――世界の端に行ってみたい
東深見高校一年生の宇佐見菫子はいつしかそう思うようになっていた。
しかし、世界に端などあるはずがない。地球は丸いのだからと、誰もが知っている通説だ。中世の世でもなければ、世界に端があると思う人間などいない。
宇佐見菫子は成績優秀な優等生。当然、この世界をどれだけ歩こうと端が来ないことを知らないはずがない。一体なぜ彼女はそのような願いを持つようになったのだろうか。
・・・でね〜、あの先生がさ〜
うわチョーウケるんだけど〜。それで・・・
「・・・はぁ」
左手で頬杖を付きながら紫色の同じ制服を着た同級生の会話を聞いてため息をつくのは、眼鏡をかけた茶髪でおさげの女子高生。彼女が宇佐見菫子である。
――よくもまあこんな低俗な話題で楽しそうにできるものね
他人よりも秀でている(もしくはそう思い込んでいる)人物が他者と群れたがらない、とくに15歳の多感な時期では「自分はあいつとは違う」などと思うことはよくある話であろう。宇佐見菫子は学年の中でもかなり優秀な生徒。そう思っていても不思議ではない。
しかし、彼女の場合は成績が優秀な生徒というだけではないのだ。
――私はアイツラとは絶対にわかりあえない
宇佐見菫子はそう思いながら右手でペンをいじる。するとどうだろうか、
スウッ
彼女のペンは手のひらより少し上、空気抵抗以外の物理干渉を受けずに宙を回っている。
宇佐見菫子のサイコキネシスである。
――ああ、つまらない。学校なんて
彼女は超能力者なのだ。他人には一切知られていないが、サイコキネシスと短距離のテレポーテーションが使えてしまうのだ。
頭脳明晰に加えて超能力という要素が彼女自身に「他とは違う」という意識を更に強めていたのである。
――私が私で居られる場所はここではない。たとえば世界の果てとか。地球は丸いし、そんなところあるわけないけれど
「はぁ・・・」
またため息が出る。そう、彼女は自分とは劣っている(と思っている)人間と過ごさざるを得ない、この世の中に飽き飽きとしていたのだ。だから、世界の端に行きたいだとか、今いる場所とは違うところに行きたいと考えるようになっていたのだ。
・・・でさー、明日からどうする?
・・・ズニー行こうよ!みんなでさ!
――・・・明日からゴールデンウィーク。私はお母さんの実家に行くんだ
しかし、そんな世界で彼女にも楽しみがあった。
――今年のゴールデンウィークは年に1回あるかないかの親戚が集まる日になった。ということはあの人もいる
宇佐見菫子の楽しみ。それは、たまに親戚一家が集まる時のこと。
――小泉縁(ゆかり)さん。またあの人の話が聞ける
ニヤリと彼女の口がゆるむ。帰化外国人の親戚、小泉縁。小泉は母親の旧姓でもある。宇佐見菫子の楽しみとは彼女の話を聞くことだった。
ネットで調べても見つからない不思議な親戚の話。なぜかは分からないが、幼少の頃から宇佐見菫子の心を鷲掴みにしていた。世界の端などという発想も、親戚の話による影響が色濃く出ているのだ。
「・・・ふふ」
自然と笑みが溢れるほど楽しみにしている宇佐見菫子。その後ろから声が聞こえる。
「宇佐見さんもどう?一緒に行かない?」
同級生の女子。同じ東深見高校の高校一年生の生徒からのお誘いが入る。
しかし、宇佐見菫子の頭には、親戚の話のことしかない。当然、この話には興味を持たない。
「ごめんなさい。私、ゴールデンウィークは用事があって」
間髪入れずに予定がある、忙しいと同級生の話を受け流す。
「あらそう、残念・・・じゃ、また今度誘うわね」
「・・・・・」
――遊園地なんて、子供の行く場所だわ。それよりも、縁さんの話の方が数段面白い。今回は一体どんな話を聞かせてくれるのかしら
同級生の誘いなどどうだっていいと、彼女は明日に思いをふける。
その日が望んでいた変化の一日になるとは、彼女は思いもしなかった。
現在別で書いている書き物の息抜きに書いているものです。
投稿ペースはマイペースに行こうと思っています。