玉狛のエンジニア   作:敏捷極振り

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第1話 Cat is curl up in the Kotatsu.

 

 

 

 学校もそつなく終わり、アタシたちは帰路に着いた。といっても時間的には17時頃、1日はまだまだ長い。ボーダーは三門市を守るために一日中活動しているのだ。アタシたちボーダー隊員にとってはこれからがむしろ気張る時だ。

 

「ハァ、それにしても寒ぃな」

「もう12月だしね」

 

 口元が蒸れるのがイヤなのか、カゲはギザギザの歯が剥き出しになるのも気にせずマスクを顎にずらしていた。吐き出される息が白いのも、12月の三門市の寒さを物語っている。

 

「そういやもうすぐ新人が入ってくるね」

「有望なやつがいるといいな」

 

 ここで一般人ならクリスマスだとか年越しだとか、そんな愉快で楽しそうな話題で持ちきりなんだろうけど、ボーダー隊員には別の行事がある。毎年1月、5月、9月に行われる新人の正式入隊日、それは採用試験で合格通知を受けた仮の隊員が正式なボーダー隊員として認められる日。つまり新しい社員が入ってくるのだ。多少なりとも気にはなる。

 もちろん、一部の隊員たちの中にはクリスマスも年越しも楽しみたいと思う人もいる。アタシだってそうだ。

 

「今年も鈴鳴支部(すずなりしぶ)のみんなはクリパすんの?」

「あぁ、皆はりきってるらしい。そういうお前も、玉狛支部(たまこましぶ)のメンバーと過ごすんだろ?」

「あたぼーよ!」

 

 ボーダーの基地には本部と支部があり、大抵の隊員は本山である本部に所属している。実際カゲなんかは本部所属だ。アタシとコウは支部に所属し、それぞれ玉狛、鈴鳴と別々の場所に所属している。また、本部と支部の上層部とで考え方が違ってて若干わだかまりがあるんだけど、それは置いておこう。面倒ごとはゴメンだ。

 

「カゲんとこではそーいうのやんないの?」

「あぁ? そーいや誰かやりたいっつってほざいてたよォな気がしなくもねェ」

「いいじゃんやりなよ。若いうちに楽しんだ方がいいって」

「ババアみてェな言い方だな」

「んだとゴラァ?」

 

 ……乙女になんてことを言いやがる。

 はいコウも笑わない。笑った時点でアンタも同罪だかんな。つーかカゲもその風貌どう見ても高校生じゃねーだろ。

 

「じゃあ俺こっちだから」

「あァ、オレも本部行かねーと」

「じゃーね二人とも」

 

 二人と別れて玉狛支部へと向かう。

 もう陽はすっかり落ち、辺りは真っ暗というほどではないがほのかに赤みがさした夕暮れとなっていた。

 玉狛支部の基地は、使わなくなった川の何かを調査する施設を買い取ったもので、川のど真ん中に建っている。川の真ん中に建っているのにどうやって基地内に入るのかって? 普通に橋が架けてあるんだから渡っていけばいい。ちなみにわざわざ叩いて渡らなくても頑丈に作られているから大丈夫だ。というわけで、橋を渡って支部に着いたアタシは入り口の扉を開けた。

 

「……よく来たな」

「……なにしてんの?」

 

 カピバラに乗っかり、ヘルメットを被ったお子ちゃまが目の前でどっしりと構えていた。まぁ玉狛ではよく見る光景なんだけどな。

 

「一緒に乗るか?」

「乗らないよ。それよかモフモフさせろ」

 

 カピバラのお腹あたりをモフモフと手でいじる。この感触がたまんないんだよねー。

 

「おぉ、雷神丸(らいじんまる)も気持ち良さそうだ」

「ふっ……アタシくらいのモフラーになれば雷神丸の気持ちいいツボが分かるのさ」

 

 雷神丸とはカピバラのことだ。上に乗っかっているお子ちゃまは林藤(りんどう)陽太郎(ようたろう)。共に玉狛のマスコットとして今日もアタシの癒しとなっている。

 

「ハァ……なにバカなことやってんのよ」

「おー、キリちゃんおっす」

 

 奥からキリちゃんこと小南(こなみ)桐絵(きりえ)が出てきて、この光景を見ると一つため息を吐いた。鳥のようなアホ毛が飛び出た明るい茶髪で、まぁ美少女。うん、普通に可愛いと思う。女のアタシから見ても。そんなこと本人に言ったらつけあがるから言わないけどな。

 

「こたつ付けてるから、とりあえず中入ったら?」

 

