「ほんとにあった・・・」
日もくれかかった頃に自宅に到着した宇佐見菫子は、自分の部屋に入るなり困惑する。母の実家に行く直前、それは確かに存在しなかった。
ベッドに置かれた大きめのプレゼントボックス。宇佐見菫子が慕う、行方不明になった親戚の小泉縁が残した手紙に書かれていた通りになっている。
――縁さんは私がここを出る以前に手紙を書いた。私が出てから部屋にこのプレゼントを置いて、驚かせるつもりで・・・?
しかし、自宅の戸締まりは両親がしっかりとしていた。小泉縁はもちろん親戚である宇佐見家の合鍵など持っているはずもない。
――・・・謎が深まるわね。というか、よくよく考えて見れば、縁さんって一体何者なのかしら?
宇佐見菫子は気づく。小泉縁とは小さい頃から仲の良い関係であったが、不思議な話をしてくれるということだけで、日本での名前と外国人ということ以外何も知らない。
――と、とにかく!縁さんの手がかりはこれしかない・・・開けよう
宇佐見菫子はプレゼントに手を伸ばす。
ビリビリビリ
少し乱暴に包装紙を破いていく。すると、何の変哲もない大きめの白い厚紙の箱が姿を現す。
――この中に何が・・・
唾を飲み込む。宇佐見菫子はとんでもないものが入っているのではないかと内心少し怯えながら箱を開ける。
「・・・帽子?」
はじめに目に飛び込んできたのは、白いリボンが巻かれた黒いハット。新品ではないようだが、手入れは行き届いている。
――かぶれってこと?
宇佐見菫子はなぜここでこの帽子が入っているのかを疑問に思う。本当にただのプレゼントなのだろうか。
「・・・ん?」
考えにふけって帽子を見つめていると、帽子の影からはみ出している厚紙の箱の隅にある紙切れに目が行く。
宇佐見菫子はすぐさま帽子を取り出してベッドに置き、その紙切れを取り出す。
――手紙だ
文の最後に見えるリボンのマーク。祖父母の家でもらった小泉縁からの手紙と同様のマーク。間違いなく彼女からの手紙。
宇佐見菫子はその手紙を脇目もふらずに読み始める。
【 すみちゃんへ
この手紙を読んでいるということは、すみちゃんはうちに帰ってプレゼントを開けているのでしょうね。
あなたにふさわしい、そして、あなたの役に立ちそうな物をいくつか入れておいたわ。】
「ええと、まずは・・・」
プレゼントの内容を説明する文章を、宇佐見菫子は箱の中身を確認しながら読む。
【まずは帽子。最初に目が入ってきたはずの黒い帽子。この帽子は私からすみちゃんに一番渡さないといけないと思ったもの。
この帽子は私の最も大切にしているもの。けれど、あなたにとっての方がすごく大事なもの。私がここを立ち去る今、今こそあなたに渡す時。
どんな時も肌身離さずその帽子を身に着けなさい。とにかく大事に、無くさないようにね。その帽子はあなたの事をいつも見守っているわ。】
――帽子が大事な物?それも縁さんだけではなく、私にとっても?そんなものをどうして・・・
小泉縁の手紙に書かれる理解しがたき帽子の説明。一体このハットにどういう意味が込められているというのだろうかと宇佐見菫子は頭を抱えるが、答えは出ない。
――つ、次よ
今は考えることを諦め、次のプレゼントに手を伸ばす。
「次は・・・これね」
梱包されたなにか柔らかいもの。どうやら衣類のようだ。
【次はプレゼント用に包装した小包。これは私からの純粋なプレゼント。すみちゃんが好きそうなものを仕立ててみたわ。】
――なんだろう・・・衣類みたいだけれど
恐る恐る梱包を開いていく宇佐見菫子。
「こ、これは・・・!」
【その中身はマント。オカルトが大好きなすみちゃんに、怪人赤マントをイメージしたマントをあしらってみたわ。】
「これはなかなか・・・いいものね!」
さっきまで恐れをなしていた気持ちが少し晴れる。慕っている人からのプレゼントでありながら自分が気に入る物であったためである。女子高生にもなったのに、THE・怪人ファッションとでも言うのか、宇佐見菫子はマントが好きなのである。
「ルーン文字の意匠もすごく凝ってるわ~」
オカルトといえば、といったルーン文字がマントの赤い内側にびっしりと入っていることにも感心する。
【普段着はできないけれど、何かあった時にくらいは着れるんじゃあないかしら。気に入ってくれるといいのだけれど。】
――気に入るも何も、ストライク一直線ね!この帽子とマントを合わせたらなんか・・・オカルトマジシャンって感じだわ。すごくいい響き
気を良くした宇佐見菫子は、そのまま3つ目のプレゼントを手に取る。
「USBメモリ・・・ええと、これは?」
3つ目はUSBメモリ。どこにでもあるような型の物である。
――中になにか入っているのかな・・・
【3つ目はUSBメモリーの中身。見たらどういうものかはわかると思う。今はいらなくても、いつか必要になる時が来るかもしれないわ。大事にしなさいね。】
