<八幡視点>
小「ごみぃちゃん早く起きなよ! もう雪乃さんと沙希さん来ちゃうよ!」
休日と書いて惰眠をむさぼる日と読むはずなのに、俺は朝っぱらから小町にたたき起こされた。
八「な、なんでこんな早い時間にあいつらが来るんだよ……。
むしろ休日なんだからだれも来て欲しくねえよ……。
一人で寝てラノベ読んでゲームしてふらっとラーメン食いに行ったりサイゼ行ったり
そんで風呂入って一日が終わるのが至高じゃねえか……」
小「今更何言ってんの。皆さんが来るのは前々から話して決まったことじゃん」
八「俺その会話に加わってた記憶ないんだけどな!?」
小「とにかく雪乃さんと沙希さんは料理の下準備で早く来てくれるから、
ちゃんと起きてシャキッとして出迎えてね」
季節はもう春だというのに、吹雪と台風が同時に到来しそうな組み合わせだ……。
あいつら二人とか、絶対会話ないぞ。
しかも居心地のいい沈黙とかじゃなくて終始ピリピリしてそう。
休日なのに精神休まらないとかおかしいでしょ……。
先に来たのは川崎だった。
沙「お、お邪魔します……つか、ずいぶんキレイな家だね」
八「そか? 普通だろ。お前はお前でずいぶん大荷物だなおい」
沙「あー、人数集まるって聞いたから、下味漬けた肉とか漬物とか大量に持ってきた」
小「沙希さんいらっしゃいです!
わざわざ朝早くからありがとうございます~。
冷蔵庫も台所ももう好きに使ってくれちゃって構いませんから!」
沙「あ、ああ。合格おめでと」
八「俺、雪ノ下迎えにバス停まで行ってくるわ。
バス降りて一人で歩いたら相次多分迷ってたどり着けなくなるし」
小「行ってらっしゃ~い」
沙「いや、そんな複雑な道でもなかったでしょ……」
そんな複雑でない道でも迷うのが雪ノ下なんだよ。
バス停で少し待つと、雪ノ下がバスから降りてきた。
雪「あら奇遇ね。こんな早い時間から血肉を求めて徘徊中かしらゾンビ谷くん」
八「たまにゾンビ映画でもゾンビが走ったりする作品あるけど、俺はあれナシだと思うんだよな」
走るゾンビとか超こええでしょ。
雪「まあ比企谷くんの生態もゾンビ映画の演出方法もどうでもいいのだけれど。
他の人たちはまだ来てないのかしら?」
八「川崎だけ先に来てる。なんか肉とか超持って来てくれた」
雪「そう……なら比企谷くん、まずこのままスーパーに行きましょうか」
八「冷蔵庫の中にもそれなりに食い物はあるけどな?」
雪「後であれがない、これがないと走り回るのはバカバカしいでしょう。
大事なお祝いの席でもあるのだから、念には念よ」
何においても手を抜かない性格なのは知ってたけど、料理のこととなると特に本気出すよなこいつ。
雪ノ下とスーパーに行って、野菜や魚、うちにはないような調味料をいくつか買い揃えて家に戻る。
そのまま挨拶もそこそこに、雪ノ下はすでに川崎が陣取って調理を始めている台所に突入した。
雪「こんにちは川崎さん。あとは私一人でも大丈夫よ」
沙「いや、唐揚げ途中だから。つかアンタも座ってていいよ。あたしやるし」
雪「そういうわけにはいかないわ。なら私は炒め物とスープを作ろうかしら」
沙「狭いんだけど」
雪「あなたの体が大きいからではなくて?」
沙「あんたの態度がでかいから妙に圧迫感があるんじゃない?」
やめて! 台所で言葉の刃をぶつけ合わないで! ここ俺んちだよ!?
