偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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12th

 玉座に座る少年は目を閉じ、自身の中に眠る力へと意識を向ける。その正体を未来永劫少年は知ることは出来ないが、それでもその事象は少年の力となる。力の使い方を理解できているのは半分と少し、それだけで世界を掌握するのに容易いのを少年は理解していない。否、理解できていない。

 

 少年は自身の中の魔術書を読み解き、その事象を作り上げていく。自身の中に形成された名前を反復させながら少年は眼を開く。

 

 

「Malum 999」

 

 

 ある世界そのものが内包された少年の歪さを示すその名前。悪を示す言葉にその反対を示す数字。少年自身がその意味を理解しているわけではない。少年のあり方が、その名前を表したのだ。

 しかし、その名が意味することはただ少年のあり方を示しているわけではない。

 

 

 それは、偏に少年が人間である事を否定している事を意味する。世界を内包した少年は自身を人間だと疑わない。しかし、その存在は既に——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——来たか

 

 

 少年の眼前に何人もの魔導師が立ち並ぶ。総勢23名、少年を討伐戦と編成された部隊ではある。

 

 

 ——あの二人はどうした?

 

 

 部隊を一瞥した少年から響いた言葉にその場に居た魔導師達は戦慄した。

 

 本能的に理解してしまったのだ、目の前の存在には勝てないと……

 

 

 それでも尚デバイスを握り少年と対峙しているのは管理局員としての誇りか、はたまた恐怖で足が竦んでいるのか。

 理解できるのは当の本人だけで、少年にとっては至極どうでも良いことだった。

 

 

 少年は己の身に宿る魔術を抑えるための魔術を接続し、指より閃光に包まれた溶断ブレードが出現する。

 長さは数cm、最大まで伸ばせば数kmまでも伸びるブレードを魔導師達は一目見て死をイメージした……

 

 本来であればグローブのような媒体が必要となるが、少年はその過程を無視し、己の肉体より顕現させる。

 

 一番前にいた魔導師の鼻先までブレードが伸びる。

 バリアジャケットを身に纏っていながらも感じるその熱量に、魔導師は圧倒され、腰を抜かしてしまった。

 

 それをつまらないものを見るように一瞥した少年は魔導師達を一度次元航行艦へと送り返した。

 

 

「二度は言わん。持てる全てを出してここまで来るが良い」

 

 

 少年はボロボロとなった床を瞬く間に直し玉座に腰掛け、その場を見ているであろう者達へと告げる。

 その風貌はまさに魔王そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 少年の目の前に現れるのは3人の少年少女。

 管理局執務官、クロノ・ハラオウン

 放浪の一族、ユーノ・スクライア

 そして白き魔法少女、高町なのは

 

 

 その姿に少年はため息を吐き、黒衣の魔導師、クロノ・ハラオウンへと視線を向け口を開く。

 

 

「金髪少女はどうしたのだ?」

 

「彼女は重要参考人だ。野放しにする訳にはいかない」

 

 

 少年は冷たい目つきをクロノへ向けた。クロノはそれにデバイスを構え冷や汗を流す。

 

 

「貴様等は随分と頭の出来が悪いらしい。3人だけで私に敵うとでも?」

 

 

 ゴクリとつばを飲みクロノは魔力を集中させる。

 

 

「仕方あるまい」

 

 

 少年が目を瞑り、少女と使い魔を移動させる。場所は少女達のいる部屋の外。

 

 捕らえられているのであれば武器は没収されていよう、アレほど激昂していたのだ。武器を取りしだいここまで来るであろうと少年は考え実行する。

 

 

 

 そんな少年を高町なのはは見つめていた。

 

 彼女の目の前にいる少年の正体は知らない。高町総司とは違う風貌をし、匂いも感じ取れない。一度はそのことに安堵したものの、違和感は拭い去れていなかった。

 己が感じるそれに従うべきかを迷うが、ただじっとしてはいられない。自身のデバイスに話しかけ、いつでも動けるように構える。

 

 

 

 

 ——さて

 

 

 

 少年の声が響いた。

 それに3人は視線を少年から外さずに一歩下がってしまう。

 

