蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~   作:ブーミリオン

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コーチ

「藤宮せんぱーい!」

 

俺が自宅でゲームをしていると外から声がかかった。

……有坂か。

きっと連中から俺を説得するようにでも言われたんだろうが、そうはいかない。

しかしそんな俺の決意はすぐに壊れることになる。

 

「真白スペシャルをごちそうしますよー」

 

説明しよう。

真白スペシャルとは親父さん特性のうどんの上に季節の天ぷら、たまご、わかめ、肉、山菜などとにかく色々のっけたものだ。

のせすぎはどうなの…?とよく言われるが、これがまたうまいんだ。

上にのっている具材が見事にうどんに合っている。

これを親父さんでも牡丹さんでもなく有坂が考えたんだというんだからよくわからないものである。

 

にしても真白スペシャルか…

食べたいけど食べたらきっと『入ってください』って言われるんだろうな…

でも食べたい…

 

「お代はいらないですからー」

 

この一声で俺は完全に落ちた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「御馳走様でした」

 

汁まですべて飲み干した後俺は目の前で座っている少女へと告げる。

 

「はい。お粗末様です」

 

見事にやられた…

こうも簡単に落ちてしまうなんて俺どんだけ食い物に弱いんだよ…

そう思っていると、

 

「先輩、話があるんですけど」

 

有坂から声をかけられる。

顔は真面目そのものである。

そんな彼女を見た俺はどうせ部活のことだろ、と思い黙って先を促す。

すると有坂はPSQを取り出し、

 

「モンタッタやりません?」

 

「…はい?」

 

「だからモンタッタやりません?ここのボスが倒せなくて…。先輩なら倒せますよね?」

 

有坂はそう告げると、画面を俺に見せてきた。

 

「あぁ、こいつならさっき…って違う違う」

 

画面にうつっているボスを見てこいつなら余裕だ、と思ったところで俺は我に返った。

 

「何が違うんです?」

 

有坂は何か変なことでも?と言わんばかりの顔でそう告げる。

裏がないのか…?

 

「何がって…話ってFCのことじゃないのか?」

 

「……確かにみさき先輩や日向先輩には、何とかして部活に勧誘するように言われました」

 

やっぱり…

でもだからってゲーム…?

 

「でも私は藤宮先輩に無理してまで部活に入ってほしいとは思いません。先輩には先輩の理由があるんですよね?」

 

「まぁ…そうだな」

 

有坂の言葉に俺ははっきりと答えることはできなかった。

本心からこんなこと言えるなんて…

有坂が少しまぶしく見えるよ……

 

「でしたら私は無理強いはしません。部の先輩たちにも無理でした、と報告するだけです」

 

「でも…気にならないのか?俺の入部しない理由」

 

「…気にならないと言ったら嘘になります。でも聞いてほしいんですか?」

 

「………」

 

有坂の言葉に俺は答えることができなかった。

確かに言いたくない理由ではある。

しかし誰かに聞いてほしいという気持ちも少しだけあると思うのだ。

俺の中ではどちらの気持ちが正しいのか判断することは難しかった。

 

「話したくないことを無理やり話すように言うほど私は嫌な女じゃありません。…とまぁFCの話は置いといてモンタッタやりません?」

 

FCについて話すのは飽きたのか有坂はPSQを俺に見せながら早くやりましょうと促してくる。

 

「本当にモンタッタやりたいだけだったんだな…」

 

俺は苦笑いしつつ二階から自分のPSQを持ってきてゲームを起動させる。

 

「しばらく先輩とやっていませんでしたからね。どれだけ強く…って何ですかこの装備!?」

 

俺のPSQをのぞき込んできた有坂は大声を出して驚く。

まぁ無理はない。

なんたってこの装備はモンタッタにおける最強装備なのだから。

 

「あぁさっき強化が終わってな。とりあえずこのゲームの最強装備にしておいた」

 

「こ、これが最強装備……。私頭に使う素材を落とすボスに勝てなくて…」

 

「あぁあいつか。確かに少し厄介だよな。2人だしお互いの邪神連れて狩ろうぜ」

 

「そうしましょう」

 

有坂のその言葉を最後に俺たちは狩りに集中していった。

「勝てたぁ…」

 

「勝てましたね…」

 

所要時間40分の末なんとか2人でボスを倒すことが出来た。

正直邪神ちゃんは雀の涙ほどのダメージしか期待できないためいないも同然なのだ。

そのため4人で倒すことを推奨されているボスに2人で挑むというシチュエーションになってしまっていた。

俺も有坂も上級者であるため一度も死ななかったのだが、何分敵のHPが相当で削るのに時間がかかりすぎた……

 

