人間臭い神様の冒険   作:D家の居候

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神様だって悩む

「神様!神様ってば!聞いていますか!!」

 

『煩い、聞こえているから静かにしろ……』

 

我は神だ。我は今、物凄く暗い気分になっている。

理由は簡単、いきなり異世界に呼び出されたかと思えば勇者の肉体に入れられ、魔王を倒せだのと言われたからだ。

しかもその魔王とやらが恐ろしく強そうなのだ。この世界の神すら倒し、この世を支配している。

元の世界でも魔王と名乗る魔物の親玉は居た。だが、それは流石に神を倒す程の力を持っていなかった。だから我が選び、力を分け与えた勇者が打ち倒した。

確かに、我は全知全能、不滅の存在、そして強大なる力を持つ最高神だ。とは言え、万が一にも倒される事も有るかもしれない。それだけは勘弁だ。

 

「もう!折角大司教様が旅の道具として好きな物を選んで持って行けと言ってくれたのに!神様も一緒に選びましょうよ!」

 

『お主が好きな物を選べば良いだろう……我は特に何もいらぬ。敢えて言うなら食糧はちゃんと持て』

 

今は旅の準備をしている所だ。我は体の主導権をイデルに渡し、見ているだけだ。

それにしてもこういった元気な所は年相応だ。幾ら勇者とは言え、子供は子供だと言う事だろう。

 

「食糧なら沢山持ちましたよ!あ、神様!この装飾品なんてどうです?」

 

イデルはかなり繊細な装飾の施されたただの(・・・)腕輪を手に取った。

 

『気に入ったのなら持って行けば良い。だがその腕輪、何の加護も掛かってないぞ?』

 

「え!?あっ、本当だ!」

 

意外と抜けてる所もある勇者だ。世話が掛かりそうだ。

イデルは腕輪を元の位置に戻すと「うーん」と唸りだした。

 

「ねぇ、神様?」

 

『……どうした』

 

「名前、無いのですか?」

 

何を聞いてくるかと思えば、変な質問だ。

 

『有るわけが無かろう。我は神だ。名前など必要無かったからな。』

 

「えー、でも一々神様って呼ぶのも……これから旅をしていく訳ですから名前で呼び合った方が良くないですか?」

 

『……お前は神を何だと思っているのだ?』

 

子供はこれだから恐ろしい。無視して神様と呼べと言ってもどうせ何かしら名前を付ける気だ。変な名前を付けられるかもしれない。なら……

 

『……ディーリスだ』

 

「え?」

 

『昔、地上に身分を隠して降りた時そう呼ばれた事がある。その名で良いならそう呼べ』

 

「ディーリス様ですね……分かりました!よろしくお願いしますディーリス様!!」

 

嬉しそうにそう言いながら装備品の物色に戻った。

 

結局、イデルに任せていたら何時まで経っても決まらなかったので我が適当に選んだ。と言うか作った。

一番装飾が綺麗だった普通の鎧に我が加護を掛けた。砲弾どころか電磁砲(レールガン)が飛んできても防げる物理防御上昇と、極大魔法でもなければ殆どこちらの魔力に変換する魔法吸収効果、更に口から猛毒を飲んだとしても無効果する状態異常無効果。その他にも色々と効果を付けているが省略する。

そんな完璧なる鎧を勇者様に着せてやった。イデルは喜んで跳ね回る。

 

「凄いです!鎧なのに全然重くないです!布の服より軽い位です!」

 

『そう言う加護を付与したからな、分かったなら走り回るな!鬱陶しい!!』

 

視界は共有しているので、跳ね回られると乗り物酔いみたいな状態になってしまうのだ。

 

それと、鎧を姿見で確認していた時にイデルの顔も確認したが、神童と言うべき端正な顔立ちをしている。黄金色の艶やかな髪は邪魔にならない様に短めに切り揃えられている。そして何よりその瞳。本当にサファイアかと見間違える程の美しい碧眼。今度地上に降りる事があればこの瞳を真似たいと思う。

 

次に武器だが、これも我が加護をかけた。勇者と言えば剣なので、白金(プラチナ)で出来ていた美しい剣を選び、切れ味増加と退魔効果を与えた。

それと、我がもし戦う事になった場合に備えて槍も持たせた、我は剣より槍の方が得意なのだ。こちらも勿論加護をかけた。

盾は物理魔法反射効果を付けておいた。これで死の呪いが飛んできても相手に跳ね返して終わりだ。

 

装備選びが終わった事を伝えると、大司教ともう一人若い男の聖職者がやって来た。

 

「こちらは勇者様の旅に同行するオルカトと言う者です。まだ若いですが、治療魔法等の腕は確かです」

 

「オルカトです。勇者様、そして異世界の神よ、微力ながらご協力致します」

 

「よ、よろしくお願いします!オルカトさん!!」

 

イデルはかなり緊張している様だ、そんなに固くならなくとも良いのではないか?と言うより、神である我と話している時より固くなってないか?

