ポッケ村の集会場。ここには3人の受付嬢がいた。真ん中のテーブルではよそから来たハンターたちが酒を飲んでいる。先ほど上位ティガレックス二頭をクリアして帰ってきた。
受付嬢は姉妹でやっていて、G級は長女、上位は次女、三女が下位を担当していた。
ギルドマネージャーはドンドルマへ出かけているため不在だ。
「ふぁーあ、お腹すいた」
「姉さん、眠いのかお腹すいたのかどっちですか?」
「はやく狩人庵に行きたいね」
真ん中でハンター達が酒飲んでいるため、彼らが帰った後に帰らないといけないから3人はなかなか帰れずにいた。
「おいこら、ここで呑んでないで居酒屋で呑みな」
そんなとき一人の女性ハンターが言った。装備はキリン装備でナルガの双剣を携帯していた。村の専属ハンターである。
「おっ、きれいな姉ちゃんここに座って呑みな」
「あ?捌かれたいの?」
兄貴譲りの殺気だったハンターの目で酒飲みハンターたちの肝を冷やす。
それにビビった彼らはそそくさと席を外して集会場を出ていった。
「まったく、片付けも出来ないのかよ」
呆れながらクエストクリアの報告をしにG級クエスト嬢の元へと行く。
「はい、ナルガクルガ二頭のクエストクリアしたよ。片方討伐、片方捕獲ね」
「お疲れさまです。追い払ってくれてありがとうごさいます、助かりました」
「ああゆう空気読めない男は嫌いなんだよね。ごめんね、殺気だっちゃって」
「いえいえ、はやく狩人庵に行きたくていきたくて仕方が無かったです」
「姉さんあくびしながら、お腹すいたって言ってましたから」
「コラ!余計なことは言わない!!」
横で済ました表情でさらりと暴露する次女に顔を赤く染めて怒る長女。普通はハンターの前ではプライベートの話はしない掟がある受付嬢だが、村専属ハンターとなると関係ない。互いに信頼関係が出来ているから話せることもあるが。
「今のことはお兄さんには内緒でお願いしますね?」
「内緒も何も兄貴は『いっつもG級の受付嬢は眠たそうに欠伸しているよな』って言ってたから手遅れですよ」
「そんなぁ!?」
受付嬢たちは旅に出ている兄貴のことを異性と意識している。特に長女は気合いが入っていていろいろとモンスターのことを調べてはクエスト受注しに来た兄貴と色々と話をしていた。旅に出た後も色々と気にかけているようだ。
「それじゃあ今日は三姉妹揃ってお店に来ますか?」
「はい、予定は大丈夫ですか?」
「今日は暇だって聞いていたから大丈夫でしょ。私も一緒にしても良いかしら?」
「ウンッ!!今日の食事会は女子会だね!!」
「そうだね、それじゃ先に行って待ってるよ」
ハンターはそう言うと自宅に向かって行った。
本日のお客様
ポッケ村集会所の受付嬢三姉妹。
「今日は珍しく暇だニャ」
調理場の板場に片腕で寄りかかって言うのは、アイルーキッチン狩人庵の二代目料理長のギルバート。明日は昼のランチでは弁当が50人前と予約が入っている。嵐の前の静けさと言ったところか。
「昨日もランチのみで夜はほとんど無かったニャ」
煮方のトムがツカミダコの煮付けの味を確認しながら答えた。
ここの調理場は役割がしっかり決まっている。
料理の盛り付けをする『盛り付け』から始まり、ある程度仕事がこなせるようになったら『焼き場』をやる。焼き場は魚や肉の串焼きから塩焼きからステーキまで色々とある。
それもできるようになったら『揚場』になり、唐揚げや昼のランチで多く注文される天ぷらや天丼を任されるようになる。次に調理場の二番手となる『煮方』。ここまで来ると、献立や仕込みの指示をするようになる。煮物や寒くなるとおでんなどを作るようになり、店の経営方針などにも口を出せるようになる。
最後は『板場』。よく板前さんと言うが、ここに立つ者のことを指す。魚を捌き、刺身などを用意する。店の全責任者。つまりここの店では『モンスターハンターの料理番』と呼ばれることになる。
さて、今板場のギルバートと煮方のトムが話をしているが、その下っ端の盛り付け、焼き場、揚場の担当は何をしているかと言うとのんきに話をせずに明日の弁当の仕込みをしていた。
先も言ったが、弁当50本はそう簡単にその日の午前中に出来る量では無い。前日にほとんどの素材に包丁を入れなければ全然回らない。盛りつけの担当のココロは明日の弁当の刺身のツマを剥いている。焼き場のマイケルはポポのタンに塩コショウを降り味付けしてトレイに並べて冷蔵庫に閉まっていく。揚場の担当のテリーは海老の背わたを串を使って抜き、粉をかけて明日すぐ揚げれるようにしていく。
