あと、今回特にグダグダやもしれません。
初夏の頃、宇佐見菫子はパンダカーのあるデパートの屋上にいる。パンダの黒の部分が周りの闇に溶け込んでいて不気味である。時刻は夜深い。
ゴールデンウィークが明けてから世界各地のミステリースポットから収集した、紫色に怪しく艶めく丸いパワーストーン。彼女はそれを使用してある計画を実行しようとしていた。
――幻想郷への境界の突破方法はなんとなくわかったわ。パワーストーンを身に着けてあの時見た光景を思い浮かべる。そして、自身の周りを外界から遮断するかのように、念力をまとわせる・・・テレポートとやり方は似ている。ゴールデンウィーク最終日に一度成功したから間違いないはずよ
宇佐見菫子は幻想郷への渡航方法を編み出し、自由に行き来できるようになっていた。だが、
――でも、それは一時的なもの。何かの力によって、ほんの数十秒経つと私は外に弾き飛ばされてしまう。
今のままでは幻想郷に居られる時間は短く限られてしまい、幻想郷の散策など夢のまた夢。お試しにもならない。
――それはおそらく、幻想郷のセキュリティ機能によるもの。けど、内側からこじ開けれるなら・・・
手提げかばんにギュウギュウに詰められたパワーストーンが『7つ』。それを宇佐見菫子はじっと見つめる。
――この7つのミステリースポットで集めてきたパワーストーン・・・これを使えばそれができるはず。
『黄泉比良坂』、『ストーンヘンジ』、『バベルの塔』、『ナスカの地上絵』、『地獄谷』、『ピラミッド』・・・あれ?一つだけ知らないパワーストーンが混じってる?
そのパワーストーンは彼女が収集してきたものではない。見た目は同じものの、自分で採取し加工した彼女には分かった。
――けれど、れっきとしたパワーストーンのようね・・・特にその場所じゃないといけないというわけでもないし、ま、いいか
どこのパワーストーンかは分からないが計画には支障がないと、宇佐見菫子これから行うことについて再確認を始める。
――さて、私はこれから幻想郷に行く。短い間にやることが二つある。
まず、この7つのパワーストーンをサイコキネシスで空中で拡散させ、幻想郷の広範囲にばらまく。幻想郷が縁(ゆかり)さんの言うとおりの場所ならば、オカルトボールはこの現実の世界では考えられないような何らかの力を持つようになるはず。
小泉縁が宇佐見菫子に話していた幻想郷とは、『非常識』が『常識』になる世界の果てのことだ。強い霊力を感じるものの、この『常識』の世界ではただの石ころであるパワーストーン。『非常識』な幻想郷では何らかのパワーを持つだろう、という考えである。
――そうなれば、パワーストーンがひとりでに動いて・・・なんてことも見込めるかもしれない。外の物だというカモフラージュにもなるだろう。
そして、私はテレパシーを使って、不特定多数の現地の住人に《7つ集めると何かが起こる》と噂を広める・・・うーん、どうだろうな
宇佐見菫子は懸念する。テレパシーは彼女にとって未知の領域。テレパシーは他人に意思を念じることで伝える超能力、自身のことは他人に明かしておらず、テレパシーは使用する相手も機会も全く無いのだ。
――相手の心を見透かすための透視は苦手だしなぁ。カードの裏を見透かすとかくらいしかできないし。テレパシーはできるかどうか・・・まあ、ダメならダメで別の方法を考えよう。時間はたっぷりあるんだし
とにかくやってみようと、宇佐見菫子は開き直る。
――でも、もしこれがうまく行けば、幻想郷の人々はこのパワーストーンを集めてくるはず。それも、奪い合いに勝ち残った力の強い『妖怪』が。
そんな『非常識』な奴に『常識』の世界のパワーストーンが7つ集中することで、この矛盾した二つの力が相互に反応、もしくは反発しあって・・・
「・・・境界は決壊し、幻想郷は姿を現す。私を阻むものは何もなくなる・・・!」
これは推論にすぎない。だが、宇佐見菫子には何故か確信があった。成功すれば間違いなく道は開かれると、疑いようもなかった。
――何としても計画を成功させなければ・・・あこがれの土地、幻想郷はもう目前なのよ。
そうだ、一つ思いついた。パワーストーンじゃなんだか胡散臭いわ。もっと親しみやすい、ワクワクする名前にしないと集める気が起こらないわ
宇佐見菫子はパワーストーンをじっと見つめ、今の頼りないものに替わる新たな名前を考える。
――ドラ・・・いや、たしかに7つ集めることの元ネタだけれど、それは流石におかしいわよね。龍って感じしないし・・・あー、もう適当でいいか。パワーストーン以上に胡散臭いものはないし、それ以外だったらなんとかなるでしょ。
『オカルトボール』!それにしましょう!ちょっとあれと被ってるけれど、なんだかワクワクする響きな気がするわー!