「お疲れ様です先輩」

 

「お疲れ。それでどうだった?素材は落ちたか?」

 

「あっ、確認してみますね。えーっと…ありました!これで私も最強に近づけます!」

 

「そうか。それはよかった」

 

40分もかけて倒したのに素材が手に入らなかったらかなり悔しい思いをしたことだろう。

いやぁ手に入ってよかった。

そう思いながら俺は有坂の顔を見る。

彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべていた。

俺がこんな嬉しそうな表情したのっていつだっけ……

…もう長い間こんな嬉しそうな顔はしてない気がする。

FC…か…。

俺の中でくすぶっているもの…

手放してしまえばきっと楽なのは違いない。

でもどうしても踏ん切りがつかないでいる。

有坂なら……どう答えるんだろう?

そう考えてしまった俺は有坂へと話しかける。

 

「なぁ有坂」

 

「何です?もう一狩り行っちゃいます?」

 

「まぁ、それはいいんだけど、その…一つ質問していいか?」

 

「いいですよ」

 

このとき断らないのは彼女の優しさがそうさせるのだろうか?

俺は真面目な表情を浮かべ質問する。

 

「才能って…大事か?」

 

「才能……ですか?」

 

俺のセリフを繰り返して告げる有坂に俺は嘆くようにつぶやく。

 

「あぁ。努力や頑張ること以上に才能って大事なのかなぁって…」

 

『才能』

俺を1年間悩ませ続けてきた言葉であり、俺を苦しめている言葉だ。

あの日の試合後…俺はこと言葉にずっと向き合えないでいる。

 

「……今の私には分かりません。きっとそれは本当に努力した人や頑張った人にしか分からないことなんだと思います。…でもなんだかそのうち分かる気がします」

 

有坂は暗い話はこれで終わりと言わんばかりの顔を浮かべながらそう告げた。

そのうち……か。

確かにそのうち…分かるのかもな…

 

「そうか……。いや、変なこと聞いて悪かったな。さぁもう一狩り行こうぜ」

 

「はい!」

 

そう告げ再び俺たちは狩りに集中し始めた。

まぁその後一狩りといかず、五狩りくらいしてしまったのは予想外だったが…

 

 

 

***

 

 

 

「せんぱーい」

 

「何だ?」

 

次の日の夜、有坂はまた俺の家にモンタッタをやりに来た。

一体何を考えているのだろう?

 

「今日グラシュを買いに行ったんですけど、たくさん種類があってびっくりしました」

 

きっと何も考えていないだろうっていうのが伝わるような言い方だった。

有坂はただ今日あったことを俺に言っているだけなのだろう。

 

「……まぁグラシュは自分のタイプごとに変わるからな。調整できるとはいえ、やっぱりタイプに特化したものを使った方がいいだろうし」

 

そのため俺はつい必要以上に語ってしまった。

と言ってから後悔した。

有坂がいたって何でもない風に話しかけてきたため俺もそれにつられてしまった。

しかし…

 

「晶也先輩と似たようなこといいますね。それで私最初みさき先輩と同じインベイド?のレ―ヴァテインっていうグラシュにしようと思って履いてみたんですけど……」

 

有坂は何も言ってはこなかった。

俺としては『FC詳しいんですね』とか『FC経験者ですか?』っていう質問が来ると思っていただけに少し驚いてしまった。

そのため俺はそのまま話を続けた。

 

「レ―ヴァテインか…あれは個性が強いから履く人を選ぶと思うんだけど、有坂はコントロールできたのか?」

 

「いえいえっ!みさき先輩が何とか履いてたんで私もって思ってたんですけど、飛んだ後立つこともままならなくて…」

 

「まぁ普通はそうなるだろうな。にしてもみさきは最初からレ―ヴァテインを履けたのか…。もしかして経験者?」

 

「らしいですよ。飛び方もすごくきれいで速かったです。…はぁ。私も速く!とまではいかなくてもまっすぐ飛べるくらいにはなりたいです」

 

有坂は本当に残念そうな口調でそう告げた。

真っ直ぐ飛ぶ……か。

まぁちょっと教えるくらいでそれくらいなら…

まぁ教えるくらいなら…

とそこまで考えたところで俺は自分に驚いた。

なぜなら有坂と普通にFCについての会話ができていたためだ。

FCの話なんて聞きたくもないって思っていた俺がこんなにも…

そんなことを思っていると俺はつい声を漏らしてしまった。

 