ちくちく言い合いながらも、雪ノ下と川崎の二人は料理をどんどん作り上げていく。
換気扇を回していても、やたらいい匂いが室内を満たしてきた。
オラなんだか腹減って来たぞ。
沙「……へぇ、そこで油通しするんだ。手かかってるね」
雪「労力に見合っただけの味が待ってるわよ。そちらのお肉は前日から漬け込んだのかしら?」
沙「ああ。いつもはチビたちの舌に合わせてニンニクも生姜も弱めにしてるんだけど、
今日は食い盛りの男子何人もいるし、ガッツリ目に味付けしてね」
雪「確かにニンニクの香りが立ってるわね」
沙「ニンニク怖がってちゃ美味しいものなんて食べられないよ」
雪「ふふ、そうね。家でペペロンチーノ作っててもニンニク弱めにすると物足りないわ。
ところでこのお漬物も自分で?」
沙「うん。まあ母さんと二人で見てる感じだけど。
いい感じに酸味が出だしたころだから持ってきた」
雪「乳酸菌の力は偉大よね」
なんだかんだ料理談議に花を咲かせていているな。
小「いや~二人とも、料理ガチ勢だねお兄ちゃん」
八「そうだな。でも小町の料理だって負けてないぞ。
お兄ちゃん毎日おいしく食べてるぞ?」
小「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今この場でそのコメントはポイント低いよお兄ちゃん。
あ、小町そろそろ大志くんと戸塚さん迎えに行ってくるね!」
小町ちゃん、その二人を同じ場所で待たせて迎えに行くとか、小悪魔なのきみは?
哀れ大志。今日は飲むのに付き合ってやろう。やたらと甘いコーヒーをな。
小町がいなくなり、俺は黙って本を読んでいるため静かになった比企谷家。
台所に立つ女二人の落ち着いた声と、調理の作業音だけが響く。
沙「あ、あのさ」
雪「なにかしら」
沙「あのときはその……悪かったね。
家のこととか言われたら誰だって嫌な気になるに決まってんのに」
雪「ああ、エンジェルラダーでの……。
いえ、私もあなたの事情を知らないのに一方的な物言いだったわ」
沙「あんたの言ってること自体は間違っちゃいなかったんだよ。
でも間違ってないからこそ、自分が責められてるみたいで、
ムカついてガキみたいに反抗してさ……」
雪「もう、解決したのだからいいじゃない。
お互いさまということで水に流しましょう」
沙「そう、だね」
雪「唐揚げ、味見させてもらっていいかしら」
沙「ん」
雪「美味しいわ。ふふ、男子が喜びそうな味ね」
沙「ま、まあ、今日は大志のお祝いでもあるし」
雪「そう言うことにしておきましょうか」
沙「やっぱあんたムカつくわ……」
川崎と雪ノ下を二人にさせてどうなることやらとひやひやしたが、特に問題はなさそうだな。
小「たっだいま~」
彩「お邪魔します!」
大「お兄さん、こんにちはっす……」
小町が戸塚と大志を連れて戻ってきた。
小町と戸塚は手を繋いでおり、大志の目は腐りかけている。
高校受かったんだからもっと嬉しそうにしろよ。
八「あとは由比ヶ浜だけか」
小「え? 一色さんも来るよ?」
八「なんで一色まで呼んでるんだよ……。
リビング狭くなりそうだから俺だけ自室にこもって食うわ」
目腐れコンビで大志を引きこんでもいいけどな。
マジで今なら大志に優しくなれる俺。
結「やっはろ~。うわっいい匂い! 料理沢山! 超おいしそう!!」
い「こんにちはですっ。
ここが先輩のおうちですか~。
さっそく先輩のお部屋見せてもらっていいですか?」
うるさいのが二人来て、小町と大志の合格祝いが始まった。
<いろは視点>
わたしは今、先輩の家にお邪魔しています。
先輩の妹さんである小町ちゃん、そして川なんとか先輩の弟さんである大志くんの合格祝いパーティーに呼ばれたのです。
参加者は総勢8名。
人が多すぎです……。
先輩と二人っきり、いい雰囲気になんてなれやしません。
雪「一色さんは猫に興味あるかしら。
にゃあと鳴くとても愛らしい生き物よ。
そんな素敵生命体がここのお宅にはいるのよ」
結「それよりいろはちゃん、ヒッキーのアルバムとか見たくない?
