蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~ 作:ブーミリオン
「じゃあな」
俺はそう告げ教室を後にする。
今日も晶也たちは倉科さんの指導をするそうだ。
まぁこの島で生活する以上、飛べるようになっておいた方が都合がいいことは確かだ。
俺みたいに毎日歩いて学校に来るなんて少数だと思うからな…
今日は図書室でも行って時間つぶしてから帰るか…
***
「っとそろそろ帰らないと…」
どうやら自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。
時刻は5時。
そろそろ帰らないと図書室を閉められてしまう。
そう思い俺は帰り支度を始めた。
帰り道俺は少し歩きたい気分だったので違う道で帰っていた。
グラシュだったら見えない景色が歩きだと見えるのが俺は好きだ。
それに歩きは運動にもなるしな。
グラシュなんてなくたって…
そう思うも俺は最後まで言葉を言うことはできなかった。
俺の中でまだ何かくすぶっているのだろうか…?
もう見切りはつけたはずなのに…
そう思い顔をふと海岸に向けると2人の女性が空中で何かをしているのが見えた。
あれは…
そう思い彼女たちの下を見ると、晶也と暑苦しそうな男性が立っていた。
その光景を見て俺の足は勝手に海岸へと向かっていた。
「晶也」
「ん?潤か。どうしたんだ?」
「それはこっちのセリフだ。…って、えっ?倉科さん!?」
俺は試合をしている人物を見て驚く。
なぜならそこにいたのは昨日から飛び方を教わっている倉科さんだったからだ。
「何で彼女がFCなんてやってるんだ…?昨日の今日で出来るほど簡単なものじゃないだろ、FCは」
「まぁそうなんだけど…。なんでも院の字を守るとか言って…」
「はぁ?」
意味が分からない。
院の字…?
とにかく俺は倉科さんの試合を見ていた。
「佐藤院9ポイント…」
審判の声が小さく響く。
相手の選手が強いとかそういう問題ではない。
倉科さんは飛ぶことも満足にできないのだからこのうような結果になるのは最初からわかっていたはずだ。
なのに…どうして…
晶也もセコンドとして頑張ってはいるが初心者の倉科さんには厳しいものがある。
そう思っていると試合が動いた。
「背中をいただきます!」
晶也の指示で動いていた倉科さんが相手選手の背中を狙う。
…なかなかいい作戦だ。
でも……
「そうはさせません!」
「あっ…」
相手も狙いはわかっていたのか倉科さんの攻撃をかわす。
これで10ポイント目。
試合も終わりか…と俺が視線を切ろうとしたときそれは起こった。
ギュインッ!という音と共に相手選手の背中がタッチされた。
「「えっ?」」
俺と相手選手の声が重なった。
「何が起こったんんだ!?」
「エアキックターン…」
「えっ?」
「エアキックターンだよ。彼女がやった技は」
晶也はちょうどその場を見ていなかったようで俺が晶也の質問に答える。
にしても初心者でそれに競技用じゃないグラシュでエアキックターンか…
おもしろい子だな、彼女は。
…っと面白いものも見れたし俺はお暇するか。
「じゃあ晶也、また明日な」
「お、おい。ちょっと待てよ」
晶也の制止を無視して俺はその場を後にする。
俺にとってFCの話は楽しいものじゃないから…
***
翌日、俺が学校に来ると昨日審判をしていた男性が晶也と倉科さんに何かを話しているところだった。
何やら面倒事な気がして挨拶もせず俺は自分の席へと向かう。
が、彼女はそれを見逃さなかった。
「あっ、藤宮さん。おはようございます」
「あ、あぁ。おはよう、倉科さん」
急に話しかける倉科さんに驚きつつも俺は挨拶を返す。
でも話が中断されれば注意はもちろんこっちに向くわけで…
「おぉ!君は昨日一緒にいた…「藤宮です」そうそう藤宮君だ」
昨日一度も話してないのに顔は覚えられていたようだ。
「俺は青柳紫苑。九奈浜FC部の部長だ。どうだ、君も九奈浜FC部に入らないか?倉科と日向は入ってくれるようだが」
「俺は入るなんて一言も言ってませんよ!?」
「ん?そうだったか?」
なるほど。
晶也はずっとこの人に勧誘されていたわけか。
確かに昨日のセコンドしている姿を見たら明らかに経験者って分かるだろうしな。
しかし俺は見ているだけでそんなこと思われていないはずだ、と心の中で安堵する。
もしそんなことが知られれば晶也のように熱心に勧誘されることだろう。
「すみませんが俺は飛ぶこと自体そんなに好きではないんでFC部に入ることはできません。その証拠に毎日歩いて登校してますし」
そんな俺のセリフに紫苑さんもといFC部部長は罰の悪そうな顔を浮かべ、
「そうか…なら仕方がない。じゃあ改めて日向に言うが…」
そう告げ、晶也の方に向き直しまた話をし始めた。
晶也から助けろという視線を向けられるが、俺には関係ない話なので視線を無視し、俺は自分の席についた。
***
「なぁ日向――――――」
翌日も部長さんは来たようだ。
晶也に話を聞くに何度も断っているらしんだが、どうも諦めが悪いらしい。
まぁ2日連続で断らればさすがに諦めるだろ。
***
「日向ぁ!!―――――」
次の日も部長さんは俺の予想に反して晶也を尋ねに来ていた。
なぜそんなにも晶也がいいのだろうか?
