「ほら、ご飯の前はちゃんと手を洗う!」
「ふむ、了解した」
八神はやてが喚いている言葉を実行していく。食事の前の手洗いは当たり前だと思うのだが、いちいち言うあたり、こやつはしっかりとしたルールを定めているのだろうな。
「えらい素直やな」
「無論、定められたルールは守らねばな」
悪と言っても無法では無いのだ。明らかにおかしいと感じるもの以外はルール通りにしておくのが悪という物。ただ好き勝手にやるのでは獣と同義になってしまうのだ。悪とはあくまで理性的でなければならない。
「なあなあ、いいのかよ。はやて」
「うーん……正直戸惑ってるけど、ちゃんと言ったことは守ってくれるし、ご飯の準備も手伝ってくれた。足の感覚もあるのは間違いないから別に問題はないんやけど」
「守護獣よ、何故貴様はドッグフードを食しておる。私の肉でも食べてしっかりと体力をつけ、私のために働くが良い」
「………」
「悪いやつじゃあ無いんよ。変やとは思うけど、放り出す必要はないと思う」
「……管理局と関わってるかもしれないぞ?」
「私はその管理局ってのがわからへんけど、リンカーコアは無いんやろ?」
「そうだけどさ」
何やら作戦会議をしているようだな。あくまで私とこやつらの関係は上司部下にしか過ぎぬ。ただ盲信されるよりもある程度警戒される程度が丁度いい。そのほうが組織としても上手く回るだろう。
盲信は私が個人で動くことと変わりはないのだ。ある程度の異質を含めねば組織を作る意味は無い。
「ああ、そうそう。食べながらでいいけど聞いてな」
「うむ、何だ?」
「いや、急に総司君が来たからちょっと晩御飯の材料足りやんのよ。やから総司君ヴィータと一緒に買いに行ってな」
「ふむ……面倒だ」
「自分の分の食べ物を買ってくるって悪っぽいと思うで」
「成る程。了解した」
些かこちらに対する敬意も足りないが、いいだろう。私に考えが読まれているとも知っていないだろう少女よ。私があえて貴様の思惑に乗ってやっているのだ。だが、余りにもお粗末であった場合、私は怒るからな。
にしても、八神はやてにとっての悪とは自分で食料を調達することなのか。変わっているな。
よし、こやつは変人少女とでも呼んでおこう。
「いや、あたし嫌だぞ!?」
「他に暇な人おらんのよ。私も病院いかんとあかんし」
「で、でもよぉ」
「案ずるな、幼女。アイスを買ってやろう」
「おい、早く行くぞ!」
ふ、やはり単純。御しやすいとはこのような者の事を言うのだな。
◇
「なあなあ、何でお前アイス買ってくれるんだ?」
「話すな。今私は周りには見えておらぬ。奇っ怪な目で見られるぞ」
「何でそんなことしてるんだ?」
こやつは阿呆なのか?先ほど言ったであろう?監視者に私が貴様らに関わっていると思わせることは好ましく無いと……
「右斜後方。角度としては34°20分18秒273mの位置。つまり入口付近が見える位置でこちらを猫が見ている。中も確認しているやも知れぬ」
「まじかよ!捕まえねえと」
「阿呆。先程申したように今捕まえてもこちらが不利になるだけだ」
「そっか……」
「普段通り振る舞え。大人しくしているならばアイスを二つ買ってやる」
「今の言葉、忘れんなよ!!」
「大声を出すな。馬鹿者」
これだからよく考えぬ阿呆は……仕方あるまい。これも配下への施しだ。家に帰ったらじっくりと教育してやらねば……
「あ、見てみろよ総司。このお菓子うまそうじゃね?」
「八神はやての作る食事の方が美味であろう?」
「当たり前じゃねえか。はやての飯はギガウマだぞ!」
「大声を出すな」
「なあ総司。このサンマでいいのか?」
「駄目だ。こやつは目が死んでおる。下から3匹目、5匹目、6匹目、8匹目のにしておけ。脂が乗っている」
「へぇ、そうなんだ」
「………甘口を入れすぎだ、馬鹿者。中辛を3つ、甘口を2つ、辛口は1つにしておけ」
「何でだよ。これ辛いんだぞ?」
「好みがあるわ。甘口は貴様とシグナム。中辛は八神はやてと私、シャマル。辛口はザフィーラの分だ」
「馬鹿だなぁ。ザフィーラがカレーなんか食うわけねえだろ。あいつはドッグフードだ」
「…………あやつには肉を買っていってやるか」
「牛乳牛乳……これが期限長いな」
「いや。この値引きされているので十分だ」
「だって、賞味期限っていうの明日だぞ?」
「シグナムが全て飲む」
「あぁ、成る程」
「タイムセールってなんだ?」
「ある食材がある時間だけ安くなることだ」
「おお!あたしらも買いに行こうぜ!」
「もう既に取ってきてある」
「すげえな。いつの間に取ってきたんだ?」
「移動させたまでよ」
「会計、会計」
「このまま渡せ」
「お、サンキューな」
「お嬢ちゃん。偉いわね。一人でおつかい?」
「お嬢ちゃんじゃねえ!!」
「…………」
「ああ!!アイス買い忘れた!!」
「阿呆。ちゃんと買っておいたわ」
「マジか。しかも美味そうじゃねえか!サンキューな!!」
「ハーゲンダッツならばハズレはあるまい」
「あの子の近くから総司君の匂いがする!!」
「逃げるぞ幼女。あいつに目をつけられると厄介だ」
「あ、待てよ総司!!」
◇
そんなこんなで買い出しを終えた私とヴィータは二人で他の者の帰りを待っていた。
「今日の晩飯はなんだろうな」
「サンマの塩焼きに野菜炒めだ」
「へー」
「ついでに明日の為にカレーを作るつもりらしいな。八神はやては」
「何で明日食うものを今日作るんだ?」
「カレーは日置きするとコクが出ると言われている。私ならば出汁を一晩かけて煮出し、それを元に作るがな」
「なんか難しいんだな」
こやつ、色々と無知にも程があるな。思考も八神はやてのことと食べることで9割5分埋まっているし……
だが、戦闘のセンスは光るものがある。現状の高町なのはを凌駕しているだろう。これならばあやつの成長の糧に出来るのではないか?
「よし、ヴィータ。私からの任務だ」
「嫌だよ。何であたしがお前の命令を聞かなきゃなんねえんだ?」
「報酬はアップルパイだぞ?」
「何だそれ?美味いのか?」
「さあな」
ふふふ、食い意地の張った阿呆ほど使いやすい奴はおらぬわ。
「仕方ねえなぁ。特別だぞ?」