UL   作:招代

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現実はこう上手くはいきません。
それどころか自分のは調子が良すぎると思います。
リアルさが無いのでしょう。
力が足りていないからこうなるんです。

いゃまぁ、
こういったものにリアルさを求めすぎてもどうかとは思うんですけど。
でも都合がよすぎるのはよくないか……。

自己非難しすぎるのはよくないですか。
兎にも角にも後編を投稿。


第二十四話 『星を見る少女』 後編

平成25年10月20日19:34

 あの出来事から数分後。布団で横になっている『少女』の瞼が僅かに動き、薄らと開き始める。

「ん……」

「意識が戻ったみたいね」

「ここ、は……」

「君の住んでる隣の部屋だよ」

 まだ意識がはっきりしておらず、ぼんやりとしている『少女』の問いに、大童は優しい声ではっきりゆっくりと答えていく。

「隣の部屋……? どうして」

 焦点の合わない目で声のした方をみる。

「僕たちがこの部屋に帰ってくるときに、外から君が首を吊っているのが見えて。だから君の部屋から、気を失っていた君を運んできたんだよ」

「首を……吊っ、て……?」

「覚えてない?」

「ぇ……」

 僅かに驚きを見せた『少女』は、はっきりとしない頭で記憶をたどりながら、同時に手を首元へもっていくと、確認するかのように指でなぞる。

 

「……ぁ」

 そして意識が覚醒していくにつれて、その顔には戸惑いの表情が浮かんでくる。

「な、んで……ど……して、いき……」

「それは――」

 

「それは、僕が君が死ぬ前に助けたからだよ」

「え……」

 藤重が答えようとしたのを手で遮って、大童がはっきりと答えた。

 その言葉に『少女』は呆然としたかと思うと、

「どうしてっ!! ……ぁ」

 いきなり上半身を起こして大声を出す。しかし、急だったためにすぐにふらついて倒れそうになってしまう。

 それを藤重が支えた。

「今まで寝てたんだから、急に起き上ったら危ないわよ」

 藤重が心配するが、それは耳に入っておらず、『少女』は体勢を直すと大童を睨みつけながら叫ぶように言葉を発していく。

「どうして、どうして助けたりしたんですかっ! せっかく死ねるところだったのにっ……何で邪魔をするんです!! やっと死ねると思ったのに、やっと……やっと椅子を蹴った、のに……なんで……なんで助けて、しまうんです、か……なんで……なんで……」

 途切れ途切れになっていく『少女』の言葉には最初の勢いは無く、語調は悲痛なものに変わっていた。そして睨んでいた目には涙がたまり、『少女』が下を向くと布団に零れ始める。手は布団を強く握っていた。

「やっと……やっと、楽になれ……と……もったのにっ……!」

 嗚咽をこらえながら話していた『少女』の頭を、大童がそっと撫でてから優しく語り掛ける。

「本当に死にたい人は『やっと』、なんて、使わないよ。そんな風に泣いたりしないよ。本当は……生きていたいんじゃないの?」

「そん、な……こと」

「それに、死にたいならもっと早くすることもできたし、カーテンを開けておく必要もなかった。なによりもっと確実に死ぬ方法だってあったはずだよ」

「それは……」

 黙り込んでしまう『少女』。

「もう一度聞くよ」

 一呼吸おいて、今度は真剣な表情で問いかける。

 

「生きていたかったんじゃないの?」

「わ……わた、し……私……」

 大童と藤重は何も喋らず、『少女』の言葉を待つ。

 

 数分して『少女』は堰を切ったように話し出した。

「ほんと、うは……死ぬのが、怖かったんです。死にた、く……ない……生きていたかったんですっ……! でも自分じゃ、どうしようも、きな、く……て。どうして……いいかも、わからなくて。でも、お父さん、や、お母さんに……迷惑をかけたくなくて……だから……死ぬしかできなくて。もう、それしか考えられ……なくて……でも死、にたく……なかっ、た……生き、て……た……い」

