蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~   作:ブーミリオン

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合宿

ゴールデンウィークに入ってすぐのある日。

俺たち久奈浜学院FC部の面々は顧問の葵先生に引率され、ある場所に向かっていた。

その途中先生がFC部の面々に今から行く高藤学院の説明をしてくれていた。

窓果が何度か先生をからかったりしていたが、俺と晶也は黙って傍観していた。

触れずに置いておく方がよいこともあるのだ。

その後説明が終わると晶也と明日香が各務先生の元へ行き何かを話していた。

別に何を話していようと興味はないので俺はそのままみんなに合わせるようにかなりゆっくり飛んでいた。

 

 

「やっと到着か~」

 

「ふえぇ、大きいですねぇ」

 

明日香が見たままの感想を漏らす。

その後高藤についての会話が繰り広げられた。

高藤か…。

ちょっと遠いから来るのが面倒なんだよな。

飛ぶつもりなかったし。

 

「そう言えば、さきほどおっしゃっていたのなんでしたっけ?自治、生徒会?」

 

明日香がそう話を変え質問する。

その質問に答えたのは各務先生だ。

 

「あぁ、大雑把に言うと高藤は学生が学園の運営、自治をしているんだ。もちろん疑似的なものではあるがな。その頂点が自治生徒会というわけだ」

 

「なるほ…ど?」

 

「ピンとこないか?ならこういう話がある。少し特殊なケースかもしれないが、現在高藤のFC部には監督がいない。名前だけの顧問がいるのみだ」

 

へぇ~。

まぁ生徒だけでやった方が部活がうまくいくこともあるからな。

別に例がないわけじゃない。

ただ珍しいだけだ。

 

「あれだけの名門校なのにですか?」

 

「実は去年まではいたんだ」

 

「どういうことなんでしょう?」

 

「名門の名を守るため、結果ばかりを重視して部を顧みない指導が続いたらしくて、部員たちの手によって解任されたらしい」

 

「えぇ~っ、じゃあ今は?」

 

「監督解任を主導し、さらに監督不在の部を1人でまとめ上げ、去年結果を残したどころかこの地域の覇者になったのが高藤福留島のFC部部長……」

 

「お待ちしておりましたわ!」

 

と、声を掛けてきた人物に顔を向ける。

いつのまにか、目の前にたくさんの学生が並んでいた。

その数はざっと50人を超えている。

この人たちが高藤FC部のなのだろう。たぶん。

それにしても部員総出のお出迎えとはびっくりだ。

ちなみに先ほど声を上げたのは列の中央、

 

「ごきげんよう、久奈浜学院の皆さん!」

 

あっ、この人確か…

 

「真藤は?」

 

「シンドウ?」

 

みさきが疑問の声を上げる。

俺も聞いたことないな。

 

「真藤一成。それが高藤福留島の部長にして当代最強のスカイウォーカーの名前だ」

 

部長が真藤なる人物の紹介をしてくれた。

 

「あ、その名前聞いたことある。かなり有名だよ。なんでも実力がピカイチで私たちの年代のスカイウォーカー全員の目標だとか」

 

「そういえばもう一人そんな人がいたような…。私たちと同じ学年で全国大会の覇者。何て言ったかな…」

 

「まだいるのか?っていうかそんなすごい人なら目標にするだろうな」

 

「うん。なんでももう引退しちゃったって話だけどね」

 

うん、間違いなく俺だ。

 

「真藤部長は現在急用で席を外しております。我が部はマネージャーの数には事欠きませんが、あの方でなければ処理できない監督業もございますので」

 

佐藤院さんの発言にあわせて7,8人の男女が一斉にぺこりと頭を下げた。

この人たちがマネージャーか。

 

「うちのマネージャーと違って優秀そうだな」

 

「潤ひどっ!?」

 

窓果の泣き言なんてともかくとして、マネージャーだけでもこの層の厚さ。

さすが名門校だ。

 

「あの方も久奈浜学院の皆さんの到着を心待ちにしておられました。ですからすぐに戻られることでしょう」

 

心待ち…ねぇ。

本当だろうか?

