偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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Prologue

 目の前で這いつくばる両親を見下ろす。その眼はある種己の子供に向けるものではない。普段から言うように化け物を見つめている目だ。

 ああ、確かにこの両親が言うように私は普通では無いのだろう。子供にして知識は乏しくも理解力は常人のそれではない。見た目がひ弱な細腕に反し、大の大人相手に赤子の手をひねるように組み伏せる事が出来る。特別なことも出来るにはできるが……それら全てを要約し繋げた結果、導き出される答えは化け物の3文字だろう。

 だが悲観はしない。私は悪という存在に憧れる一人の存在だ。化け物=悪という風潮もあるのだ、微塵にも問題はない。寧ろ大歓迎だと言うべきか……

 

 私が掴んでいる両親の腕が青くなっていくのを自分でも驚くほど冷ややかに見た。そんな私をみて両親の顔は更に青く染まっていく。

 

 

 悪というものは一体何であろうか。それは即ち敗者である。物語の引き立て役であり正義として見られる勝者の分かりやすい敵。正義にとっての悪とは即ち悪の正義。だが、悪にとっての悪とは何だ?

 客観的に見てみれば正義だと言えるだろう。だが主観的に見てみれば悪にとっての悪とは世間一般における正義に他ならない。

 道理に反したものを悪とも言うが、私が憧れる悪という存在はそうではない。敗者である故にその姿は気高く、孤高にして生きる存在なのだ。

 

 悪というものは敗者でなくてはいけない。しかし、全てにとって敗者であるのは悪ではなく弱者だ。悪は敗者となるまで勝ち続けている者の事を言う。

 

 悪が負けていいのは善、若しくは正義といった存在にのみだ。そこら辺の陳腐な存在や目の前で呻き声をあげているつまらない悪のような存在に負けることなどはあり得てはいけない。

 

 

 手を離し二人を蹴り飛ばす。

 怯えたような目で此方をみつめる両親に少しずつ近づく。

 

 やれやれ、私にとっての悪になりそこねた哀れな存在よ、貴様らは醜い。所詮弱者を痛めつけることでしか己の正当性を表せない者である貴様らは悪に滅ぼされる下衆にしか過ぎない。

 

 ただの2歳時に恐れる悪が何処にいる?ただ己の精神を保たせるために生まれたばかりである私の弟を殺す悪が何処にいる?

 

 

「ば、化け物!!」

 

「……結論から言わせてもらおう。貴様らはやり過ぎた。愚者である存在に掛ける情けなどはない」

 

 

 持ち上げた机を両親にたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「む……何の音だ?」

 

 

 仕事の帰り道、ある家の近くを通った際に何かを叩きつけた音が聞こえた。

 家の中から感じるのは大人の気配2つと子供の気配が1つ。何か胸騒ぎがし、玄関に立って呼び鈴を鳴らす。

 

 鳴らして数秒、中の気配が動く様子はない。もう一度鳴らしてみる。

 数秒、子供の気配が少し動いたのがわかった。これは何かが起きているのかもしれない。勘違いであったならば大変ではあるが良かったと思えばいい。寧ろここで何かがあってそれを見逃すとなる方が自分としてはダメだ。

 

 意を決し、ドアノブを回す。

 ドアには鍵がかけられていなかった。音も立てずにドアを開け、中を進む。未だに大人の気配に動きはない。

 

 廊下を進み、気配のある方へと曲がる。リビングらしき場所のドアを開けて中に入った。

 

 

「な!?」

 

 

 中は悲惨な有り様だった。空き缶やタバコの空き箱、カップ麺などのゴミが散乱する中、二人の大人が頭から血を流して倒れている。

 

 そして、その近くで、子供が血に染まった赤ん坊を抱いて座っていた。

 一体何があったというのだろうか、強盗に襲われた、というには状況がおかしい。

 倒れている大人、恐らくは子供の両親の近くには中央で折れ曲がっている机がある。先程聞いた音は恐らくはこの机の音。ならばこの音を出した存在は……目の前の子供だというのか……

 

 

「……済まぬな弟よ、お前にはこの腐った世界で老衰して死ぬという地獄を見せる事が出来なんだ。悪としては失格だな」

 

 

 血に染まった赤ん坊、もう恐らくは事切れている存在を抱く子供はこちらへとゆっくりと視線を向けてきた。

 

 

「して強者よ、後始末の方を頼まれてくれぬか?悪を粛清したといえど私はまだ子供の身であり、一人の人間だ。この状況をどうにか出来るほどの力は持ちあわせておらぬ」

 

「……君は…」

 

「いずれ悪と成る存在だ」

 

 

 その瞳は暖かさを持って腕に抱いた赤ん坊へと戻された。

 

 

 状況はまだ把握できていない。この場で何が起こったのかすらも分からない。だが一つ言えることはある。

 目の前の子供はあの赤ん坊を守ろうとしたのだということが……

 

 取り敢えずは警察に連絡をしよう。何が起こったのかは倒れている二人と子供に聞くしかないのだから。

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