実際には二十三話目、
しかも五十話なんて行くことはないんですけどね。
今回はなんとなく三人の誕生日を。
大童……6月1日。
藤重……4月28日。
鏡……無し。
それでは前編に行きます。
ひきこさんとは、
雨の日に白いボロボロの服を着ていて、
人形のようなものを引きずっている女です。
しかしよく見るとそれは人形ではなく、
小学生ほどの大きさの肉塊なのです。
ひきこさんは小学生を見つけると、
「私は醜いかぁ~!!」
と叫びながらもの凄いスピードで追いかけてきます。
もし追いつかれてしまうと、
足を掴まれて地面を引きずられてしまいます。
その手は次の小学生を見つけるまでは絶対に離すことはなく、
次の小学生が見つかるまで引きずられ続けるらしい。
しかしその頃にはただの肉塊だけがひきこさんに握られているのです……。
ひきこさんの本名は「森 妃姫子」というそうです。
彼女は昔受けたいじめに対する恨みから、
小学生を捕まえては引きずり回しています。
ひきこさんから逃れるためには鏡を見せると退散するそうです。
平成25年9月4日12:08
昼休み。自教室で大童と藤重は昼食を食べている。鏡はパソコンを操作中。
「んー……」
しかし藤重は箸が進まず、外の天気とは逆に晴れない様子で、何やら唸っているようだ。
それが気になる大童は口の中のものを飲み込んでから、
「どうしたの?」
と尋ねた。
「あー、お化け屋敷ねぇ……と思って」
机に肘をつくと、そんなことを気だるげに言う。
「でも脅かす側なんだし大丈夫じゃないの?」
「あの何か出そうな雰囲気は駄目なのよね……やっぱり。それに」
言葉を区切ると、目を細めて鏡を見る。
「また何か仕組むんじゃないかと思って」
言われた鏡はパソコンから目を離す。
「失礼な。そんな無粋な真似するわけないだろ。人間がやってこそのお化け屋敷だ。それに、クラスの出し物なんだからクラスの奴らがやらないでどうする」
そして鏡はすぐに視線を戻した。
(そのクラスメイトに妖怪が混じってるんだけど……言わないほうがいいよね)
「そう。ならいいんだけど」
藤重も食事を再開しようと、弁当のおかずを箸でとる、
「まぁ、お化け屋敷は幽霊を引き寄せやすいとかはあるけどな」
前に箸が止まった。
「は?」
「良く聞く話だろ。『お化け屋敷に本物が混ざってた』なんてのは」
「あの有名な廃病院のお化け屋敷も出るって噂だよね」
「実際に集まってるしな。ただ、多くの人間が見えてないだけだ」
「……」
「つっても集まるのは人魂とかオーブばかりだし、ちゃんと形があるのもいるけど害はないのばかりだしな」
「実害が出てたら御祓いとか頼んでるよね」
「だな」
「でもお化け屋敷は負の方が集まりそうだけど。恐怖とかだろうし」
「遊園地には正が多く集まるし、お化け屋敷は正負関係なく引き寄せやすいから問題ないだろ」
「そっか」
「あぁ。しかし、昼の学園の教室内で話すことではないな」
「あ、ちょっと忘れてた」
大童はあたりを見回す。
「だから奇声を上げるなよ?」
「……」
鏡は藤重を見るが、現在固まっていて聞いているのか分からない。
「藤重さん?」
「……」
大童も声をかけるが反応が無い。
「おーい」
「……」
藤重の目の前で手のひらを上下する。
「返事がないただの――」
「……はっ!」
「――生ける屍のようだ」
「『屍』じゃないんだね」
「生きてたからな」
「……人を勝手にゾンビにしないでくれる?」
ようやく復活した藤重。
「『ゾンビ』とは言ってないだろ」
「ほとんど一緒でしょ」
「違うんじゃないかな……?」
「『ゾンビ』は死体が動くのであって、この場合の『生ける屍』は、ちゃんと生きている人間に使う表現だ。つまり、かなりの違いがある」
「……そ」
「詳しくは辞書を調べるといい」
「それよりも早く食べた方が良いんじゃないかな。食べる時間が無くなるよ?」
大童は既に食べ終わって肩付けたようで、弁当は机の上に見当たらない。対照的に、藤重の机の上には弁当があり、まだまだおかずもご飯も残っている。