とある漫画を引き合いに出しながらも、パワーストーンは『オカルトボール』と命名される。
――意外とこういうのは大事だからね。これで成功率も上がった気がするわー。
・・・よし、準備は整った。オカルトボールを手放すから、ここで失敗したらまた集めなきゃいけない
「チャンスは一度きり。気を引き締めてかからないと」
宇佐見菫子は眼鏡を人差し指でクイッと直し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
すると、7つのオカルトボールと共に身につけているマントを揺らめかせながら宙に浮き上がる。
「さあ、秘封倶楽部(ひみとをあばくもの)活動開始よ!」
宇佐見菫子の周りは薄紫の光りに包まれ、そしてまもなく光とともに世界から姿を消した。
「着いた!」
視界が開けると、そこは以前迷い込んだ神社の近辺上空だった。その神社に明かりは灯っていない。
宇佐見菫子は幻想郷への侵入に成功した。
「よし、早速・・・それ!!」
宇佐見菫子が念じると、彼女の周りにある7つのオカルトボールは真上へと上昇、そして、止まったかと思うと一斉に散開し、幻想郷中にばらまかれた。
「あとは噂を念じるのみ・・・むむむ」
《・・・オカルトボールを7つ集めると何かがおこ~る、何かがおこ~る・・・》
額に指を添え、一度も行ったことのないテレパシーを一生懸命に試してみる。しかし、彼女自身も成功しているかどうかはわからない。
《7つ集めると何かが起こる、願いが叶う、楽しくな~・・・
・・・る》
「・・・って、あら?戻って来ちゃった」
再び、幻想郷の外へとその身を戻される宇佐見菫子。集中していたせいか、少し予想よりも早く戻されてしまったと感じている。
――うーん、成功したのかしら?すぐに分かることではないけれど、不安ね・・・
宇佐見菫子はゆっくりと、デパートの屋上に降り立っていく。計画成功の可否はわからない。幻想郷の住民がオカルトボールを7つ全て集め、この外の世界に幻想郷をさらけ出すまでには少し時間が必要だ。
――まあ、今日はやることはこれだけだし、それに・・・ふぁあ・・・眠たくなってきた。帰って寝よう
宇佐見菫子は眼鏡を外して目をこする。夜更かしは得意な彼女だが、能力を多用したり、ぶっつけ本番で慣れないテレパシーを使ったせいで頭が回らなくなってきている様だ。
――明日から数日間、私はここに張り込んで過ごして経過を観察する。妖怪の力が最も強くなるのは夜。変化が現れるとしたら夜だから、夜更かししなきゃならないかもしれない。授業は居眠りしなければね
・・・だから、今日はこれでお開き。帰ってこっそりシャワー浴びて寝よ・・・
「ふぁあ・・・」
あくびとともに、宇佐見菫子は光とともに姿を消す。本日の倶楽部活動は終了である。
「・・・・・・うん」
月明かりには肩羽の天使の影が浮かんでいた。
《・・・つけちゃった。この現象には・・・》
《・・・いてに試そうかと・・・》
――誰?知らない声。
《・・・も、面白くないか?都市伝説は・・・》
《・・・妙なボールはい・・・》
――女の子が二人話している。でも、都市伝説?ボール?何の話・・・?
