【ザフィーラ】
「では、手筈通り頼むぞ」
「ああ」
既に主はやては寝ている。後は高町総司の方をどうにかすれば闇の書を完成させることが出来る。魔力はなぜかは知らないが十二分にあった。後は守護騎士のだれかが魔力を蒐集すれば完成する程度にページは埋まっている。
主はやての足はまだ完治していない。今もまだ先延ばしにしているだけだ。高町総司はまだ治そうともしないし、あいつの言う闇の書に対して何かを企んでいる者からの接触はない。だからこそ、私達は闇の書を完成させ、主はやてを真の闇の書の主として覚醒させ、足を治すつもりだ。無論、足を治してもらえば闇の書の力を封印するつもりではある。主に争い事は似合わないからだ。
そんな中で私達は役割をそれぞれに持った。ヴィータは己の魔力を蒐集する。シャマルは闇の書の制御。シグナムは何かあった時のためのシャマルのサポート。そして私が高町総司を修行という名目で違う次元世界に連れて行き、時間を稼ぐというもの。
感づかれてはまずい。ヴィータに会わせると顔に出てばれてしまうかもしれないからすぐにでも行かなければ……
「では行ってくる」
「任せた」
家から出てこちらへと向かっている高町総司へと視線を向ける。予め魔力が目印となるカートリッジを持たせておいて正解だった。これで感知することが出来る。
「………む、どうした?ザフィーラ。また家から閉め出されたのか?」
「………いや、そうではない。ただ修行をつけてもらいたいと思ってな」
「……こんな遅くにか?」
流石に簡単にはいかないか。こいつの性格は1か月共に生活していてもまだ掴みきれていない。何を目的で近づいてきたのか……初日の時に言ったようにただ配下が欲しいという目的ならば話は簡単なのだがな……こいつの態度はおおよそ我らの上に立とうとしている者ではない。感謝はしているがなぜ私にいつも肉を買ってくるのだろうか……
「すまないな。ほかに時間を取れなかったのだ」
「………ああ、そういう事か。よかろう、ならば行くぞするぞ」
む……いやにすんなりと聞いたな。もう少し手間取ると思ったが……まあ早く離れておくことに越したことはない。
「では気をつけろよ?」
「は?」
その瞬間、視界が一転した。
◇
【ヴィータ】
ザフィーラの魔力とあたしのカートリッジの魔力が消えたのがわかった。案外早く誘導出来たようだけど、正直総司がいてもよかったよ思うんだよなぁ。あいつ、あたしとシグナムの二人掛かりでも攻撃すら当てれないくらいに強かったんだし、いたら何かあった時にどうにかしてくれそうなんだよな。
まあ、何もなければ問題ない話だし、別にいいか。全部終わったらまたはやてと総司に旨いもの作ってもらおう。
「では始めるぞ」
「ああ、あたしの魔力で完成させればいいんだよな?」
「ああ、頼むぞ」
「はやてちゃんはまだ眠っているし、今のうちに終わらせましょう」
あたしの魔力を闇の書に注ぎ込む。ページが埋まっていき、闇の書の完成に近づいていく。それと同時に何か嫌な気配を感じていく。本当にこのまま完成させていいのだろうか。ザフィーラと総司をそばに置いておかなくていいのか……何かがおかしい。何かとんでもない勘違いをしているのかもしれない。
「いいぞ、これで主を助けることが……」
「……」
闇の書の魔力が膨れ上がる。あたしの魔力で完成したようであり、ゆっくりと空中に浮かびあがり、黒い光を放っていく。
危険だとあたしの本能が警告する。それはシグナム達も同じなのだろう。言い知れぬ不安から顔がこわばっているのがわかった。
「なんだ、この禍々しい力は……」
「闇の書、こんな力だったなんて、記憶にない……」
シャマルの呟きに引っかかる。記憶……どうしてあたし達に記憶がない?あたし達が守護騎士で主とともにあること、共に守護騎士として生きる仲間のことは覚えている。なのに、どうしてあたし達は過去の主を覚えていないんだ。どうして闇の書の完成形を覚えていないんだ。
「まずいぞ!これ!」
「クッ!!シャマルは主はやてを守れ!私とヴィータで食い止めるぞ!!」
「わかったわ!!」
このままでは魔力の暴走で爆発しちまうかもしれない。それまでに何としても魔力を消耗させないと!
「ではいく……ぞ…」
「え?」
闇の書から伸びた触手がシグナムを貫いた。
いきなりのことで反応できなかった……シグナムの膝から力が抜け、触手に引っ張られていった。
「あ……あ……」
闇の書の光にシグナムが飲まれ、その姿を消す。
「しゃ、シャマル!!はやくはやてを!!……っ!!!」
シャマルの方へ振り向いたと同時にあたしの胸から触手が飛び出してきた。背後から貫かれたようだ。痛みはない。ただ喪失感を感じ、魔力が吸われていくのがわかる。
くそ、こんなことなら総司が治してくれるのを待つべきだった……総司がいる間に完成させるべきだった……このままでははやてが危ない……せめてはやてだけでも……
◇
【ザフィーラ】
「この程度か?」
「……」
息を切らすのを何とか抑え相対する。
正直こいつの修行はとんでもない。模擬戦によるものがメインなのだが、それがとにかく厳しい。こいつの攻撃と速度がとんでもなく、こちらの消耗が激しいのだ。攻撃を当てることが出来ず当てられた攻撃に体力を削られる。
強敵との模擬戦などあまり行えるものではないのだ。だからこそ今のうちに何とか追い縋らなければいけない。
「む……始まったか」
「な……にがだ?」
突然総司があらぬ方向を向いて呟いた。
「なに、お前たちの企みによって闇の書が暴走を始めたのさ」
「な…に?」
暴走……だと?いったいなぜそのようなことが起こる?正しく完成させたのではないのか?
「このままでは守護騎士はお前を除き全滅するだけでなく、八神はやてもその命を落とすだろう」
「なんだと!?」
確かに暴走すればそのような事になるだろう。だがそれが本当だとは到底思えない。なぜこいつはこの世界から地球のことを知ることが出来るのだ!?
何の確証もない。信じる要因がない。なのになぜ総司の言葉に納得してしまうのだ。
「それはお前が知っているからだ」
「……何を言っている?」
「過去に起こった出来事。闇の書の暴走……全てはお前が知っている」
「何のことだと言っている!!!」
「自分で思い出すのだな」
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眼前に浮かぶのは数多もの軍勢
隣に並び立つのは戦友の3人
背後に控えるのは守るべき主
私の存在価値とは主を守るためだけにある
主を守る。だがその主とは一体誰だ?
私をプログラムとして組み込んだ者か?
――違う
私と共に戦うと誓った男の事か?
――違う
私達を戦いから解放すると告げた女の事か?
――違う!
ならば………
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「では問おうか」
意識が朦朧とする中、総司の声が鮮明に響いてくる。
「貴様の主とは一体誰だ?」
「……」
ここで選択を間違えてはいけない。思い出したのだ。闇の書、いや夜天の書の暴走がどれほどのものなのか……到底私一人で食い止めることなどできない。だからこそ総司の手が必要だ……
「貴様が真に忠誠を誓う者とは誰なのかを聞いている」
そうだ。ここで総司の協力を得なければ主はやて達は命を落としてしまうだろう。だからこそ、私はここで告げる……