小町ちゃんに見せてもらおうよ~」
八「俺の許可はとらないんだな……」
そんな雰囲気に全くなれない一番の原因は、わたしの両脇に常に結先輩と雪ノ下先輩が張りついて、なんやかんやとわたしに構い、わたしの行動をブロックしているからなのです。
い「え~でもせっかく先輩の家に遊びに来たんだし、
わたし男の子の部屋って見たことないんですよね~。
だから先輩の部屋見てみたいですね~」
八「悪いな一色。俺の部屋は俺専用なんだ」
スネオみたいなこと言ってるし。
三人用ではなく自分専用と言えるところが先輩の先輩らしいところですけど。
ってただのぼっちってことですよねそれ。
彩「三人とも仲良しでいいね」
八「こっちも男三人でガキ使のDVDでも見るか?」
大「なんでこんなにたくさんの人が集まってくれてる横で俺らだけお笑い見なきゃなんないすか……」
先輩たちは男3人で固まって話していて、小町ちゃんは川なんとか先輩と料理談議や、制服を改造する際のアドバイスを話し合っています。
沙「一年だしあんま見えるところ派手にやんない方がイイよ」
小「総武の制服って大人っぽいから小町に似合うかちょっと心配なんですよね~」
一応わたし、生徒会長なんですけど。
そんな堂々と「制服改造しても先生や上級生に目を付けられにくいテクニック講座」を開催しないでいただけますかねえ。
わたしも少しはいじってますけどね。でも2年F組関連の皆さん、制服の着こなし自由すぎでしょ。
葉山先輩や戸部先輩なんて制服の原型わかんなくなっちゃってるじゃないですか。
結衣先輩も夏頃はどこの高校の生徒だかわかんないくらい着崩してたし。
結衣先輩が総武に受かったのは我が校7不思議のひとつなんで、実は本当に他校の生徒なのかもしれません。
結「ヒッキーと小町ちゃん、小さい頃から髪の毛ぴょんってしてるんだ……」
結衣先輩はいつの間にかアルバムに夢中になっています。
雪ノ下先輩の姿が見えません。小町ちゃんの部屋で猫と遊んでいるのでしょうか。
川なんとか先輩が猫アレルギーなので、猫ちゃんは小町ちゃんの部屋から今日は出ないように隔離されているとのことです。
い「ちょっとお手洗いお借りしますね~……」
先輩の真似をして存在感をステルスし、なるべく注目を浴びないような動きで人の輪の中から抜け出します。
先輩の家にお邪魔したはいいものの、先輩は戸塚先輩にべったりだし奉仕部美女コンビの目は光っているしで、まったく先輩にアプローチできる気配がありませんね。
こうなったらこっそりと先輩のお部屋に忍び込んで先輩分をたっぷり補充することにしましょう。
トイレに行くと見せかけて足音を殺し、比企谷邸を探索して探り当てた先輩のお部屋。
途中、小町ちゃんの部屋の中から雪ノ下先輩がにゃーと鳴く声が聞こえました。
先輩の部屋は思いのほか片付いています。
やっぱり妹さんがいるからそんなに汚くしないのがマナーなのか、それとも先輩が几帳面なのか。
消臭剤も置いてあるけれど、それでもわずかに漂う「男子特有の匂い」が。
あんまり長居してるとそれだけで妊娠しちゃいそうです。責任とってもらわないといけませんね。
「リビングの書棚を見たときもちょっとびっくりしましたけど先輩のお部屋も本が多いですねー……」
奉仕部部室でもしょっちゅう本を読んでるし、本当に好きなんだろうなあ。
わたしもなにか読んで共通の話題でも見つけようかな。
「あ、これ土曜日のドラマになったやつ」
知ってるタイトルの本がありました。
清純派女優が主人公を演じていた推理ドラマの原作本のようです。
コミカルな映像演出が面白いのでわたしも毎週見ていました。
他に気になった本を何冊かピックアップして先輩のベッドにゴロン。
ここで少し冒頭だけ読んで、気に入ったら借りて行こうと思います。
大多数の男の子ってのは趣味を認めて理解してもらえるのが嬉しいはずです。
驚嘆して、称賛して、共感しておけば男の人のプライドってのはだいたい満たされるものでしょう。
先輩はひねくれているので、大多数の男子が喜ぶアプローチが素直に通じないかもしれないけど。
八「お前、俺の部屋で何してくれちゃってんの……空き巣なの?」
い「うぇっひゃい!?」
読みふけっていたので先輩の接近に気付きませんでした! 変な声出ちゃった。
八「勝手に侵入して勝手に本読み漁ってるとかどんだけ大物なんだよおまえは。
ふてぶてしいのは前から知ってたけどさ……」
い「ふてぶてしいとか空き巣呼ばわりとか心外ですね!
