暇を頂けるの事になったとか。」

 

ボヤく火星に後ろから声をかけたのは、潜水艦蒼龍副長にして火星の一つ後輩の真田純一である。真田は風呂上がりなのか、タオルを首から下げていた。軍装も解いている。

 

「純一…。まぁな。貴様は風呂上がりか?良かったら外で一杯、どうだ。」

 

「ご一緒したいところですが、ダメです。飲むなら後で部屋で飲みましょう。艦長は明日からアクア行きでしょう?準備も沢山あるではないですか。」

 

「相変わらずつれんな…貴様は…。」

 

「ダメです。明日になってバタバタする事のないように、しっかりと準備をしてから飲んで下さい!!そうしたら付き合いますから。」

 

純一はメガネをクイっと上げながら厳しい口調でそう言った。その仕草は野郎がやっても全然可愛くない。女がやるから可愛いんだよ。

 

「あーわかったわかっためんどくさい。後で呼ぶから必ず来いよ。」

 

「分かりました。約束です。…ところで艦長。アクアのネオ・ベネツィアに行かれるんですよね?街の案内をどの《水先案内人》(ウンディーネ)に頼むか、もう決められましたか?」

 

「ウンディーネ?」

 

「ご存知ではない?ネオ・ベネツィアのアイドル業とも言われるウンディーネ。観光業のトップですよ。折角ネオ・ベネツィアに行くのに、案内してもらわないと損ですよ。」

 

「噂には聞いたことがある…まぁ、美人に街案内されるなら万々歳だ。そうさせてもらおうか。」

 

火星は吸っていた煙草を灰皿にねじ込み、そう言い残してその場を去っていった。残った濃い煙が純一の鼻に入り、純一は顔をしかめる。純一自身、喫煙者ではないため、この臭いはどうしても苦手だ。

 

「適当にやって、予約するの忘れちゃダメですよーーー!!!」

 

去り際の火星にそう告げ、純一もその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

「えーーと。服は入れた。財布も入れた。通信機器類も入れた、と。」

 

火星はアクアに行くための準備の最終チェックをしていた。さすがに2ヶ月間宿泊するともなると、荷物もそれなりの量になる。

 

「服、結構持って行っとかないとな。あっちには四季があるんだもんな。体調崩しそうだ。」

 

地球は、完全に気候が自動調整されているため、年中住みやすい気温だ。そのため服も厚着薄着をする必要がないのだが…。

アクアは逆に自動調整はされておらず、従って四季がある。それが観光の売りにもなっている。しかしあまりに地球の環境に慣れた人間が行くと、体調を崩す事も起きてくるだろう。服は多めに持って行って損は無かった。

 

「軍服は……。いらねぇか。着る機会なんてないし。…反感買うのもゴメンだし。」

 

第3次世界大戦の結果、惑星間にパシフィズム条約が制定され、地球-火星間の検問を最大限に厳しくする代わりに、AQUAに軍隊を置かない事になっている。戦を無くすことを目的としている星だけに、軍を嫌う人間は多い。従って、地球の軍人が軍服を着てAQUAの街を歩くと、どれほどの反感を買うかわからない。本当の意味で平和な場所へ、わざわざ軍服など着ていく必要性などないのだ。

 

「さて、準備は大体できたか…。後は、なんだっけ。アレだ。ウンディーネ。ウンディーネの予約。ウンディーネの予約だけしとかないとだな。」

 

宿の予約は先ほど済ましていたが、ウンディーネの予約を未だ済ませていなかった火星は、パソコンへと向かう。

 

「えーっとウンディーネ、ウンディーネ…。へぇ、色々な会社があるんだなぁ。水の三大妖精?俺らで言う英雄みたいなものか…こんなのもあるんだな…。ほー。確かに3人ともべっぴんさんだ。」

 

ブツブツと独り言を呟きながらパソコンを弄る間も、煙草を吸うのを忘れない。

 

「姫屋とおれんじぷらねっととか言うところは明日ほとんど埋まってるしなぁ。折角ならその三大妖精に案内してもらいたいものだが…ん?」

 

火星は、他のページで見ていた会社の予約ページに変化が訪れた事を見落とさなかった。

 

「ARIAカンパニー…お、明日キャンセル出てんじゃねぇか!アリシア・フローレンス…三大妖精の1人だよな…よっしゃ。ここにすっかな。キャンセル見つけたのも何かの縁だし。」

 

火星は煙草を灰皿でもみ消すと同時にARIAカンパニーに予約を入れてパソコンを消した。

 

「さーて寝よ寝よ。明日は5時起きだし…おやすみっと。」

 

そう呟きベットにダイブする火星。《デスオーダー》に汚されていない海。子供の頃、何処よりも憧れてた、星、AQUA。夢の中に落ちていきながら、未だ見ぬAQUAの地に火星は思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、絶対僕との約束、忘れてますよね…。」

 

 

 

 

 

 




山口政宗 やまぐち まさむね

肩書 硫黄島基地第一潜水艦隊司令
年齢 30
好物 タバコ 
苦手 虫
趣味 部下いじり


日本国国防海軍

基地は本土に4ヶ所
硫黄島に1ヶ所
特に硫黄島は敵に対する最前線であり、防衛線。
その為、特に優秀な人材が配置されている。
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