蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~ 作:ブーミリオン
「というわけで今日からお世話になる藤宮潤です。よろしくお願いします」
「わーい、潤も入部だー!」
「これで部員は6人ってことですよね」
「よろしくお願いします!」
「よろしく~」
各々挨拶を交わす。
「まぁ晶也と同じでコーチとしてみんなを支えていくので、分からないことなんかがあったら気兼ねなく聞いてください」
「はーい」
選手全員の声が響き渡った。
「じゃあみんな昨日と一緒でフィールドフライから」
晶也のかけ声で選手たちは空へと飛んでいく。
俺はその後ろ姿を、何とも言えない表情で見ていた。
すると横から晶也に話しかけられる。
「待ってたよ潤。正直俺1人じゃ選手全員を見るのは難しかったからな。助かるよ」
晶也の言葉に俺は少し意外だなと感じる。
何でもそつなくこなすこいつがこんなことを言うなんて、と。
「そう言ってもらえると助かるよ。なんか断り続けてたせいか少しだけ申し訳なさもあったからな。…にしてもいきなり高藤と合同合宿か」
「あぁ。葵さんには驚かされるよ」
昨日有坂に入部することを告げた際、今度高藤と合同合宿があるんですよと文句を言っていた。
高藤学園、全国でも有名なFCの名門で、設備が充実し、有望な部員も多い、らしい。
そんなところと初心者ばかりのうちが練習するなんて無謀もいいところだろう。
「でもまぁ先生のいうことも一理あるさ。最初はなんでも吸収できるんだから相手はうまいほどいい」
「……そうだな」
「ん?どうした?」
俺の言葉対する返答に、少し間が出来たことを疑問に思った俺は晶也に質問する。
「…どうして急に入る気になったんだ?」
…なるほどな。
確かに180度意見を変えて疑問に思うなというのは無理な話だ。
しかし、俺にもその理由はよくわかっていない。
決して過去を克服したわけではないんだ。
「何でだろうな…?でもそうしたほうがいいと思ったんだ…」
「そうか…。…ところで話は変わるけど、真白のグラシュの設定見たぞ。何なんだ、あれは?」
俺の反応をみて思うところがあったのか、唐突に話を変える晶也。
こういうとき深く突っ込んでこないやつって本当に助かるよ。
「あれは初心者専用設定みたいなもんだな。だから有坂や倉科さんには使いやすいグラシュの設定になっているが、部長やみさきが使ったらきっと違和感しか感じないだろう。最初だから少し矯正してるんだ。だから少しずつ飛ぶのに慣れてきたら徐々に設定を軽めにしていけばいいと思う」
「そうだったのか…。でもやけにグラシュについて詳しいな」
「あぁ両親がグラシュの店やってたからな。なんとなく見てたら覚えてたよ」
小さい頃からグラシュに触れていた俺は、グラシュの設定や調整なんかはお手の物となっていた。
特にあれこれ教わったというわけではないが、なんとなく見ているうちに覚えていたのだ。
「そうだったのか…。で、話は戻るけど高藤との練習までにあいつらはしっかり飛べるようになると思うか?」
「飛べるようになるか?、じゃなくて飛べるようにするんだよ。ここは俺たちコーチの仕事だから頑張んないとだぞ」
俺は笑顔でそう告げる。
そんな俺に晶也は苦笑いしつつも、そうだなと短く答えた。
***
その後2時間ほどの練習を終えると俺たちはましろうどんへと向かった。
みさきが『うどんを食べないと死ぬー』とわがままを言ったためだ。
まぁ実際には俺の入部祝いも兼ねているらしいけど。
「潤さ」
「なんだ?」
「みんなのこと下の名前で呼ばないか?」
親父さんのうどんをおいしく頂いていると、唐突に晶也がそんなことを言い出した。
「なんでだよ?」
もちろん俺は理由を尋ねる。
唐突過ぎて意味が分からない。
いや、何となく分かってはいるのだが…
「苗字だと距離感があるだろ?セコンドしているときに、そういう距離感が邪魔になることあるからさ。知ってると思うけどFCは集中力を必要とするスポーツだ。つまりメンタルの差で試合が決まることも多いだろ?」
何となく思っていたものと同じようなことだった。
まぁ言いたいことは分かるけど…
「まぁそれはそうかもしれないけど…。別に俺たち仲は悪くないんだからそのままでよくないか?無理して下の名前で呼ばなくても」
「それじゃあつまんないじゃん。わたしのことはみさにゃんって呼んでいいからさ」
「…お前にそんなアイドルみたいな呼び方したくない」
「ひどい!」
みさきが冗談めかしてそのようなことを言うが俺は取り合わない。
みさにゃんなんて…俺が言うことを想像しただけで寒気がする。
「…まぁ、みさきの話は気にしないでいいけど、やっぱり下の名前で呼ぶことは大事だと思う。それに下の名前で呼んだ方が短くて試合中言いやすいだろうし」
晶也がこんなこというなんて意外だ。
もしかしてこれは晶也がされたことではないだろうか?
