灰と幻想のグリムガル ―孤独な魔戦士―   作:雨宮海人

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どうでもいいですがグリムガルの作品数そこまで増えませんね。
自分的にはもっと増えると予想していたので意外です。

それでは今回もよろしくお願いします!


第16話 見えてなかったもの

あることを思いついた俺はそれを言うべく、ハルヒロ達の宿舎まで来ていた。

 

来る最中に雨が降り出して、俺は雨に降られながらも駆け足で宿舎の中に入る。

 

しかし、よく考えてみれば最近ハルヒロ、ランタ、モグゾーはシェリーの酒場で飲んでいるのかもしれないので宿舎に行くよりも酒場に引き返してもよかったのだが、ユメにも話がある以上宿舎に行った方がいいと思ったので宿舎にくることにした。

 

だが、前と同じように俺はこの宿舎のことを知っているわけではない。つまりみんながどこにいるのかわからないのだ。

 

「まぁ、この時間だ。まだ寝てはいないだろ」

 

とりあえず少し歩いたところで、階段に腰かけて雨空を眺めているシホルを見つける。

 

シホルか……最近まともな会話をしてないんだが、会話できるだろうか?

 

しかし、せっかく見つけたのに声をかけないというのは考えられないので俺はシホルのほうへ歩き出す。

 

「……あっ、フミヤ君。どうしてここに?」

 

「いや、ちょっとハルヒロとユメに話があってな」

 

「……ハルヒロ君とユメ?」

 

わざわざ二人を名指しで呼んだことに対してシホルが首を傾げる。

 

別に話してもいいことだが、シホルには関係ないことなので俺はてきとうに場所だけを聞こうと思ったが――

 

『シホルは周りがよく見えている』

 

なぜかそこまで考えたところでマナトの言葉を思い出す。なぜ、このタイミングで?

 

でも、シホルの意見を聞くのもいいかもしれない。実際シホルはパーティーのことをよく見ているからな。

 

「ああ、知ってたら場所を教えてもらいたいんだけど、その前に少し話さないか?」

 

「……別にいいですよ」

 

シホルは少し考えた後、許しが出たので俺はシホルの隣に座る。もちろん少し距離をあけてだが。

 

「あのさ、シホルって今のこのパーティーのことどう思ってる?」

 

「えっ?今のですか?」

 

「そう、できれば正直な感想を聞かせてほしい」

 

「正直に……いうなら、バラバラだと思う。私なんてユメと少し喋るぐらいしかまともな会話してないから」

 

シホルの答えは俺が期待しているものではなかった。もう少し戦力的な話がしたかったんだが。

 

「あー、ごめん。そういうのじゃなくてもっと違う意味だったんだけどな」

 

俺のその言葉にシホルは顔を暗くする。気を悪くさせてしまったか……

 

「フミヤ君はハルヒロ君たちに何の話があるの?」

 

しかし、予想とは違い、シホルは俺のことを睨むように見てきた。俺何かしたのかな?でも、質問に答えるとするか。

 

「あの二人にはさ。今のギルドから別なギルドに変えてもらおうかと思ってな」

 

俺が思いついた提案はユメとハルヒロのギルド移籍だ。ユメは弓矢を当てられない以上狩人である利点がほぼない。そして剣鉈の扱いがうまいのだ。それなら盗賊になって相手の殺せる技をもっと身につけたほうがいい。こうすればまずユメの物怖じしない思い切りの良さが生きるであろう。

 

そして、ユメが盗賊をやる以上、二人も盗賊は必要ない。ハルヒロには盗賊から味方のサポートをするための狩人か、前線の安定力を上げるために戦士か聖騎士になってもらう。こうすればパーティーのバランスが良くなりハルヒロ達も強くなれるだろう。

 

「どうしてそう思ったの?」

 

我ながらいい案だと思っていたのだが、俺の予想と違いシホルは怒っていた。少し不機嫌とかそんなものじゃない明確な怒りがその瞳に宿っていた。

 

「だってユメの弓矢は命中率が高くないでも近接はうまくできてるんだ。それならもっと近接できる職業のほうがいいだろ?ハルヒロも少し大変だと思うがうまくいけばパーティーの安定につながる」

 

「……私はそんなの望んでない」

 

「えっ?」

 

なんて言ったのか聞こえなかったが、そのシホルの声は俺が今まで聞いたこともない暗い声だった。あまりのシホルの変わりように俺は少し言葉を失ってしまう。

 