時計は12時16分をさしていた。残り14分。
「用事もないし、食べる時間があれば問題ないわ」
そう言うと、藤重は止まっていた箸を動かして食べ始める。
結果的に時間内に食べ終わることができた。
平成25年9月4日21:10
「で、大丈夫なんでしょうね」
「何が?」
アパートの一室。その主である藤重が仕事をしながら唐突に聞いてきた。
「お化け屋敷よ! 本当に幽霊……とか集まってこないわよね?」
「あーそれか。短期間だしそこまで集まらないだろ」
「……ちょっとは集まるの?」
「集まるな」
「……」
鏡は本を読みながら簡潔に答える。
「ど、どうにかできないの?」
「別に害はないし大丈夫だろ」
「害があるとかないとか、そーゆう問題じゃないのよ。何回も言ってる気がするけど」
「これも仕事だと思えばいいんじゃない? そうすれば少しは平気かもよ」
本から目を離し、藤重を見て提案。
「無理」
「どうして?」
不思議そうに尋ねる大童に、藤重はテーブルに肘をつきそっぽを向いて答える。
「前も言ったけど……仕事は何が出るか分かってるじゃない」
「短期間だし集まるのも人魂かオーブぐらいだが」
「曖昧すぎるでしょ」
「結構具体的だと思うけど」
「これ以上詳しくというと、動物霊とか負・正よりとかだがまだ分からんしな。まさか幽霊の生前の名前を教えろとか言わないよな」
「そこまでは言わないけどー……はぁ」
溜息を吐きながら机に突っ伏した。
「なんだったら脅かす役をやらなければいいんじゃない?」
「つまり?」
「受付とか」
「……! その手があったわね!」
バッと顔を起こして名案とばかりに大童を見る。その目にはいつもより生気が宿っていた。
「確か担当は来週決めるんだったね」
「そうね。絶対受付になって見せるわ」
「……うん。頑張って」
意気込む藤重と、妙な不安感を感じる大童。その様子を鏡は面白そうに見ていた。
平成25年9月3日21:54
藤重のアパートからの帰り道。不意に鏡が喋る。
「あれを世間はフラグと言うんじゃないだろうか」
「あれって?」
「受付になる宣言」
「あー……よく分からない不安感はそれだったんだ」
上を向いて苦笑いを浮かべている。
「まぁ、絶対ではないから気にすることでもないけどな」
「だね」
「でもまぁ……」
「ん?」
「そうなったら面白いけどな」
意地の悪い笑みを浮かべる。そんな鏡に対して大童は、
「そうだね」
再び苦笑い、と言う名の同意をした。
平成25年9月10日11:46
一週間後の昼休み。大童は弁当を食べ、鏡はパソコンを操作している。そして藤重はと言うと……
「ぁー……ぅ~……」
机に伏せて眠るような体勢で、死に瀕したかのように弱弱しく呻いている。
どうしてこんなことになっているのかと言うと、フラグ通りだったのである。詳細には、受付に立候補したが立候補者が多くジャンケンになった。そのじゃんけんに負けてしまったのだ。
その時の藤重の表情は絶望に染まっていたらしい。
「えっと、元気出して?」
どうしていいのか分からないので疑問形で励ます。そんな大童は今は心配そうにしているが、藤重がジャンケンに負けたときは「やっぱり」と言うような感じで窓の方を向いて苦笑い、もとい楽しそうだった。
「ぁ~……」
「決まったものはしょうがないだろ」
パソコンを操作しながらキッパリと言う鏡は、藤重がじゃんけんに負けたとき、後ろなので気づかれなかったが非常に面白そうに小さく笑っていた。ちなみに鏡はジャンケンに勝ったので受付である。
その数分後、顔だけ上げたかと思うと恨めしそうに鏡を見る藤重。
「鏡君、ズルとかしてないわよね?」
「してないな」
「ホントに……?」
「ないな」
「本っ、当に?」
「ない」
藤重の八つ当たりを適当に流す鏡。そのせいか鏡が信じられない藤重は、顔だけを動かし大童を見る。
「……」
無言の圧力。
「えーっと……藤重さんは気づいてなかったかもしれないけど、夕夜はずっと『グー』だけ出してたよ。だから何かをするどころか、凄い手を抜いてたと思う」