 そう言われるや否やすぐさま暖を求めて中へと入る。後ろからのしのしと陽太郎と雷神丸がついてくる。リビングでは真ん中にこたつがドンと構えており、まるでアタシを誘惑するかの如く温かそうな布団を広げて待っていた。

 

「はぁ〜、あったけぇ」

 

 こたつに入ると温もりがアタシの冷えた下半身を包み込み、自然と顔もほころんでしまう。キリちゃんも続けてアタシと対面にこたつに入るが、「あっ」と何かに気づいたかのように声を漏らした。

 

「凄く幸せそうな所申し訳ないんだけどさ、ちょっと一つ頼まれてくれない?」

「こたつから出ない範囲だったらいいぜ」

「みかんを……冷蔵庫からとってきてくれない?」

「……こたつから出ない範囲って言ったよね?」

 

 ここから冷蔵庫にあるみかんを取りに行くには、こたつからでないとまず無理だ。

 

「つーか今こたつ入る前に取りに行っときゃ良かったじゃん!」

「しょうがないじゃない! 今気づいたのよ」

「かくなる上は陽太郎に頼むか……ってあれ、陽太郎は?」

「もう使えないわよ」

 

 そう言ってキリちゃんはこたつの側面を指す。

 見ると陽太郎がいつの間にか雷神丸を枕にしてこたつに入ったまま眠っていた。

 ……にゃろう、早くも天国を味わってやがる。

 

「ただいまー!」

「おっ、この声はシオリちゃんかな?」

 

 元気な声とともに誰かが帰ってきたみたい。

 たぶん声色からしてシオリちゃんこと宇佐美(うさみ)(しおり)だろう。声の主はスーパーの袋を引っさげてリビングに入ってくる。

 

「じゃーん! 今日はお鍋にしてみました!」

 

 おしゃれなメガネをキラリと光らせながら、手に持ったスーパーの袋を掲げてみせた。

 

「おぉー! 鍋いいわね鍋!」

「さっすがシオリちゃん分かってるわ……ところでさ、ちょっと申し訳ないんだけどさ、冷蔵庫にあるみかんだけ取ってくんないかな?」

「えっ、みかん? 別にいいけど……ってまさか、こたつから出たくないから?」

「「はい」」

「もー、二人ともそんなんじゃこたつむりになっちゃうよ?」

 

 と言いつつも、みかんを取りに行ってくれるシオリちゃんマジ神ってる。ありがたやありがたや。

 シオリちゃんからみかんを受け取ってむしゃむしゃと頬張る。うーん、この甘みと酸味が堪らんのですよ。

 

「そういえば佳奈(かな)、少し相談があるんだけど」

 

 佳奈っていうのはアタシのことだ。ちなみに苗字は霧島(きりしま)、覚えなくても特に問題はない。頭の片隅に置いとくぐらいでいいよ。

 

「どしたーキリちゃん」

「あたしのトリガーってさ、もうちょっと耐久力上げれない?」

「んーまぁ出来ないこともない。その代わり威力が下がるか、重量が重くなっちまうよ」

「あんまり威力は下げたくないのよね……重さはむしろ今が軽すぎるくらいだから重くなっても問題ないわ」

「りょーかい。じゃーその方向で早速弄ってみるよ」

 

 早速キリちゃんからトリガーホルダーを受け取り、特殊な工具(ドライバーもどきとアタシは呼んでる)を片手にパパッと作業を進めていく。

 ボーダー隊員は簡単にいうと、実際に近界人と戦う「戦闘員」、トリオン技術を開発・発展させトリガーを調整する「エンジニア」、戦況を把握して戦闘員のサポートをする「オペレーター」に分かれて構成されている。アタシはエンジニアとしてボーダーに所属してて、今年で3年目になる。

 今思えば入隊したての最初の頃は大変だったなー、まぁ大体素行不良と態度の悪さで叱られてた気がするけど……っと、それは置いといて。

 実は玉狛支部には(他の基地をあまり見たことないから分かんないけど)エンジニア専用のラボがある。ここではトリガーを調整したり開発したりと、トリガーを弄るときに使ってる。今回みたいに片手間で出来る作業ならその場で済ませちゃうけど。ちなみにトリガーには様々な機能に性能があり、さっきキリちゃんと話してたのはトリガーのいわゆるコスパのようなものだ。