「そっか」

 『少女』の告白に、大童は安心して表情を緩める。

「よければ話を聞くよ。誰かに話すだけで少しは楽になると思う」

「でも……」

 躊躇う『少女』に、丁寧に言葉をかける。

「大丈夫。迷惑なんかじゃないよ。僕たちがお願いしてるんだから」

「……」

 『少女』が顔を上げて大童を見ると、大童は無言で頷く。藤重を見ると、同様に頷いて見せる。

「……」

 『少女』は俯くと、暫くの間そのままだった。

 

 十数分後。

「私」

 と、呟いた『少女』は覚悟を決めたのか、顔を前に向けて話し始めた。

 

「私、二年前まではここで両親と暮らしていたんです。でもお父さんの仕事の関係で引越しをすることになってしまって……でも、私は引っ越しをしたくなかったんです。だから私だけここに残らせてもらえるように何日も頼んで、ようやく残らせてもらえることになったんです。それから私は一人暮らしになりました。生活費は両親から月に一回仕送りが来るので、それで生活をしてます。そして中学を卒業した私は、高校生になりました。それで、その……入学して暫くは平穏に楽しく過ごしていたんです、が……」

 言葉を詰まらせて、下を向いてしまう。その表情は髪で見えない。

「一ヶ月ぐらいたったころだと思います。その頃から嫌がらせを、受けるようになって……最初は大したことはなかったんですが、次第にエスカレートしてきて……友達だった子もするようになって。それでも……それでも一学期の間は耐えました……本当は学校に行きたく、ありませんでした……辛かったんです。でも、自分の我儘でここに残ったんだから、学校はちゃんと行こうって。だから一学期は登校していたんです。けど夏休みになって、お盆に両親が帰ってきても、二人を心配させたくなかった……それに言うのが怖かったんです。そのことを言った後の両親の反応も考えると……もっと、怖くなって……迷惑なんじゃないかって……だから何も言えなかったんです。だから両親はこのことを知らないまま、お盆が終わって帰っていきました。それから二学期の始まる時期になりました。でも……私は学校には行かず、最低限の外出だけで引きこもるようになりました。怖、かったんです……二学期はもっと酷くなるのかもしれないって、夏休みの間ずっと考えちゃって……本当に……怖かったん、です」

 話し終えて、『少女』の目から涙が流れた。

 

 涙を藤重からもらったハンカチで拭いて、落ち着いたところで顔を上げた。その目は泣いたせいで赤くなっている。

「……すみません。これは洗って返します」

「……そうね。分かったわ」

 最初、遠慮をしようと思った藤重だが、少し考えてそれをやめた。

「それで、話してくれてありがとう」

「いえ……私こそ、こんな話……ごめんなさい。でも少し、楽になりました」

「そっか……それなら良かったよ」

「……」

「……」

「……」

「……それで」

 沈黙の中、大童が口を開く。

「君はこれからどうするの?」

「これからって……」

 大童のほうを見た『少女』の目を見て言う。

「また、自殺をするの?」

「それは……」

 視線を落とす『少女』。

 

「正直、分かりません。今でも死ぬのは怖いですし、あの時の感触を思い出すだけで苦しくなります……だから本当は生きていたいです。でも……どうすればいいのか分からないんです。学校には行きたくありません。でも両親に迷惑はかけたくない……」

 そう言った『少女』に大童は声をかける。

「ねえ」

「……はい」

 大童は、こちらを向いた『少女』に怒ってるような厳しい声で尋ねた。

「君の両親って、君の事を迷惑に思うような人なの? 君のことが邪魔なの?」

「それは……」

「僕は君の両親がどんな人かは知らない。でも君はどんな人達なのかよく知ってるよね」

「……うん」

「もう一度聞くよ」

 大童ははっきりとした口調で言う。

「君の両親は、君の事を迷惑に思うような人なの? 君の事が邪魔なの?」

「……そんなこと、ない、です」

 大童の言葉を否定した。

「でも言えないんです……言うのが、怖いんです……」

「うん。怖いなら無理に言わなくてもいいと思うよ。でも、自殺をするのは違う」

「どうして、ですか」

 

