UL   作:招代

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前書きではもう何も言うまい。


第二十九話 『人面犬』 最終話 後編

平成26年3月4日10:19

 昨日よりも物のなくなった大童の部屋。と言っても元から少ないので大した変化はないのだが。

 

 そんな部屋の中でいつも通りに過ごしながらも、いつもよりしんみりした雰囲気の大童と藤重。

「明日にはもう卒業してるのよね……」

「卒業したらもうこの部屋に来ることも無いんだよね……」

「卒業式だからな」

 そんな二人とは違い、本当にいつも通りな鏡は本を読んでいる。

「大童君は卒業したその日に寮を出るのよね?」

「うん。卒業式前にはもう部屋を空にして、卒業式が終わったらそのまま新居の方に行く予定だよ」

「そう」

「……」

「……」

 どことなく会話が続かず、沈黙が下りてくる。

 

 暫くして、そんな状態の中ようやく藤重がポツリと呟いた。

「何ていうか……色々あったわね」

「そうだね」

「まさか入学した時はこんな学生生活を送ることになるなんて、思ってもみなかったわ」

「まあ、普通は思わないよね」

 少し笑ってからそう答える。

「でも何だかんだで楽しかったわよね」

「うん、何だかんだじゃなくても楽しかったよ」

「……そうね。楽しかったわ」

 二人の脳内に学園での思い出が再生されていく。

 入学や出会い、委員会に部活、目撃と入社、体育祭文化祭スキー授業に修学旅行、その他ちょっとしたイベントや平凡な日常、そして仕事。

 楽しかったこともそうでないことも、懐かしい記憶が思い出されていく。

 

「本当にいろいろあったね」

「色々あったわね……」

 しみじみと思い出に浸っている二人を見て、それまで黙っていた鏡が唐突にこんなことを言った。

「確かに色々あったな。例えばこれとか」

 意地の悪い笑みを浮かべて一枚の写真をテーブルに置く。

 

「うん?」

「何? ――って、あぁぁー!!」

 ソレを確認した瞬間藤重が物凄い勢いでテーブルの上の写真に手を叩きつけて、手元に引き寄せ何度も隠して見返すを繰り返している。

「えっ、何? どうしたの!?」

「さあ?」

 写真を確認しきれずその様子に戸惑っている大童に、わざとらしくしらばっくれる鏡。

「ちょ、え!? 何この写真! 何でこんな写真があるのよ!! っていうか何時撮ったのよ!?」

 分かりやすく赤面しながら動揺している藤重は、怒りながら鏡の方を向く。が、テンパり過ぎて怒りきれていない。それに頭の上どころか体のまわりまで疑問符でいっぱいだ。

「何時ってその時しかないだろ そんなことも分からないのか?」

 馬鹿にするように言った後に、さらに馬鹿にするように「ハッ」と息をはく。

「何勝手に撮ってるのよ!」

「面白そうだったから」

「なっ」

「あと良い雰囲気だったしな。それに撮るのを遠慮する間柄でもないし」

「だからってねえ……!」

 目を瞑りこぶしを握り、ぷるぷると震えている。

 

「えっと……結局何だったの?」

 一人、事態の呑み込めない大童は、やはり戸惑った様子で藤重に問いかけた。

「な、何でもないわ! 大童君は気にしなくていいのよ!」

 慌てて写真を後ろに隠す。

「ええっと……」

 今度は鏡を見る。

「落ち着いた時にでも見せてもらえばいいだろ。これ以上いじると暴れかねない」

 藤重は恨めしそうに、じぃーっと鏡を睨んでいる。

「……そう? ならまた今度にするけど」

 気になりながらも、この場で見ることは諦める大童。

 

 それから少しして藤重も落ち着きを取り戻した。

「……他にも持ってないわよね?」

「さぁな」

「……」

 ジロッと鏡をまた睨む。ただ、鏡はそれを気にする様子はない。

 

 結局何の写真だったのかと言うと、体操着姿の大童と藤重が映っている写真である。その中では全く平常心になれていない藤重が、大童にタオルなどを渡していた。

 それは何となく雰囲気の伝わってくる良い写真で、ただそれだけなのだが、本人にはとても恥ずかしいものだったようだ。

 

