玉狛のエンジニア   作:敏捷極振り

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第3話 Spare the rod and spoil the child.

 

 

 

「フゥー……今日も平和だねぇ」

 

 タバコの煙をぷかぷかと浮かべながら、アタシはぽつりと呟いた。ピース特有の華やかで奥深い香りと、ほのかに匂うバニラの感じが癖になり、今ではすっかり手放せなくなってしまったピース・スーパーライト。スーパーライトだから低タールだし害も少ないよね(適当)。なんて言いつつも、なんだかんだで身体は大事にしたいからわざわざトリオン体に換装して吸ってるのが実情だ。トリオン体ならとりあえず実体に害が及ぶ影響もないからまぁ便利だ。ニコチンとかタールといった、有害物質を遮断できるフィルターをトリオン体内で細工してあるし。トリオンって超便利。

 やがて一本吸い終えると、アタシは冬の寒さに肩を震わせながら屋内へと戻る。ゆったりしたスウェットにサンダルなんていう軽装備だ、この寒さは堪える。玉狛支部の建物の屋上が、アタシの喫煙スペースになっていた。さすがに中で吸うわけには行かないしね。

 

「うぅ〜寒ぃ〜、暖かい茶でも啜るかね」

 

 リビングに降りて、身体を温めるためにとポットでお湯を沸かし始め、そのまま流れるような動きでコタツに入る。

 

「あ、かなたん。あたしの分もお茶淹れておいてもらえないかな?」

「オッケー」

 

 資材の整理でもしているのか、ダンボールを抱えたままシオリちゃんがリビングに入ってきた。そのまま忙しなくパタパタと奥へと消えて行く……手伝った方がいいかな?

 と思った矢先、シオリちゃんがひょこっと壁から顔だけを出す。

 

「そうそう言い忘れてたけど、今からお客さん来るらしいから」

「ふーん……えっ、今から?」

 

 その時、玄関の方からガチャリとドアが開く音が聞こえた。え、なに、もしかしてもう来たの?

 

「ようこそ玉狛支部へ。今はほとんどの隊員が出払ってるからあんまり人は居ないけど」

 

 そうこうしている内に何人か引き連れて中へと入ってくる雰囲気。もしこのままアタシの姿を見られたらヤバい。平日の真っ只中にスウェットでコタツに入ってるなんて、完全にニートだ。

 なにか少しでも仕事してる感を出さねーと………。

 ついに客人たちはアタシのいるリビングへと侵入してくる。

 

「ここがリビングで、普段は隊員のみんながのんびり過ごしてるスペースなんだが……佳奈、何してるんだ?」

 

 アタシがとった行動はいわゆるゲ○ドウポーズ。

 コタツに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくるこのポーズを取ることで、あたかも来ることを知っていたかのように思わせる。更には相手にも威圧感を印象付ける事にもなる。第一印象からナメられる訳にはいかないからね。

 アタシはさながら玉狛支部を率いる長のように振る舞う。

 

「よく来たな……」

 

 出来る限りの低音ボイスで語りかける。

 

「……この腐れニートは一応隊員なんだが、戦闘員じゃなくてエンジニアとしてうちに所属してるんだ」

「ちょっ! (じん)さんヒドくない!?」

 

 アタシの全力の演技を無視して尚且つ貶されるというなんとも屈辱的で残忍な扱いをするこの男は迅 悠一(ゆういち)。未来を予知することが出来るという超胡散臭い力を持つ。まぁ事実なんだけど。あとめっちゃ強い。

 

「事実なんだからしょうがないだろ」

「これでもやる時はちゃんと仕事してるっつーの!」

「はいはい。まぁ、知識と技術はそこらのエンジニアよりもあるのは確かだから、トリガーの事で何か聞きたいこととかあったら君達も頼るといいよ。きっと力になってくれる」

 

 迅が引き連れていたのは三人。

 真面目そうなメガネと白髪のチビとりんごみたいな頭の女の子。正直どういう関係性なのかさっぱり見当もつかないけど、たぶん察するに新しくウチに配属される隊員なのかな?

 

「まっ、とりあえず三人とも座りなよ。そこのソファ、結構座り心地良いんだぜ。てか迅さん、もしかしてこの子達ウチに新しく入る感じ?」

「いや、まだそうと決まった訳じゃないんだ。それに、そもそもこっちの二人は隊員ですらない」

 

 そう言って迅さんはソファに腰掛ける白髪のチビとりんごちゃん(アタシ命名)の二人の肩に背後から手を置く。この中ではメガネだけが隊員なのか。てか冷や汗かいてるけど大丈夫か?

 

「じゃあ見学的な感じ? これからウチに配属される予定があるとか?」

「いいや、三人はオレがスカウトして来た」

「へっ? スカウト?」

「あぁ、この三人はある目的があってボーダーに来たんだが、その目的の為には玉狛に入るのが一番やり易いってね」

「なんでそんなこと分かんの?」

「オレのサイドエフェクト(・・・・・・・・)がそう言ってる」

「あーなるほどね」

 

 サイドエフェクトっていうのは、高いトリオン能力を持つ人間に稀に発現する特殊能力のことで、迅さんの場合は先にも説明した通り未来を視ることが出来る。

 ほぼ確定している未来は年単位でかなり先まで見えて、逆に予知で介入することができる「不確定な未来」は、わりと近い将来までしか見えていないらしい。そもそも持ってないアタシからすれば、どちらにしろチートだろ。

 

「やーおまたせ! ゴメンね、ちょっと散らかってたから色々整理してたんだー」

 