どこの世界にこんなにかわいい空き巣がいるんですか!」
八「大泥棒一味には美女がいるものだし、都会派盗賊は美女姉妹だったりするけどな」
い「じゃあ先輩は一瞬で服を脱ぎ棄ててわたしにルパンダイブで襲い掛かる役回りなんですね。
私みたいな可愛い女の子と部屋で二人きりだからって
血迷ってそう言う気になっちゃうのはわかりますけど
さすがにムードと言うか雰囲気ちゃんと作ってからにしてくださいごめんなさい」
八「俺、高校が終わるまでにお前に何回振られる羽目になるんだろう……」
いつもの流れでついお断りしてしまいました。
でも厳密には完全否定じゃないってところをちゃんと先輩は気付いているんでしょうか。
この人は気付いていてもあえて気付かないふりして流したりするんですけどね。
い「ところで先輩はなんでお部屋に?
人が多くて皆さん楽しそうにしてるけど自分の居場所がない感じがして
逃げて心の平静を取り戻そうとしたんですか?」
八「そうしたいのはやまやまっつうかほぼ正解だが、
戸塚と大志に本を貸す話になってな。
軽く読めそうなやつの1巻だけ取りに来た」
戸塚先輩には「キノの旅」という本を、大志くんには「フルメタル・パニック!」という本を貸すようです。
い「わたしにもなにかオススメないですか~?」
八「あ? そうだな……じゃあこれだな」
そう言って先輩は「人類は衰退しました」という本の1巻を貸してくれました。
女の人が表紙の、いわゆるオタク系の文庫本のようですけどそんなに萌え萌えな感じでもないし、おっぱいとかお尻とかぼんぼんって主張してない系なのできっとわたしが読んでも楽しめるのでしょう。
八「主人公っつうか、登場人物の大半が『イイ性格』してて振るってるからな。
一色には合ってると思うぞ」
い「なんか引っかかる言い方ですけど、そういうことならありがたく借りて行きますね~」
先輩がわたしのために選んでくれた本。
受け取った瞬間、自分でもびっくりするくらいに胸のあたりがあったかくなってしまいました。
たかが数百円の文庫本一冊なのに。しかも中古本屋さんの値札貼ったままだし……。
たったこれだけのことで乙女回路がショート寸前になっちゃうんだから、やっぱり責任とってもらわなきゃですね。
い「ねえ、先輩」
八「ん」
い「先輩はもう、ぼっちじゃないですよね」
八「……どうなんだろうな」
はぐらかして誤魔化して、まっすぐ前を見ようとしない先輩だから、こっちから真っ直ぐ踏み込まないと。
い「沢山の人に囲まれて、いろんな人と仲良くなって……。
その中でいつかきっと、いえ、絶対に『本物』が見つかるんだろうなあって」
八「もう忘れろください勘弁してつかあさいお願いします」
い「いつか先輩が見つける『本物』に、わたしが……」
言いかけたところで、部屋のドアが開け放たれました。
雪「あら、姿が見えないと思っていたらこんなところに一色さんを連れ込んでいたのね、拉致谷くん」
結「もう二人とも! 今日は小町ちゃんと大志くんのお祝いなんだから別行動とか禁止だし!」
雪ノ下先輩、猫と戯れるために思いっきり単独行動してたじゃないですか……。
彩「はちまーん、川崎さんが料理の追加出来上がったって!」
戸塚先輩も来ました。
あーはいはい、こう言うタイミングで邪魔が入るとは思ってましたよ!
八「お、おう。もう戻るわ。ほれ一色も行くぞ」
い「むー……わかりましたよ。でも先輩、わたし、これから本気出していきますから」
八「……お手柔らかに」
私たちがリビングに戻ったのと、比企谷家玄関の呼び鈴がなったのはほぼ同時でした。
小「おろ? またお客さんかな? 呼んだ人はもういないはずだけど」
八「宅急便かなにかか? それかセールスなら追い返すから俺が出るわ」
先輩が玄関まで対応すると、どこかで聞いたけたたましい声が響きました。
か「おいっすー! うっわ比企谷んち超立派じゃん!?
親御さん何してる人たちなの。マジウケるwwwww」
海浜高校の折本かおりさんが突然やってきました。
嫌な予感しかしません……。
なんだなんだと玄関近くまで様子をうかがいに人が集まります。
八「折本なら間に合ってます。すいません」
か「いや、閉めないでよ! つか落し物届けに来ただけなんだけど。
比企谷、スーパーの駐車場近くに生徒手帳落としてたよ?」
八「え、マジか」
か「うん。なんか落ちてるなーって思って拾って見たら
『総武高校比企谷八幡』って。
つか写真の目つき超悪くないwwwww ちょーウケるんだけどwwwww」
八「うっせえよ……」
か「手帳に書いてある住所なら近いし余裕でわかるなーって思って、
直接持って来たんだ。家にいてよかったよ」
雪「……買い物したときにどっちがどれだけ払うか払わないかで押し問答してたから
その時に落としてしまったのかしらね……」
か「あー、雪ノ下さんも来てたんだ? 二人であのスーパーで買い物してたの?