「私たちはそんなの望んでない!フミヤ君は私たちのことなんだと思ってるの……私たちはあなたの駒じゃない!」

 

最初はシホルの声に驚いたが、最後の言葉を聞き流せるほど俺は大人じゃなかった。

 

俺はすぐにシホルにつかみかかり押し倒す――

 

「きゃっ!?」

 

シホルの小さな悲鳴が響くが、かまわず俺は押さえつけ、声を荒げた。

 

「シホル!今の言葉だけは許せない……訂正しろ!」

 

俺はここまでハルヒロ達のことを考えて行動しているというのにそれがすべて否定された。その事実に俺は激昂していた。

 

「……やっぱりおかしいよ。フミヤ君は確かに厳しい時もあったけど、みんなの背中を押してくれる。そこがいいってマナト君だってそうほめてたのに!」

 

しかし、涙目で訴えるシホルを見て、そして、言われた言葉で俺は我に返った。

 

俺はどうしてこんなことをしてしまってるのだろうか?シホルをこんな顔にさせるために俺は頑張っているわけじゃない……

 

「……ごめん」

 

俺はよくわからなくなってただ一言謝ることしかできなかった。そして俺はシホルの上から体をどかす。

 

そのあとは何をしていいかわからず俺は雨が降る空を見上げた。何も見えない、真っ暗だ……

 

「……私こそごめんなさい。フミヤ君はいつも私たちのことを考えてくれてるのわかってるのに、こんなこと言っちゃって」

 

最低でも俺がみんなのことを考えているということがわかってもらえるだけ今の俺には救いだった。

 

「俺さ……間違ってたのかな?俺はただシホルたちが強くなって、一人前の義勇兵になるのを手伝いたいと、そう……思ってたんだけど」

 

「フミヤ君は間違ってないよ。でも、それに私たちがついていけないだけ……だけど、ギルドを替えるのは間違ってると思う」

 

ギルドについてだけはシホルにはっきりと拒絶された。実際のところ俺自身もハルヒロには多大な負担をかけることはわかっていたので反対される覚悟はあったが、シホルにここまで拒絶されるなんて微塵も考えてなかった。

 

「どうしてだ?」

 

「……みんなはわからないけど、私は今のパーティーで仲間だと思ってる。ギルドだってみんなで話し合って決めて、今までそれで頑張ってきったんだよ。でも、それだとバランスが良くないとか合ってないとかそんな理由で人にギルドを替えろなんて言われたくない。もちろん、ユメ達が自分の意志でギルドを替えるって言い出したら止める権利は私にはないけど」

 

そういわれてようやく俺は相手のことを考えた。もし仮に自分がハルヒロ達の立場でいきなり強固な前衛がいるから魔戦士をやめろと言われて俺は納得するだろうか?答えは否だ。俺は自分の意志で魔戦士ギルドの門を叩いて、修行して強くなった。でも、ギルドを替えろというのはそのすべてを全否定することになるのではないだろうか?

 

俺はただ自分の都合をハルヒロ達に押し付けようとしてただけだったということなのだろうか?

 

ただでさえ最近考え事ばかりしていた俺の頭にこの難問は重すぎた。

 

まるで今見上げている空みたいに先が見えない、何をしていいのかわからない。空が俺の心を表してるようにすら感じられた。

 

「シホル、もう一つだけ聞いていいかな?」

 

「……なんですか?」

 

「俺はどうしたらいいと思う?俺はマナトに託された。お前らを手伝ってくれって、今でもそうしたいと思ってる。でも、俺どうしていいかわからないんだ」

 

情けない。俺はシホルたちを助ける立場のはずなのに俺はいつの間にかシホルに助けを求めていた。どうしたらいいのかその答えを得るために……

 

シホルの顔は見えない。今はどんな表情をしてるのだろうか?しかし、さっきの涙目のシホルが脳裏に残って俺はシホルのほうを向けない。

 

だが次の瞬間、俺の体に何かが抱き着いてきた。さすがにこれには俺も反射的に視線を下してしまう。そこにはシホルの頭があった、顔は俺の胸に埋めておりよく見えない。

 

「……ごめんなさい。フミヤ君をこんな気持ちにさせちゃって、私もフミヤ君と同じで自分しか見えてなかった……マナト君がいなくなって傷ついて、でもフミヤ君は強いからそれでも簡単に前を向けるんだなって勘違いしてた。もっと早くこうして話してればフミヤ君はこんなことにならずに済んだのに」

 

「なんでシホルが謝るんだよ」

 