こんな名門校とうちが合同合宿なんて何か裏があったとしか思えない。

 

「ともあれ遠路はるばるお疲れ様です久奈浜学院の皆さん。高藤学園FC部を代表して熱く御礼申し上げますわ!」

 

言うほどの距離ではないと思うんだが…

それにしてもいい人そうだな。

その後晶也が各務先生に促されて佐藤院さんに挨拶する。

晶也がコーチ専任であることに高藤の学生たちは皆、目を丸くしている。

確かに同年代でコーチというのは珍しいかもしれない。

とは言ってもここにもコーチはいるんだけど。

その後も各務先生が急に帰ると言い出し慌てる晶也であったが、俺からすればどうでもいいことだった。

この人無責任っぽい感じがするからな。

晶也も諦めたのか再び高藤の生徒たちの方に向き直り自己紹介を続ける。

部長から始まり、明日香、真白、みさき、窓果と続く。

そして俺の番が来た。

 

「えぇ~藤宮潤です。晶也と同じでコーチしてます。よろしく」

 

特に話すこともないため無難で短い自己紹介をする。

しかしこれがいけなかった。

 

「あ、あの~」

 

高藤の女の子が恐る恐るといった感じで俺に話しかけてきた。

 

「ん、何?」

 

「もしかして絶対者(アブソルート)の潤さんですか?」

 

「っ!!」

 

まさかこんなところでその名を聞いてしまうとは…

後ろをちらっと見ると、久奈浜の面々は何だそれって顔をしている。

…はぁ。

面倒だけど素直に答えるか。

たぶん隠し通すことはできないし。

 

「…そう言えば昔そんなことを言われたこともあったな」

 

「キャー!やっぱり!」

 

俺のセリフを受け高藤の生徒たちが歓声を上げる。

苦笑いしながら後ろを振り向くと何事だ、といった顔で高藤の生徒を見る久奈浜学院FC部の姿があった。

しかし各務先生だけは俺と同じく苦笑していた。

どうやら知っていたらしい。

まぁ当たり前か。

 

「あなたたち、静かになさい」

 

「申し訳ありません。でも驚きましたわ。あの絶対者がこんなところにいるなんて」

 

「…………」

 

「まぁ私は帰る。あとはお前たちで何とかしろよ」

 

各務先生はそう告げ去っていった。

どうやら面倒事になりそうな雰囲気を悟ったらしい。

俺も帰りたいが、そんなこと言えるはずもなく、少しムッとしながら各務先生の後ろ姿を見送った。

 

 

 

「潤さん」

 

「ん、何?」

 

各務先生を見ていると、佐藤院さんから声を掛けられる。

 

「本当にお部屋に通す前に練習でいいんですか?」

 

「どうする晶也?」

 

「とりあえず練習してみましょうか。うちの部員たちに更衣室だけ貸していただけますか?」

 

「だそうだ。それと俺のことは呼び捨てで構わない。同学年だろ?敬語はなしでいこうぜ」

 

「分かりましたわ。更衣室はこちらになります」

 

佐藤院自らが先導し、部員と窓果もついていく。

気がつけばその場に残されたのは高藤の大勢いる部員たちと俺と晶也だけになっていた。

しまった。やらかした。

正体がばれてしまった以上とても面倒なことになる気がする。

晶也にすべて押し付けようとするが、高藤の女の子が晶也を連れ出してどこかへ行ってしまったためそうもいかなくなってしまった。

仕方ない、頑張ろう。

俺は1人そう思い溜息をついた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

嫌々ながらも高藤の生徒の相手をしていると、晶也が帰ってきた。

 

「晶也どこに行ってたんだ?まさかいきなり告白でもされたり?」

 

「そんなわけないだろ…」

 