なに、二人は同棲とかしてるの?」
八「なワケねーだろ!!!」
雪「折本さん、冗談だとしても名誉棄損に該当するわよ」
か「だよね~超ウケるwwwwww」
あー、なんかもうさっき先輩と少しいい雰囲気だったのに、グチャグチャじゃないですかこれ……。
八「ま、まあとりあえず助かった。ありがとよ」
か「うん。なんかお客さんいっぱいいるみたいだし帰るねー」
そう言った折本さんのお腹が、盛大にグゥゥと鳴りました。
か「あ、あはは~! や、まだお昼食べてなくてさ~!
もし比企谷ヒマだったら届けるついでにどっか一緒に食べに行かないかな~?
みたいに思ってたんだけど、お邪魔みたいだし、コンビニでも寄って帰るね~」
沙「……料理なら、たくさんあるけど。余って冷めても勿体ないし」
か「あー、クリスマスとかチョコ作りの時にも会ったよね~。川……ゴメン思い出せないけど」
沙「……川崎」
か「そうそう川崎さん! 超クール系でカッコイイお姉さん!
って思ってたら同学年だったんだもんね~。びっくりしたよ」
なし崩しに折本さんも食事をとってもらうために一緒に卓を囲むことになりました。
せっかく先輩の家に来たのに、ちょっといい雰囲気になった気もしたのに折本さんに全部持って行かれた気がします。
<八幡視点>
俺の家にこんなに人が集まっているというだけでもおかしな話なのに、折本まで俺の家でメシを食っている。
か「チョー美味しいんだけどこれ!? マジで川崎さんと雪ノ下さんが作ったの?」
い「そういえばわたしもチョコケーキ焼いてきたんですよねー。
まずは主役の小町ちゃんと大志くんからどうぞです♪」
大「感激っす」
料理の準備には参加しなかった一色だが、お菓子作りが趣味というだけあってかなりレベルの高いチョコケーキを作って持って来ていた。
結「うー、あたしも今回は料理手伝おうと思ってたのに……」
雪「由比ヶ浜さん、あなたの笑顔が最高の調味料よ」
結「え? そ、そうかな~エヘヘ」
由比ヶ浜ちょろいわ―。雪ノ下も由比ヶ浜の操縦にずいぶん慣れてきた感があるな。
雪ノ下は完全に由比ヶ浜ルートまっしぐらですねこれは。はかどる。
か「つーかなんか見覚えある子だな~と思ったら比企谷の妹ちゃんだったんだ~。
中学おんなじだからどっかでちらっと見てたんだね。
マジこんなにかわいい妹いるとかありえないんだけどwwww
比企谷のくせに生意気wwww」
八「お前はジャイアンかよ……」
誰に対しても物怖じしないし押し出しが強いって時点で属性的にはジャイアンみたいなもんだけどな、折本は。
か「そっちの美少女さんははじめて会う感じだけど、ひょっとして比企谷の彼女? 隣に座ってるし」
彩「僕、男の子なんだけど……」
か「うっそマジで!? 女子力とか可憐さで勝てる気しないんだけど!
