我は神である
この世界を統べ、全知全能を有する最高神。それが我だ。
人間の歴史もずっと見てきた。
火を使い、道具を作り始めた頃も。
国が作られ、豊かな生活が出来る様になった事も。
国同士が戦争し、夥しい血が流れた事も。
機械文明が栄え、魔術が殆ど忘れ去られた事も。
全てを見てきた。
そして、現在。
人間達は歴史を止めた。
ある天才科学者が最高の発明品を造り出した。
人間の負の感情を全て消し去ると言う物。
それにより、世界から争いは消え、犯罪も消えた。怒り、憎しみ、悲しみ。全てが消え、人類は永遠の幸せを手に入れたのだ。
……何て書いたが、あの機械本当に勘弁して欲しい。凄く暇なのだ。
これまでは飢饉とか起きたら『可哀想だ、奇跡で救ってあげよう!』とか出来た。今は飢饉起きたら回りで助け合って、被害ゼロ。
戦争起きたら『哀れな種族よ……』とか言いながらいきなり戦場に光を纏って現れ、戦争を止めさせたりしたが、今は起こる気配すらない。そもそも、個人の喧嘩すら起きない。
いや、良いのだ…平和なのは大事だ…けどさ、代わり映えが無さ過ぎて退屈なのだ。
皆、ただ毎日ニコニコ笑ってるだけ。何をやっても楽しい、幸せ!
寿命で死んでもしょうがない!で終わってしまう。
しかも、神様への信仰も無くなった。
我々神は人々の信仰を糧として存在を維持してきた。趣味の一つとして物好きが祈りを捧げているが、そんなのじゃ我々神が存在を維持出来る筈も無い。
仕方なしに独立し、自給自足生活の始まり。農耕の神中心に神用の食糧を作り、それを信仰の代わりに食べて存在を維持している。
こんな状況を憂い、一部の神は『あの発明を神の怒りで壊しましょう!』とか言って来た。
勿論そんなのは却下した。人類の願いを聞き、救いを差し伸べるのが神。逆に不幸にしてどうするんだ、と。
ただ、暇なのは変わらない。今も『最高神の間』の椅子に座って暇を持て余している。
何か面白い事起きないかな?何て思いながら未来を見てみる。約3億年後に機械が不調を起こすのが見えたけど、その他は何も起こらなかった。
はぁ、と一つため息を吐く。3億年後まで眠りに就こうかなと考えていた時だった。
足元に巨大な魔方陣が展開された。誰かの転送魔法かな?何て楽に構えていたが、違和感に気付いた。
魔方陣に書かれている術式が全く見た事の無い物だった。
全知全能の力は何時も発動している訳では無い。任意でオン、オフを切り替えられる。だから、珍しいだけの魔法かと最初は思った。
だが、全知全能の知識を持ってしてもこの魔法は分からなかった。
全てを焼き尽くす『冥界の業火』でも無いし、対象を永遠に氷漬けにする『永久氷牢』でもない。勿論、自分が得意とする『神の雷』でもない。
全知全能で分からないなんてそんな訳は無い!と慌てて思考を巡らす。そして出た答えが『異世界』だった。
この世界の魔法では無いなら、知らないのも当然。この世界では全知全能でも異世界までは知らないのだから。
そこで、一度ほっと息をつく。もしや全知全能が消えたのかとヒヤヒヤした。
その間に魔法が完成したのか光が強くなった。体に浮遊感を感じる。ああ、これは異世界の転送魔法かと思い至ると次の疑問が浮かんだ。
何処へ転送する気だ?
