そこでどうでもいい情報を書こうと思います。
大童の得意なことは「切ること全般」。
藤重の得意なことは「弓道」。
鏡の得意なことは「手品」「マジック」。
これ以外にも得意なことはあるでしょうが、
こういうのは自己申告みたいなものですから。
本人次第ですよ。
では後編になります。
平成24年7月26日3:40
5分前に到着した車の窓が開く。その車はいつもと違いサンルーフ付きだ。
「おはよー藤重さん」
「おはよ、二人とも」
「ぉはよ」
「眠気は大丈夫?」
「大丈夫よ。昨日は早く寝たから」
ドアを開けて乗り込もうとする。と、
「ん」
何故かそこにはクーラーボックス。それを見て藤重は鏡に視線を向ける。
「これは何?」
「矢だな」
「……矢?」
もう一度クーラーボックスを見る。
「詳しくは走りながらな。とりあえず乗れ」
「あ、そうね」
乗り込んでドアを閉める。それを合図に車は発進した。
平成24年7月26日3:42
「で、このクーラーボックスが矢ってどう言うこと?」
「ふむ。今回は高速道路を走りながら射るわけだが、さすがに回収できないだろ?」
「してる暇がないものね」
「そして今は7月。早朝でも結構な暑さだ」
「そうね」
「だから溶けるように氷で矢を作った」
それを聞いて、藤重は片手を頭に当てる。
「予想はしてたけど……大丈夫なの? それ」
「氷柱で人は死ぬんだぞ」
「……」
「だがまぁ、そのままだと滑るから布を巻いてある。何もないよりはマシだろ」
「そうね。冷たいのならまだしも滑るのは引きにくいわ」
「それと、足場だが後ろ座席を折って前に出せば充分だろ」
天井に手を当てる。
「この高さなら十分ね」
「僕もその時は後ろに行けばいいんだよね」
大童が後ろを見ながら言う。
「そうだな」
「了解」
「他に質問はあるか?」
「無いわ」
「そうか」
車は依然走り続ける。他の車とはまだ2回程度しかすれ違っていない。
平成24年7月26日3:52
ここは高速道路入口手前横の駐車場。三人はこれからの準備を始めていた。
「横レバーで折り畳んで、下レバーで前に出せ」
「これだね」
言われたとおりにレバーを操作して折り畳み、限界まで前に出す。反対側では藤重もその作業をしていた。
「これでよしっ、と」
ふと、大童が鏡の方を見ると何やら黒い板のようなものを持っている。
「それは?」
「風よけだな」
そう言いながらサルーフ付近を囲うように取り付ける。
「凄く空気抵抗が上がりそうだね」
「そうだな。だが仕方ない。その分180キロオーバー出せば180キロになるだろ」
「これ、取れたりしないわよね」
向こう側の準備を終えた藤重がこちらに来た。
「大丈夫だ。溶接してある」
固まる空気。
「は?」
恐る恐る風よけの接触面を見ると、
「ホントにされてる……」
本当に溶接されていた。
「いつの間にっ、ていうのは聞いても無駄なのよね……はぁ」
「そうだね」
「準備も終わったしとっとと乗れ。実現させる」
「わかったわよ」
「了解」
後ろの席を倒した上に乗る二人。鏡は運転席でパソコンを操作。
「今回は、次のインターチェンジまでは約8km。おおよそ3分ってところか。正直余裕だ」
「相手が200だとして、20秒くらい止めれば追い越されないね」
「短いわね」
「相手はそれなりに後方に実現するから、さらに短いと考えていいだろ」
パソコンを閉じてとなりの席に置く。
「そう」
「それじゃ、実現も終わったし出るぞ。とりあえず180キロ出すからその辺につかまっとけ」
車が発進する。
「とりあえずって……」
ボヤキながらも藤重は天井の取っ手につかまり、大童はサンプーフを開けてから折り畳んだ座席につかまる。
そして車は180km/hで料金所に突っ込んだ……!!
