玉狛のエンジニア   作:敏捷極振り

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第4話 The early bird catches the worm.

 

 

 

 翌日、アタシにしては珍しく朝早く起きてリビングに行くと、なぜか迅さんとシオリちゃんが今回連れてきた三人に、なにやらボーダー内で行われるランク戦だの隊員のポジションだのオリエンテーションを繰り広げていた。あれ、昨日の時点で千佳ちゃんはほぼ入隊確定だったけど、遊真は入んないんじゃなかったの?

 その事を聞こうとした矢先に、迅さんが口を開く。

 

「おはよう佳奈、珍しいなこんなに早く起きるなんて」

「あーうん、ちょっと目が覚めてね……てかこの状況はなに? 結局三人とも玉狛に入んの?」

「ああ、ちょっと色々あったけど、三人ともウチに来るってさ。みんな良い子だから歓迎してやってくれよ」

 

 一体昨日の夜に何があったんだ……。

 え、遊真ってあんまり乗り気じゃなかったよね? 確か親父さんがどうとかって言ってたけど、こっちの世界の技術じゃ無理っぽいって。あれ、てかそもそもこっちの世界(・・・・・・)ってなによ?

 昨日はあんまり気にもしなかったけどそもそも違和感ありまくりじゃん。なんだよ白髪でチビって、若白髪にも程があるだろ。しかもなんかよく見たら横にちっさい黒い炊飯器みたいなの浮いてるし。

 

「まぁ、よく分かんねーけど迅さんが連れてきたんだし、悪いようにはならないよね」

「うん? なんか言ったか?」

「いんや何でもない。ちょっち一服行ってくる」

 

 一服吸ってひとまず頭を落ち着かせるか。

 そう思いひとまずリビングを後にしたアタシは屋上へと向かったが、そこには既に先客がいた。

 

「あれ、ボス(・・)?」

「おぅ、佳奈か。おはようさん」

 

 玉狛支部の長、林藤(りんどう)(たくみ)が屋上から三門市を眺めながら優雅にタバコを吸っていた。

 

「あの三人とはもう話したか?」

「うん、なかなか個性的なメンツだったよ」

「そうか。まっ、おまえさんならすぐ打ち解けるだろうよ」

 

 アタシもボスの隣にしゃがみ込んでタバコに火をつけて一息つく。やっぱり朝起きてからの一服は染みるねぇ……トリオン体だけど。

 

「ねぇボス、あの空閑遊真って何者なの?」

 

 ふと気になってた事を聞いてみる。

 ボスなら何か知ってるだろうし。

 

「うん? 迅から何も聞いてないのか?」

「え? うん」

「あいつはネイバーだぞ」

「ふーん……ネイバーねぇ……えっ、マジ?」

 

 思わず口に咥えていたタバコをぽろっと落としそうになる。

 

「なんだ聞いてなかったのか」

「全然聞いてないし! あーでもそっか、ミカエルさんと同じでネイバーか。それなら色々と納得だわ」

「どうした、ネイバーだと不都合でもあるのか?」

「いや別に、ただ驚いただけ。てか迅さん一言もそんなこと言ってなかったからさー」

「あいつはたまにそういうところがあるからなぁ」

 

 遊真がネイバーだとするのであれば、アタシの違和感にもいくらか説明がつく。こっちの世界(・・・・・・)という言い方をしていたのも、近界側からしてみれば確かにそういう言い方にはなると思う。

 他にもボスは色々と知っていたようで、遊真の父が昔の旧ボーダーとの接点があったとか、黒い炊飯器の形をした自立型トリオン兵のお目付役がいるだとか、遊真自身の命はそう長くなく、今は仮初めのトリオン体で生活しているとか、正直設定がてんこ盛り過ぎてもうお腹いっぱいだ。

 要するに、あの小さい体で色んな苦労を抱えてきたネイバーだという事が分かった。この世界の小さな子はいろんな意味で強い子が多いな。

 

「だから迅さんがボーダーに入るならウチに来た方がやりやすいって言ってたのね」

「まぁ幾分かはやりやすくはなるだろうな。だが本部もただ黙って入隊させようとはしないだろう。なんせ(ブラック)トリガーも持ってんだからな」

「黒トリガーまで持ってんの!? はぁ〜、これはまた強烈な新人を連れてきたんだねぇ、あの胡散臭い男は」

 

