偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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A's 3rd

「というわけだ」

 

「……いや、ちょっと待ってくれるかな」

 

 

 少女を配下とし、明日もう一度会う事を一方的に決めてやった夜。私は高町士郎にあることを告げた。

 一時的に高町家からあの少女の家に移るということをな。

 

 基本的にこやつは甘い。私のような問題児をよそにやろうとは思わないかも知れんが、上手く誘導すれば十分に可能だ。黙って行く事も考えてみたものの、コソコソとするのは性に合わないのでストレートに言っておいた。

 

 

「総司が言ってる子の親は何も言っていないのか?」

 

「ふ、愚問だな。あやつには親がいない。故に本人以外に許可を取る必要もあるまいて」

 

「……親がいないだって?」

 

「ああ。それに保護者となるものも存在していない」

 

 

 こう言っておけば哀れな少女に同情し、ある程度の行動は許してくるだろう。だがしかし、こやつはそのことが分かれば恐らく……

 

 

「その子がうちに来てもらうというのは?」

 

「不可能だな。あやつは足が動かぬ。あやつの家のようにバリアフリー化をしていないこの家では車椅子で生活している者は些か不便であろう」

 

「……なるほど」

 

 

 やはり思った通り。読める。読めるぞ。貴様の考えが。

 同情心からこやつの考えを短絡化し、尚且つ私の動きやすい状況へと持っていく。

 恐るべきは私の頭脳よな。全てを見通している。貴様の考えなんぞ読まなくても筒抜けだ。

 

 

「……わかった。了承するよ。総司はしっかりしてるし、その子の助けにもなるだろう」

 

「ふ……」

 

「ただし……」

 

 

 なんだ?何のつもりだ?そのような言葉は私の頭のなかで思い描いた論争には無いぞ?

 

 

「一週間に一度はこの家に顔を出すこと。それに食費は渡すよ」

 

「………仕方あるまい」

 

 

 まあ、その程度であれば許容範囲か。後は高町なのはに悟られずに今日を切り抜けるのみか。

 あの娘だけは未だに考えが理解できぬからな。何故私の布団に入り込んでくるのかは謎だ。鬱陶しくて敵わん。

 

 

「あと、君が十分だと思う時は何時頃だと思う?」

 

「ああ。恐らくは……年末には方がつくだろうな」

 

 

 それは私の勘に過ぎないが……いや、ある予測の上での考えではあるが……あの猫の所属している組織はその時期に動くであろう。少女の侵食具合では年末辺りには少女は事切れる。故にそれまでに行動する予定を組んでいたはずだ。実際には私が少女の呪いを一度殺したおかげで延命はされているものの、その事をあの猫たちが知らぬ限り何かしらの行動はあるだろう。

 

 

「わかったよ。じゃあ、今日は桃子にごちそうを作ってもらおう」

 

「ぬ?……何故だ?」

 

「そりゃあ、総司が初めて我儘を言った記念にだよ。ああ、でもなのは達にもちゃんと言うんだよ?総司は何も言わないことが多いからね」

 

「なっ!!」

 

 

 くっ!!流石は高町士郎と言った所か!私の計画を尽く潰してくれる!!

 

 

 

 仕方ない。ここで反発してもその後の行動がやりづらくなるだけ。ここは甘んじて貴様の攻撃を受けよう。だが忘れるな?貴様は私の怒りを買ったのだ。明日の朝、貴様のトーストにはマーガリンではなくバターを塗ってやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 公園にて池の鯉にパンの欠片という残飯を食わし虐待を行っていると、暫くして少女が現れた。予想通り守護騎士達を引き連れている。

 

 

「ようやく来たな」

 

「お前、なにもんだ?」

 

 

 車椅子に乗った少女の前にずいっと赤髪の幼女が出てきた。警戒心を隠すこともなくこちらを睨みつけている。考えていることからしても私への疑心に満ちているようだな。

 結構結構。大いに警戒するが良い。従順な存在など張り合いなどはない。

 

 

「私は高町総司、わかりやすく言えば悪い魔術師と言った所か」

 

「それがはやてに何の用だよ!」

 

「誤解するな。用があるのは私ではない。少女のほうだ」

 

 

 私の言葉の意味がわかるのか幼女は舌打ちをして一歩下がった。きちんと少女は話をしておくという仕事はこなしたようだな。感心しておこう。

 

 

「取り敢えず、ここまで来て貰って早々に悪いが、移動するぞ」

 

「なに?一体どういうつもりだ?」

 

 

 目を吊り上げこちらを睨みつけている女が怪訝な顔を浮かべ聞いてくる。口にするのは簡単だが、ここですべてを話すわけにもいかないな。

 

 

「後で訳は話す。貴様らは私がいないものと扱い、帰宅しろ。私も同行する」

 

 

 ここより約400m離れた場所に位置している猫たちの存在は確認している。泳がせておくには不要な接触があると感じ取られるのは避けるべきだ。

 光を屈折させ、幻影を見せる。更に、混乱させておく。

 守護騎士達は私にリンカーコアが無いことから管理局との関係性が薄いと考えているようだな。結構なことだ。

 

 後は猫たちの方だが……

 奴らが魔法に関わるものであっても関係はない。私自身が特殊な力を発してはいないのだ。故にこの者達が発する魔力を探知して捜索するということは出来ない。幻影を見せるだけで事足りるのだ。

 

 

 少女達は私への警戒心を怠ることはなく、そのまま自宅へと向かう。その後ろについて歩いて行くが、周囲の者には私の姿は見えないだろう。と言っても少女たちには見えるようにしているがな。

 

 

 予想通り猫は二手にわかれた。一人は幻影を、一人はこちらの後をつけている。幻影は高町家の玄関に入り、消えるようにしている。その際に姿を見られぬようにもしている為。問題はないだろう。