平成24年7月26日4:00
「……早」
流れる景色を見ながら藤重が言う。するとバックミラーを見ていた鏡の目が『ターボババア』を捉える。
そこには白装束のおばあさんが、あり得ない足の回転速度で走っている。
「出てきたから準備しろ」
「あ、わかったわ」
「了解」
藤重は弓を持ち、座席の上に立ってサンルーフから上半身を乗り出す。囲いのおかげで風は全くない。
大童はクーラーボックスから矢を取り出し渡す。
「はい」
「ええ……あれね」
(置いていく感じだったわね)
それを受け取り、相手を確認すると、矢を番えすぐさま放つ。そして矢が相手にあたる前に次を受け取りすぐさま放つ。
(矢は少し冷たいけど……問題ないわね。それと距離に合わせて向きも少し変えないとね)
さらに放ち続ける。一射目は地面に当たり、二射目は相手の頭の上をかすめる。三射目は腹に当たり、相手は少しだけ動きが遅くなるがすぐに元の速度に戻る。四射目は地面、五射は手をかすめる。そして6射目からは掠ったり外れたりするものの、足の高さに矢が射られる。相手がそれなりに近づいた十二射目は完璧に足首を捉え、相手は転んで相当な距離を稼ぐ。
その様子を矢を渡しながら見ていた大童は驚き半分、感心半分と言ったところだ。
(この様子なら問題なさそうかな……それにしてもすごい命中率。少しとは言え揺れる上に、僅かにカーブがあるのに。しかも氷の矢って射易いわけないし……これは正直凄いね)
先ほどの十二射目のおかげで藤重は射るのをやめている。
「さっきのでかなりの距離進めるな」
バックミラー越しにその様子を見ていた鏡が少し大きめの声で言う。
囲いがついていても、サンルーフが開いているため車内は少しうるさい。
「そーだねー」
こちらも少し大きな声。すると上から、
「何がー?」
藤重の声がした。
「んー、今ので結構な距離進めるって話ー」
「あーそういうことね。確かにすごい勢いで離れてったわね」
鏡の声は藤重には届いていないが、藤重の近くにいる大童の声は届いている状態だ。
「半分以上は進めるな」
「半分以上は進めるってー」
「結構進めるわねー。そろそろまた射始めるわ」
「了解」
言って、矢を渡す。藤重はそれを番えると、再び射始めた。
射始めてもう何射目か。クーラーボックスの中の矢は3分の1程度に減っていた。
そして今も相手を転ばしたところで、
「そろっとインターチェンジだから、カーブがある。車内に戻った方が安全だと伝えろ」
「了解。藤重さん、カーブに入るから車内に戻ってー」
「わかったわ!」
急いで車の中に上半身を戻す。
その数秒後。車は180km/hのままカーブに差し掛かる。
車内では、大童が内輪側のドアポケットにつかまり、藤重は外輪側の天井の取っ手を一応つかんで耐える。
「ちょ……!」
声を上げるがそこからは声にならなかった。二人に強烈な遠心力がかかる。まぁ、大童は平気そうではあったが。
カーブを終えて車はそのままの速度で料金所に突っ込み、出たところでブレーキをかけ始める。急ブレーキでは無いとは言え、それなりに慣性の法則が働く。
二人は今度は前に行かないように耐える。
その後ろでは離れすぎて雑音は聞こえないものの、『ターボババア』が消滅していくのが見えた。
車は数十mで通常速度に戻ると、駐車場に入る。
平成24年7月26日4:04
車内では藤重がぐったりしていた。
「うー……あー……」
「大丈夫? 藤重さん」
「いつまでもそうしてると戻せないんだが」
藤重はいない方の座席を直しながら心配する大童と、外で囲いに手を掛ける鏡。
「わかってるわよー……」
その声に僅かに動き始める。
その時、
バキッ!! ザシュ!
「……何、今の音」
少しの揺れと共に車の上からした音に固まる藤重。大童は天井を見ている。つられて上を見るが何もない。
「とりあえずー……降りよっか」
視線を戻し藤重に促す。
「……そうね」
そう言って車外に出ると、車の上を見る。
「風よけの跡すらないわね……」
手で撫でるがつるつるで引っかかりは何もない。確認した後も撫でまわす。
「……」
「いつまでも撫でてないで席を戻せよ」
トランクの方から鏡が戻ってきた。
「え、えぇ、そうね」
(……考えても仕方ないのよね)
撫でるのをやめ、座席を元に戻す。そして大童が既に座っていたので、藤重も座席に座る。鏡はそれを確認してから運転席に座り、車は発進した。
平成24年7月26日4:20
「そういえば料金所とかって、監視カメラとかついてないの?」
「基本的についてるね」
「まぁ……その辺は問題ないんでしょうね」
「もちろんだ」
「はぁ……」
窓際に肘を掛けて溜息。
「それにしても今回のはホントにあっという間だったわ」
「短かったからね。長いところだともっと大変だと思うよ」
「そうねー……今回は坂道もトンネルも無かったものね」
「特にトンネルは明かりがあっても薄暗いからね」
「確かにね」
「それと天気も良かったし。場合によっては雨とか雪もあるからね」
その発言に、鏡の方を見る藤重。
「もしかしなくても、雪道でも180キロだすの……?」
恐る恐る聞く藤重に、鏡は、
「あたりまえだ」
当然のように言ってのける。
「危なすぎるでしょ……」
驚きを通り越して、呆れる。
「むしろ見つかりにくいからそのあたりは都合が良いな」
「見つかったり追いつかれる前に事故るわよ」
「スタットレス付けてれば問題ない」
「問題あり過ぎよ……スタットレスでどうこうできる範囲じゃないでしょ」
「大丈夫だ。特製だから非常に滑らないようになっている」
「……はぁ」
淡々と言う鏡に、ついには溜息をつくと諦めた。
「まぁ、分かってたわよ。言ったって無駄だって」
「うん。その辺はもうそう言うものだって割り切るしかないよ」
「そうよね」
そういうと再び深くため息をつく。
「でも言わずにはいられないのよね……非常識すぎて」
「ははは……」
「これからも反応しちゃうんでしょうね」
「僕も未だにしちゃうし、それも含めて気にしないほうがいいよ」
「そーねー……」
後ろの会話する二人を鏡はバックミラー越しに見たが、特に何も言わないで運転し続けている。
二人は気付いていながらも気にしていなかった。いつもと違い、隣同士で座っていたことを。
そして、二人は気付いていなかった。
サンルーフが無かったことに……。
第九話『ターボババア』終了。
今回少し遅くなった原因の一つとして、
題材に迷いました。
これはもう少し後だなーとか、
これは今はできないなーとか、
これはこの時にするべきだなーとか思ってたら一日が過ぎました。
何とも情けない話です。
次話は十二話を書き終えたら載せます。
今回が少し遅くなった分、
少し早めに投稿したいところなんですが……。
したくてできればいいんですけどね。