でもよく考えたらわたし女子力高い系のキャラじゃないし可憐とか程遠いって言うね。
自分で言ってて泣けるwwww マジウケるwwww」
折本うるせぇな……。
いや、不快な賑やかさじゃないんだけど。なんだろう。
テレビのバラエティタレント(ひな壇)がそのまま家にいるような騒がしさなんだよな。
小町と由比ヶ浜と一色の3人がこの場に揃うって時点でどれだけ騒がしくなるか危惧していたが、折本一人でその3人合計したのと同じくらいうるさい。
総武高校面子の集まりに対して、折本一人が完全アウェーな状況なのに普段と全く変わらんテンションで賑やかってのは、凄い精神力だと思う。
俺なんか今ここが俺の家のはずなのにアウェー感バリバリですぐにでも自室に閉じこもりたい勢いなのに。
結「小町ちゃんどうしたの? 具合悪い?」
由比ヶ浜が心配のセリフを呟いた。
そうだ。やけに折本が騒がしいのが目立つなあと思ったら、折本が家に入ってから小町が言葉を発していないんだ。
小「あ、いえそう言うわけじゃないですよ~。ただちょっと考え事って言うか気になることって言うか……」
小町は何かを考えるような、思い出すような雰囲気でうんうんうなっている。
小「お兄ちゃんの中学の知り合いで……折本……かおりさん……」
か「なになにー? わたしそんなに中学時代、有名人だったかなー?」
小「ひょっとして……お兄ちゃんが中学の時に告白して振られた人ですかね?」
ざわ……ざわ……。
そんな幻聴が走ったかのように場の空気が一変した。
か「あ、あー、それはまあ、なんて言うかー、ね、ねえ比企谷?」
俺に振るんじゃねえよ!
なんかみんなして、特に女子面子がめっちゃこっち睨んでくるし!
小「しかもお兄ちゃん、クラスでそのこと噂広まったみたいになって
結構笑いものって言うか、バカにされてたみたいになってたはず……。
そのとき1年生だった小町も
『お前の兄ちゃん、振られたんだってな』みたいに言われた記憶が……」
やめて! 過去のことをほじくりかえさないで!
過去は過ぎ去ると書くんだぞ! 終わったことはもう触れないようにするのが人間が生きていくうえで一番必要なことなんだよ!
い「へぇー……なにかあるんじゃないかなーこの二人、とは思ってましたけど、
まさかそういう関係だったんですか」
こっわ! いろはすの声が超低くてこっわ!
大「お兄さん、今日は飲むの付き合うっす」
八「うるせえよ! つーか今振られたわけじゃねえからな?
昔の話だからな?」
ついさっき自室で下級生に告白もしてないのに振られた気がするけど。
彩「八幡、何があっても僕は八幡の味方だからね」
八「あ、うん、ありがとう戸塚……」
戸塚の優しさも今この場では痛いな……。
八「ま、終わった話だし、大人数の余興と言うか、笑い話と言うか。
軽い世間話程度で終わらせようぜ、な?」
俺がそう言ったものの、人を殺しそうな目で俺や折本を睨んでいる川崎がいた。
沙「比企谷がモテないのは、まあそれはいいんだけどさ……。
クラス中で笑いものにするとか、さすがに気に入らないんだけど」
結「そ、そうだよ! 誰かを好きになったり恋したり、大事なことなのに、
ふざけてからかったり笑いものにしたり、そんなのってないよ!!」
由比ヶ浜も目に涙を溜めてプルプル震えた声で言った。
八「いや、マジで終わったことだしふっきれてるし、
俺も折本ももうそう言う話はナシにしようぜって言うか、なあ?」
か「え? あー、うんうん、そうそうカコバナカコバナ!
あんなことあったよねーアハハ、みたいな?」
俺と折本が言いつくろっていると、雪ノ下があっと思いついたように呟いた。
雪「……比企谷くんの定番の自虐ネタの
『勘違いして告白して振られるまである』って、
出所となったのは要するに折本さんとの思い出ということなのかしら?」
小「確かに折本さんは気さくな感じですから、
モテない男子は勘違いして『行けるんじゃね?』って告白してしまいそうですね~」
い「今でもネタにするって、、けっこう引きずってるってことなんじゃないんですかねー?」
結「確かにヒッキー、ちょくちょくそう言うこと言ってたし。
それだけ折本さんのこと、良くも悪くも心に残ってたってこと……?」
八「いやほんと、そう言うのマジないから。それない! みたいな感じだから」
混乱のあまりボキャブラリーが折本化しつつある俺であった。
か「そうそう。比企谷とは付き合うとかないな~、
友だちだよね、みたいな話、ちゃんとこの前したし!」
雪「とも、だち……」
そう言う話をした記憶はあるが、その話に納得した記憶はない俺である。
か「あー、うん、でもあの時のわたしの態度が悪かったって言うか、
無神経だったなーってのは反省してるんだ。
言い訳させてもらうとね?