まぁ今日断れば明日は…
***
「日向?―――――――」
***
「おーい!日向!―――」
***
「待ってくれ日向ぁ!―――」
***
朝、昼休み、放課後、全てのタイミングで部長さんが晶也を尋ねてきて今日で一週間が経った。
今日も晶也は本当に嫌そうな顔を浮かべ部長さんと話している。
っとそんなことを考えていると晶也が俺に近づいてくる。
どうやら今日の話は終わったらしい。
「おつかれ」
「…あぁ」
酷く疲れている晶也に俺はねぎらいの言葉をかける。
にしてもあの人よく折れないよなぁ…
こりゃあ晶也の方が折れるの早そうだな…
なんて考えていると晶也から声がかかる。
「倉科さんとみさき、それに有坂もFC部に入るらしい。とりあえずこれで勧誘は終わりそうだ」
あの3人が…ねぇ。
倉科さんはなんとなく分かるが、みさきは少し以外だったな。
有坂はみさきにくっついての入部なんだろうけど。
「そうか。じゃあこれで普段仲のいいやつらのほとんどがFC部に入ったってわけか。俺と晶也の2人以外」
「そうだな…。あっ、そう言えば今日俺日直だったんだった。今日は先に帰っててくれ」
「そう言えばそうだったな。分かったよ、じゃあまた明日な」
そう告げ俺は教室を後にした。
この後晶也に何が訪れるのか知りもせずに…
***
「頼む!FC部に入ってくれ!」
「はぁ?」
翌日学校へ行くと晶也が頭を下げながら俺にFC部への勧誘を始めた。
晶也の横には倉科さん、みさき、有坂、窓果といったいつもの面々が陣取っていた。
俺を逃がさないフォーメーション…だよな。
「FC部って…晶也お前昨日まで頑なに断ってたじゃないか。なのに何で急に意見が180度変わってるんだよ」
「それはその…色々あって……」
「色々…?まぁ別に興味もないから詳しく話せなんて言わないけど、俺は何をされても言われても入らないぞ、絶対に」
俺は自分の意見を言い切る。
晶也のように断れない性格ならいずれ折れてしまうことは容易に想像できる。
だからこのように最初からきちんとこちらの意見を言うことが大切なのだ。
「それに俺が飛ぶこと嫌いだって知ってるだろ?毎日歩いて登校しているくらいなんだから。そんなやつをFC部に誘う暇があったら別の誰かを探した方が得策だと思うぞ」
「確かにそうかもしれないけど、俺は潤に入ってほしいんだ」
なかなか折れない晶也。
晶也ってこんな性格だったっけ…?
「それに潤はエアキックターンのことを知っていた。つまりFCの経験があるか見たことはあるんだろ?」
!!