「有坂、今日買ったグラシュ持って帰ってきてるか?」

 

俺はゲームから有坂に視線を移してそう告げた。

自分でも言ったことに驚いているが、今はこうしたいと思ってしまったのだ。

それにきっと自分が飛ぶわけではないから精神的にもきっと苦にはならないはずだ。

 

「えっ?はい。持って帰ってきてますけど…?」

 

俺の言葉に有坂は少し意外そうな顔をしながらそう告げる。

まぁいきなりこんなこと言われたらこういう反応になるよな…

 

「なら少し飛んでみないか?真っ直ぐ飛ぶことくらいなら俺でも指導できるから」

 

「ホントですか!?はい!すぐに持ってきます!玄関で待っててください!」

 

俺のセリフに有坂は元気よくそう告げると、走って自宅へと戻っていった。

…なんかめちゃくちゃ嬉しそうだった。

 

 

 

***

 

 

「お待たせしましたー!」

 

グラシュを履いてきた有坂が走りながらやってきた。

俺は有坂のグラシュを見る。

スモールグローブのシャムか…

確か女子に人気のあるグラシュだったような気がする。

 

「じゃあまずは飛んでみてくれ。何か気づいたらそのとき言うから」

 

「分かりました。じゃあ…いくにゃん」

 

有坂が発動キーを言いふらふらと空へと上がっていった。

…先は長そうだ。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ、んっと、おかしいなぁ~、わわわっ」

 

フィールドフライの練習をしている際、有坂は何度も同じようなセリフを漏らしていた。

真っ直ぐ飛ぼうとするあまり蛇行してしまっているのだ。

 

「有坂ー、そんな慌てなくていいぞ。最初は両手両足を広げてバランスをとることから始めよう。ゆっくりできるようになればいいから」

 

俺はそんな有坂に助言するため少し声を大きめにして告げる。

 

「は、はい。わかりました」

 

そんな会話を交えながら俺たちは30分ほど練習を続けた。

 

 

「先輩すごいです!30分くらいの練習でもう真っ直ぐ飛べるようになっちゃいました!」

 

練習が終わると有坂が笑顔で俺に駆け寄ってきてそう告げた。

よほど真っ直ぐ飛べることがうれしかったらしい。

FCをするならこれは最低条件なんだけどな…

 

「真っ直ぐ飛ぶことなんて誰でもこのくらいで出来るようになるさ。ここからスピード出したり技を出したり色々なことをするんだから、こっから先が大事なんだ」

 

その通り。

真っ直ぐ飛ぶことは基礎以前の問題だ。

この先ハイヨーヨーやローヨーヨー、シザーズなど色々な技術を覚える際真っ直ぐ飛べないのでは話にならない。

俺がそう思っていると有坂が遠慮がちに話しかけてくる。

 

「その…先輩。もしよかったらなんですけど、これからも私の練習見てもらえませんか?」

 

まぁなんというか予想通りとまではいかないけどなんか乗せられた気分だな。

たぶん本人にそんな気はないんだろうけど。

俺はしばし考えた後、

 

「……まぁそのくらい別にいいけど、部活に練習見てくれる人いないのか?」

 

と告げた。

有坂の練習を見るくらいなら大して苦にはならないだろう。

でも練習なら各務先生が見てくれるんじゃないのか?

と思い俺は有坂へと尋ねる。

 

「晶也先輩がコーチとして見てくれてはいるんですけど、説明が難しくて」

 

「んっ?晶也って選手じゃないのか?」

 

有坂のセリフに違和感を感じた俺は有坂に聞き返す。

 

「あれ?言ってませんでしたっけ?晶也先輩は選手としてではなくコーチとして入部してますよ」

 

「ずっと選手だと思ってた…」

 

だとすると晶也は俺にコーチとして入部してほしいってことだったのか…?

 

「そうだったんですか…。なら藤宮先輩もコーチとして入部したらどうです?ずっと選手として勧誘されていたって思っていたんですよね?今日みたいな指導ができるなら絶対コーチできますよ!」

 

「……少し考える時間をくれ」

 

俺は少し考えた後そう告げた。

確かにコーチだけなら幾分負担は減るだろう。

自分が空を飛ぶわけではないのだから。

しかしまたFCと向かい合わなくてはならない事実は変わらない。

故にすぐに結論を出すことは難しい。

でも…

 

「はい……!私はいつまでも待ってますから!」

 

こんなに俺に入ってほしいなんて言われたら…案外結論は早く出るかもしれないなと感じつつ俺は有坂を家まで送り届けた。

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