それを俺にもやっている、みたいな。
「でもなぁ…」
「藤宮先輩は私のこと下の名前でよびたくないんですか…?」
俺が渋っていると、有坂が急にそんなことを言い出した。
そんな捨てられた子猫のような目をしなくても……
まるで俺が悪いみたいじゃないか。
「はぁ……。分かりました、分かりましたよ。下の名前で呼べばいいんだろ?なら有坂も俺のこと先輩って呼ぶの禁止な」
仕方なく了承するも、ただとは言わせない。
先ほどと態度が真逆になっている有坂に俺はそう告げる。
「えっ?何でです?」
「上下関係は部活である以上確かに大事だ。でも試合の時、上下関係を気にするのはダメだと思うんだ。きっとパフォーマンスに影響が出ると思う」
間違ったことは言っていない。
晶也理論を突き詰めていけばこのような結論になることは容易に想像できる。
「で、でも…」
先ほどの俺のように渋る有坂に俺は追い打ちをかける。
「まぁ慣れだよ、そういうのは。とにかく今日から俺のこと先輩って呼んでも反応しないからな。って言っても晶也たちのことは普通に先輩でいいけど。俺が下の名前で呼ぶ交換条件みたいなものだからな」
「う、う~」
「ほらほら、呼んでみ?」
何かと葛藤している有坂に俺はさらに追い打ちをかける。
そしてようやく決心したのか顔を上げると、有坂は告げる。
「じゅ、潤さん…」
「なんだ、呼べるじゃないか。よろしくな、真白。それに明日香も」
「は、はい…」
「よろしくお願いします、潤コーチ!」
そんなやり取りの後も俺たちはたわいもないことを話した。
有坂…じゃなかった真白が少しぎこちないことが少し変に思ったけど、俺と似たようなものだと思い大して気にはしなかった。
***
「そういや晶也、この部の目標とかって決まってたりするのか?」
翌日の練習時、俺は何気なく晶也に質問した。
やっぱり目標がないと気合いが入らないと思うし。
「県大会ベスト8だ。うちの県はFCの激戦区だろ?だからそのくらいが妥当かなって思って俺が提案したんだ」
「ベスト8…か。まぁ妥当な線だと思うけど…」
「けどなんだ?」
俺が渋っていると晶也は気になったのか、何を言おうとしたのかを聞いてくる。
「今の練習を見てると1回戦突破もどうなのかなぁ~って…」
なので俺は正直な意見を晶也に述べる。
「まぁそこは…練習するしかないだろ」
「そうなんだけどさ…。基礎練始めたばかりのみんなじゃ…いや、何でもない」
「何だよ。そこまで言うなら言っちゃえよ」
そんな晶也にそれもそうだな、と思い俺は声を発する。
「じゃあせっかくだし窓果も交えて話すか。おーい窓果ー!ちょっと来てくれないかー?」
「何々??」
窓かはそう笑いながら俺たちの元へとやってきた。
これから面白いことでも始まるとでも思っているのだろうか?
しかしこれから話すことは別に面白いことではない。
おそらく窓果にとっては。
「これからの練習のことで2人に相談があるんだ。今は基礎練をしてるけど、これだけやってもFCはうまくならない。今やってるのは基本だからな。これから先、ルールの徹底、攻撃と防御なんかの効果的な練習をやっていかなくてはならない」
俺は自分の考えを2人に告げる。
それに2人はうんうんと頷く。
分かってくれて何よりだ。
「そうだよね~。私FCについてそこまで詳しくないから、そこのところはだいたい日向君にまかせっきりだったんだ」
なるほど。
これまでは晶也一人ですべて考えていたのか。
それは大変だっただろう。
「晶也は何か考えているのか?」
「これをやったらいいだろうなぁ~っていうのはあるけど、まだ練習メニューを考えてる段階だ。期限が1カ月じゃなければゆっくりできたんだけど…」
それでも考えてはいるだけ窓果よりもましだろう。
窓果ももう少し自分から色々やってほしいよ。
「それは今言っても仕方のない話だ。…それはそうとこれを見てくれ」
そう言って俺は1枚の紙を見せる。
「これは…?って、おい……、これってまさか…」
「俺の考えた練習メニューだ。明日からゴールデンウィークまでの練習をすべて考えた」
「すごいね~。1日で作っちゃったの?」
俺の練習メニューに窓果は感嘆の声を漏らす。
「まぁコーチだしな。このくらいやらないと認めてもらえないだろ?」
「まぁそうかもしれないけど、…この練習はちょっと……」
しかし晶也は苦笑いながらそう告げた。
どこか変なところでもあったのだろうか?
「何か変な箇所でもあったか?説明ならするけど」
「いや、練習の内容については思うところはないんだけど、その…ちょっと量が多すぎないか?」
あぁなんだ。そんなことか。
「最初なんだし体はいじめないとだろ?そこは避けては通れない」
「…にしても多くない?」
今度は窓果がそう告げる。
自分ではしっかりできていたつもりだったのだが、2人の反応を見るに少し量を減らす必要がありそうだ。
「そうか?じゃあまた今日ちょっと修正してくるよ」
「ちょっと…なんだ…」
そんな窓果のつぶやきは無視し、俺は脳内で今後の練習メニューを考え始めた。