蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~ 作:ブーミリオン
翌日俺はHRが終わると晶也に話しかけた。
「おい、晶也。お前コーチらしいじゃないか。選手じゃなくて」
「あれ?言ってなかったっけ?」
晶也はどうやら言っていたと思っていたようだ。
有坂といい晶也といいもっと色々説明してから勧誘しろよな。
話を聞かず逃げてた俺も悪いかもしれないけどさ。
「言ってねえよ…。昨日有坂から聞いた」
「それは…悪かった。でもだからと言って何か変わるわけじゃないだろ?」
もう俺を誘う気はないんだろうか?
まぁそれならそれでもいいんだけど、一応言っておくか。
「いや、コーチなら少し考えてもいいかなって思ってさ」
「本当か!?」
食いついてきた…か。
どうやらまだ誘う気はあったみたいだ。
とは言っても…
「いや、まだ考えてる段階だから入るかどうかは分からない。まぁ今週中には結論を出すよ。あんまり先延ばしにしてもそっちの練習に影響しちゃうだろうし」
「…わかった。待ってるよ」
「おう」
そこまで話したところで1限のチャイムが鳴ったので話は打ち切りとなった。
さてと…どうしますかね。
***
「先輩、藤宮先輩のことなんですけど…」
放課後練習の始まる前に真白は昨日の話を晶也に伝えようとする。
「だいたい話は聞いてるよ。潤、今週いっぱい考えるから時間をくれって言ってた。にしても真白は一体どんな魔法を使ったんだ?俺たちがどれだけ言っても話を聞いてくれなかった潤に」
「秘密です」
真白は意地の悪い顔を浮かべ部室へと入っていった。
「じゃあ今日はフィールドフライから」
部員全員がそろったところで晶也が声をかける。
「はい!フィールドフライって何ですか?」
初練習ということもあって明日香は練習内容について質問をする。
初心者にとっては基礎練のことも分からないので仕方のない事だった。
「距離をとってみんなでフィールドをくるくる回るだけ。まず綺麗な姿勢を作るのが大切だからな」
「そんなことしてないで、バチバチやりあおうよー」
晶也のセリフにみさきは不満を告げる。
確かに退屈な練習ではあるが、この練習にはしっかりと意味があるということを思っている晶也はみさきに説明する。
「ダメ。まずは基本から。みんなのグラシュの設定もそれを見て決めるから。スピードは出さなくていいから、ラインに沿って真っ直ぐ飛ぶように」
「はーい」
「がんばります!」
みさきと明日香はそう答えたが、一人だけ違う意見の者がいた。真白だ。
「あの、晶也先輩」
「どうかしたか?」
晶也は首をかしげながら真白に先を促した。
ここで意見を受けるとは晶也も予想していなかったため、少し意外そうな顔をしている。
「グラシュの設定なんですけど、昨日藤宮先輩にやってもらったんです。それで昨日飛んでみたんですけど、すごい飛びやすくて…あまり設定は変えないでくれると嬉しいかなーって思ってるんですけど…」
真白のセリフに晶也は驚く。
それもそうだろう。
グラシュの設定は初心者が簡単に出来るものではない。
間違いなくFCの関係者だからだ。
「潤が…?まぁ見てみないことには分からないからとりあえずみんなと一緒にフィールドフライしてきてくれ」
「わかりました」
真白をそう送り出した晶也は内心思う。
(潤が経験者ってことはほぼ確定だ…。もしかしてFCを嫌いな理由って俺と同じものだったりするのか…?いや、とりあえず今は練習に集中だ…)
部長、明日香、真白、みさきのフィールドフライの練習を見ていた晶也は驚いていた。
全員ではなくたった一人の少女……真白にだ。
(部長はやっているだけあって安定しているのは分かる。明日香はFC初心者でみさきはレ―ヴァテインなんてピーキーなグラシュだから真っ直ぐ飛べないのも分かる。しかし真白は一体どういうことだ?俺の予想では明日香と同じ感じになると思っていたんだけど、かなり綺麗なフォームで真っ直ぐ飛んでいるなんて…。これも潤が…?)