そうは言いつつも晶也は先ほどの女の子が晶也にぺこっとお辞儀をした。

晶也も軽く手を上げて返す。

そんな2人に高藤の女の子たちが盛り上がるが、2人はイマイチ乗ってくる気配はなかった。

どうやら告白ではなさそうだ。

と、そんなことを考えているとみんなが帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

その後、全員がそろったところで高藤の練習場に移動となったが、そこが……

 

「は~、すっごい設備ですねぇ」

 

「うちとは比べものになりませんね」

 

「確かになぁ…」

 

「悲しいことをはっきりと言うなよ」

 

明日香、真白、俺のセリフに晶也はそう言うが、言うまでもなく比べものにはなっていなかった。

まぁ常勝を掲げている私立名門校ならこんなもんだろ、と俺は考えることにする。

 

「2人とも」

 

「うわっ!?」

 

真藤さんの声に隣にいた晶也がびっくりした声を発する。

何か考え事でもしていたのだろうか?

 

「まぁ晶也はどうでもいいです。この後の練習内容について、ですよね?」

 

「潤…」

 

晶也が何か言いたそうにするが無視。

 

「ははっ、絶対者ともなるとこちらの考えていることが分かってしまうのかな?」

 

「…別にそんなことはないですよ。それで真藤さんはどう考えているんです?」

 

「僕は最終日に今回の合宿の総決算として学校対抗の模擬戦をやろうと考えているんだ」

 

ほう、まぁいい考えではあると思うが、うちの部員たちは果たしてそのレベルにあるのだろうか?

まぁ別にやるだけやらせてみるのも悪くない。

 

「自分もそれでいいと思いますよ。高藤の部員とうちの部員ではレベルがまるで違うので、試合になるかどうかは分かりませんが」

 

俺がそう告げると真藤さんは少し残念そうな顔をした。

 

「…どうしたんです?」

 

「僕はね、君の指導から何か学べないかと思っていたからね」

 

よくこんなことを恥ずかしがらずに言えるものだ。

少し尊敬すらするよ。

 

「まぁ今日は両校の部員たちが打ち解ける場を設けることを前提にしてみましょうか?明日以降はまた再度組み立てるということで」

 

俺がそう告げると晶也が異論を唱える。

 

「必要以上に仲良くする必要はなくないか?別に仲良しこよしにきたわけじゃないんだし」

 

「そんなの当たり前だろ。だから簡単なゲームでもしようかって話だ。仲良しこよしじゃないにしても互いの名前だったりを覚えることは大切だろ?」

 

「そうだな。俺はそれでいいよ」

 

「僕もそれに賛成だよ。さて、そうなると練習方法だけど、そうだね…ふむ」

 

「佐藤くん」

 

佐藤くん?

佐藤院ではなかったっけ?

 

「佐藤院ですわ、部長」

 

あっ、やっぱり佐藤院か。

 

「みんなを集めて先に柔軟を始めておいてくれるかい。僕は」

 

そこで真藤さんは俺たちを示し、

 

「彼らと一緒に今日の進め方を考えているから。僕ら以外で任せられるのは副部長の佐藤くんが第一候補だ」

 

「お任せあれ、部長。あなたの期待には十二分に応えてみせましょう。それと佐藤院ですわ」

 

「うん、君がいてくれて助かる。これからも頼むよ、佐藤くん」

 

「「…………」」

 

なんでだ。

この2人実は仲が悪かったりするのか?

 

「ちょっとあなたたち!」

 

「何だ?」

 

いきなり佐藤院さんに指をさされる。

 

「なぜわたくしが部長にこう呼ばれているか気になったでしょう?」

 

「あ、ええ、まぁ」

 

抱いていた疑問をそのままズバリ言い当てられる。

まぁ正直気になっていたから後で聞こうと思っていたところだ。

 

 

「もやもやを残す必要はありません。わたくしがこの場でお答えしておきましょう」

 

「はぁ…」

 

「それはわたくしの戸籍上の登録名が『佐藤』だからですわ!」

 

なぜか自信満々に言われた。

 

 

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