「・・・へ?」
閃光に包まれ奪われていた視界が晴れる。謎のパワーストーンに触れる前、宇佐見菫子は自宅の自分の部屋にいた。
しかし、今彼女の目の前に広がるのは見慣れた部屋の光景ではなく、全く見慣れない外界の光景。星空が映える満天の夜空、靴下越しに湿り気が感じられる土の地面、鬱蒼と生い茂る草木。都会ぐらしの宇佐見菫子にとって馴染みのないもの。
「な、な、何が起こったの・・・」
状況を把握しようと宇佐見菫子はあたりを見渡すが、あまりの周りの変貌ぶりにその試みは意味を成さない。困惑が激しく、即座に状況を整理する事ができない。
「神社?結構立派だけど・・・」
立ち上がり、後ろを振り向くと大きめの神社が視界に入る。神社といえばパワースポットの1つである。
「パワーストーンがこの神社に私を連れてきたってこと?なんなのよ、もう・・・」
わかったのは、閃光を発しこの状況を作り上げたであろう原因が、手に持つ謎のパワーストーンによるものであろうと言うことだけ。
「とにかく、まずはこの神社を・・・」
ピキッ
「・・・あら?」
右も左も分からないからと神社を調べるために歩みを進めようとしたときである。パワーストーンにヒビが入る。
「ちょちょちょっと!?割れちゃって帰れないとかシャレにならないわよ!!」
ピシピシ
「あああ、待って、どうしたら良いの!?」
宇佐見菫子は頭を抱えてワタワタするが、そんなことはお構いなしとパワーストーンの亀裂は大きくなっていく。
パキン
そして、パワーストーンは完全に割れ、
カッ
「きゃあっ!?」
最初に触れた時と同じように閃光を発する。宇佐見菫子は光りに包まれる。
「・・・も、戻った?」
光が消え、今度は自分の部屋に戻される。
「そうだわ!パワーストーンは・・・う」
宇佐見菫子は手に持つ小箱を見る。パワーストーンはまるで力を失ったかのように粉々になっていた。
「ああ~・・・壊れちゃった・・・」
手がかりを1つ失ってしまったと、宇佐見菫子は肩を落とす。
「けど、あれは一体・・・」
しかし、落ち込んでばかりも居られない。彼女の目の前で起こった常識では到底考えられない現象。今いる場所とは全く別の場所へと転移させられ、そして戻された。
――・・・汚れた靴下を見たらわかる。あれは夢じゃない
宇佐見菫子は靴下を脱いで確認する。靴下は土で汚れている。彼女が見た怪奇現象は幻覚でも夢でもなく現実であることを物語るかのように。
――・・・それを私に伝えて、縁さんは一体何が目的だって言うの?
『幻想郷』。宇佐見菫子は小泉縁の手紙に書いてあったオカルト話の舞台の名前を思い浮かべる。手紙の内容、パワーストーンが起こした怪奇現象、そして見たこともない神社。一体、小泉縁は彼女に何の意図があり、何を伝えようとしているのか。宇佐見菫子にはわからない。
――でも・・・すごく面白いわ。まさか、オカルトそのものに触れることができるなんて・・・!