 その問いに、大童は一度視線を落としてから答える。

「君が自殺をするってことは、君の両親は『自殺した娘の親』っていう目で周りから見られることになるんだよ。嫌でもそういうレッテルを貼られる。君は本当にそれでいいの?」

「そんなの……いいわけないじゃ、ないですか……」

 『少女』が拳を握り締めて答える。その声は震えているように感じた。

「でも……だったらどうしろって言うんですかっ! どうすればいいって……言うん、ですか……」

 

「つまり、学校を辞めて、親にそう言った心配をかけさせなければいいんだろ?」

「へっ?」

「だ、誰ですか……」

「あ、やっぱりもう来てたんだ」

 襖の方から突然聞こえた声に素っ頓狂な声を上げる藤重と、おびえた様子の『少女』。大童は特に驚くこともなく、声の主のほうを見る。

「あぁ。ただ、登場の機会をうかがってたんだ」

 そこには私服の鏡がいた。

「機会って……いや確かにあの雰囲気じゃ声はかけ辛いわよね。でも大童君は気づいてたの?」

「いや、気づいてなかったよ。でもさすがに遅かったから」

「そういうことだ」

「なるほど……」

「あの……誰、なんですか?」

 状況の分からない『少女』が大童を見て聞く。

「そこの二人の友人、仕事仲間だな」

「仕事仲間……?」

「まぁソレに関しては後で説明する。今はさっき言ったことに関してだ」

 鏡は移動して、大童の左に座った。

 

「『学校を辞めた上で、心配をかけさせない方法』ね」

「そうだ。そしてこれに関しての答えは簡単だ」

「簡単って……そんな風に言わないでください」

 『少女』が嫌悪交じりで鏡を見る。

「そう言われてもな。で、どうするかというと、お前を『株式会社UL 新潟県支部』に就職させる」

「は?」

 『少女』は先ほどの嫌悪も忘れて、そんな声を上げる。頭が追い付かないようだ。まぁ、当然だと思うが。

 

「この人は、何を言っているんですか……?」

 困惑している『少女』は藤重を見る。

「えっと、いきなりこんなこと言われても困るわよね。私も同じだし。ごめんね?」

「あ、いえ、それはいいんですが……」

「つまりね、そのままなんだけど、『ULに就職しないか』って聞いてるのよ」

「あ、もちろん無条件というわけではないがな」

「え……でも『UL』ってあの『UL』ですよね」

 『少女』が鏡を見る。

「どのことか知らんが、恐らくあっている」

「え、いゃ……『UL』って。私が、ですか?」

「お前以外にいないだろ」

「……あの、冗談はよしてください。第一何であなたがそんなことを決められるんですか」

「えっと、ね。冗談みたいだけど、あの人、『UL 新潟県支部』の支部長なのよ……冗談みたいだけど」

 藤重が片手で頭を押さえながらそう言った。

「ちなみに僕はそこの社員で」

「私はアルバイト」

「……本当に、ですか?」

 いきなり出てきた鏡のことは信じられないが、大童と藤重の事はそれなりに信じているようだ。それでも内容が内容なだけに半信半疑だが。

「本当だよ」

「残念ながらホントなのよ」

「……」

 無言になる『少女』。

 

 少ししてから鏡が確認する。

「信じたか?」

「……はい。信じられませんけど、信じます」

「ならいい。ならさっきの事も理解できるな?」

「それも分かりましたけど……両親には……」

「それはこっちの副支部長に、説明してもらうから問題ない」

 今度は大童を見る。

「大丈夫。信用できる人だよ」

「その……なら、そこは分かりました。でも『無条件じゃない』っていうのは」

 とりあえず納得した『少女』は次の疑問を口にした。

 

「さすがにこのまま雇うのは問題がある。主に学力的に。だから平成28年3月まで一週間ずつ宿題を出させてもらう。それを解いて毎週送り返せばいい。ただし何か用事があった場合は連絡すれば調整する」