弁当と言ったが、そこら辺の弁当屋さんで販売されているものとは違う。値段も10倍に跳ね上がっている。
正方形の木箱に十字の仕切りを入れて四つの部屋を作る。そこに小皿をはめて、酢の物や煮物。揚げ物やら刺身まで詰め込み、ご飯と香の物。それと赤出汁を提供する。クエストが連続して忙しいときにハンターに簡単に、尚且つちゃんとした食事をと先代料理番のリュートとギルバートが考案したランチだ。
ただし今が暇だから今のうちにやっているだけで、忙しい時は、夜の営業をやっている。だから、遅いときは仕込みのせいで日にちを跨いで深夜1時に終わるのが普通だ。
「おい、ココロ。姐さんから頼まれた肉焼いてあるのかニャ?」
焼き場のマイケルが明日の仕込みを終わらせて自分の後輩であるココロに聞いた。ココロは仕込みやら雑用やらで一杯一杯だったのですっかり忘れていた。
「やってないニャ……!」
「馬鹿だニャ」
ぼそりと呟いたマイケルは興味なさそうに次の仕事に取りかかった。
「ニャ、ニャ、ニャ!……どうすればいいニャ!?今から焼き場使わせてもらってもいいですかニャ!?」
「ダメニャ」
マイケルの無慈悲の一言でココロの精神は一気に削れた。
「そんにゃあ!?」
「お前は馬鹿だニャ。まだ夜の営業が終わってないのに焼き場を貸せるわけ無いニャ」
「そこをなゃんとか!」
「おい、どうした?」
ふたりのやりとりを気になってギルバートが入ってきた。
「こいつが姐さんに頼まれたこんがり肉を焼くのを忘れていたのですニャ」
「ニャア!?おめーなぁーにやってるニャー!!」
「す、すいませんニャー!!」
ギルバートの剣幕にココロは両手を合わせて謝るしか無い。
「姐さんから頼まれたことをすっぽかすとかふざけてんじゃねーぞ!!」
「あたしがどうかした?」
姐☆さ☆ん☆登☆場♪
このタイミングで姐さんこと妹ハンターが調理場に来るとは誰も思ってなかったのでキッチンアイルー一同絶句してしまった。
「ここに来たら誰もお客さんいないしちょっとギルバートに用があって来たら怒鳴ってるしでどうかした?」
「いや、失礼しましたニャ。実はココロが姐さんから頼まれたこんがり肉を焼くのを忘れていたのですニャ」
「すいませんですニャ」
「別にいいけど?次から気をつければ良いじゃん」
あっけらかんという妹ハンターにギルバートはいう。
「しかし我々は『モンスターハンターの料理番』と呼ばれる身。ご主人に迷惑かけるようなことはあってはならないと思いますニャ」
「知らないよそんなの。そんなこと気にしたら兄貴なんて迷惑掛けっぱなしだよ?私や兄貴はこんがり肉焼くの忘れただけで怒ったりしないよ?ストックならまだあるし。それより、お客さん連れてきたから準備できる?」
「ニャ、何名様かにゃ?」
「受付嬢三姉妹と私。今日のお薦めは?」
「ニャ、今日はすき焼き会席がお薦めですニャ」
「相変わらずクオリティ高いよなぁ。分かった、じゃそれでよろしく。あと少しココロ借りて良い?」
「どうぞ。……おら、行くニャ」
「ニャ、姐さん」
「ふふっ、何泣きそうな顔してるの?渡したい物があるだけだから」
ココロを連れてハンターは自室に移動した。
「ニャ、自分を解雇して欲しいにゃ」
「まぁまぁ落ち着きなさいって、真面目過ぎるんだよお前は。さっきも言ったでしょ、渡したい物があるって」
ガサゴソとアイテムボックスを漁りながらハンターは肉焼きセットを探す。
「あった!よし、これをあげるよ。これで肉焼きの練習しな」
「ニャ、これは?」
「これは?って見て分かるでしょ肉焼きセット。大方マイケルが調理場の肉焼きセットを貸さなかったんでしょ。意地悪な職人の真似事までしやがって、全く。これ使っていいから肉焼いておいてね。後辞めるなら兄貴に言って、ココロを雇っているのは兄貴なんだから」
「ご主人には会ったこと無いですニャ」
「ふふん、そんな君に朗報だ」
そう言ってハンターは一枚の紙を差し出した。そこには
『我らの団のみんなが狩生き呼んでポッケ村行きたがっているから皆引き連れて帰る』
「こ、これは?」
「兄貴帰ってくるって。挨拶できるよ、やったねココロちゃん、家族が増えるよ」
「何か言ってはいけない台詞が入っているニャ!!」
そんなこんな話していると玄関から声がする。
「こんばんはハンターさん」
「おっ、来た来た。」
受付嬢三姉妹がひょこり顔を出して。
「ほらココロ、飯の準備準備!!今日は呑むぞー!!」
近いうちにキッチンアイルー狩人庵を中心にお祭り騒ぎが起きそうだ。そう思いながらハンターは食堂へと向かっていった。