しかし、小泉縁の意図は今の宇佐見菫子にとっては最優先事項ではなくなっていた。オカルトが大好きな彼女は、現実とは離れた未知の場所『幻想郷』。そこへの気持ちでいっぱいになっていた。
――縁さんはきっと『幻想郷』にいる。用事っていうのは『幻想郷』でやらなきゃいけないことなんだわ。もし居なくとも、縁さんが今まで話してくれた話が本当なら・・・そこはまさに世界の端。退屈な現実から遠く離れた世界
「・・・きっと、そこは『秘封(ひみつ)』にあふれている。考えなきゃ・・・」
宇佐見菫子はそうつぶやくと、ベッドの上においてある帽子とマントを身につけ、部屋に置かれた鏡の前に立つ。そして、じんまりと自分を見つめる。
「私は好きだけど・・・似合ってるのかしら、これ?けれど・・・いいことを思いついた」
宇佐見菫子はにやりと笑みを浮かべる。一体何を思いついたというのだろうか。
――まずは露払い。しつこい奴らを引き剥がして、『秘封』暴きに集中しよう・・・
・・・ズニー、楽しかったね~
あ、おはよ~。うん!またみんなで行こ・・・
ゴールデンウィークが明ける。高校に入って最初の長期の連休で深めた親睦をお互いに確認しあうかのように、生徒たちは会話をはずませる・・・一部を除いて。
――相変わらず、低俗な奴らね。群れたがる弱い人種だわ
宇佐見菫子は窓側の自分の席で、外の景色をぼんやりと眺めながら心のなかで愚痴を吐く。いつも通りの朝。
小泉縁は結局このゴールデンウィーク中には見つからなかったが、宇佐見菫子はそれについてよりも今日やろうとしていることのほうが大事だった。
「宇佐見さん、おはよう!」
「・・・・・・」
一人の女子生徒が宇佐見菫子に話をかける。これもいつも通り。
宇佐見菫子は入学当初から他人を引き離すかのような態度を取り、他人との関係を避けてきたわけだが、中にはこういう物好きもいる。自分は他人とは違うと思っている菫子にとって、こういった存在は喜ばしくないものであった。
――中学の時からそうだけど、なんでこうも絡みたがるのかしら。私はあなたなんかと絡みたくないっていうのに
馴れ馴れしいのはうんざりだと、宇佐見菫子はいつもだんまりを決め込む。だが、
――そろそろ、私があなた達と絡むつもりはないって分かってもらわないとね
今日は違う。
「その机の横にかかってる帽子どうしたの?買ったの?」
「・・・永野みゆきさん、だっけ?」
帽子のことを聞いてくる女子生徒の名前を
「え!私の名前覚えててくれたのね!嬉しい!」
――そりゃなんども話しかけられたら嫌でも覚えるわよ
名前を呼んでもらえて喜ぶ女子生徒を見、心のなかで悪態をつく。宇佐見菫子は話を続ける。
「あなた、友達多いわよね?よく他の人と話してるみたいだし」
「う~ん、まあ、そうかな?話は結構するほうかも」
「そんなあなたにお願いがあるの」
「え!?宇佐見さんが私にお願い!?」
普段の宇佐見菫子からは考えられない言葉。女子生徒は驚きを隠せない。
――あなたは話をしたくて私に話しかけていたんじゃないの。なんでそんなに驚くのか
「それでそれで?どんなお願いなの?」
「人を集めてほしいの。学校に一つだけ使われてない教室があったでしょう?放課後にあなたの友人を連れてそこに来て欲しい」
宇佐見菫子は女子生徒に人集めを依頼する。その依頼に女子生徒は不思議に思う。
「え、なんで?」
「来てみればわかるわ」
説明するのは面倒くさい、というか必要ない、と宇佐見菫子は説明は省く。
「わかった!それじゃ放課後までにいっぱい人を集めておくわ!」
そんな曖昧な説明ながらも、女子生徒は快諾。その場を去って早速と人を集めに行く。
「お願いね~・・・ふう」
――これで下準備は整った。厄介者を振り払うまで後もう少しね
宇佐見菫子は再び窓の外を眺める。気持ちいいくらいの快晴。だが、宇佐見菫子はそんな空よりも、『世界の端』への思いをつのらせていた。
・・・そして、退屈な時間が過ぎ去り、放課後になる。
「は~結局3人しか集まらなかったな~・・・」
宇佐見菫子に話しかけていた女子生徒が、他の女子生徒を3人連れて人の寄り付かない廊下を進む。
「ね~みゆき~、宇佐見さんってあれよね?愛想の悪いあの眼鏡の。いったいなんであいつがあなたに人集めを頼んだの?」
「わからないけど、なんか来たらわかるって~」
「ふ~ん。しかし、あんたも物好きよね~。あいつと喋ってて面白い?」
「だって、宇佐見さんかっこいいじゃない。こう、ミステリアスな感じとか、頭いいところとか」
宇佐見菫子の周囲からの評判はよろしくない。最も、本人は気にしていないが。
「まあ、それはわかるんだけどさ・・・っと、あそこじゃない?」
そんな話をしていると、4人の女子生徒は宇佐見菫子が指定した使われていない教室にたどり着く。
「・・・?『秘封倶楽部』?」
そしてまず最初に目が入るのは、裏にマジックで『秘封倶楽部』とでかでかと書かれたプリント。セロハンテープで教室の扉に安っぽく貼られている。
ガララ
「あ、宇佐見さ・・・ん?」
扉が開く。マントと帽子を身につけた宇佐見菫子が姿を現す。
「その格好、どうしたの?」
「マントって・・・」
その奇抜な格好は4人の女子生徒たちを困惑させる。
「・・・ようこそ、永野みゆきさんとそのご友人方。秘密探求サークル『秘封倶楽部』へ」
「へ?」
宇佐見菫子のかしこまった挨拶、そして彼女の口から発せられた『秘封倶楽部』という謎のサークル名。4人は面を喰らう。
「私のサークルよ。『秘封倶楽部』。世の秘密を暴く活動をする・・・言ってしまえばオカルトサークルね」
「さ、サークルって、そんなの聞いたことな・・・」
「非公認だもの。それに今日立ち上げたから。だから、あなた達を勧誘しようと思って今日は呼び出したの」
「そ、そうなのね」
宇佐見菫子は淡々とした口調で、学校非公認サークル『秘封倶楽部』の事を話す。その雰囲気に女子生徒4人は少し押され気味になる。
「ここじゃなんだから入ってちょうだい。『秘封倶楽部』の活動について、詳しく説明させてもらうわ」
「う、うん・・・」
・・・みゆき、これ、大丈夫なの?