 途轍もない威圧感、存在感を放つ少年はゆっくりと玉座から立ち上がり、息を吸ってその口を開いた。

 

 

 

 

「管理局の者共よ、貴様達が私と敵対すると言うのであればこの名前を聞いていけ」

 

 

 

 

 少年は宣言する。

 

 

 

Malum 999(悪となりし者)

 

「悪……だと?」

 

「なに、今の私は悪役であり悪では無い。ならばこそ、この名は私の全てだと知っておくがいい」

 

 

 

 

 言葉の真意を今の少年少女達は理解できない。

 

 だが、少年は告げたのだ。本気だという証である、魔法名を…

 

 

 

 

「クッ!ストラグルバインド!!」

 

「ブレイズキャノン!!」

 

「ディバインシュート!!」

 

 

 三つの魔法が少年へと迫る。

 それを一瞥した少年は指から照射される雷光の溶断ブレードで両断する。

 

 あまりに容易く魔法を切り落としたことに驚愕する三人へとニヤリと”笑み”を浮かべた少年は足を一歩前に出した。

 

 

「その程度で私を止められると思うなよ?」

 

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 二人の魔導師は自身の魔力のありったけを使い少年へと魔法を放つ。

 しかし、その尽くを少年は破壊する。

 

 

「スティンガースナイプ!!」

 

 

 螺旋状に回転した魔法弾が一斉に少年へと襲いかかる。

 だが、少年は指を少し動かすだけで断ち切ってしまう。

 

 力量差は数秒で理解させられた三人の魔導師はただ闇雲に魔法を放つだけではいけないと感じ、お互いに視線を交わし頷いた後、同時に魔法を行使する。

 

 

「フォトンバレット!」

 

「スティンガーレイ!」

 

「ディバインシューター、シュート!!」

 

 

 ユーノが放った魔法が少年の真正面から、クロノが放った魔法は背後から、なのはの放つ魔法が全方位より迫る。

 

 少年はそれを一瞥した後、溶断ブレードの放出量を上げ、その勢いで回避する。

 

 空中へと身を投げだした少年に好機と感じたクロノ・ハラオウンは更に魔力弾を放つ。

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

 しかし、少年は足から溶断ブレードを放出し、クルリと回転しながら魔法を切り裂いた。

 それだけでなく、クロノへとブレードを伸ばす。

 

 

 咄嗟に躱したクロノは少年へと視線を向け戦慄した。

 溶断ブレードが接触した床が無くなっているのだ。正確に言えば溶けてしまっている。

 非殺傷設定がついた魔法ではない。当たってしまえば死んでしまうかもしれない攻撃。防ぐことは床の状況から察するに悪手である。つまりは、三人の魔導師は少年の攻撃を回避し続けなければいけないということなのだ。

 

 

 そう。クロノは初めてこのような理不尽という壁と対峙した。途方も無く遠くに感じる相手。どうしようもなく襲い掛かってくる恐怖。だが、ひどく納得ができていない。

 

 それはユーノも同じであった。まるで歯がたたない相手、自分よりは強いと思っていたがこれほどまでに強大とは少しも思っていなかった。

 

 

 

 何故二人がここまで驚愕するのかは、少年の力を目の当たりにしたからだけではない。

 

 少年にはリンカーコアがないからだ。

 

 

 

 

 魔法を使用することが出来ない少年を無意識的に弱者と認識してしまっていたのだ。

 だが、現実は違う。魔法を使用できない少年は自分達の理解を超える力を行使し、その強大さを振りまいている。

 

 余りにも現実離れしている状況に二人の魔導師は心がへし折れそうになっていた。

 

 

 そんな状況の魔導師達を一瞥し、少年は深くため息を吐く。

 

 

 そしてその視線を高町なのはへ向けた。

 

 両腕でデバイスであるレイジングハートを握った彼女は少年の視線にビクッと肩を揺らす。

 

 

 

「もう終わりか?」

 

「……だ、だって」

 

 

 

 迷いに満ち溢れた瞳。視線を泳がせしどろもどろになっているなのはを見て少年は目を細めた。

 

 

 

