私がこの世に生を得てから既に5年の歳月が経過している。その経歴というものも実に劇的なものだ。2歳の時に親が弟を虐待死、殺したということで警察に捕まり、私は孤児院に入れられた。
しかし、孤児院内で悪事を繰り返す私を見かね、院長はさじを投げた。私が促すと院長はそれに従い、私は孤児院を去る事になる筈だったのだが、ここである夫婦が私を引き取った。
名前は高町夫妻。何でも夫妻の子供が世話になったということだ。悪事の限りを尽くしている私としては一個人への悪事など覚えていることはない。
しかし、仕返しするために引き取ったというのであれば歓迎だと私はほいほいと引き取られてしまった。
結果的に高町家の仕返しというものは十分に成功したと言える。
高町一家は私を甲斐甲斐しく面倒を見てくれる。罵声を浴びせられた方がまだいいものの、悪事をされて感謝を述べてくる。正直意味がわからないと困惑した。
何故だ、高町桃子の仕事を奪うために朝早くからご飯を作れば頭を撫でられながら礼を言われ。道場で稽古している高町恭也、高町美由希の両名をこてんぱんに倒せば、これからも頼むと言われ。高町士郎が経営している喫茶店の新メニューを勝手に書き換えたら褒められ。高町なのはが心に秘めていることを暴露すれば全員から感謝される。
この一家、頭おかしいのではないか?
否、狡猾だと言えるか。何せ私の弱点を尽く突いてくるのだ。恐らくはあれだろう、悪事を働く私を悪事というものはつまらないと考えさせることで善意をもたせようとしているのだろう。
だが甘いぞ、私はこれしきで屈しはしない。まだ自身を悪とは言えぬが、着々と悪へと成りつつあるのだ。今は悪のごっこ遊びに近いが、遊びも突き詰めれば真意となろう。
よし、一日一悪。今日もしっかりと悪事を働くとしよう。
そうだな、今日は勝手に庭で焼き芋をしてやろう。芋はある。新聞紙もアルミホイルもある。落ち葉は……先日の悪事の際に全て片付けたようだな。山から集めてくればいいか。
火種は問題あるまい。風が少し強いのが気になるが、火を燃やす時に調整すれば問題ないだろう。
「さて、始めるか」
【高町士郎】
自分達が引き取った一人の少年、本名を根川総司、現在は高町総司だが、彼は変わっている。
初めて彼と会ったのが、彼が両親を叩き伏せていた時だった。彼の弟を虐待によって死なせた両親を彼は叩き伏せた。何を思ってしたのかは分からないが、心優しい彼だ、弟を大切にしていたに違いない。
次に彼の話を聞いたのはその1年後だった。彼は孤児院に入っていた。僕が怪我をして病院で意識不明の重体だった時、高町家は崩壊しかけていた。
無理をして家族を支えていた桃子、全てを抱え込んでいた恭也、家族が無理をしているのを理解していても何も出来ないと感じていた美由希。そして、生まれてからずっと自分を隠し続けて押しつぶされそうになっていたなのは。
そんな高町家を助けたのが彼だ。荒れる恭也を説き伏せ、なのはの心を解き解したのだ。それで全てが解決したわけではなかったが、随分と改善されたのだろう。意識を戻した僕に恭也となのはは教えてくれた。彼の事を。
そして僕と桃子はお礼を言う為に孤児院へと訪れた。そこで院長に話を聞いた所、彼は時々イタズラはするものの、人を助け、他の子達へと様々な事を教えたりしているそうだ。
しかし、孤児院の経営が既に危うくなっており、今の子供達から何人かを里子に出さなければいけないそうだった。
院長は悩み嘆いていたのだが、総司はその事に気付いていたらしい。
ある日院長に「私を早くここから追い出すのがいいだろう」と言ったそうだ。それに院長は涙を止められずに子供達の事を支えられない自分が情けないと言った。
その日はそのまま帰ったが、僕と桃子は子供達を交え、話し合い、引き取ることにしたのだ。
引き取られた総司は最初の方はなれない環境に四苦八苦していたようだが、次第に家族に馴染み、今では家のことで色々と助けてくれている。
前に桃子と考えていた翠屋の新しいケーキの改良点をそっと書き記してくれていたりもする。
たまに僕らが心配するような、包丁を使った料理やノコギリを使って板を切ったりもするが、いい子であることには間違いない。
それに、あの異常なまでの身体能力と理解力は将来を楽しみにさせてくれる。今日も家の何処かで誰かを助けてくれているのだろうな。
【高町桃子】
あら、冷蔵庫の中身、補充されているわね。
ああ買い出し用の貯金箱の中は……うん、レシートとその分の金額が無くなってる。
恭也や美由希は買った時とかもすぐ教えてくれるし、士郎さんは言わないにしろ貯金箱から持っていかない。なのはは一人では買い物行かないし、総司が行ってくれたようね。
でもあの子いつも黙って行っちゃうけど、どのタイミングで行ってるのかしら……
レシートには…昨日の10時前、閉店近い時間だけど。あの子、その時間は部屋にいる筈…それにこのスーパーって隣町のスーパーだった気がするけど……
一回お話しなくちゃいけないかもしれないわね。
ん?さつまいも買ってるけど台所に置いてないわね。どうしたのかしら。
【高町恭也】
ダメだ、これではまだ足りない。
もっと速く、もっと滑らかに剣を振るわなければ…これでは父さんはおろか、何時までたっても総司に追いつけない。
5歳児に何を本気出しているのかと思われるかもしれないが、あいつは間違いなく強い。速さで言えば父さん以上だ。それに多分あいつはまだ何かを隠している。
もっと強くならないと。強くなって家族を守れるくらいにならないといけない!
よし、型の基本を一からやり直し、全体的に最適に動くように修行だ。
【高町美由希】
恭ちゃんが集中して剣を振るっている。私はそれをみながら息を吐いて剣を置きタオルで汗を拭いた。
明確な目標が出来て恭ちゃんは毎日が楽しそうだ。
恭ちゃんの目標であり私達の新しい弟、総司。年齢はなのはと一緒、なのはも少し年不相応だけど総司の方はもっと不相応だ。たまに子供っぽい事もするけど、概ね総司は子供っぽいとは見れない。
今は一体何をしているのだろうか、なのはと部屋で二人で遊んでるのかもしれないな。なのはも初めて出来た年の近い男友達のような存在だろうし、色々と気になるのだろう。
家族に向ける感情とはまた別の感情を向けている気がするけど。血は繋がっていなくても姉妹は似るものなのかな。
ん?あれ総司かな。なんか庭で落ち葉を山にしてるけど……
うちにあんな落ち葉あったかな。
確か先週総司がもみじを天ぷらで揚げて、それ以外は全部集めて捨ててたはずだけど……一週間もあれば溜まるものなのかな。
っと、あまり長いこと休憩はしてられないな。修行修行っと。
【高町なのは】
「……いない」
総司君の部屋のドアを開けて中に入ってみるけどその姿はない。また一人で遊びに行っちゃったのかな。暇だったし一緒にゲームしたかったけど、総司君直ぐに居なくなっちゃうな。
もっと一緒にいたいのに……
今はみんな自分のことや家の事してるから邪魔も出来ないし、どうしよう。
総司君を探して一緒に遊ぼうかな。
まあ家にいなかったら私にはどうしようもないけど、総司君の匂い的にそう遠くには行ってないと思う。
方角は……道場、ううん。庭かな。一体総司君は庭で何をしてるのだろう。なのはも一緒に総司君がしてることをしようかな。