「宿題、ですか」

「あぁ、後もう一つ。それをしっかりやって就職した場合、就職先は『株式会社UL 新潟県支部』だからな。支部のある方に引っ越してもらう」

「引っ越し……」

「引っ越し先と費用はこちらで決めて出す。なに、オンボロアパートとかは選ばないから、そこは心配するな」

「そこは心配していませんでしたが……」

「そうか、なら他に何か質問はあるか?」

「……その」

「なんだ?」

 

「……どうして、初めて会った私なんかにそこまでしてくれるんですか?」

 鏡たちの行動が理解できないようで、そう尋ねた。

「決まってるだろ。また死のうとされたら目覚めが悪いからだ」

「……」

「詳しく言えば同情じゃないし、助けたいわけでもない。死なせたくないだけだ」

「そう、ですか」

 素直に答えた大童に、藤重は『少女』がいるのであからさまにではないが、若干の非難の目を向ける。

「もっと他に言い方があるでしょ……」

「いえ、いいんです。同情なんかよりずっと良いです」

 そう答える『少女』の顔は、心なしか先ほどよりスッキリしている気がした。

「あなたがそう言うなら……いいんだけど」

 若干納得できないながらも、本人が言うので非難の目をやめる。

 

「それで、もう一つ質問があるんですが」

「いいぞ」

「あなたたちは……何者なんですか?」

「何って、支部長と社員とアルバイトだ」

「誤魔化さないでください。それに、なんでそんな人たちがここにいるんですか」

「そうだな……ソレに関してはお前がこの手をとったら答えることにしよう」

「手?」

「お前はまだ答えを出していないだろ。差し出された手をとって新しく始めるか、とらずに今までを繰り返すのか、だ。今までを選ぶならさっきの質問に答える必要はないからな」

「あ……」

 『少女』は何も答えを出していないことに気付き、そのことで少し表情が陰る。

 

 そして、

「ごめんなさい……少し、考える時間が欲しいです」

 鏡をみて、頭を下げる。

「構わない。ゆっくり考えるといい」

「すぐに答えを出せるものではないしね」

「ならこれは連絡先だ。答えを決めたら連絡するといい」

 鏡は自分の連絡先を書いた紙を渡す。

「分かりました」

「ならそろそろ帰るぞ」

「そうね」

「了解」

 鏡が立ち上がると、大童と藤重も立ち上がる。

「あ、これはこの部屋の鍵だ。ゆっくり休んで帰るといい」

 ポケットから鍵を取り出し渡す。

「あ、はい」

「じゃ、行くか。またな」

「またね」

「また今度ね」

「あ……はい。また」

 部屋を後にする鏡たちを、『少女』は少し呆然としながら見送った。

 

 

平成25年10月20日20:41

「大丈夫かしら……」

 あの部屋を出てから、少し歩いた道中。藤重が後方を見て心配そうに言う。

「大丈夫だよ」

「大丈夫だろ」

「そう、かしら」

「うん」

「気長に連絡を待つさ」

「……そうね」

 少し暗い雰囲気を消すように、鏡は一回手を叩くと、

「ま、これで明日から学園に復帰だな」

 わざと軽い感じの声でそう言った。

「だね」

「そういえばそうだったわね」

 そんな風に、三人は話しながらそれぞれの帰る場所に帰っていった。

 

 2日後、藤重と大童に鏡から、少女から連絡が来たことと、言霊が消えたことが伝えられた。

 

 

 

第二十四話『星を見る少女』終了。

 




ネガティブは前書きでしたからいいや。

本当はこの二十四話で文化祭も少しやりたかったんですけどね。
予想外に延びたもので。
次回に引き越します。

今回は日木日木日と来たので水曜に投稿したんです。
なので次回は土曜に投稿します。
ただ、
土曜が仕事なので土曜に書き終えるのは厳しい気がします。
ですから、
できるところまでやって土曜にストックを使ってでも投稿しますので。
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