 リビングの奥から、パタパタと足音を立てながらシオリちゃん登場。ヤバい、なんか今の凄い若妻感があった。シオリちゃんが奥さんだったら絶対幸せだよなぁ、とか全く関係ないことをふと考えてみたり。

 

「丁度いいところに来た。宇佐美、この三人にボーダーについて説明してやってくれ」

「うん、オッケー! この三人が迅さんが言ってた子達だね」

「んじゃアタシは茶でも淹れてくるよ。そろそろお湯も沸いた頃だしな」

「うん、お願いね」

 

 

 今日のアタシの初仕事……お茶を淹れる。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 それからシオリちゃんの、ボーダー設立から現在に至るまでの歴史や、ボーダー隊員の大まかな概要、ボーダーの主な活動内容等の懇切丁寧な説明があり、三人からの疑問や質問などに受け答えしつつも、大体のボーダーについての認識は得られたと思う。

 ちなみにその前に軽く自己紹介が入り、メガネが三雲(みくも)(おさむ)、白髪チビが空閑(くが)遊真(ゆうま)、りんごちゃんは雨取(あまとり)千佳(ちか)というらしい。

 

「三人とも……っと、一人は既に隊員だったね。他の二人は入隊希望なんだって?」

「はい……あの、近界(ネイバーフット)に行けるって本当ですか?」

 

 千佳ちゃんが真っ直ぐにシオリちゃんを見つめて尋ねる。ボーダーに入隊を希望する人の中には興味本位や旅行感覚で近界に行きたいなんていう輩もいるが、千佳ちゃんの場合はソレとはちょっと違う気がする。なにやら訳アリっぽい感じだ。

 

「うん、A級のランクに上がれば遠征っていう形だけど、近界に行く機会はあるよ」

「けど近界に行きたいなんて珍しいね、なんか用でもあんの?」

 

 アタシの疑問に対して千佳ちゃんが応えるのかと思いきや、隣に座っていた修が代わりに口を開く。お前が喋るんかい。

 

「千佳は近界に行った友人と兄を探しているんです」

「お兄さんを? てことはお兄さんもボーダー隊員なのかな?」

「……いえ、千佳のお兄さん……雨取(あまとり)驎児(りんじ)さんはボーダーには所属してないんです」

「雨取麟児……そうか、君はその妹なのか」

 

 迅さんが納得したような声を上げる。

 訳がわからない。ボーダー隊員でないと近界には行く手段はないし、かといってそのお兄さんはボーダーに所属している訳じゃないってことは……つまりどういうことだってばよ。

 

「ねえ迅さんどゆこと?」

「数ヶ月前、ボーダー隊員が一般市民へトリガーを横流しした事件が起きたんだけど、その一般市民の中に雨取麟児の名前があったんだ」

「それって、確かボーダーの重大な規定違反じゃ……」

「あぁ、同時期に行方不明になった隊員がいて、そいつが主犯じゃないかとボーダー側は睨んでる……が、近界は元より数が多いし、そもそも公にできるものじゃない。今はもうあまり干渉してないのが現状だな」

「私も知らなかったなーその話」

「なるほどね、そのお兄さんを追いかけようと、千佳ちゃんもボーダー隊員になろうって訳か。中々に健気じゃないの」

 

 消極的そうに見えるけども、こうしてボーダーに入隊しようとする行動力もある。まだ小さいのにしっかりしてる子だよホント。いや誰目線だよ。てか今のすんごいババ臭くなかった?

 とりあえず千佳ちゃんの頭を優しく撫でて癒されておく。こりゃアタシの癒し第三号確定だな。

 

「えへへ……」

 

 千佳ちゃんが思いの外嬉しそうに口元を緩ませる。

 うわぁもう可愛いなこいつ。なんだこれ、こんな妹を置いて近界に行くか普通? アタシなら行かない、絶対に。

 

「それでもう一人の、遊真くんも入隊希望なんだよね?」

「うん、でもさっきのボーダーの説明を聞いて少し気が変わった」

「ん? てことは……?」

「もしかしたら入隊しないかも」

「「「へっ?」」」

 

 唇を3にして飄々と吐き捨てる白髪チビもとい遊真に、アタシとシオリちゃん、ついでに修も思わず声がハモる。

 

「ど、どうしたんだ空閑!? ここに来る前に話してたことと違うじゃないか!」

「おれの目的は父親を蘇らせること。こっちの世界(・・・・・・)のトリガー技術ならそれが出来るかもって思ってたけど、さっきの説明を聞いた限りじゃ無理っぽい。じゃあボーダーに入っても意味ないじゃん」

「それは……!」

「まぁまぁメガネくん、そう焦んないで。別に今すぐ入隊を決める必要はないだろう」

「でも、僕たちには時間がないんです!」

「うん、分かってる」

「……えっ?」

「だから、そう焦んないでさ。とりあえず今日はもう遅いし、ウチに泊まってきなよ。部屋ならあるし、宇佐美が片付けといてくれたからそこそこ綺麗だと思うよ」

 

 なんだろう、凄い置いてけぼりをくらってる気がする。

 気が付けば既に日が暮れて、辺りはすっかり暗くなっていた。確かにこの時間に帰すのも、こっちとしては気が引ける。幸い玉狛支部は無駄に建物は広く部屋がいくつもある。ここの隊員のほとんどが住み込みで所属してて、かく言うアタシもここに住んでる。

 てか部屋用意してるって、日中シオリちゃんが忙しなかったのはこのせいか。しかも迅さんもこの展開が読めていたような節があるし……これもサイドエフェクトが成せる業なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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