蒼の彼方のフォーリズム ~dream fly~ 作:ブーミリオン
練習でクタクタになってからの夕食後。
荷物を持って通されたのは高藤の武道場だった。
どうやら今回の合宿では男子部員全員、ここに布団を並べて雑魚寝することになるようだ。
ちなみに女子は人数が多いため、体育館が充てられているらしい。
…俺もそっちがよかったなぁなんて冗談は置いておこう。
「日向ー。もうちょい右だ。もっと力を入れろー」
目の前では部長が晶也にマッサージをさせている。
このままだと俺にも周ってくる気がしたので、
「ちょっと近くを散歩してきます」
俺は部長にそう言い残し、武道場を後にする。
頑張れ晶也。
***
かつて世界大会2連覇を成し遂げたときに俺につけられた名だ。
当時は二つ名なんてかっこいいって思ったものだが、今となっては恥ずかしい。
俺は中二病じゃないんだ。
しかしやはり高藤というべきだろうか。
FCについては詳しかった。
きっとそれぞれが勉強をしっかり行っているのだろう。
そうでなければ2年前の選手のことなど覚えているはずがない。
「はぁ…」
俺は大きい溜息をはく。
最近の溜息の中では一番大きい気がする、なんて馬鹿なことを考えてしまう俺に思わず苦笑いしてしまう。
溜息の原因となっているのはうちのFC部の面々だ。
何て話すべきかいまだにまとまらない。
決してだましていたわけではない。
しかし何も言っていなかったという事実に俺は頭を悩ませていた。
そう悩ませてしまうのもあいつらや部長がそれについて言及してこないことが原因だろう。
俺だったら気になって聞いてしまうだろう。
しかし彼らはそれをしなかった。
きっと俺から話すのを待っているのだろう。
別に隠すことではないし、話す分には構わないのだが、なぜか踏ん切りがつかないでいた。
そう思いながら何となく携帯を取り出してみると、いつの間にか消灯時間を過ぎていた。
一体なん時間ここでボーっとしているのだろう。
5月とはいえ夜はまだ冷える時期だ。
そろそろ帰るか。
そう思い立ち上がり武道場へと向かった。
***
合宿2日目。
今日も練習がはじまった。
ただし今日の練習内容は昨日とは違う。
合同の柔軟までは一緒だが、今日はファイター、オールラウンダー、スピーダーの各スタイルに分かれての練習となる。
俺や晶也たちは各所を時間ごとに回っている。
今はファイターの練習に顔を出している。
「あっ、こんにちはーっス」
「…君は?」
「保坂実里ッス。みのりんとかミノリーナって呼んでくれて構わないッスよ」
「わかったよ、保坂…」
何だか関わるのが面倒くさい相手だな…。
「全然分かってくれてなさそうっスけど」
「で、今日は何の用なんだ?」
「取材ッス」
「取材?」
何でも放送部らしく、FCの取材をしに来たらしい。
「じゃあ大人しくしとけよ。あんまり騒がれると迷惑だから」
「そんなの分かってるっスよ。それでは潤先輩にお聞きしたことがあるッス」
「分かってないだろ…」
先ほどとは逆の立場になり、俺は苦笑いする。
「ってか取材なら晶也に聞けばいいだろ?」
「晶也先輩にはもうしたッス」
「早いな…」
「それで聞きたいっていうのは潤先輩についてッス」
「結局聞くのね。まぁいいけどさ…。で、俺の何を聞きたいんだ?」
「何で潤先輩はFCをやらないんスか?」
「………」
「だって潤先輩は世界大会の覇者じゃないスか。なのに何でやらないのかなって思ったんス」
「何故やらないか…ね」
どう答えるものか。
部員の誰にも言っていないことを初対面の保坂に言うのも何か違う気がする。
「潤さん…?」
「おう」
そう考えていると真白から声をかけられる。
「オッス、真白」
「おすおすー。…ってさっきもこれやったじゃない。またファイターの練習を見に来たの?」
「今度はファイターじゃなくて潤先輩個人について聞きに来たんだ」
「潤先輩の?」
「何で選手としてFCをやらないのかと思ったんだ。真白何か聞いてる?」
「そ、それは……」
「飛ぶのが楽しくなくなったからだ」
「「えっ?」」
「FCをやらない理由だろ?飛ぶことが楽しくないからやめた。それだけだ」
「じゃあ何でまたFCに関わろうと思ったんスか?」
「ちょ、ちょっと実里。それ以上は…」
「何でだろうな…。自分でもよく分からない。…けど、こいつらとなら何かが変わるって思ったのかもしれないな」
「潤先輩…」
「で、まだ質問はあるのか?」
「…いや、もう充分ッス。ありがとうございましたッス」
そう告げると保坂は足早に違う練習の方へと走っていった。
「潤先輩…」
「ん?どうした?練習で何か分からないことでもあったか?」
「その…実里が失礼なことを言ってすみませんでした」
「そんなことか。別に気にしてないさ。まぁちょっとガツガツ来すぎな気はしたけどさ」
「なら良かったです」
「今まで言ってなくてごめんな」
「何がです?」
「俺がFC経験者だったってこと」
「気にしてないですよ。むしろそれを聞いて嬉しかったです」
「嬉しい?」
「はい。世界大会で連覇しちゃうような人がわたしたちのコーチをやってくれるんですよ?嬉しいに決まってるじゃないですか」