 トリガーのコストは「威力」、「耐久力」、「軽さ」に割り振られており、通常はそれぞれバランスよく調整されている。というよりかは一定の比率で調整されてないとむしろ扱いづらい。ただ使用者によっては癖があったり、戦闘スタイルが違ったりするので微妙に比率を変えたりする。そん時はアタシたちエンジニアの出番だ。使用者の要望に応えて使いやすい設定に持って行く。中には自分で弄っちゃう戦闘員もいるけどね。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ふぃー、まぁこんなもんかな。キリちゃん終わったぞ」

「ありがと佳奈〜」

「ちゃんと耐久力にトリオン振っといたから。その代わりちと重くなっちまったけどな」

「ううん、全然問題ないわ〜」

「ならいいか。念のため後で試し斬りしといてくれよ。もし気にくわない点があればまた修正するからさ」

「うん、ありがと〜」

 

 普通に会話をしているように見えるけど、キリちゃんとアタシは未だにこたつに入ったまんまだ。しかもキリちゃんに至っては体はすっぽりとこたつの中に収まっており、顔だけ出している。まさにこたつむりの状態だ。

 ……なんか、ちょっと虐めたくなってくる格好だな。

 

「鍋できたよーん!」

 

 ちょうど良いタイミングでシオリちゃんの声が聞こえてくる。待ちに待った飯の時間だ、早速アタシは食器を出したりと手伝いに向かう。渋々といった様子でキリちゃんもこたつから這い出て手伝いに来た。

 

「おー、美味そうだな!」

「今夜はちょっぴり辛口キムチ鍋だよ」

「やっぱり寒い時期には鍋よね」

「せっかくだしこたつで食わねぇ?」

 

 鍋を囲んで3人は早速こたつの中に入った。女子だけでのちょっとした贅沢だ。美味しく楽しく鍋パしようじゃねーの。

 

「む、何やらぐっどすめる……」

 

 横から陽太郎が起き上がる。そういえばいたね、お子ちゃま。まぁ、プラスαで参戦したお子ちゃまも加え、全くドキッとしない女だらけのパーティが始まった。

 

 で、鍋を囲んで食事を楽しんでる内に、自然な流れで何故かボーダー隊員の中での男の品定めが始まった。

 

「やっぱり我ら玉狛のとりまるくん一強でしょう」

 

 シオリちゃんが玉狛の誇るイケメンである、烏丸(からすま)京介(きょうすけ)の名を上げる。みんなあだ名で「とりまる」って言ってるから勘違いするけど本名は「からすま」な。今日この場にいないけど玉狛に所属しており、ボーダー隊員の中でも屈指のイケメンと噂される、もっさりクール系男子だ。

 実家で暮らし、バイトを掛け持ちして貧しい家族を養っているという点もイケメン度をプラスしている。ボーダー内ではヤツの非公式ファンクラブがあるとかないとか。まぁぶっちゃけ興味ないけど。

 

「あら、(じゅん)も結構整った顔立ちしてると思うけど?」

 

 今度はキリちゃんが、これまたボーダー隊員の中でも屈指のイケメンと称される嵐山(あらしやま)准を立候補させる。ボーダーの広報担当もしており、テレビや取材等の役目を負っているだけあって顔が整っているといえる。誰もが認めるナイスガイで、嘘が嫌いという馬鹿正直な所も女子のハートをがっしり掴むだろう。

 何を隠そうキリちゃんの従兄妹でもあり、ヤツにもキリちゃん同様に鳥のようなアホ毛がついている。親の遺伝か?

 

「かなたんの推しメンは?」

「かなたん言うなや、そうだなー」

 

 特にこれといって思い浮かぶ人物がいない。というより、ぶっちゃけあんまり本部に行ったことがないので知ってる隊員がいない。アタシたちエンジニアは基本的に自身が所属する基地以外の所に行かない(アタシが出不精なだけかもしれないが)。戦闘員なら支部所属でも色々な行事やイベントで本部に駆り出されることもあり、そこで様々な隊員と顔を合わせることもあるが、エンジニアにはそれがない。

 先の話題に出た京介も、同じ玉狛に所属する隊員だからこそ知ってて、嵐山も広報担当でテレビで見たことあるから顔を知ってる。後者に至っては会ったこともない。

 

「悩んでるわね……」

「かなたん、滅多に本部に行かないから大半の人知らないんじゃないかな」

 

 同じ学校でクラスメートのボーダー隊員、カゲもコウも顔はまぁ悪くは無いかもだけど、いろいろと難ありな所があるしなぁ……と、ふと横をチラリと見る。

 

「む?」

 

 陽太郎がむしゃむしゃと、美味しそうにキムチ鍋を頬張っている姿が目に入った。

 

「アタシは陽太郎かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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