「フミヤ君は背負いすぎなんだよ。マナト君のことも、その言葉も」

 

「……そりゃ背負うよ。マナトは俺のせいで死んだんだ。俺が何もかも中途半端だったから――」

 

「違う!……違うよフミヤ君。マナト君が死んだのは誰のせいでもない。もし、誰がっていうならそれは私たち全員だよ」

 

シホルのはさらに俺のことを強く抱きしめてくる。俺が背負いすぎていた?自分のことすら理解できない俺にはその言葉が理解できなった。

 

「だから、みんなで一緒に考えよ。フミヤ君も一人で考えるのはやめて、みんなで……そうすればきっと元通りになれる」

 

みんなで考える。普通に考えれば誰でも思いつくことだ。一人でできないことはみんなでやればできる。

 

マナトもハルヒロ達の中では頭一つ抜けていたが、独断で物事を進めたことは一度だってなかった。みんなと話し合い意見を取り入れ、形にした。

 

それに引き換え今の俺はどうだろうか?みんなの言葉を聞かづ、ただ強くなってほしいからと自分の言いたいことだけを言い続けた。

 

ここまできて俺はいかに自分が横暴だったかを理解した。俺は本当に何も見えていなかったのだろう。

 

そして、そんな俺のために今まで大きな声をまともに聞いたことすらないシホルに何度も大声を出させたのだ。本当に情けない。

 

「……ごめん。俺どうかしてたわ。シホルの言う通りだ」

 

「よ、よかったです……っ」

 

しかし、俺の声にシホルはなぜか涙声である。あれ?俺さらに何かやらかしていたのか?

 

「す、すいません。なんか今までやったことないことやりすぎて――」

 

そのままシホルは泣き出してしまう。そりゃそうか、シホルみたいな女の子がこんなことして大丈夫なわけがない。

 

俺はそっと、抱き着いているシホルを抱きしめた。ユメを抱きしめたときは全く意識してなかったが、女の子ってこんなにも柔らかくて抱いてると安心できるものなんだな。

 

「ごめん。こんなことさせちゃって、俺はもう大丈夫だから」

 

慰めてみるが、シホルが泣き止む気配はなく、俺たちはその体勢のまま少しだけ時間を過ごすのであった。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!怒ったり、抱き着いたり色々しちゃって……」

 

ようやく落ち着いたシホルは俺と離れて、一番最初の距離感を保ったまま階段座っていた。

 

「いいよ。俺もやっと目が覚めたよ。それよりもシホルは大丈夫なのか?その……マナトのこと」

 

シホルはマナトのことが好きだったと思われる。マナトがいなくなったショックは俺とは比較にならないだろう。なので俺は少しためらったが聞くことにした。

 

「さっきまでは全然大丈夫じゃなかったけど、フミヤ君を見て自分にできることをしないとって思えたから少し前を向けそうです」

 

「……そりゃよかった」

 

俺としては自分が不甲斐ないなかっただけなのでその理由は少し恥ずかしかったりするのだが、

 

「これからは言いたいことはできるだけ言えるようになれたらなと……だからフミヤ君に聞きたいことがあるんです」

 

「ん?なんだ?」

 

「フミヤ君はどうして自分の職業を隠しての?本当のことを教えてもらったとき、正直言って隠し事されててショックだったから」

 

……意外にこれまた答えにくい質問である。マナトの時を思い出すが俺にもなんでかといわれて明確な答えがない。

 

「隠してたのは俺が強い存在だと知って頼られたくなかったからかな、あの時はシホルたちがせめて暮らせるお金を稼げるぐらいの力をつけられるかを見守りたかったからかな」

 

「じゃあ、どうして今は魔戦士として戦うことにしたの?」

 

「理由はいくつかある。でも、一番の理由は俺が魔法使いという立ち位置だといつもの戦闘スタイルと違いすぎてとっさに本来の実力が出せなくなる。それでマナトの時も力が及ばなかったと思ってな。常に全力で戦える準備をするためには魔戦士として戦った方がいいと思ったからだ」

 

その言葉にシホルはさっきとは違いう意味で怒っていた。何というかすごい不機嫌そうな顔に見える。

 

「どうしてそういう大事なことを言わないの?ちゃんと言えばみんなだってフミヤ君のこと不審に思ったりしなかったのに……」

 

「えっ?俺ってそんな目で見られてたのか?」

 

「……しかも自覚なし」

 

シホルに呆れられてしまった。どうやら俺は本格的に重症だったらしい。どれだけ自分のことしか見てなかったのだろうか……

 