「……期待はずれ、か」

 

「え?」

 

 

 

 残酷なまでの宣告がなのはには理解できなかった。

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 一筋の金色の輝きが雄叫びと共に少年へと迫る。

 少年は見ること無く右手でその攻撃を防ぐ。金髪の少女、フェイト・テスタロッサはそれを見て刃を止め、デバイスを軸にクルリと回転し蹴りを放つ。

 閃光の走る指を警戒した少女がとっさに取った行動。掴まれてしまってはそれだけでやられてしまうかもしれない。だからこそ、ヒットアンドアウェイが必要となる。

 

 しかし、蹴りは少年には当たらない。

 

 

 

 

「とんでもないね。その閃光」

 

「……」

 

 

 

 フェイトに続いて玉座にやってきた使い魔、アルフは少年へと語りかける。獣としての勘が溶断ブレードの危険性に警告している。あれと対峙してはいけないと……

 対する少年は目の前の魔導師達の力量の低さに閉口してしまう。このままではただの弱い者いじめとなってしまう。

 そう、悪とは勝者ではあるが敗者となり得る存在でなければいけない。だが今の自分はなんだ?全ての攻撃に対して回避、もしくは対処を容易に行えている。それだけではない。当たれば必殺と言っても過言でない力を振るっているのだ。それは悪とはいえない。ただの絶対に負けない反則的な存在ではないか、と。

 

 

 

「……弱すぎる」

 

 

 

 その言葉は不思議とその部屋に響いた。

 ポツリとこぼしたその言葉が今の少年の心情を物語っているのだ。

 

 既に手加減はしているのだ。身に纏った魔術が発動しないように溶断ブレードを使用している。どちらも神の名を関する魔術であるが、片方は対処の仕様がない代物となってしまっているのだ。

 

 

 

 

「仕方あるまい」

 

 

 

 少年は溶断ブレードを消し、魔術の接続を断った。

 その瞬間にあふれる力。世界が少年を中心に置き換えてしまうのを感じ、仮面を取り付けた。

 

 魔導師達が魔法を放つも、少年には"当たらない"

 まるで瞬間移動でもしているかのように少年のいる場所が変わってしまっている。

 

 それは全能の力。行使すれば勝利を確実に得られるであろう力。

 少年はそんな魔術を放棄した。

 

 右手に力を宿し、少年の魔術全てを打ち消してしまう。ただ勝つだけならば容易い。だが少年の目的に勝利などはない。きたるべき戦いのための布石。高町なのはという存在が昇華される為の準備段階を行っているにすぎないのだ。

 

 

 

 

「さて、これである程度は対等だろう。かかってくるといい」

 

 

 

 その呟きとともに高町なのはは深い混乱に陥ってしまう。目の前の少年は仮面を着けた瞬間、髪の色が黒く変色し、高町総司とそっくりな匂いを纏うようになってしまった。

 何故そんなことになったのかは理解できない。ただ、呆然と少年を見ることしか出来なかった。

 

 クロノ達も同様に風貌の変わった少年に困惑している。

 

 しかし、一人だけは少年の行動を悠長に待ってはいなかった。

 

 

 

「サイズスラッシュ!!」

 

 

 

 フェイトの斬撃が少年へと迫る。

 少年はゆらりとした動きでそれを見た後、左手を掲げ、デバイスの持ち手を掴むことで攻撃を止めた。

 

 

 何故か溶断ブレードを使わなくなった少年を見たクロノとユーノは一斉に魔法を放つ。

 

 

 

 

 ——消えろ

 

 

 

 

 

 しかし、少年の言葉一つで全てが消えた。そう、魔力ごと消えてしまった。

 溶断ブレードが無くなっただけで攻撃が効かないのには変わりはなかった。その事実が深くクロノ達にのしかかる。

 

 

 

 だが、それでもフェイトだけは魔法を行使する。

 自分の母を殺した相手への復讐心が相手が強大というちっぽけな理由を一蹴し、戦い続ける。

 

 少年へと当たるようにデバイスを振るう。しかし、その全てが躱される。

 

 

 

 