だが、その疑問が浮かぶと同時に視界が切り替わっていた。
いつの間にか人間の作った様な建物の内部に居た。恐らく転送魔法で飛ばされたのだろう。
回りを見渡すと、一昔前の神官の様な格好をした者達が何人も囲んでいた。恐らく転送魔法を発動させたのは彼らだろう。
そして、中でも一番偉そうな格好をしている神官が畏怖の念を抱いた表情で近付いて来る。
「お、おお!あ、貴方様が、異世界の神で宜しいでしょうか!?」
「如何にも、我が神……って何だ、これは?」
体に違和感がある。重いと言うか、何かに詰め込まれた様な……
それに、声が変だ。普段人間に話す用の威圧感満載の声では無く、まるで子供の様な……
「おい!これはどう言う事だ!!」
「ヒィッ……!」
何故か自分の体が人間の子供の物になっていた。いや、原理は分かっている。
「この人間を依り代にして我を呼び出したな?」
「も、申し訳御座いません!それしか方法が無く……」
何という事を…人の子を犠牲にして我を呼び出そうなど……
「どうしても貴方様のお力が必要なのです!ど、どうかこの世界を救って下さい!!」
「世界を救う?何故異世界の神の我が貴様等の世界を救わねばならぬ?」
「実は…今この世界は邪悪な魔王により支配されているのです。地上は魔物が溢れ返り、人類は滅びの一途を辿っております。更にはこの世界の神すらも魔王軍に落とされてしまいました。もう、我々の救いは貴方様しか居ないのです!!」
成る程、そういう事情が有ったのか。だが、神すら落とす魔王に同じ神である我が勝てるのか?それに魔王を倒すのは、人間の勇者の役目と相場が決まっているだろう。
「断る、我は元の世界に帰るぞ。この体の魂は戻しておく。二度とこの様な方法で呼び出す事の無いように!」
「お、お待ち下され!ど、どうか我等に救いを!!」
呼び止める声を無視してこの体の本来の魂を呼び戻す。そして、自分は体から抜け出して元の世界へ続くゲートを開こうとした時だった。
『お待ち下さい神様!私の事はどうでも良いですから戻って下さい!!』
「なぬッ!?」
呼び戻した人間の魂に体を引っ張られた。神を魂の状態で引っ張るなど、どんだけ強い意思の力を持っていたら出来るんだ!
「は、離せ!我は帰るのだ!退屈とは言えあそこは我の世界だ!それに、神すら殺す魔王に勝てる訳が無かろう!!」
『あっ!それ本音ですよね!!魔王に負けるのが怖くて帰ろうとしてるんですね!!』
「違う!断じて違うぞ!と、兎に角離せ!離すんだ!!」
『嫌です!帰るなら魔王を倒してから帰ってください!!』
無理矢理引き剥がそうとしたが、あまりの強さにそのまま強引に体に引き戻されてしまった。
「ぬ、ぬうぅ……この我を呼び戻すなど…何と言う奴だ!」
「ま、まさかイデルか!良くやってくれた!!」
『はい!大司教様!!』
頭の中で声が響く。一緒にこの肉体に戻ったのだから当たり前だ。しかも不味い事に、このイデルと呼ばれた者に体を掴まれたままなので肉体から逃げ出す事も出来ない。
「異世界の神よ!どうか我々に救いを!!」
「くどい!そもそも、魔王を倒すのは人間でなければ意味が無かろう!勇者を見つけて来い!最悪我がその者に力を貸す程度はしてやる!」
「い、いえ、勇者ならここに……」
「居るのであれば早く我が目の前に連れて来い!」
「いえ、ですから…貴方様のお身体が……」
『神様、私が勇者ですよ?』
「……なん……だと……?」
「魔王を倒すのは神に選ばれし勇者の役目。それは我々も存じております。故に、この世界の神に選ばれし勇者、イデルを依り代にしたのです」
こ、これはまさか…は、嵌められたのか?つまり、我は神であると同時に勇者に仕立て上げられたと言う事か?
「神よ!どうか魔王を滅ぼして下さい!」
「神様!お願いします!」
「我々に光ある未来を!」
「民をお救い下さい!」
「勇者の力と神の力で魔を滅して下さい!!」
思わず膝をついて天を見上げた。
ブリーチを書く前に練習で書いていた作品ですが、眠らせて置くには勿体無いかなと思って投稿しました!
そんな作品ですが一番は読者の皆様が面白く読んで下さる事です!もし、こうした方が良いなどありましたら感想でお願いします!