「悪い、本当にダメダメだな。俺は……」

 

「ううん。ちゃんと聞かなかった私たちにも否はあると思う。大丈夫、これからみんなと話せばきっと……メリイさんはわからないけど」

 

そうか、ハルヒロ達はメリイとの交流がなさ過ぎて何もわからないのか、といっても俺もそこまで会話はつながらないし、少し事情があることを知ってるだけだが。それがあるからこそ俺にはある一つの確信があったりする。それはメリイが悪いやつではないということだ。酒場で一度メリイが『性悪メリイ』と呼ばれているのを耳にしたがそんなのは他人がつけたものに過ぎない。

 

「メリイもきっと大丈夫だ。ある人曰く、俺とメリイは似ているらしいからな。俺と同じように真正面から接してやればな」

 

「さ、さすがにあんなこともう二度とできないと思う……今思い出しただけでも恥ずかしいし」

 

顔を赤らめながら照れるシホルを見ると、ああ、これがシホルだよなと安心してしまう。正直怒ったシホルは二度と見たくない。

 

理由は、怖いとかじゃなくて、こんな女の子を怒らせるという罪悪感で押しつぶされそうになるからだ。

 

そんなことを考えていると、シホルが小さくくしゃみをした。よく考えれば雨だというのに外に長くいすぎたか。

 

「冷えるだろ。俺もそろそろ帰るから、風呂にでも入って暖かくしてから寝た方がいい」

 

「……うん。そうする」

 

俺たちは立ちあがって宿舎を歩く、そして、少し行ったところの廊下であるものが見えたので――

 

「シホル、ちょっとストップ」

 

「えっ?」

 

シホルの動きを止めさせる。そして少しだけ手招きをするとそこにはハルヒロとユメの姿があった。

 

二人とも向かい合って何かを話しているようだが、残念ながら距離がありすぎて、会話の内容まではわからない。

 

このまま黙ってみていても埒があかないか……

 

自分の身勝手さを思い知ってちょっと話しかけるのがはばかられていたが、俺はあきらめて話しかけようと足を踏み出す――

 

つもりだったのだが、何があったのか急にハルヒロがユメを抱きしめだしたので、その足を止めた。

 

というかなぜあの二人は抱き合っているのか?そういう関係だったのだろうか?

 

俺は真剣に考えながら覗きを続行していたのだが――

 

「……っ!?」

 

隣のシホルにはこの光景の刺激が強すぎたらしくおどおどしてしまいそれに伴って物音がなってしまう。

 

もちろんその音はハルヒロ達にも届くわけで、二人がこちらを向く。

 

「「……あ」」

 

俺たち四人の中に何とも言えない空気が流れる……

 

「……あ~そのなんて言うか。悪い、覗くつもりはなかったんだ」

 

「えっと、その、あの……」

 

落ち着いてる俺に対してシホルは軽いパニック状態になっている。

 

まぁ、いつものシホルならこの反応もしょうがないのだが、シホルも俺にさっき抱き着いていたから平気ではないのか?とは言わないでおこう。

 

「ち、違うから!?」 「ち、ちがうよ!?」

 

二人は仲良くハモリながら抱き合うのをやめ、すごいスピードで離れていた。

 

いや、そんな仲の良い姿見せられて違うといわれても……

 

「ご、ごめんなさい!あたしっ、そういうこと全然知らなくて、ふとってるし、鈍いし、あのその!」

 

「シホル、落ち着け、確かに俺たちは見てはいけないものを見たが、この場を離れて忘れればいいんだ」

 

「そ、そうだね!本当にごめんなさい」

 

「悪かった。これからは気をつける。シホル行こう」

 

「……は、はい」

 

「や、だから待って!違うんだって!」

 

俺はハルヒロの静止の声を振り切り、シホルとともに全力でその場から離脱した。

 

「ちょっとー!?」

 

その日宿舎にハルヒロの叫び声が響き渡ったが、俺は何も知らない何も見てないという意思を貫くことにした。

 

そして俺はそのとき久しぶりに笑った気がした。隣のシホルは顔を真っ赤にして俯いてたけど……

 

でもそれとともに話しかけにくいという感情は薄らいでいき、明日みんなと真正面からちゃんと話し合おうと俺は決意したのであった。

 

 

 




はい、というわけで大天使シホルの説得により、あっさり自己中フミヤ君は正気に戻っちゃいました。(戻るの早すぎるし軽すぎたかな……)
これにともない本格的に孤独詐欺が始まりそうです。

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