別に急ぐ必要性は全くないが、
せっかくですからね。
「藤重」ですがこれは非常に分かりやすいですね。
弓を使うので、
有名な「重藤の弓」からとりました。
では、五話目です。
ある日、
青年が部屋の中で何かの視線を感じるようになった。
もちろんあたりを見回しても誰もいない。
「気のせいか」
そう思ったが見られているという感覚は続いた。
不安になって部屋中を探してみたが誰もいない。
外から覗かれている可能性も考えたが、
カーテンを閉めてみても視線を感じた。
もしかして監視カメラでもあるかのか……
青年はますます不安になり念入りに部屋を探すことに。
そしてついに視線の正体を発見してしまう。
タンスと壁のわずかな隙間から、
じっと青年を見つめ続けている女を―
平成24年3月5日21:55
藤重の部屋。用も終え、そろそろ帰るかという時間。
「そういえば今週の土曜はDランクの試験だからな」
「へ?」
突然のことに気の抜けた声を上げる藤重。
「前、説明なかったか? 3月と9月の第2土曜に試験があると」
「それは説明あったけど……もう受けられるの?」
「Dはすぐ受けられるし、ほぼ受かるよ」
「そんなに簡単なの?」
「Eなんて研修期間みたいなものだからな」
「Dに受からないのは問題あるよね」
「受かって当然ってことね」
「うん。だから特に何もする必要ないと思う」
「勉強する必要がないな」
「それで、場所は?」
鏡が部屋を見回して。
「ここでいいだろ」
「ここでいいの?」
「まぁ、筆記だけだしね。監視役の人がいれば問題ないと思うよ」
「随分緩いのね」
「所詮Dランクだからねー」
「所詮って……まあ研修期間ならそんなものかもしれないけど」
「気にするな」
「そうね。後はー……時間は?」
「夜9時ごろで良いか。出来次第終了で」
「開始時間は問題ないけど、制限時間とかないの?」
「一応2時間とはあるけど、そんなにかからないしね。必然的に終了次第になると思うよ」
「見直し含めても遅くて1時間には終わるだろ」
「話を聞けば聞くほど焦りと言うか、気負いというかが無くなるわね」
「本当に楽だからねー」
「そうだな。他に質問がなければもう帰るが」
「特にないわ」
それじゃ、と言って立ち上がる。
「また明日」
「またね」
平成24年3月10日20:40
試験当日。と言ってもピリピリした空気は無く、いつも通りの藤重の部屋。大童と鏡はもういた。
「待つ意味もないし、もう始めるか」
「そうね。時間がもったいないし」
「じゃ、問題を渡す」
鞄の中から問題用紙を2枚取り出して渡す。表裏印刷だ。
「始めていいのね?」
「あぁ」
それを合図にペンを走らせる。
ちなみに問題は。
問1
『口裂け女』の好物を一つ答えよ。
問3
『564219』の意味を答えよ。
問5
『○○ババア』を3つ答えよ。
問10
都市伝説には種類があるが、大きく分けて何型と何型か。
問12
言霊とは何か。簡潔に答えよ。
のような問題が前半にあり、後半には簡単な計算や迷路があった。
……そして30分後。
「終わったわ」
「ん」
用紙を回収する鏡。
「お疲れさま」
「そんなに疲れてないけどね」
「もう採点してしまうか」
「一人分だしね」
そうして鞄から解答を取りだして、採点を始めた。
「それにしてもホントに簡単な問題ばかりだったわね」
「でしょ? やる必要があるのか疑問に思えてくるくらいだよね」
「やる必要あるの?」
「んー……疑問に思えるかもしれないけど、やってるんだからあるんじゃないかな」
「そう」
「研修終了を分かりやすくしたようなものだと思っとけ。採点終わった。100点満点中100点だな」
用紙を返しながら言う。
「おめでと、藤重さん」
「ありがと……でもこんなに簡単だと嬉しさとかあまりないわね」
「あー分かるよ」
「確かにこの程度で大喜びしてたら恥ずかしい奴だな」
その様子を思い浮かべる。
「恥ずかしいね」
「大喜びしてたらさすがに……恥ずかしいわね」
「そんな奴見たことないがな」
「それはそうでしょ」
「まぁ、何にせよ。これでお前はDランクなわけだ」
「特に今までと変わるところは無いけどね」
「そうね」
「だがDである自覚くらいもっとけ。もう研修ではないんだからな」
「……そうね」
真面目な顔になる。が、
「と言ってもやっぱりやる事が変わるわけではないんだが」
「だよねー」
「そう」
すぐに顔は戻った。
「試験も終わったし帰るか」
「そうだね。じゃあまた学校で」
「またな」
「うん。また学校でね」
そして帰る二人。それを見送ってから扉を閉めた。