――うーん、中身は直接見ないとわからないか。これは後にしよう。
宇佐見菫子はUSBメモリーを学習机の引き出しに片付け、後に回す。
「・・・問題は最後ね」
そして、最後のプレゼント。このプレゼントに手がかりがなければ、行方不明の小泉縁を発見することは絶望的であろう。
後がないという緊張感。焦りの中、菫子は最後のプレゼントである蝶の模様があしらわれた、高級感のある黒い漆塗りの小箱を厚紙箱から取り出す。
――・・・開ける前に、手紙を読みきってしまおう
すんでのところで怖気づいたのか、菫子は漆の小箱を開ける前に手紙をの最後を読み始める。
【最後のプレゼント。開けたらわかる、とだけ言っておきましょう。オカルト好きのすみちゃんなら、小箱の中身を見た瞬間にわかるはずよ。
・・・でも可哀想だから一つだけヒント。中身はとても貴重なもの。高山の崖に一輪だけ咲く貴重な花よりも遥かに、ね。
私がすみちゃんに送るプレゼントはこの4つ。全てあなたにはなくてはならなくなるものだと思うわ。気に入ってくれたなら、いや、気に入らなくともその4つは大事にしなさい。あなたの運命を決めるものよ。
さて、私はそろそろ行くわね。もしまた会えたら、その時はとびきりのお土産を用意して待っているわ。それじゃあ
「ごきげんよう。また会う日まで。」
小泉縁】
「・・・え!?」
宇佐見菫子は振り向く。幻聴なのか、後ろから小泉縁に別れの言葉を囁かれたような感覚がしたのだ。
「な、何もない・・・」
しかし、部屋はいつも通り。どこにも何も変化はない。
――な、なんなのよ・・・
オカルトが好きな彼女であるが、少し怯えてしまう。強がってはいるが、根に少し怖がりな性格があるのである。
とはいえ、怖いもの見たさの好奇心のほうが強いせいで、恐怖心はすぐに隠れてしまうのだが。
――・・・ううん、ダメよ私。ビビっていてはオカルト好きがすたるわ!
半ば勢いに任せて宇佐見菫子は小箱を開ける。すると、中に入っていたのは、
「・・・これは・・・いったい」
小箱の中に入っていたのは紫色をしたガラス質の欠片。この欠片の正体を宇佐見菫子は知っている。
「パワーストーン・・・だけど」
その欠片の正体はパワーストーン。世界各地に点在するオカルトスポットに存在する、魅知のパワーが秘められているというオカルトアイテムの1つ。宇佐見菫子はその幾つかを、超能力を駆使して現地で採取に成功、保管している。
しかし、宇佐見菫子は戸惑う。初見でもないはずのパワーストーンに驚きを隠せないでいる。
「このパワーストーン・・・いったいどこの物なの・・・?」
パワーストーンの採取地。それがわからないのだ。
さらに、超能力者ゆえの感知能力なのか、はたまたオカルトマニアとしての勘の良さとでも言うのか、今までのパワーストーンにはない不思議な感覚を宇佐見菫子は感じている。
――もしかして、ものすごくヤバイもの?だとしたら、縁さんって一体何者なの・・・?
改めて、小泉縁という人物についての謎が宇佐見菫子に重くのしかかる。知っていると思っていた仲の良い親戚の大きな謎。そして、その正体に感じる正体不明の不気味さ。
――・・・面白いわ。すごく面白い!
だが、宇佐見菫子は悩まない。花も恥じらう女子高生1年目という若さゆえの勢いと、情報化社会による知識の増大による全能感に、超能力者であるこのによる慢心とも取れる自信、そしてオカルトマニアとしての探究心。あらゆる要素が宇佐見菫子にかかる重みを払いのけ、自信に変えていく。
「その『秘封』、暴いてみせるわ!必ず見つけ出してみせるわよ、縁さん!」
宇佐見菫子は手を伸ばす。探究心に身を任せ、魅知なる『秘封』に恐れをなす事無く手を触れる。まるで、自らの運命を切り開くように。
そして、時の流れは狂いだす。
カッ
「きゃあっ!?」
宇佐見菫子が謎のパワーストーンに手を触れると、閃光が走り視界が奪われる。
・・・これで『秘封倶楽部』への道は無事に開かれた。後は時が経つのを待つだけ。
ええ、そうね。倶楽部活動はいつまでも続く。彼女が世界の『深秘』を探求する限り・・・
――誰の声!?なんなの、これは!?まぶしい!!
閃光の中、宇佐見菫子は誰かの声を聞く。まばゆい光の中、声も出せずに身動きも取れない。
――なんなのよぉーっ!?
「・・・へ?」
宇佐見菫子は困惑する。目の前に広がる景色、ぺたりと座り込んだ地面の感触、どれを取っても先ほどまで居た部屋の景色ではないのは確かである。
机もない、ベッドもない、さっきのプレゼントも無い・・・手にあるパワーストーンの欠片を除いて。
・・・ようこそ、『幻想郷』へ。ここはすべてを受け入れますわ。
秘封倶楽部の妄想はいくらやっても飽きない。