【高町なのは】
慌ただしく局員の人達が動く中、私とユーノ君は会議室にやってきていた。
勝手にリンディさん達のいうことを聞かずに出撃した事への罰でも言い渡されるのかもしれない。だけど、今はそんなことよりも気になることがあった。
「どうして……」
フェイトちゃんの近くに居た人、何度か見た仮面を着けて靄みたいなもので包まれた人から総司君の匂いがした。
雨風のせいでハッキリとはわからなかった。もしかしたら勘違いかもしれない。でも、私がいくら否定しても心の何処かであの仮面の人が総司くんだって思ってる自分がいる。
あの仮面の人はジュエルシードをただ掴むだけで封印してしまった。それが総司君に出来るだろうか……わからない。
思えば私は総司君が何をどこまで出来るのかということを知らない。なんだか総司君ならなんでも出来ちゃうような気がして……
あの時の仮面の人は間違いなく空を飛んでいた。落ちそうになれば違う所へ移動していたんだ。まるで魔法でも使っているように……
思えば温泉旅行の時、総司君は飛んでいた気がする。次の日に一緒に寝てたという衝撃的な事があったから覚えてなかったけど。
あの時は凄かった。朝目が覚めたら総司君の匂いに包まれている感覚。起きてからも、総司君の匂いが少し身体についてずっと近くにいるような。そして総司君からは私の匂いが少ししていて、凄くドキドキした。
お姉ちゃんが一緒の布団に寝かせてくれたらしいけど、もし旅行の時ではなく、家だったらどうなっていただろうか。旅館のお布団は総司君の匂いがあまりしない。だけど家のお布団は……考えただけでもドキドキする。
考えが逸れてしまった。そんなことより重要なのは、もし総司君があの仮面の人だった場合、総司君は雷の攻撃をどうやってか防ぎ、消えてしまった事だ。アースラにも雷の魔法が放たれて、今は機能が一部停止しているらしいのだけど、一体それほどの雷をどうやって……
「ねえ、ユーノ君」
「どうしたんだい?なのは」
「あのね、魔法以外にも空を飛んだり不思議な事が出来ちゃう力ってあるの?」
「………あるよ。と言ってもレアスキルって分類されてとても珍しい力なんだけどね」
あるにはあるんだ。レアスキルっていうのも魔法みたいにいろんなことが出来ちゃうのかな。
「レアスキルというのは魔法などとは別に個人が生まれながらに持つ特殊能力のことだよ」
「……そうだとしたら一体どんな能力が…」
「わからない。なんせレアスキルの持ち主自体が珍しいからね」
総司君がレアスキルを持っている……その可能性はある。
飛ぶこと……もし、温泉旅行の時のが見間違いじゃなかった場合総司君は間違いなく飛べる。
駄目だ。どうしても総司君が仮面の人だって思ってしまう。そんな筈はないのだ。彼はあまり自分のことを教えてくれないけど、本当に大事な事はちゃんと教えてくれている。なのにこんなジュエルシードなんて危ないものについて黙っているはずがないのだ。
それでも今思えば思い当たるふしはある。
総司君は前に焚き火をするときにライター等を使わずにすぐ燃やしていた。あの時は別段なんとも思っていなかったけど、持っていた葉っぱがいきなり燃えるのはおかしいのかもしれない。
他にも……
なのはが考えてることを当てられたり、外で遊んでて寒がってた私の為に冷えてた筈のお茶を一瞬で温めたり、とてもいい匂いだったり、電気のコンセントが届かなくて動いてなかった扇風機のコンセントを握って動かしてたり。
それらが全て総司君のレアスキルなのかもしれないと思ってしまう。
「ユーノ君、レアスキルをいくつも持っているのはあり得るの?」
「あり得ない……わけではないね。だけど、考えられないよ。レアスキルというのは希少なものだから」
否定……出来ない。でも肯定も出来ないのだ。今私が仮面の人と総司君をつなげている要員は二つ。総司君がなんでも出来るってことと、同じ匂いってことだけ……
私の勘違いの可能性はまだまだあるんだ。だったら私は心の片隅にある可能性から目をそらす。嫌なことには目を向けず、前向きに物を考えないといけないんだ……
「待たせたわね」
そうこうしている内にリンディさんがやってきた。アースラの復旧のための指示を出し終えたみたいで、今から色々とお説教されちゃうのかな。
「取り敢えず、言っておくわね。今回の貴方達の行動は褒められたものではありませんでした」
