その日、高町家とテスタロッサ家の両家は親睦を深めるため、夕餉を共にしていた。既に食事も終え、高町なのはとフェイト・テスタロッサの両名は傍らにユーノとアルフを連れ、高町総司の部屋の捜索を行っていた。高町なのはは日課として、フェイト・テスタロッサは高町総司の強さを知るために……
その2人を高町恭也は止めようとしたのだが……楽しそうに話す二人を見て、そこまで酷い事もしないだろうと黙ってその場を去る。
高町恭也も現在の高町総司の行動に思うことがないわけではない。高町士郎より事の顛末は聞かされているものの、最近増えていた高町総司との模擬戦がめっきりと減ったのだ。帰ってきたのならば一言二言くらい言ってやろうと考えていた。今日のテスタロッサ家との交流会に高町総司に声はかけたのだ。だが、当の本人は『そろそろ動き出すのでな』と言い、参加を拒否した。取り敢えず後で聞き出すとしようと考え自室に入った。
――そして…………
突如出現した巨大な魔力。魔法に携わる者達全員が戦慄する。
以前観測されたジュエルシード並の……もしかすればそれ以上の魔力が海鳴に出現したと感じ取れたのだ。
「なのは!」
「うん!」
高町なのはとフェイト・テスタロッサは部屋を飛び出す。
あの魔力を放っておいたらいけない。このままではこの地が滅茶苦茶になってしまう。友が、家族が住むこの土地を守らなくてはいけないと使命感を抱いて……
次元航空艦アースラに待機していたクロノ・ハラオウンは突如現れた魔力に目を見開いていた。
高町なのはを襲った原因不明の魔導師を探すために地球付近に滞在していた折に観測したもの。発生源は海鳴市……この魔力の波長は……
「闇の書だと!?」
「間違いないよ!クロノ君!!」
闇の書、旅をする魔導書と呼ばれ、いくつもの世界を破壊してきたロストロギア。クロノにとって因縁の相手とも言えるその存在が突然現れた。
更に言えば観測値的に暴走している状態で……
通常闇の書は魔力蒐集を経て完成し、暴走している。それは闇の書を調べたクロノも知っていること。ならば闇の書の主、若しくはプログラムの守護騎士が何かしらのアクションがあるはずなのだ。だが、その片鱗は全く無かった。
周辺地域で魔力蒐集を行われたような痕跡はなかった。管理局員の魔導師誰も襲われていない。
「何故だ!!」
解せない。全くもって理解できない。
だが、現に闇の書は存在している。それを受け止めなければならない。
「エイミィ!!なのは達は!?」
「二人共闇の書に向かっているよ!!ユーノ君達も一緒に!」
「クソ!!僕も出る!!増援は様子を見てから頼むぞ、エイミィ!!」
「了解!!」
急いで転移装置に向かい、現場に急行する。途中、転移装置からやってきたプレシア・テスタロッサとすれ違ったがそれどころではない。
食い止めねば地球が滅んでしまう。多くの人を巻き込んで破壊されてしまう。
そして何よりも………
「闇の書……!!」
父親の仇である闇の書を放っておけなかったのだ………
◇
ユーノが張った封時結界により、取り敢えずの周囲への被害は心配いらないものとなった。だが、それもいつまでも持つわけではない。今も魔力を放っている銀髪の女性をどうにかしなければいけない。
なのはとフェイトのデバイスを持つ手に力が入る。ちょうど二人はデバイスを新調し、新たな力を手に入れた直後であった。なのはは前回の少女との敗北から新たな力を求め。フェイトは母親のプレシアからの助言から……
だが、今回はそれが仇となっていた。まだ一度も実践で運用していないそれを使いこなせという方が酷であると言える。しかし、それでも戦わなければならない。様子から察するに話が通じるようではなかった。
「ディバインシュート!!」
なのはは魔力弾を放った。何よりも攻撃しなければ始まらない。それ故の行動ではあるが……
