【高町なのは】
一体何が起こったのかは解らなかった。ある日の晩御飯の時にいきなり告げられた事。総司君が暫く家から居なくなるって事。当然私はどうしてか理由を問い詰めた。けれど、総司君はちゃんとした理由を教えてくれなかった。お父さんに聞いても曖昧に笑うだけだ。お兄ちゃんたちは私のように驚いてたから理由は知らなかったんだと思う。それからと言うもの、私の日常は空虚なものとなった。最近は一緒に朝稽古も行っていっぱい接する時間があったからいきなり居なくなったのだ。仕方ないと思う。
寝る時は総司君の枕を抱きしめて誤魔化す。学校に行ったらすずかちゃんと一緒に総司君の教室に突入して、抱きつく。昼休みになったら総司君のところへ突入する。放課後になったら総司くんの所へ突入して逃げられる。ただ、それを繰り返している。
週末に帰ってきて色々と話してくれるけど、足りない。総司君は私に早く強くなれっていうからお兄ちゃんとの朝稽古はやめていない。最近は反応は出来ないけど、お兄ちゃんの動きも見えるようになってきている。
そんな日常を送っていた時だった。
今日も総司君の枕を抱きしめていると、レイジングハートからこちらに接近してくる魔力があるって教えられた。
もし、こちらを攻撃する目的だったならお父さん達を巻き込んじゃう。そう思い、私は家から飛び出し、バリアジャケットを展開した。
魔力は場所を変えた私に向かって接近してきている。距離がどんどんと近づくにつれ、レイジングハートを握る手に力が入る。
深呼吸して集中する。結界が展開されていくのが解った。良かった、これで他の人に被害が行くことはなくなった。思いっきり頑張ろう。
「よう、待たせたな」
「………」
現れたのは一人の女の子。赤い服に先っぽが小さくて持ち手を伸ばしたようなハンマーを持っている。特徴的なのは金色の髪に水色の瞳。以前に時の庭園で見た人よりも髪の毛位の色は薄いくらい。明るい正確なのだろう。にやりと笑う笑顔がすごく似合っている。
「貴方は、誰なの?」
「ん……あたしはヴィ……いや、バードウェイ?って言うんだ」
「そうなんだ。私は高町なのは。目的は何ですか?」
「……勿論お前と戦いにだよ!」
意味がわからない。私は戦いを挑まれるような事をした覚えがないのだ。別に誰かの恨みを買ったわけでもないし、特別魔法が上手いってわけでもない。運動神経もよくないのだ。だからこそ、理由がわからない。
「どうして?戦うの?」
「どうしてって、頼まれたからだな」
余計にわからなくなった。目の前の子が言う事が本当だったのなら、誰かが私と戦うように言ったということ。そんな事を頼んで何の得になるのだろうか。私が倒されることで喜ぶ?
……わからない。
「私は、貴方と戦う理由がない」
「あたしにはあんだよ。抵抗しないならちょっと痛いかもしれねえぞ?」
「……それでも、戦えないよ」
「…………いや、まじめに頼む」
「え?」
「あたしの大事な物がかかってるんだ。ちゃんと手加減はするって約束するし、な?」
そんな……じゃあこの子は脅されてるって言うの?誰かを人質に取られているとか……
一体この子に指示した人の目的は何?そこまでして私と戦わせて何になるっていうの?
でも、そこまで言うのなら仕方ない。
「解った。そんな理由があるって言うなら仕方ないよ」
「お!あんがとな!高町なぬ、なぬ………ええい呼びにくい!!」
「理不尽!!?」
「兎に角行くぞ!!」
バードウェイちゃんがデバイスを振りかぶって接近してくる。速度はそれほどではない。今の私でも十分受け止めることが出来る。
「でやぁぁぁ!!」
レイジングハートを上に構えてバードウェイちゃんの攻撃を………
いや、駄目だ!!
「くっ!!」
寸でのところで躱した。バリアジャケットを掠った一撃に言い知れぬ恐怖を感じる。真正面から対峙し、あれだけ恐怖感を感じたのは初めてかも知れない。
「へー、躱すんだな」
軽やかにくるくるとデバイスを回すバードウェイちゃんを見る。今はあまり感じれないあの感じ……総司君とお兄ちゃんが模擬戦をするときにお兄ちゃんから感じる物に似ていると思う……
あれが、殺気……
「一発ぶち当てて終わるつもりだったけど、気が変わった。わりいけど結構マジで行くぞ?」
――カートリッジ、ロード!!