・・・わ、わかんない。けど、私が受けちゃったから話し聞くくらいはしないと
・・・あんた、友達は選びなさいよ
――・・・ふん、勝手に言ってなさい
宇佐見菫子にはひそひそ話はバッチリ聞こえている。だが、聞こえないふりをしてそのまま4人を教室の中にいれる。それもそのはず、彼女が『秘封倶楽部』を立ち上げたのは仲間と一緒にオカルト研究がしたいからではないからだ。
『秘封倶楽部』についての説明が終わり、うんざりした顔で4人の女子生徒が教室から出てくる。
「それじゃ、他の人達にも『秘封倶楽部』のこと広めといてちょうだいね」
「・・・うん。それじゃ、さようなら」
・・・みゆき、明日からアイツと関わるのやめたほうが良いわ。ヤバイわよ
・・・宇佐見さんって変わってる人だと思ってたけど・・・ちょっと、ついていけないね
「・・・・・・」
4人は宇佐見菫子という人間が受け入れられないと、ヒソヒソと話をしながら帰路につく。宇佐見菫子にもその会話は聞こえていた。
「フフン、これでよし」
これこそが宇佐見菫子の思惑であった。
――これで私と『秘封倶楽部』の噂が広がる。オカルトなんて今時はやらないわ。オカルトサークルとそれを立ち上げた私、あれだけ強烈に印象を与えておけば私に寄り付く奴なんていなくなるはず
他人が引くほどの本格的なオカルトサークルを立ち上げ、人を寄り付かせなくするという彼女の目論見は大成功。科学が広まった現代に一昔も二昔も前にブームが過ぎ去ったオカルトに、そしてそれに熱狂的になる彼女に食いつく人間は居ないだろう。
――あんなのに寄り付かれて私の時間が奪われるなんてまっぴらごめん。私はあいつらとは違うんだからね
友達なんて無用の長物でしか無いと、とことんまで彼女は他人と関わることを嫌う。彼女は気づいていないが、小泉縁が行方不明という報せを聞いてからその気持ちはより一層強くなっているようだ。
――さて、せっかく『部室』を用意したんだし、ここはしっかりと活用させてもらおうかな。空いているのに使わないなんてもったいないわ。
思惑通りに行ったと満足した宇佐見菫子はマントを翻し、サークルの『部室』に戻る。非公認サークルの無許可の部室だがそんなことは彼女には関係がない。
――全ては私の大いなる目的のため。世界の端『幻想郷』。その入口を探すために『秘封倶楽部(ひみつをあばくもの)』の活動拠点にさせてもらうわ!
宇佐見菫子は夢を追う。誰も知らない最果ての地『幻想郷』。あこがれの場所への通行券を求めて今日から秘密の倶楽部活動を始めるのだ。
誰も知らないものを求めて、誰も知らないところで、誰も知らない秘密を暴く。それはすなわち、禁忌に触れること。
『秘封倶楽部』は宇佐見菫子を飲み込んでいく。甘く恐ろしい魅知の世界へと続く谷に囲まれた狭き道。下手をすれば落ちてしまう険しき未来を彼女はどう歩んでいくのであろうか。それは誰にもわからない。
そして、世界の『境界』は暴かれる。
サークル【リレバ】の「ななめまえの偶像(アイドル)」って同人誌に影響を受けているかもです。