(これでDランクになったのよね……自覚はしてるんだけど、テストが簡単すぎて実感がないわね)
平成24年3月13日18:10
大童の部屋。藤重は部活なので、鏡と大童だけがいる。
「今回は『隙間女』だな」
「場所は?」
「ここから車で40分のアパートだな」
「ちょっと遠いね」
「簡単だが手間がかかるんだよな」
「そーだねー……今回は藤重さん連れていけないかもね」
鏡を見ながら言った。
「住んでるのは普通の独身会社員だ」
「それだと連れていけないね。学校休まないとだし」
「だが会社を調べたところ20日は仕事があるらしい」
言われて携帯のカレンダーを見る。だがそのカレンダーには特に何もなかった。
「その日は休日だったっけ?」
「休日だな」
「実現はもうさせたの?」
「まだだ。これから行ってくるつもりだが、お前も来るか?」
「場所の確認のためにも行っておこうかな」
「そうか。なら行くぞ」
「了解」
二人は部屋を出た。
平成24年3月13日18:51
「ここの二階、右から2番目だ」
着いた場所は少し古びた感じの一般的なアパートだ。周りにもアパートがあり、この時間だと今帰りなのか、学生や会社員といった人たちが歩いている。
大童は言われた場所に目を向ける。するともう明かりがついていた。
「明かりがついてるのを見るともう帰ってるんだね」
「そうだな。会社が近くにある」
そして考え始める。
「そうなると昼にいったん帰ってくる可能性もあるよね……」
「そうだな。弁当を持って行っているようだが忘れる可能性がないとは限らないからな」
「なら昼過ぎの方が安全かな」
「長居をするつもりはないが、弁当以外を忘れて取りに来る可能性は午前の方が高いだろう」
「2時くらいかな」
「妥当だな」
「問題はいつ気づくかだけど……」
「とりあえず実現させるか」
「そうだね。盗聴器は?」
「問題ない。いくら探しても見つけられないだろうな。
そう言ってイヤホンを大童に付ける。
『今日も疲れた……ぁー風呂入らないと……面倒だけど夕飯はーコンビニでいいや。でも出るのメンドイな……カップ麺でいっか。ぁー疲れた……』
「……疲れてるね」
申し訳なさそうな表情でイヤホンを耳から外す。鏡は既にパソコンを操作していた。
「だが、それは都合がいい。視線を感じても疲れのせいにしそうだからな」
「なるほど。それなら藤重さんもつれていけるかもね」
「あぁ、鋭い人間だと早く気付きすぎるし、鈍い人間は中々気づかない。気づいても何かのせいにする人間ほど日程を合わせやすい」
「今回は典型的なそれなんだね」
「あぁ」
「また藤重さんにやってもらうんだよね」
「何事も経験だな」
パソコンを閉じる。
「だね。終わったみたいだし今日はもう帰る?」
「もうやる事ないしな」
「そっか」
二人は車に乗り込むと、来た道を戻った。
平成24年3月14日16:40
「返し終わったか?」
ホワイトデー。二人は寮へと向かっている。
「うん。名前が分かる範囲でね」
そう言って持っている袋を見せる。中にはまだお返し用と思われるクッキーなどが入っていた。
「名前書いてないのに分かったら気持ち悪いと思うぞ」
「でも証拠とかを集めれば可能だよね」
「それが気持ち悪いといってるんだ」
「でも貰いっぱなしっていうのは……何か悪いよ」
「お前は気にしなくていい。別に相手も返しを期待しているわけではないだろ。ってか、名前書いてない上に返しを期待するのはどうかと思うが」
「そう言われるとそうかもだけど……でも、じゃあ余った分はどうしよう?」
「まとめて藤重に渡してしまえ」
「渡せなかった余りを渡すのって失礼じゃない?」
「説明してから渡せばいいだろ」
「あーなるほど」
「もし受け取り拒否されたら、また廃工場に捨てて来てやるよ」
「そうだね。いらないって言われたらお願いしようかな」
「あぁ」
しばらく無言で寮へと向かい続ける。ここ最近は気温も高く、あたりに雪は無い。今日も快晴だ。
「そういえば夕夜はもう送ったの?」
「昼に届いた」
「そっか」
「そうだ」
「でも夕夜も律儀だよね。ちゃんと全員分返すんだから」
「お前と違って名前が分かるしな。名前が分からない奴には返さない」
「それが分かってるからみんな名前を書くのかもね」
「ふむ……そうかもな。だがその理由だと、返しが欲しいということになるな」
「あ、そうだね。それじゃあ違うかな」
手をポン、と叩く。
「すぐに覆ったな」
「それなら、やっぱり個人的に感謝したいんだよ、みんな」
「全てではないだろうが、まぁ……そういうことにしておくか」