晶也はそう考え少し混乱していた。
いや、嬉しい誤算と言うべきか。
そんなことを思いながら15分くらいが過ぎる。
そろそろ頃合いかと思った晶也は全員を呼び寄せる。
「昨日やって分かってはいましたけど、やっぱり疲れますね…」
「ですね。…ってあれ?真白ちゃん昨日練習したんですか?」
真白の言葉に明日香は首をかしげながら質問する。
もしかしたら一人だけ練習してずるいです!なんて思っているのかもしれない。
「はい。昨日藤宮先輩に色々教えてもらったんです。とは言っても30分くらいですけど…」
「ほぇ~藤宮君に…「30分!?」」
真白の言葉に明日香が答えている最中に晶也は大声を出しながら驚き叫ぶ。
「わっ!びっくりした…。急にどうしたんです?」
あまりの大声に真白はびっくりし晶也へと理由を尋ねる。
真白は気づいていないが、部長やみさきといったFC経験者組も声こそ出さないものの内心かなり驚いていた。
「真白、今30分で真っ直ぐ飛べるようになったって言ったか?」
「は、はい。でも変なこといいました?藤宮先輩は真っ直ぐ飛ぶだけなら30分もあれば誰でも出来るようになるって言ってましたよ?実際私も30分で真っ直ぐ飛べるようになりましたし」
「……部長、部長はどのくらいで真っ直ぐ飛べるようになりました?」
真白の言葉に晶也は真剣な表情を浮かべ、部長へとたずねる。
部長は少しの沈黙のあと、
「そうだな……軽く1週間はかかったと思うぞ」
と答えた。
「みさきは?」
真剣な表情を崩さず晶也はみさきへと向きかえり尋ねる。
「うーん。3日くらいかなー。少なくとも30分じゃ無理だと思う」
真白や明日香は部長の言葉だけでは分からなかったことが、みさきの言葉でようやく理解した。
「えっ…」
やっとのこと驚いた晶也を理解した真白が声をあげる。
そんな真白に晶也は話を続ける。
「そういうことだ真白。どれだけ天才でも才能があっても30分で真っ直ぐ飛ぶなんて無理なんだ。つまり…」
「藤宮君の教え方がいいってことですか?」
晶也の言葉に明日香が続けるように答える。
しかし晶也の顔はいまだ浮かない。
「確かにそれもあると思うけど…真白、ちょっとグラシュ見せてもらってもいいか?」
「あっ、はい。どうぞ」
変な顔をしながらも真白はグラシュを見せる。
同じくわかっていない晶也以外のメンバーは同じく真白のグラシュを見ている。
「どれどれ……ってなんだこれ!?」
「こ、今度はどうしたんですか?」
再び驚きの声をあげる晶也につられて真白も声をあげる。
「真白、このグラシュの設定って潤にやってもらったって言ってたよな…?」
「さっきそう言ったじゃないですか」
あきれ顔で真白はそう答えた。
人の言ったことを聞いていなかったのか、と。
「だとしたらすごいよ…」
「何がです?」
「このグラシュの設定だよ。俺じゃこのグラシュの設定何も理解できない。…こんな設定初めて見たよ」
「そんなにすごいんですか?」
感嘆の声をあげる晶也に真白は尋ねる。
「すごいなんてもんじゃない。このグラシュの設定は真白にしか通用しない。分かりやすく言うと普通はグラシュってある程度設定が決まってて、使う人がそれに合わせていくってものなんだ。もちろん多少は個人個人で設定はするけど、ここまで細かく設定はしない。でもこれは完全に真白専用の設定になっている。つまり真白以外の誰かが履くことを想定していない…真白以外の誰かが履いたとしても真白と同じようには飛ぶことはできないってことなんだ」
何もわかっていない真白に晶也はそう告げる。
「ふ、藤宮先輩は昨日の短時間でそんなすごいことを…」
ようやく理解した真白が感嘆の声をあげる。
「きっと飛んでる真白の姿を見て設定したんだろうけど、すごいよこれは」
「へぇ~、潤ってすごい人だったんだー」
「藤宮君…すごいです」
「あぁ、本当にすごいよ。……是非とも入ってほしいよ。潤が入れば間違いなく選手一人一人のレベルが上がる」
晶也の様々な説明に全員が潤のすごさを理解した。
その後も練習を続ける一同であったが、晶也だけはずっと選手たちに集中できず潤のことだけを考えていた。
(潤…。お前は一体何者なんだ…?)