《キーンコーンカー・・・
・・・ンコーン
「う、うーん・・・」
校舎に流れる放課後の合図。宇佐見菫子はその音で目が覚める。一時間ずっと机に突っ伏していたので、枕にしていた腕がしびれている。
・・・見た?宇佐見さん、居眠りなんて余裕ね・・・授業はハードなのに、置いてかれてしまうわね、アレじゃ
・・・強者の余裕ってやつかしら?なんだか感じ悪いわー
「ふぁあ・・・ん・・・」
同級生からのひそひそ話は聞こえていたが、彼女は気にしない。宇佐見菫子はあくびをしながら髪を直し、眼鏡もかけ直す。
――今日は学校でやることもうないし、帰ろ
・・・今日もすぐ帰るのね、宇佐見さん
・・・やることがないのね、可哀想に
その日も、何を気に留めることもなくちゃっちゃと荷物を整えて、宇佐見菫子は家路についた。
そして時刻は夜。
「・・・オカルトボール散布からまる5日。何も起こらないな~・・・」
思わず独り言。まる5日経ったこの日も宇佐見菫子はデパートの屋上にいる。パンダカーにまたがりながら、退屈そうにタブレットを動かす。失敗したと判断し、次にパワーストーンを取りに行く場所を調べているのだ。
「うーん、やっぱりテレパシーがうまく行ってなかったのかしらね・・・」
グチグチとつぶやきながら、近場のパワースポットを探し続けていた。大きなため息が一つ出る・・・その時だった。
「いてっ」
帽子の上から感じる軽い衝撃。何かが降ってきた。
「いったいな~・・・あ!!」
宇佐見菫子は降ってきたものの正体を見るやいなや、表情を明るくする。
「『オカルトボール』!これは『ストーンヘンジ』のパワーストーンだわ!」
手元に戻ってきたオカルトボールは、紛れも無く菫子がばらまいたもの。幻想郷から帰ってきたのだ。宇佐見菫子は立ち上がって、転がったオカルトボール拾いに行く。
マジマジと見つめるそれにはかすかなパワーを感じる。宇佐見菫子は真っ暗な空を見る・・・
「・・・!!」
気が付くと、再び幻想郷の神社の前。しかし、今度は様子がおかしい。
「な、何?何なの!?私、何もしてないわよ!?」
宇佐見菫子は困惑する。何を念じるわけでもないのに、幻想郷に引きこまれてしまった彼女はあたふたする。
《誰ッ!?こんな夜に・・・・・・》
「へ!?」
宇佐見菫子は少女の声に振り向く。
「!!!!」
そして、驚愕する。そこにいたのは、小泉縁から聞いていた話にも出ていた紅白の『巫女』。つまり、幻想郷の異変解決者である。
「ほ、ホントに!?」
小泉縁の話に出ていた存在が今、目の前に居る。脇を出した服を着た奇抜な格好の少女がいるのだ。宇佐見菫子は改めて、幻想郷というものが本当に存在するのだと実感する。
《・・・・・・反応がない。つまり、目の前には誰もいない。なぁんだ、やっぱり寝てたのか。これは夢ね・・・・・・》
「え?い、いや!ちゃんとここに・・・」
《・・・・・・ってそんな訳あるかい!》
「はい!?」
目の前の少女は宇佐見菫子の声が聞こえていないのか、一人でボケて、一人でツッコミを入れる。ノリツッコミだ。
そんな冗談を行ったかと思うと、少女の顔はコロッと真剣なものへと替わる。
《このオカルトオーラ!やらねばやられるわ・・・・・・!》
「!!!!」
すると、少女はどこからともなくお祓い棒を取り出し、宇佐見菫子に襲いかかる。
「きゃああっ!?!?」
すんでの所、宇佐見菫子はサイコキネシスを弾けさせ、お祓い棒から身を守った。
「・・・あれ?」
つむっていた目を開けると、そこはデパートの屋上。相変わらずパンダカーは不気味に闇に溶け込んでいる。
「い、今のって・・・!」
自分の身に起こったことを再確認する。幻想郷に転移された後、幻想郷の巫女が姿を表し、攻撃された。
――それに、私の手元にあるオカルトボールが増えている・・・4つになっている・・・
・・・計画は確実にうまく進んでいる!!
オカルトボールは4つが集められ、短時間ではあるがそのパワーによって宇佐見菫子を幻想郷へと誘ったということだ。
――4つでこれなんだから、7つ全部が集まった時・・・間違いなくもっとすごいことが起こるわ。起こらずとも、このオカルトボールに蓄えられた妙なオーラ・・・これを7つ全部開放させれば、それもそれでとんでもないことが起こるはず・・・
「ふふ・・・ふふふ・・・!あはははは!!」
夢にまで見た幻想郷。すでに手が届く場所にあるその場所のことを思うと、宇佐見菫子は笑いを抑えられなかった。
「私が居るべき場所、幻想郷!縁さん、待ってなさいよー!!」
あこがれの場所を目指して、探しびとを求めて、彼女は意気込みを露わに空に右拳を掲げる。
・・・宇佐見菫子は夢を見る。遺伝子の根底まで根付くことになる、罪深き夢を・・・
菫子ちゃんを養いたい。