 その姿に少年は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 そしてちらりとなのはへと視線を向け、その目つきが冷める。

 未だ困惑し、こちらにデバイスを向けてすらいないなのはを少年は今度こそ、見限った。

 

 視線を前に向けると強大な敵に対して決して諦めずに奮闘する少女の姿がある。

 

 

 少年は少女が腕を振り上げた瞬間を見て、腕を掴み、高町なのはへと放り投げた。

 

 

 

「きゃ!」

 

 

 

 小さな悲鳴を上げフェイトとぶつかった高町なのはの前に少年は移動した。

 

 

 

「失望したぞ高町なのは。英雄になり得る存在だと思ってはいたが私の早とちりだったようだな」

 

「え?」

 

 

 肩で息をするフェイトを抱きながらなのはは少年を見た。

 

 仮面から覗く目は冷たい、酷く冷たい目であった。

 

 

 それになのはは酷く困惑し涙が溢れてきた。

 何故かは分からない。まるで高町総司にそう告げられたかのような錯覚を覚えるのだ。それは何故自分の名前をしっているのかという当たり前の疑問すらも曇らせてしまう。

 

 

「まだそこの金髪少女の方がマシだが、お前は可能性を見ることすら出来ぬ。期待はずれだ」

 

 

 残酷な言葉になのはは目を伏せる。

 どうしてそんな事を言うの、どうして私をそんな目で見るの、と……

 

 

「既に先は見えた。ここで停滞しているがよい」

 

「…の」

 

 

「……なんだ?」

 

 

 そして、なのはは顔を上げた。

 

 

「な、何でそんな酷いことを言うの!!」

 

 

 困惑から発したその言葉はただの疑問にすぎない。目の前の少年の正体を確信できていたならばまた違う答えも出ていたかもしれないが、彼女が出した言葉は酷く幼稚なものであった。

 

 それに少年は口角を上げた。

 

 

「…………まるで癇癪だな」

 

「っ!!」

 

「だが、その覇気………」

 

 

 少年がこぼす言葉はなのはに届かない。

 只今は自分を見ていない少年へとその困惑した気持ちをぶつけるしか無いのだ。

 

 フェイトの頭を床に下ろし、なのはは立ち上がる。

 

 その瞳には迷いはあれど、力強いものを感じた。

 

 

「クハハ、良かろう。では見せてみよ」

 

 

 

 

 

 

 少年は、見限ってはいなかった。否、信じていた。

 自分自身が見つけ出した英雄へとなり得る存在がこれしきの事でへし折れるわけはないと。

 

 まだ立ち直ってはないが、素質としては十分に光るものがあると見て取れた。

 

 

 

「私も、戦う」

 

 

 

 床に寝かされていたフェイトも息を整え終え、なのはの横に並び立った。

 

 

 その光景に更に笑みを浮かべ、少年……否、総司は拳を握った。

 

 

 

「では、始めるとしよう。今からお前達が目撃するのはお前達の対極を行く存在だ。心してかかるがよい」

 

 

 

 

 

 今、最後の戦いが——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこ?」

 

 

 

 

 始まらなかった。

 一人の少女の声が玉座に響き渡り、全員がその声へと視線を向ける。

 

 

 

「ふぇ、フェイトちゃん?」

 

「わたし?」

 

 

 

 その幼い少女は、今戦おうとしていた金髪の少女、フェイトに酷似していた。

 

 それを見た少年は、首を傾げ、そして納得した。

 

 

 少女は復活させただけで眠らせていなかったと。

 

 

 そして、考える。今のままでは自分の計画が破綻してしまうと。それを防ぐためには……

 

 

 

「時間切れ……だな。管理局の者達よ!しばし、この勝負は預けた!」

 

 

 

 そう告げた少年は時の庭園にいる者達を皆次元航空艦へと移動させ魔術を行使する。

 

 

 

 

 

「イノケンティウス!焼きつくせ!!」

 

 

 

 

 時の庭園に炎の魔神が一体出現し、周囲を焼き払う。

 それはあたかも少年がプレシア・テスタロッサと接触していたという証拠を隠滅するかのように……

 

 

 そして、少年は、その姿を消した……

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