比企谷に告られたあと、友だちについ世間話のノリで
『やー比企谷に告られてさー! まあ断ったんだけどー』
くらいに話しちゃったんだ。
それが気付いたらクラス中に広まっちゃってて……。
まあノリで盛り上がって笑ってたりしたから、結局わたしが悪いんだよね」
八「俺は、気にしてねえって」
あの当時はそれなりに傷付いたけどな。
ぼっちは自分の傷を自分で癒す能力に長けてるんだ。
か「そう言ってくれるのはありがたいよ。
でもやっぱ、ちゃんと謝らないとだよね。
ケジメって言うか。
比企谷、あの時はマジでゴメン。
これからはその……こだわりとかナシで、友達でいてくれるかな?」
折本が頭を下げつつ、すっと右手を差し出す。
なにこれ? 和解とか謝罪受入れのしるしに握手しろってことなの?
苦笑いしながら俺を見つめる折本の不思議な圧力に逆らえず、俺は彼女の右手を軽く握った。
いや、ここで出された手を払いのけたりとか、さすがにできないでしょ。完全に俺が悪者になっちゃうでしょ。
なにより折本は折本なりに、なんか軽い態度ではあるけど謝ってくれてるわけだしな……。
八「ま、まあそういうことで」
なにがそういうことなのか、キョドり過ぎて自分でもわからん。
手汗とか大丈夫かな。
か「うん! あー、皆さん、お騒がせしました……アハハ。
わたしいきなり来てご飯食べてなんかこんなことになっちゃって、
なにしてるんだろって感じだよね。マジウケるしwww」
妹ちゃんもゴメンねー。
やっぱお兄さんバカにされてるみたいで気分悪かったよね……」
小「うーん、まあ思うところがないわけではないですけど、
ちゃんと謝ってくれたのは小町的にポイント高いです!
ところで本当に、折本さんは兄に対して特別な感情はないんですか?」
小町ちゃん? いったい何を聞いちゃってるんですか!?
か「えぇ!? まあ面白いやつだとは思うよー。
見てるとなんかウケるし。
まあでも今はそれくらいかなー」
今は、ね。と折本が小声で言ったような気がした。
か「って言うか、この中に比企谷の彼女いるんじゃないの?」
八「いねえよ」
い「先輩に彼女がいるわけないじゃないですかー」
雪「この男に男女交際なんて無理ね」
結「ヒッキーは誰とも付き合ってないよ! だってヒッキーだし!」
そんなにみんな一斉に否定しなくてもいいだろ。そろそろ泣くぞ……。
沙「……そっか、誰とも付き合ってないんだ」
なんか微妙な目で川崎がこっちを見ていた。
折本が加わったことでさらにいっそう騒がしくなり、結局夜まで結構な人数が残って飲み食いにお喋りにと盛り上がっていた。
俺は途中から皿洗いとかゴミの片づけとかで人の輪を離脱したけどな。
沙「あたしが洗うから、あんたはお皿拭いて棚に入れてよ」
台所に川崎が来た。
八「いや、客にわざわざ手伝ってもらわんでもいい」
沙「今日は大志のお祝いでもあるんでしょ?
わざわざ弟のために席を設けてくれたんだから、働くのは姉の責任だよ」
八「律儀なブラコンだなお前」
沙「捻くれたシスコンよりマシでしょ」
八「誰の話か分からんな。俺のシスコンぶりは筋金入りで真っ直ぐだし」
川崎が皿をテキパキと洗い、どんどん渡される。つくづく家事スキル高いなこいつ。
沙「……一年間、いろいろありがとね」
八「なんもしてねえよ」
スカラシップの取得も、文化祭の衣装造りで頑張ったのも、手作りチョコで京華が喜んだのも、すべて川崎の努力あってのことだ。
俺たちは水先に案内しただけ。
奉仕部的に言うと、魚を与えたわけではなく釣り方を教えただけというやつだ。
沙「それでもさ、あんたらには……感謝してるよ」
八「そうか」
思えば川崎が関わった案件は「誰も傷つくことなく、奉仕部の理念を貫徹して問題を解決に導いた」ものが多かったと思う。
あ、葉山が振られたり平塚先生が独身を指摘されて心をえぐられたりしたか……。
そう言う笑えた些事は除外するとして、川崎と奉仕部の関係は理想的とも言えるな。
沙「奉仕部はしばらくまだ続けるんでしょ?」
八「まあ、やめる理由もないしな。開店休業状態だが」
沙「なんかあったらまた行くから、そん時はよろしく」
八「おう」
三年になって、奉仕部にどんな依頼が来るかはわからない。
しかし願わくば、川崎と奉仕部のような関係が増えればいい俺は思った。