 あまりにボスがサラッと言うもんだから、こっちとしては驚く暇もない。むしろ呆れて苦笑いが出るくらいだ。

 黒トリガーは、優れたトリオン能力者が自らの全トリオンを注ぎ込み、命と引き換えに作り上げるトリガーのことを指す。その性能は普通の隊員が使ってるノーマルトリガーとは一線を画し、正に比較にならないほどの能力を持つ。たった一つでボーダー内のパワーバランスをひっくり返しかねないとまで言われる代物だ。

 

「まぁそう言ってやるな。迅にも考えがあるようだし、俺はそれをただ傍観するだけのいつも通りの事だ」

 

 そう言い残してボスはタバコの火を消し、屋内へと戻っていった。

 

「黒トリガー持ちのネイバーねぇ……こりゃ今回の正式入隊日は荒れそうだなぁ」

 

 ふとそう呟き、アタシもボスが出た後に続いて屋内へと戻り、その足で迅さんたちのいるであろうリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「あ、かなたん戻ってきた」

「なんか、ちょっと離れたうちに随分賑やかになってんね」

 

 リビングへと戻ってくると、最初にいた迅さんとシオリちゃんと新人の三人の他に、キリちゃんとレイジさん、あと京介(きょうすけ)も増えてほぼ玉狛支部のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

「霧島先輩、おはようございます」

「おっす京介、それにレイジさんにキリちゃんもおはよ」

「霧島がこんなに早く起きてるなんて珍しいな」

「ホントね、いつもなら一番遅いのに」

「失礼な、アタシだって早起きくらい極々稀にするわ」

 

 宝くじの3等が当たるくらいの確率な。

 ちなみに大体朝一番に起きてくるのはレイジさんらしい。まぁ防衛任務とかで遅くまで出てた時はまた変わってくるらしいけど。らしいっていうのは決まってアタシが最後に起きてくるから、一切その確認が取れたことがないからだ。アタシが起きた頃には、みんな既に訓練やら防衛任務とかで駆り出されてていないし。

 ちなみに京介こと烏丸(からすま)京介は、玉狛支部へ実家から通ってきているため除外だ。なんでも家が貧乏らしく、自分で稼いで家計の手助けをしており、ボーダーでの仕事以外でもバイト等の掛け持ちをしているとのこと。顔もいいしスタイルも悪くないから、読モとかファッションモデルでもすれば一気に稼げるんじゃないかと常々思うのはアタシだけ?

 

「よーし、じゃあ全員揃ったところで本題だ」

 

 迅さんがみんなの注目を集める。

 

「みんな知っての通り、次の正式入隊日の1月8日まで、あと約三週間ある。オレはこの間に新人三人を鍛えようと思ってる」

「まさかあたし達に指導しろなんて言うんじゃないでしょうね?」

「よく分かってるじゃないか小南、その通りだよ」

「はぁ!? ちょっと勝手に決めないでよ。そもそもこの子達の入隊すらさっき聞かされたばかりなのに!」

「まあまあ、これはボスの命令でもある」

「なっ……! ボスの……!?」

 

 支部長命令だと聞かされてキリちゃんが思わず押し黙る。玉狛の長からの指示とあってはさすがに文句は言えないよなぁ。まぁ確かに急な話ではあるし、キリちゃんが嫌がるのも分からなくもない。

 

「林藤さんの命令じゃ仕方ないな」

「そうっすね」

「……わかったわ、やればいいんでしょ。でもそのかわり、こいつはあたしがもらうから!」

 

 そう言ってキリちゃんは遊真を手元に引き寄せる。

 

「見たところ、あんたが一番強いんでしょ? あたし弱いやつは嫌いだから」

「ほほう、お目が高い」

 

 こんなに師弟の間でバチバチ好戦的な視線を交わす事があるだろうか、ってくらいおアツいね。てか二人とも分かりやすく負けず嫌いな性格だな。

 

「じゃあ千佳ちゃんはスナイパー経験のあるレイジさんだね」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしく」

 

 側から見れば小動物とゴリラにしか見えない超アンバランスな師弟関係の出来上がりだ。正直犯罪の匂いしかしない。まぁレイジさんのことだからそんなことは100パーセント無いだろうけど。

 

「となると俺は必然的に……」

「……よろしくお願いします」

 

 余ったもっさりイケメンとメガネ、合わせてもっさりメガネのコンビがひっそりとここに爆誕した。

 あれ? そういえば……

 

「迅さんは指導的なのやんないの?」

「ん? おれは今回は抜けさせてもらうよ。いろいろやることがあるからな」

 

 さすが趣味が暗躍なだけあるわ。

 迅さんのサイドエフェクトではこれから先、どんな未来が視えてるんだろうか。アタシには想像すらつかないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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