「……ホントに?」
何故か鏡の方を向いて確認。
「そこは康に確認するところだろ。本当のことではあるが」
「そう。ならやっぱり私の運がなかったのよね……」
「まあ、なっちゃったものはどうしようもないし、一緒に頑張ろ?」
大童は最初から脅かす役志望だったので争いも無く決まった。そして時間は三人とも一緒である。
「そうね。何時までも愚痴愚痴言っててもどうにもならないものね」
「楽しまなきゃ損だよ」
ゆっくりと体勢を起こす。
「その通りね」
藤重は気持ちを何とか前に向けて、一先ず目先のことをすることにした。つまり弁当を食べる事である。
そうして昼休みは終わっていく。
平成25年9月14日13:47
大童の部屋。ゆったりとした時間を三人は過ごしている。
「来週は雨ばっかりみたいね」
「そーだねー」
「湿度も高くなりそうね」
「だねー」
「そんな来週に仕事だ」
鏡はパソコンを開いてから紙を取り出して渡した。
「これ……『小学生』ってどうするつもりなの?」
読み終えてすぐに口を開く。
「実現場所を通った『小学生』だな」
「一般人よ」
「そうしないと実現できないのはお前も分かってるだろ」
その言葉に藤重は視線を落とす。
「そうだけど……ならいっその事切り離すとか」
「確かに、切り離せば『小学生』がいなくても消せるかもしれない」
「なら――」
顔を上げて言おうとした言葉を、鏡は遮る。
「だが『かもしれない』だ。むしろ被害の広がる可能性の方が高い」
「――でも、『カオリさん』の時みたいにすれば」
「あの時とは前提が違う」
「……どういうこと?」
「あの時は『カオリさん』が実現してたから、切り離してもすぐに対応できて特に問題は無かったんだよ。だけど今回のは『小学生』がいない状態で切り離すってことになると、実現していない状態で切り離すってことだから……何処に出てくるかも分からないんだ」
「それに切り離せば『小学生』以外も襲うようになることだって考えられる。危険性は増すばかりだ」
「……」
頭では分かっていても、それを簡単には受け入れられない藤重は俯き、雰囲気が暗くなる。
「だから」
そこで、大童が明るめの声で切り出した。
「僕たちのやる事はこの『小学生』に絶対に被害を与えないことと、なるべく早く終わらせること、だよ」
「と言うよりも、お前等がいれば被害を与えないことは確実だ。だから、こっちの方が安全性も確証できる」
それらの言葉の数秒後、俯いたままの藤重が口を開く。
「……そうね。ここで迷ってても意味がないわ。なら、自分にできる事を確実にするべきよね」
「そうだね」
「よしっ!」
そう言って藤重は頬を自分の手のひらで二回叩いた。
「それで、どうすればいいの?」
叩き終えた藤重の顔はスッキリしていて、迷いも躊躇いも吹っ切れたようだ。その表情に大童は安心する。
その様子を見て、鏡は小さく笑ってから説明を始めた。その笑いに嫌味などは含まれていない。
「まず実現に必要な『雨』だが、これは来週なら問題ないだろ」
「そうだね。一週間ずっとだし」
「で、『小学生』については下校中に実現場所を通った奴を当てはめる」
「ええ」
『小学生』と言う言葉に藤重は拳を握ったが、すぐに力を緩める。
「そして消す方法だが、大きく分けて2種類だ。これも分かるな?」
「一つは『小学生を掴ませずに雨が止むのを待つ』よね」
「もう一つは『小学生を掴ませたうえで、引きずらせない』だね」
その答えに満足そうに頷く。
「あぁ、そうだな。それで今回は引きずらせない方を取る」
「でもその方が危険じゃない?」
「『雨』が何時止むか分からない以上、そっちの方が危険だ」
「あ、それもそうね」
「それに確実に成功させればいいだけだよ」
「そうね。でもどうやるの? 掴んだ瞬間に大童君が切るとか?」
「いゃ、『お前等』と言ったはずだ。康にはお前が失敗した場合に動いてもらう。二段構えってやつだ」
「ってことは私!?」
驚いて、自分で自分を指す。