バードウェイちゃんのデバイスから何かが射出される。それと同時に感じる魔力が跳ね上がった。
デバイスは歪み、その姿を変えていく。左右対称だった先端は、片方が尖り、片方がへこんだ。
「行くぜ!ラテーケン……」
「レイジングハート!!」
『Protection』
とっさに魔法障壁を張った。それと同時にバードウェイちゃんはデバイスから何かを放出しながら接近してきた。
「ハンマー!!!」
まるで、時の庭園にいた人のように何かの噴射の勢いで加速し、回転しながら、尖った部分で攻撃してきた。
プロテクションに当たる箇所に魔力を集中して送り込む。
けれど、抵抗も虚しくプロテクションはあっさりと割れてしまった。そしてバードウェイちゃんのデバイスはそのまま私のお腹に突き刺さった……
◇
【ヴィータ】
「………やりすぎちまったか?」
あたしの一撃で吹き飛ばされた魔導師はそのまま大きな建物の壁に衝突した。
パラパラと言う音が建物を損壊させていることをわからせる。つまり、それだけの衝撃でぶつかったということ……見た所バリアジャケットは着ていたようだし、死んではないだろうが……あれって総司の家族なんだろ?あまり傷めつけたら怒るかもしんねえな。でも、総司が戦えって言ったんだ。あたしは悪くねえ。
「……取り敢えず、シャマルの所に連れてって治療してもらうか……」
ピクリとも動かない所から、気絶しているのだろう。一応は手加減したと言ってもあたしは闇の書の守護騎士なんだ。一介の魔導師と比べても遥かに強さは高い。手加減が足りなかったのかもしれない。
まあ、取り敢えずこれでアップルパイってのはあたしの物だ。総司もやることはやったんだし文句は言わねえだろ。シグナムも姿と声、匂いに名前まで変えといたら守護騎士だってことがばれないって言っておいたら何も言わないだろうな。でもはやては怒るかもしんねえし、黙ってよう。
「………」
一応いきなりの反撃に警戒しながら近づく。
まあ、警戒は無意味だったようで、どんなに近づいても反応はなかった。
「んじゃあ……」
突然、背後から魔力の反応を感じた。
とっさにしゃがみ、攻撃を躱す。頭の上を何かが通過していったのが解った。直ぐ様地面を蹴り、その場から離れる。
「………」
「んだよ……」
そこにいたのは金髪で黒いバリアジャケットを身に纏った魔導師だった。今のタイミングからしてあそこで寝てる白い魔導師と少なからず関係はありそうだな。
「仲間がいたのか」
「……友達だ」
へー、友達か。それは悪い事したな。確かに自分の知り合いが気絶させられてるの見たら斬りかかるわな……
ん?えっとフェイトって名前なんか。んで、あたしはどうすればいいんだよ。何かやれっていうならアップルパイ追加だぜ?
オーケー。撤退ね。まあそうだわな。
「そいつには謝っといてくれ。ちょい手加減が足りなかった」
「……どういう意味?」
「さあな」
警戒は怠らない……か。そっちの白いのよりもこっちの黒いのは魔導師らしい……というか戦い慣れているって感じか……周りに魔力ばらまいてるし何かするつもりなのかも知れねえな……
まあ、一発ぶちかまして逃げれば………
「ご苦労だったな」
「…………」
突然視界が暗くなって目の前に総司が現れる。
周りを見てみればさっきまで立っていた場所とは違う風景。どこかの公園だろう。
「いきなり転移させんじゃねえよ。びっくりしただろうが」
「む?撤退と言ったであろう?」
いや、そうだけどよ。あたしが自分でやるもんだと思ってたぞ。と言うよりもこいつはあたしをどうやって転移させたんだ?魔導師でもないこいつがどうしてそんなことが出来る?
あたしの姿や声を変えたり出来るあたり、何かを隠し持っているってことか……魔法とはまた別の何かを……
「それよりも、そろそろ八神はやての飯が出来るぞ」
「何してんだ!早く帰るぞ!!」
取り敢えず、こいつは警戒しとくに越したことはねえな。
なのは(まさか、人質を?)
ヴィータ(アップルパイ……一体どんなお菓子なんだ……)