 

 そのまま少女たちの自宅に何事も無く到着した私は表札と先ほどの幼女から発せられた名前より少女の名前が八神はやてであると思いだし、頭の片隅においておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「さて、では話を始めようか」

 

 

 

 猫は屋内までは監視してはいないようだ。これならば心置きなく話ができる。

 

 

「まず、貴様らも知っていると思うが、少女の足を治す手段を私は持っている。現に少女の足は今は無事なのだからな」

 

「……」

 

 

 侵食を一度殺し、動くようにはなっているが、暫くはリハビリをせねば歩くことは出来ないだろう。

 

 

「だが、これは一時しのぎにすぎぬ。いずれ侵食は少女の命を蝕むだろう」

 

「っ……!!」

 

「闇の書がなくなれば侵食もなくなるだろう」

 

「なら!!」

 

「しかし、それを八神はやてが望まない」

 

 

 守護騎士達からしてみれば当然の反応だろう。自分達の存在が主を蝕めているのだから。だが、消滅は主が望まない。それに逆らうことは出来るはずもなく、ただ、苦しむ主を見守るしか出来ないのだ。

 

 

「だからこそ、他に手段を持っている私に少女が頼り、軍門に下ったのだ」

 

「くっ!!」

 

「だが、すぐには治せぬ。これの理由を今から話すが構わないか?」

 

 

 わざとらしく勿体つけながらも詳細をじわじわと話していく。

 ふっふっふ、理解できないとは言うまい?幼女であろうとわかりやすく話し、状況を理解させてやろうぞ。と言っても特にこやつらの絶望する顔を見たいというわけではない。情報の隠蔽はやり過ぎると上下関係の不和を生む。気をつけねばならぬのだ。

 

 

「まず、貴様らがこの少女の元に現れるように手引した者がいる可能性がある」

 

「なに?」

 

「え?」

 

 

 知らなかったのだろう。突然の情報に困惑した感情が読み取れた。

 

 

「現に貴様らを監視する者はいた。闇の書が現れたのが偶発的にしろ作為的にしろ、貴様らの後ろに何者かがいるのは確かだ」

 

「……俄には信じられん」

 

「だが、事実だ。ここで八神はやての足を治してしまえば裏にいる者の真意を知ることが出来ない。故に少しばかり泳がせておく必要がある」

 

「その監視しているって奴をとっ捕まえればいいだろ!!」

 

「阿呆。監視の者が末端であった場合、碌な情報を得ることが出来ないだけでなく、あちらに情報を明け渡すようなものだぞ」

 

「ちっ!!」

 

 

 やはりというべきか、信憑性に疑問を持っているのだな。それは仕方あるまい。流石にそれを証明するのは私でも困難なのだ。

 

 

「はやてちゃんの足はその間は大丈夫なの?」

 

 

 今まで黙っていた女が話しかけてくる。ふむ、他のものとは違い、私への怪訝よりも主の安全性を懸念しているのか。他の物もそうではあるが、随分と忠誠心が高く、それでいてバランスの取れた使い魔のようだな。守護騎士というものは……

 

 

「無論。明確な期間は定まってはいないが、その間に少女が死ぬことはない」

 

「どうしてそんなことが?」

 

「簡単なことよ。私が逐一治せばいいだけのはなしだ」

 

「……成る程」

 

 

 納得はしていないが理解は出来たというわけだろう。大人しく女は下がった。

 次に前に出てきたのは昨日八神はやてと行動を共にしていた男だ。

 

 

「軍門に下ったと言ったが、主に何をさせるつもりだ?」

 

「何、簡単なことだ。私は先日悪というものには部下がいると教えられてな。そこでこの少女がいたというわけだ。故に何をやらせるかなどは考えておらぬ」

 

「へ?」

 

「何?」

 

「うん?」

 

 

 む?何だその反応。あ、今私のことを阿呆だと思ったか?感情的に阿呆だと思うやつが阿呆なのだ。相手を阿呆だと思うのであれば論理的にだな……

 

 

「ってことは、あの時私に自分で考えろって言ったのは……」

 

「無論。そのままの意味だが?」

 

 

 八神はやては深くため息を吐いてこちらを見た。なんだ?急激に八神はやてが緊張を解いたぞ?変な少女だな。

 

 

「話は解ったけど、逐一治すっていうのは毎日来てくれるってこと?それとも私が行けばいいん?」

 

「何を言っている?無論、私がこの家に住むということだが……」

 

「なんて!?」

 

 

 ふむ、ようやく私を阿呆だと思う感情が無くなったな。存外こやつらは馬鹿にできぬかも知れぬ。たったこれだけの情報で私の考えを理解するとはな……

 

 

「既に我が保護者から許可と滞在費を受け取っている。週に一度、あちらに行かねばならぬが、特に問題はないだろう」

 

「いや、問題だらけや!あんたの親は何を考えてるんよ!」

 

「ふむ、知らぬな」

 

 

 私の親の考えなど理解したくもない。私の部下となり得る、もしくは私の敵となり得る弟を亡き者にするなど、考えられんよ。

 

 

「貴様に拒否権はないぞ?貴様は私の配下なのだからな」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 

 ふっふっふ、怒りに身体を震わせておるわ。なるほど、部下を弄るというのはこのような感じなのだな。やり過ぎはダメらしいが、適度にするのは関係を円滑化するのに適していると昨日読んだ本にも書いていたし、これでいいのだろう。

 

 

 

 こうして、私は八神家にて居候することとなった。




士郎(総司はそこまでその子の事を……)

総司(貴様の甘さは理解していようぞ)




>総司が夜に読んだ本
『上司力53万―部下に頼られるカリスマの法則100選』
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