 その後、追及を諦めた藤重。思い出話を続ける三人。

 

 そうして、三人で集まる最後の都学園寮内大童の部屋での時間を終えた。

 

 

平成26年3月4日22:10

 いつもよりゆっくりと歩いていた二人がアパート前に到着。

「それじゃ、また明日。学校で」

「ええ、また明日」

 大童は、自室に入っていく藤重を見届けてから寮に帰っていく。

 

(そういえば寮から送るのもこれで最後か……)

 

 

平成26年3月4日22:30

 いつもよりゆっくり歩いて帰宅。部屋にはまだ本を読んでいる鏡がいた。

「ただいまー」

「あぁ、かえりー」

 一瞥して、すぐに本へ視線を戻す。上着を脱いだ大童は座って、鏡と同じように本を読み始めた。

 

 時間は過ぎていき、

「……ふぅ」

 読み終えた大童が本を閉じる。

「そういえば結局何の写真だったの? あれ」

「ん、あーあれか。何てことは無い、ただの青春の一枚ってやつだな」

「青春の一枚?」

 首を傾げて、本を閉じた鏡を見た。

「ま、実物は本人に見せてもらうといい。そのうち見せてくれるだろう」

「そっか、ならその内に」

 

 それからさらに時は経ち。

「夕夜としてはこの学園生活はどうだったの?」

 少し慎重になりながらそう訊ねた。

「そうだな……」

 後ろに体重をかけて上を見上げる。

 

 数秒の間そのままの姿勢でいたが、

「楽しかったかどうかで言えば楽しかったよな」

 表情も変えずにそう言って、体勢を戻す。

「ただまぁ、前にも言ったが目的は『一日一日を極力楽しく過ごす』だから『学生生活』である必要性がないし」

 鏡の言葉に大童は口を挟まず、黙って聞いている。

「お前等と違って高校の卒業式が最初ってわけでも無ければ、最後ってわけでも無いからな。感慨深いものとかが薄れるのは仕方がない」

 そして息を一回はいて、

「それでも楽しめたんだから、充分だろ」

 鏡は話を終えた。大童はそれを確認してから一言だけ、

「そっか」

 と。どこか嬉しそうに呟いた。

 

 それから二人は本を読んだり、中学生の時の話をしたりして卒業式前日を終えた。

 

 

平成26年3月5日9:14

「おはよ」

「おはよー」

「はよ」

 私物が無くなりスッキリした教室で、卒業式の為いつもより遅い時間に来た藤重が2人に挨拶をして席に座る。

 

「いよいよね……」

「うん。そうじゃなかったら吃驚だよ」

「それはそうだけど」

 藤重は緊張しているようだが、大童は落ち着いているようだ。鏡は言うに及ばず。

「大したことをするわけじゃないんだから、へまするなよ。それはそれで面白いかもしれないが」

「しないわよ」

「まだ時間はあるしその間に落ち着けばいいと思うよ」

「そ、そうね確か10時からよね」

 時計を見ながら言う。

「だね」

「なら時間はあるわね……」

 

 そして時間になり、廊下に整列を始める。

「大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ……また緊張してきたけど」

「……まあ、頑張って」

 大童はどうすることもできないので、そう声をかけて自分の場所に並ぶ。

 

 整列が終わり時間が来て、3年生は卒業式へと向かい始めた。

 

 そうして、学園生活の締め括りが行われた。

 

 

平成26年3月5日13:37

 卒業式が終わり、寮へは寄らずに一緒に帰っている三人。

「あー、そういえば弓道場は今後も使っていいそうだ」

「え、いいの?」

 驚いた様子で聞き返す。

「今まで通り指導もするならって条件だけどな。生徒がいたときだけでいいそうだが」

「そう、分かったわ。ありがと鏡君」

「気にするな」

 