 

「イデルよ、これが世界地図だ。そして、ここに記されているのが魔王の城だ。長い旅になるだろうが、どうか必ず魔王を倒して来て欲しい」

 

「はい、大司教様。我が使命、魔王を倒し、世界に平和を取り戻す。絶対に果たしてみせます!」

 

力強く宣言するイデルにはかなりの覚悟を感じる。本当に子供とは思えない程だ。

これだけの覚悟が有ったからこそ、自分が消えるのが確定している依り代にもなり、我を引っ張って肉体に戻すという芸当が出来たのだろう。全く、どの世界でも人間には驚かされる……

 

そこへ、ドタドタと何かを叫びながら向かって来る者がいる。

 

「た、大変です、大司教様!ま、魔王軍が、魔王軍が攻めて来ましたッ!!」

 

「何だと!?」

 

どうやら、早速忙しくなりそうだ……

 

 

 

 

 

 

外に出ると、空が夜と見間違う程の黒い雲に覆われていた。

そして遠くの丘で黒い軍団が行進していた。

 

「あ、あれが魔王軍……」

 

『イデル、お前魔物と闘った事は?』

 

「魔物となら少しだけあります。ですが魔王軍とは……」

 

魔王軍とは初戦か…どうしたものか……

イデル自身の成長の為にもここは任せるべきか。いや、下手にトラウマになっても困るから全て我が倒してしまうか?だが、それでは肝心な時にイデルが役に立たなくなってしまう。かと言って、無理をさせるのも……

 

「ディーリス様、私、戦います!」

 

『……大丈夫なのか?』

 

「分かりません…けど、私がやるしか無いのです!」

 

やはりイデルの意思は強い。我では勝てないな……

 

『なら、全力でやれ。ただし、我が無理だと判断したら直ぐに代わって貰うぞ?』

 

「はい!」

 

大司教に神殿の守りとこちらの援護を任せ、神殿前の平野に向かって行く。

魔王軍は殆どが操られた死霊達だった。ゾンビやスケルトン等が黒い鎧で身を包み、魔王軍の旗を掲げている。

 

『恐らく何処かにコイツらを指揮している奴がいる筈だ。そいつを見つけ出して叩け』

 

「分かりました!」

 

イデルは白金の剣を抜き、構えた。敵もこちらに気付き、刀や棍棒を構え唸り声を上げている。

イデルは剣を敵陣に向け、詠唱を始めた。遠距離から魔法を放つつもりらしい、中々良い判断だ。

だが、詠唱長くないか?聞いたこともない詠唱なので何の呪文か分からないが、きっとかなりの大魔法なのだろう。この長さの詠唱の火炎魔法ならこの平原丸ごと焼け野原に出来るだろう。

 

「【烈光の炸裂】!!」

 

呪文名を唱え、剣の先から数本の目映い光が扇状に放たれる。それが魔王軍の魔物達に当たると、轟音と閃光と共に爆発を起こした。

だが……

 

『威力弱ッ!?』

 

「ええっ!?私の使える魔法でも一番得意な奴ですよ!!」

 

『はあっ!?あんな長々と詠唱しといてコレ?しかも一番得意!?』

 

爆発は前列の魔物を吹き飛ばしただけ。詠唱時間と効果が見合って無い!

 

「ううっ…やっぱり私は甘やかされて育てられて居たのでしょうか?」

 

『ええい!今はそんな事どうでもいい!さっさと構えろ、次が来るぞ!』

 

詠唱している間にかなり接近されてしまった。まだ、遠距離攻撃が有効な距離だが……

 

『おい、十秒以内に終わる魔法は放てるか?』

 

「十秒!?そんな時間じゃ小さな火の玉位しか出せませんよ!」

 

『……やっぱりか!』

 

我は気付いた。イデルの魔法の腕が悪い訳ではない、恐らくこの世界の魔法の詠唱が極端に長いだけなのだ。

 

『しょうがない!敵陣に斬り込め、走り回って相手を翻弄しろ!』

 

「は、はい!やってみます!」

 

イデルは敵陣に突っ込んで行く。体力は流石にある様だ。

そして、目の前にいた死霊を斬り付けた。死霊は簡単には倒れない厄介な魔物だが、退魔の力が付与されているこの剣で斬られると、青白い炎を上げて倒れた。

 