***
「はっくしゅん!…誰か俺の噂でもしてるな?」
自宅のベッドで寝転がっていた俺は誰もいない空間でそう告げた。
言ってから気づいたのだが、独り言って案外恥ずかしいものなんだな…。
そんなことを考えながら喉を潤すためにベッドから起きてリビングへと移動する。
さてと…どうしたものか。
晶也に今週中に結論を出すって言った以上しっかりと結論を出さなければならない。
コーチ…か。
この部分に尽きるんだよなぁ。
もし自分が選手としてFCに関わるんだとしたらほぼ100%断っていたことだろう。
しかし、今回考えていることは選手としてではなくコーチだ。
何度も思っているが選手に比べれば精神的に楽であろう。
しかしFCに関わるという事実は変わらない。
…こうなることになっていたんだろうか。
ずっと避けて通っていたはずの、もうなるべく見ないように使用と思っていた空に。
だけど今こうして誘いの手は向こうからやってきている。
『そろそろいいだろう?』とでも言わんばかりに。
「確かにいつまでグジグジ言ってるんだって話だよな…」
足元を見つめる。
裸足のはずなのに、そこに何もないのがとても不自然に思えた。
俺の翼はもうそこにはない。
「……父さん、……母さん」
ふと嘆いた言葉に俺は泣きそうになる。
乗り越えるって言ったのに…
このままじゃ……
ピンポーン
そう考えているところで家のインターホンが鳴る。
誰だろう?と俺が思い玄関に行くと勝手にドアが開いた。
そこにいたのは…
「有坂…?」
「せんぱい、今日もモンタッタをやりに…ってどうしたんです!?」
「へっ……?」
「へっ?じゃないです!涙流してて何もないとは言わせませんよ?最強装備でも勝てない敵がいて泣いてたんですか?それとも重要アイテムを捨ててしまったとか…」
オロオロする有坂を俺は涙をぬぐいながら見つめる。
そんな彼女を見て俺は……
「プ…アハハハハハッ」
笑っていた。
「な、なんで笑ってるんですか!?人が心配してるっていうのに…」
「いやぁ、悪い悪い。そういうつもりで笑ったんじゃないんだ。自分の考えに笑っていただけだよ」
「自分の考えに…?」
「あぁ」
そうだ。
こんな風に考えるなんて俺らしくない。
昔はもっと考える前に動いていたはずだ。
そしてそれは父さんの……
「有坂」
「どうしました?」
俺の言葉に有坂は首をかしげて質問する。
「俺、FC部入るよ」
「え?えぇぇぇぇ!?」
俺の言葉に有坂は大声をだして驚いた。
「そんなに驚くことか?」
「それは驚きますよ!これまでそんなそぶり全く見せてなかったのに…」
「気が変わってな。って言ってもコーチだし。…それにFC部に入ろうと思えたのはお前がきっかけだぞ」
「私が…ですか?私何かしましたっけ?」
「まぁそこんところはおいといて狩りでも行くか」
「ちょ、ちょっと先輩!?そこのところが重要ですって!」
――――空を飛ぶのが楽しくて仕方がなかった。
だから飛ぶことをもっと極められるあのスポーツに夢中になったんだ。
夢は破れて、俺は仰視して空をみるようになったけど、その楽しさを俺のエゴでつぶしちゃいけない。
「…そのうち伝えるよ」
ここまで俺に親身になってくれた少女に俺は小さくそうつぶやいた。
もし有坂がいなかったら俺はもう一度しっかり空を見ようなんて…向き合おうとなんて気持ちにはなれなかったから。
再びFCが出来るといいな…なんて思えるなんて考えもしなかったけど、きっとこれでよかったんだ。
俺は空を見上げそう思った。
割と自己理論です