「「すみません」」
「しかし、今はそれ以上に大変なことが起こってるの。よって今回は特別にお咎め無しにさせてもらいます」
「本当ですか!?」
「まあ、貴方達がどうしてあんなことをやったのかも理解できるのも理由だけどね」
リンディさんはそう言うとクルリとモニターの方へと視線を向けた。
「先程の雷の攻撃、仮面を着けた者の存在。それらを踏まえて先程捕縛したフェイトさんを交えてここで話し合いをするわ。今クロノが二人を連れてきているところだから」
「フェイトちゃん……」
【フェイト・テスタロッサ】
黒い魔導師に連れられ何かの施設の通路を歩く。
後ろには悔しそうに顔を歪めたアルフが歩いてきている。視線を下に落とすとバインドで縛られた腕が見える。
バルディッシュも奪われ、手が動かせない状況で逃げ出せるわけもなく、大人しくついていく。
ここは恐らく管理局の船の中なのだろう。管理外世界に建物の施設があるのは考えにくいし……
それよりも、はやく抜けださなければ。ジュエルシードを全て奪われるという失態をおかしてしまった。だから母さんは私に攻撃したのだろう。
そうと考えなくてはつらいから。母さんに見限られ、捨てられたとなったら立ち直れなくなると思うから……
想像してみて涙がこみ上げてきてしまう。
だけど、きっとあのジュエルシードを取り戻して母さんの所へ持っていけば許してくれる筈。なんとしても隙を見て逃げ出さないと。
「……フェイト…」
アルフから心配そうな声が聞こえた。そうだよね、アルフには私の感情が伝わっちゃうから解るんだよね。ごめんね、アルフ。
「……着いたぞ」
黒い魔導師がそう言ったので視線を目の前の扉に向ける。
「色々話を聞かせてもらうからな」
◇
次元航行艦アースラの会議室にて5人と使い魔1匹はいた。捕縛された少女は頑として情報を割らず、その使い魔もまた主のように情報を話さなかった。
そのまま不毛な時間が過ぎゆくのみかと執務官が心のなかでため息をついた時に変化は起こった。
突然会議室のモニターの電源が入り、砂嵐の画面が映しだされた。
会議室に居た面々は驚き、モニターを見つめる。
モニターに映る砂嵐はだんだんと収まっていき、何処かの玉座のようなものを映しだした。
そこに座っている人物は、子供。金色の髪を腰まで伸ばし、どこか中性的な顔つきの少年が座っている。
まるで物語に出てくるような水色で澄んだ瞳の持ち主がモニター越しになのは達へと視線を向ける。
『見えているようだな』
「……ええ」
重々しい口調で話しだした少年に艦長は冷や汗を流しながら返事をした。
『ならいい。恐らくは気になっているであろう、この現状についてだが…』
「母さんをどうした!!」
少年の話を遮り捕縛された少女が吠えた。
そう、少年の座っていた場所、そこは彼女達の拠点である時の庭園の一角であった。詳細に言えばいつもプレシア・テスタロッサがいる場所のはずだった。
『ああ、あの女か、愚問だな。処分したに決まっておろう』
「しょ、処分?」
『ああ。少女よ、何故あの女がジュエルシードなる物を集めていたか知っているか?』
「し、知らない……」
『実の娘を生き返らせるためだ。私には蘇生の手段があってな。ジュエルシードを献上する代わりに娘を生きかえらせるよう私に頼んできたのだ』
少年から紡がれる言葉に放心する。実の娘とは一体誰のことなのか少女にはわからない。ただなんとなくではあるが、その実の娘という存在が自分ではないと少女は本能的に理解した。
『まあ、このような下らぬ物を寄越してきたからどちらも処分したがな。とまあ、このへんで私の素性を話してもよいが、簡単に言えば黒幕というわけだ』
ジュエルシードを転がすように持つ少年の言葉に少女は理解してしまった。
処分……つまり少女の母は既に……
「お、お前ぇぇっっ!!!」
少女の激昂がとぶ、だが少年はそれを気にした様子もなくジュエルシードを握りつぶした。
「一体、貴方は……」
「私が何者であろうと関係あるまい。管理局の魔導師達よ、私はこの時の庭園にて待ち構える。もし来なければ……」
「………来なければ」
「幾つかの次元世界は滅びることに成るであろう」
その言葉を境に映像は途切れてしまった。
沈黙がアースラの会議室を支配する。
戦いの終わりは近い……