「なるべくバレない方が良いんだけど、僕だとどうしても近くまで行かないといけないから」
「確かに、でも『雨』の中よね。外した場合はどうするの? それにもし『小学生』に当たっちゃったら……」
心配そうに尋ねる藤重。鏡は親指で大童を指して言う。
「その時の為の康だ。外しても康が切るし、もし『小学生』に当たりそうな場合は康が防ぐ」
「うん。でも今回僕は『念の為』だから……」
「分かってる。一発で決めるわ」
そう宣言した藤重の目には強い意志が見て取れた。
「ぜひ、そうしてくれ」
「頑張ってね」
「ええ、やるわ。絶対に」
「で、日時だが来週の水・木曜日のどっちかだな」
「他の曜日じゃだめなの?」
「狙いとしては『小学生』の帰宅時間を狙いたい。そうなると月・水・木の学園が7限授業の日に行うのが、実現予定場所近くの小学校を考えた場合に良いだろう。だが月曜は祝日で休みだからな」
「そういうことね」
「でも藤重さんは大丈夫? 部活とか」
「部活って言ってももう大会は終わってるから問題ないわ」
「でも部活には顔を出してるんだよね」
その言葉通り、藤重は大会が終わった後も今までと同じように部活に顔を出している。
「この辺りには弓道場はないから使わせてもらってるのよ。それと後輩の指導も」
「あー確かにこの辺りにはないよね」
「ある方が珍しいだろ」
「そうね。だから卒業したらどうしよう……?」
テーブルに肘をついて悩む。
「まぁ、その辺はどうとでもなる。話を戻すぞ」
「あ、うん」
悩むのと肘をつくのを止めて、話を聞く体勢になる。
「水曜か木曜かだが、いつも通り藤重次第だ」
「大童君たちは図書委員の仕事は?」
「無いよ」
「無いな」
二人は即答した。
「そう。ならー……そうね、どっちの方が確実に『雨』が降りそうとかは無い?」
「今の所どっちも100%だよ」
大童は携帯を開くと、この地域の天気予報を見せる。
「確かに100%ね。それならー……正直どっちでもいいんだけど、やっぱり早い方が良いわよね」
「そうだね」
「それなら水曜にするわ」
「じゃぁ水曜な。もし降らなかったら翌日で」
「了解」
「分かったわ」
「で、時間に関しては学園が終わり次第、15分くらいか。弓と刀を持って車で向かう」
「服は制服のままで大丈夫? もし見つかった時にどこの生徒かバレそうだけど」
「合羽を用意するから問題ない」
「それなら大丈夫ね」
「あぁ、後は部活をやってれば持ってると思うがタオルな。合羽を着てても濡れるものは濡れる」
「分かったわ」
「なら、何か質問はあるか? 無ければ終わりにするが」
鏡は二人を見回す。
「僕は無いよ」
「んーっと、一ついい?」
「何だ?」
「『雨』ってどのくらい降っててもやるの?」
その問いに、鏡は手を口元に持っていく。
「ふむ……お前次第だな。お前ができないと判断すれば翌日とかに延期すれば良いだろ」
「そう……」
「だが実現後に強くなったからって延期はできないからな」
安心した様子の藤重に、鏡は釘を刺しておいた。
「その時は最悪前が見えなくてもやるしかないわね」
「でもそこまでの大雨は滅多に無いと思うよ?」
「まあ私も来ないとは思うけど。それに夜ならともかく、あの時間なら見えないなんてことは無いわよね」
「と言うか、そんなのが来たら浸水するだろうな」
「あー……確かに」
と、大童はその様子を想像したのか、乾いた笑いを浮かべている。
「と言うわけで、あまり気にする必要もないな」
「そうなるわね」
「それじゃぁ、他にはあるか?」
「無いわ」
「なら仕事の話は終わりだ」
パソコンを閉じる。それを合図に三人はそれぞれのやりたいこと、やることをし始めた。
10月の3連休が2連休に……もう何か別にいいや。
それにしても、
前回書いた「火曜日は残業確定」は、
「水曜日は残業確定」が正解でした。
その週の出勤2日目と覚えていたのですが、
土曜出勤と月曜祝日のおかげで曜日がごっちゃになってました。
……まぁよくあることです。
次回は二十五話を書き終えてから載せます。