晶也はしっかり覚えてたか…
確かにそこを突かれちゃ言い逃れはできないかもしれないけど…
「だとしてもだ。エアキックターンのことを知っていたからといって俺が入る理由にはならない。俺に経験があっても、今の俺は飛ぶことが嫌いなんだ。誘うなら他の奴を…」
と言いかけたところでこれまで黙って話を聞いていた倉科さんが口を開く。
「飛ぶことが嫌い…なんですか?あんなに楽しいのに?」
「……空を飛ぶことは楽しいことばかりではないんだ。飛び始めたばかりの君じゃ分からないかもしれないけど」
「えっ…?それってどういう…」
倉科さんが何かを言おうとしたところでキンコーンカンコーンとチャイムが鳴った。
いい時になってくれるもんだな…
「時間だ。席につかないと何か言われるぞ」
俺がそう告げると各々の席へと向かった。
***
放課後俺はすぐに教室を出た。
またやつらに絡まれたら面倒だと思ったからだ。
そうして靴箱まで行くとそこには仁王立ちしている有坂の姿があった。
「藤宮先輩!逃がしませんよ!先輩の行動は私に筒抜けです!」
「……はぁ」
俺は溜息を吐いて自分の靴箱を開け靴を取り出す。
言わずもがなグラシュだ。
競技用でないだけまだいいものの、それを見ていてあまり良い気持ちにはなれない。
そのグラシュを床に投げ俺は靴を履き始める。
「ちょ、ちょっと藤宮先輩!?話聞いてます?」
そう慌てて告げる有坂に俺はグラシュを吐きながら告げる。
「聞いてるよ。でも有坂だけじゃ人手不足だったな」
「えっ?それってどういう―――」
「じゃっ!」
有坂の言葉を最後まで聞く前に俺は走り出した。
毎日運動しているためか俺の走るスピードは速かった。
「ふ、藤宮せんぱーい!」
なおも嘆く後輩に向かって俺は一度振り向き「悪いな」と口を動かしその場を後にした。
***
「ましろー、どうだった?…ってだめか」
「は、はい。走って逃げられてしまいました…」
みさきの質問に真白は顔を暗くしながら告げた。
「まぁ、仕方ないよ。それに今日が最後ってわけじゃないからね。日向君のときみたいに勧誘を続けていけばそのうち折れるかもしれないよ?」
そんな真白に明るくそう告げる窓果。
そんな光景を晶也は黙ってみていた。
(潤…。そこまで頑なにFCをしたくない理由ってのは何なんだ…?俺と似たようなものだとしたらなおのこと俺はお前とFCをしたい…!でもコーチっていう立場上あまりあいつに構ってもいられないし…。どうしたものか…)
そう晶也が考えていると隣の明日香が声をあげる。
「藤宮さん辛そうでした…。きっと本当は飛ぶこと好きなんだと思います。何て言っていいのか分からないですけど、藤宮さんは嘘をついているような気がします」
「………」
明日香のセリフに晶也は何も言わずただ黙って聞いていた。
「私は…私は藤宮さんとここにいるみんなと一緒にこの部活をやっていきたいです!」
「わ、私だって藤宮先輩と一緒に部活したいです!」
「そこ対抗する場所じゃないから…」
真白の対抗するような言葉に窓果は冷静なツッコミを入れる。
その言葉で真白の顔は赤く染まり、みさきがからかう。
そんな光景を窓果や明日香は微笑みながら見ていたが、晶也はそんな光景に目をやらずこれからのことについて考えていた。
(潤は頭もいいし運動神経だって抜群だ。きっとFCにおいて色々な意見をくれると思う。それに俺一人では4人のプレイヤー全員を見るなんて難しいことだ。潤がいるだけで練習効率がどれだけよくなるか…)
そう晶也が考えているところにいつもと変わらない調子で窓果が告げる。
「なら真白ちゃんに頑張ってもらう?」
「えっ?」
「だってほら、家隣でしょ?それなら話す機会だってたくさんあるだろうし」
窓果の言葉にあたりがシーッンと鎮まる。
そして一呼吸置いた後、
「それだ!」
とみさきが叫ぶ。
「真白が潤の家に毎日行けば潤が部活に参加する可能性だって増えるし、真白だって潤とより仲良くなることが出来る。うん、一石二鳥だ」
「み、みさき先輩!?わ、私別に仲良くなんか…」
「まぁまぁ真白、自分に素直になりなよ」
「わ、私はいつだってみさき先輩に素直です!」
その後も仲良く?言い合う2人を見ながら窓果と晶也は話を続ける。
「でもそれ割といい作戦だと思うぞ?学校じゃ潤きっとまともに相手してくれないだろうし、家でなら逃げ場がないだろ?」
「確かにそうかも。じゃあ真白ちゃんに頼むってことでいい?」
窓果が真白に告げる。
すると真白はみさきとのじゃれあいをやめ考える素振りを見せる。
「………わかりました。絶対とは言えないですけど、出来るだけ頑張ります」
「よーっし、じゃあ藤宮君のことは真白ちゃんに任せるってことで私たちは練習を始めよっか」
窓果がそうまとまると、4人は練習するために部室へと急いだ。