「はああぁぁぁぁぁッ!!」

 

気合いを込めた剣が横凪ぎに振るわれ、死霊達が炎に包まれる。

中々太刀筋は良い、師匠はかなりの強者に違いない。

死霊三体が一度に得物で攻撃してきた。それを盾で受けると、死霊達は吹き飛ばされた、物理反射の効果だ。

イデルはそのまま陣の中へと斬り込んで行く。今の所、上手く無双出来ている。次々と不死の死霊達を斬り伏せている。

だが、肝心の指揮官──死霊術師(ネクロマンサー)──が居ない。遠距離から操っているのか?それだと厄介だな……

 

「ディ、ディーリス様!敵の大将は何処に!?」

 

『それが解れば苦労は無い!』

 

これだけの数が居ると魔力で探るのは難しい。それに、本当に遠距離から操っているのだとすればこちらの勝機は薄くなってしまう。

 

『兎に角、敵を少しでも減らしつつ、目で探せ!』

 

「は、はい!」

 

イデルは更に敵陣の奥へと進む。かなり無理をさせている気がするが、意思の力が衰えてないのを感じるので大丈夫だろう。

左右から群がる敵を剣と盾で倒し、目の前に束になって現れた死霊に鋭い一太刀を加えた時だった。

 

『───ッ!イデル、後ろだッ!!』

 

「え?……しまっ!」

 

背後から飛び掛かってきた死霊に腕を掴まれてしまった。イデルは拘束から逃れようともがくが、敵の力が強く抜け出せない。

 

『……良くやった、後は我に任せろ』

 

「………」

 

イデルは返事を返さなかった。自身の無力を嘆いているのだろう。

 

『気にする事はない。これから強くなって行けば良いだけだ。人間は成長する生き物、そうだろう?』

 

「……はい」

 

目の前に死霊が現れ、血濡れの刀を振り上げている。

 

『なら、我に代われ。ここで生き延び、そして次に生かせ』

 

そう言った所で体の感覚が戻るのを感じる。既に刀を降り下ろされているが関係ない。

 

「【流電衝】」(アクトゥアル)

 

体に電流を流す呪文を無詠唱で発動させる。両腕を拘束していた死霊は一瞬で消し炭と化し、刀を降り下ろしていた死霊も感電し炎が上がった。

 

「さあ、神の名の元に貴様等を土に還してやる」

 

通称、神通力を使い宙に浮かび上がる。死霊達は見上げるだけで何も出来ないでいる。

 

『す、凄い!空飛んでますよ!』

 

「嬉しいのは分かるが大声を出すな!頭に響く!」

 

拳で頭を軽く小突いて注意する。

イデルが静かになった所で呪文の詠唱を始める。

 

「武神の雷よ!光の矢となりて地に恵みをもたらし、悪しき者を滅ぼすべく天より降り注げ!」

 

久しく感じていなかった魔力の奔流を感じ、思わず笑みを浮かべた。

 

「雷撃魔法【雷帝の矢】(インドラ)!!」

 

白金の剣を天に掲げると、天空に魔王軍全てを囲う程の巨大な魔方陣が浮かび上がり、無数の雷が落ちた。雷の速さのせいで逃げる間もなく、死霊達は炎に包まれ消えていく。十秒程度鳴り続けた雷鳴が消える頃には、腐った肉の焼ける嫌な臭いと消し炭しか残らなかった。

 

「……こんな物だな」

 

『す、凄い……』

 

我は消し炭に目を向ける。死霊術師を探したのだが見つから無かった。あの雷に撃たれれば分かるので、倒した訳ではない。やはり、予想通り遠隔操作していたのだろう。

 

「さあ、一度神殿に戻るぞ。久々に魔法も使って疲れてしまった」

 

地面に降りようと下降した時、頭に叫び声が上がる。

 

『ああっ!ちょっと待って下さいディーリス様!!』

 

「何だ騒々しい!頭に響くから叫ぶなと言っただろうが!!」

 

『す、すみません!えっと、神殿までで良いので、空を飛んで帰ってくれませんか?お願いです!空を飛ぶなんて貴重な体験なので!!』

 

「分かった分かった…神殿までだぞ?」

 

『はい!お願いします!』

 

我は少しだけゆっくりと飛びながら神殿に戻った。我が無事だったのを確認すると神殿中から歓声が上がった。

 

 




人間臭い神様、第2話です。

神様だけど、神様っぽくない!をイメージして書いていますがどうでしょうかね?

今後もゆっくりと更新して行くので宜しくお願いします。感想お待ちしております。
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