魔力弾は銀髪の女性……闇の書の管制プログラムに当たる直前、炎の壁に阻まれて消えてしまう。
「一筋縄じゃいかないね」
「しかも見て。あの炎、非殺傷設定じゃない」
地面を焦がす炎に焼かれればどうなるかが容易に想像でき、一瞬冷や汗を流しながらユーノは目の前の存在に萎縮していた。
それだけ魔力が大きいのだ。それは隣に立つ少女よりも多くの魔力。到底敵うはずがない。
「サンダーレイジ!!!」
だが、彼女達は諦めない。例え敵わないと解っても引く訳にはいかない。
「やっぱりダメか……」
フェイトの攻撃も闇の書には当たらない。炎の壁が突然現われ、通過する頃には魔力弾が消されている。
どれほどの規模の攻撃まで防ぐのかは解らないが、目の前で発せられる魔力量からして相当な攻撃でなければいけないのだろう。それも威力が激減し、まともにダメージを与えられるのかですら定かではないのだ。
「また、消えてしまう」
闇の書から言葉が漏れた。
それには悲哀の感情が込められている……
そして、諦めに近い何かもなのは達には感じ取れた。
「せめて、覚めること無い眠りの内に、終わりなき夢を……」
その真意を知ることはなのは達には出来ない。
闇の書が少し腕を上げたのを見てデバイスを構えるだけであった……
「刃以て、血に染めよ。穿て、ブルーティガードルヒ」
身近な詠唱により現れるのは血を髣髴とさせる色に染まった短剣。
闇の書を中心に展開されていくそれはみるみる数を増やしていく。
「なんだ、あの数はッ!!」
数はおおよそ数千。視界を埋める程の短剣にクロノは戦慄する。
これほどまで展開され、それが発射されんとするさまは圧巻されるものではあったが、このままではあの短剣の群衆に飲み込まれ、堕ちてしまうであろう。
「ゆけ」
短い一言から迫る短剣の数々。クロノとなのは、ユーノにアルフは回避が困難と見て精一杯の魔力を込め障壁魔法を展開する。
フェイトだけは迫り来る短剣達の間を縫うように近づいていくが、背後より反転してくる短剣達に気づき、直ぐ様障壁を展開した。
「追尾式だと!?」
「しかも………この数……」
「おさえ、切れない!!」
正面だけではない。短剣は迂回するように曲がり、四方八方よりなのは達へと襲いかかった。
その一つ一つが馬鹿にできないほどの威力を秘めており、ガリガリと障壁を削り取られていく……
「このままじゃ……」
もう障壁はボロボロになり今にも崩れ落ちてしまいそうになっている。
短剣は闇の書の周囲に再装填さて、尽きること無く迫ってきているのだ。いずれ障壁も崩されてしまう。
「クソ!何か手はないのか……!!」
――鋼の軛
一本の柱が闇の書を貫いた。
それだけではない。数々の柱が立ち上り、闇の書の魔法へとぶつかり消滅させていく。
突如と現れたその魔法を放ったのは闇の書と向かい合うように対峙している男であった。
白い髪に褐色の肌。獣の耳に尻尾が生えている男はただ、闇の書を見つめ、佇んでいる。
「最後の守護騎士……」
「…………」
「お前も、覚める事なき夢へと……」
「断る」
男の腕が振るわれ、闇の書を新たな柱が貫く。
「何故だ?我らの主も永遠を望んでいる……」
「……永遠など必要ない」
ただ、自身へと言い聞かせるように男は呟いた。
その身は目の前の闇の書の意思と比べ遥かに劣っていることは男は理解している。
「必要なのは、笑顔を浮かべられる世界だ」
「だからこそ、覚めない夢を………」
「違う。貴様は間違っている」
男の言葉にピクリと反応し、闇の書は身体を動かした。
ピキリと音を立て、壊れた柱を男は一瞥し、腰を落として構える。
「…………お前は……一体」
「私はザフィーラ。夜天の守護騎士。主を守る盾と成りし者」
「………」
その瞳に迷いはなく……
「我が主、そして、仲間達を返して貰うぞ」
ただ、真っ直ぐと闇の書を見抜いていた。