「それにしても……」

 と、改めて上に思いっきり伸びる。

「終わったわねー……」

「そーだねー」

「そうだな」

「これで4月になれば社会人になるのよね?」

 支部長である鏡の方を向く。

「何も問題を起こさなければな」

「しないわよ」

「何にせよ入社式は4月1日だ。詳しくは明日紙を渡す」

「分かったわ。今まで通りみたいな感じで大童君の家に行けばいいのかしら? ……と言うより、行っても良いのよね?」

「もう荷物も片付いてるし大丈夫だよ」

「だ、そうだ」

「それなら明日行くわ」

「うん。いつでも来ていいよー」

「どうせ仕事関係で入り浸るんだしな」

「そうね……そうさせてもらうわ」

 藤重は少し考えてからそう答えた。

 

 

平成26年3月5日13:46

「それじゃ明日行くわね」

「また明日」

「明日な」

 アパート前まで来て藤重と別れた大童と鏡は、大童の家に向けて歩き出す。

 

「弓道場は夕夜の家のは使わせてあげないの?」

 暫く歩いたところで大童が問いかけた。

「入社してからでいいだろ。それに、非常識な時間でなければいつでも使える場所っていうのは必要だろ」

「確かに。夕夜がいなかったら入れないからね」

「後、学園との繋がりがあればいろいろと便利だしな」

「色々?」

「例えば肝試しに参加させる口実とかな。そろそろ慣れてもらいたいところだ」

「あー」

「ま、慣れなくてもそれはそれで面白いわけだが」

「はは……まあそうだね」

 意地悪く言った鏡の言葉を否定せずに、大童は小さく笑った。

 

 

平成26年3月5日13:57

 大童の家前。

「そういや入社式、康も行くだろ」

「うん。せっかくだから見ておこうと思って。それがどうかしたの?」

「いゃ、念のための確認だ。切符とか諸々があるからな」

「そっか」

「あぁそれだけだ。詳しい日程は明日一緒に説明するし。と言っても例年通りだが」

「了解」

「じゃ、明日な」

「明日ー」

 軽く手をあげて鏡と別れ、大童は家の中に入っていく。

 

 そうして入社式までの間、また自由登校期間と変わらない日常を過ごすのであった。

 

 

平成26年4月1日1:00

 株式会社UL新潟県支部新入社員入社式会場。

 会場内前方には新しいスーツに身を包んだ新入社員が数十人。

 その後方には入社式に出席している社員の方々。

 側方には重役の人達。

 

 この日この時を境に、藤重のUL社員としての日々が始まる。

 

 

 

 ……と言っても、営業などが偶にはいったり仕事量が増えただけで、今までと大して変わらない日々が続いていくわけなのだが。

 

 戦いの日々は楽しい日常とともにこれからも続いていく。

 

 

 

第二十九話『人面犬』終了。

 

UL最終話終了。

 




まず初めに。
ここまで読んでくださった皆様、
有難う御座います。
惰性であろうとなかろうと最後まで読んでくださったのであれば嬉しい限りです。
本当に有難う御座います。

さて、
終わり方がどうであれ『UL』はここで終わりになります。
ですが前にも書きました通りその後の話も数話考えてはいます。
ただし次回作をいっぱい書き溜めて、
投稿してからにしようと考えていますので、
数年後になると思います。

それどころか結局書かない可能性もあるかもしれないので、
忘れていただいて結構です。

次回作の投稿につきましても、
いっぱい書き溜めてから載せたいので少なくとも来年以降になります。
あと積みげーも消費したいですし……ですから、
「招代」のことは忘れていただいて、
次回作が投稿された後、
気になったら目次だけでも見ていただいたらうれしいです。

次回作の内容については、
『UL』と共通世界設定で行います。
世界が同じだけで『UL』の人が登場する予定は今のところありませんが。
それと、
書き方を変えて主人公の視点オンリーにしたいと思っています。

……こんなくらいでしょうか?
書き忘れがあればまた後書きを書き足したりします。
あ、
数少ない読者の皆様、
無いかもしれませんが質問等があれば受け付けます。
絶対に答えられるとは約束できませんが。

それでは運良く気になってもらえたら、
次回作で会いましょう。
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