「そういうことにしておこうよ」
「しておくか」
平成24年3月14日21:14
ここは藤重の部屋。女性の独り暮らし、しかも夜中に二人は結構な頻度で出入りしている気がするが、相手が気にしないのならやっぱり別にいいのだろう。こちらも気にしている様子はない。
「はい、藤重さん。僕と夕夜からバレンタインのお返し。それと余っちゃったのがあるんだけど、それも貰ってくれる?」
「貰うわ。ありがと、二人とも……って、鏡君もくれるの?」
袋を渡された藤重は喜んだが、その事実に気づき驚きと疑惑の眼差しを鏡に向ける。
「ついでだな」
「あ、そう。まぁ、そうじゃなかったら逆にビックリするわ」
この「ついで」は正しく伝わっていないのだが、藤重はそれに気づいていない。
「だろ? だから気にするな」
「でもありがと」
「あぁ、それで」
と鞄から紙を出して渡す。
「仕事だ」
「今回は早いわね」
貰ったものを隅にずらし、紙を受け取る。そして目を通す。
「『隙間女』ねぇ……隙間から引きずり出すのよね。でもこれ、場所どこなの?」
「車で40分の場所のアパートだよ」
「遠いわね……これどうするのよ。まさか不法侵入とか」
「正解だ」
「ああ……やっぱり」
ガックリとする。
「そうするしかないからね。運が良ければ僕の部屋の可能性もあったんだけど、凄い低確率だよね」
「そうね。いつもは外でどうにかできたけど、今回は家の中に入るしかどうにもできないものね……」
「家を潰せば外からどうにかできるけどな」
「それなら不法侵入に決まってるでしょ」
「当たり前だ。するわけないだろ」
「……してたら吃驚よ」
疲れたように言う藤重。
「それで、今回そこに住んでいる人が普通の会社員なんだよね」
「普通の会社員だとどうなの?」
「今回不法侵入するんだから、もちろんその人がいない時を狙うよね」
「そうなるわね……あ」
「気づいた?」
「そうなると私たちが学校行っている時間になるのね」
理解した藤重が大童の方を見る。
「うん。でも僕たちは正社員だから学校を休んででも行くんだけど、藤重さんはアルバイトだから。学校を優先してもらいたいんだ」
「ってかしろ」
「……」
沈黙。しばらくの間考え込む藤重。
「……わかったわよ」
渋々ながらもそう答えた。
「それでいい。だが今回は運がいい」
「どういうこと……?」
「そいつは20日に仕事がある」
「?」
分からない様なので、大童がカレンダーを出す。
「20日は休日だよ」
「そういえばそうだったわね」
「だから、20日なら藤重さんも行けるってこと」
「なるほど……」
納得したように口に手を持って行く。
「問題は、そいつがそれまでに『視線』に気づくかどうかだ」
「そうなの?」
「もう実現可能までにはしてあるからね」
「そいつが『視線』を感じたら、実現したってことだな」
「でも『視線』に気づいたことはどうやってわかるの?」
「盗聴器を仕掛けてある」
あっさりな鏡に対し、また藤重はガックリと。
「不法侵入の上に盗聴……はぁ」
「ま、まぁ大丈夫だよ。仕事ならバレても罪に問われることはないから」
「罪に問われなくても、こうもあからさまに犯罪だとね……」
「麻酔矢を放った人間の言葉とは思えないな」
「あぁぁぁ……そーだったぁぁ……」
頭を抱え込む藤重。
「今更気づいたのか、こいつは」
「なんか凄く苦悩してる感じだよね」
「ぁぁぁ……」
数分後、苦悶していた藤重の動きがようやく止まった。
「はぁ……そうよね、今更よねーあはは……」
そのままの体勢で乾いた笑いをあげる。そんな藤重を心配する大童。
「えっと……だ、大丈夫?」
「えぇ、ダイジョウブ。もうダイジョウブよ」
むくりと起き上がる。
「ホントに大丈夫?」
「……ホントに大丈夫よ」
復活。
「そうか。で、その人間は都合がいいことに疲れているようだ」
「どうして都合がいいの?」
「疲れていれば『視線』を感じてもそれを疲れのせいにする可能性が高いからな」
「そうすれば20日前に『視線』を感じても暫くは大丈夫だと思うよ」
「確かに都合がいいわね」
「だからとりあえずは待つしかないな。『視線』に気づいたようならまた連絡する」
「そうね。お願いするわ」
そして要件を終えた二人は、雑談をした後、いつも通り帰って行った。
今から言っておきますが、
GWやお盆などの長期な休暇中は更新できません。
なので今から謝っておきます。
すいません。
予約投稿という方法もありますが……
そうするとストックがね……。
次回は八話をある程度書いたら載せますので。