偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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魔法戦士フィジカルザッフィー


A's 10th

 男は理解している。目の前の存在に自分は敵わないと。

 それでもこうして立ち向かうのは主に対する忠誠心故にであろう。

 

 いや、もしかすれば違う理由なのかもしれない。

 

 だが、理由など男にとってどうでもいいことだった。自分は今、この場に立ち、目の前の敵と対峙し、戦っているだけなのだ。

 

 絶望的な戦力差での戦いなどとうに経験している。理不尽なまでの力は嫌というほど見せられた。

 

 

 

 

 だが、それだけだ。

 目の前の敵はあの男よりも遥かに小さな存在であり、自身が臆すことなどありはしない。

 

 

「闇に沈め」

 

 

 幾多もの短剣が迫ってくる。

 男は障壁を展開し、四方八方より迫る短剣の軌道を逸し、違う方向より迫る短剣へとぶつけていく。

 逐一障壁の角度を変動させていくその技術は見るものを圧倒させるものであった。

 

 

「あれが……守護騎士の力」

 

 

 男の背後より障壁を展開させつつこの戦いを見守る管理局の魔導師の少年が呟いた。

 彼はあくまで記録の上でしか闇の書に関して知り得ていない。故に闇の書が持つ戦力等も曖昧なものや確定的なものとは理解できていなかった。

 

 感じる魔力は隣に佇む少女よりも少ない。だが、その魔力運用は比べるまでもなく男のほうが上である。

 明らかに違う。実戦経験の差がありすぎる。

 

 それは少女だけではなく、この場にいる全員に言えた。あの男は今対峙している闇の書よりも戦いが”上手い”と理解できる。

 

 

 

「これでは、効果が薄いか……ならば」

 

 

 闇の書は男の様子にこの魔法では効果の無いことを理解し、次なる手を案じる。

 男は闇の書が魔法の手を止めても距離を詰めてはきていない。ただ、捕縛魔法である柱を闇の書へと放ってきているだけである。

 

 

「(私を倒す気がないのか?いや、どちらでもいいことだ)」

 

 

 近づいてくるならばデアボリックエミッションで吹き飛ばせばいい。自分は遠距離より仕留めればいいのだと闇の書は結論付けると詠唱を開始する。

 

 己がこれまで使ってこなかった技法。周囲の魔力ではなく、ただあるべきものを顕現させる術……

 

 

――灰は灰に

 

 

 闇の書が両手に炎をともし、掲げた。

 それを見た魔導師達は闇の書が放つ異様な空気に一瞬身を強張らせる。

 

 

――塵は塵に

 

 

 男はただ、闇の書の詠唱を耳に入れ、鋼の軛での牽制の手を止める。

 その眼に動揺は見られない。どこまでも冷静さを保った表情で魔力を左腕に集め、騎士甲冑の強度を上げた。

 

 

「吸血殺しの紅十字!!!」

 

 

 闇の書が両手を振り下ろし、術を行使する、

 放たれた炎は十字型に交差し、ザフィーラへと真っ直ぐに迫ってくる。

 

 

「………鋼の軛」

 

 

 男は静かな声で柱を展開し、炎の進行を遮った。

 しかし、炎は容易に柱を破壊し、以前威力は衰えずに迫ってくる。

 

 

 それを見て男はある事を確信する。

 

 その確信は左腕を振るうことへの躊躇を無くすものであった。

 

 

「ふん!!」

 

 

 ただ、魔力を集めた腕での振り下ろし。

 炎と接触した瞬間、腕からジュッと嫌な音がするが、ザフィーラは気にもとめずに腕を振りぬく。

 

 炎は呆気無く掻き消えてしまった。

 

 その光景は闇の書を唖然とさせる。

 背後で見ていた魔導師達も同様に男の姿に絶句していた。

 

 

「……正気とは思えないな」

 

 

 男の左腕部分の騎士甲冑は破壊され、ブスブスと音を立てて黒く焦げている腕が見える。

 騎士甲冑で威力は下がっていたものの無傷とはいえない。だが、直撃するくらいであれば腕一本を犠牲にする方がまだマシとも言える。だが、実際に突発的にその判断を下せるものだろうか……

 

 男は腕をふるい、まだ動くことを確認すると再度柱を放ち闇の書へと牽制する。

 

 闇の書は腕を払い柱を破壊する。

 

 

 魔導師達も今の一撃で男と闇の書の実力が拮抗していないと理解できたのだろう。助太刀に入ろうと考えるが、身体が言うことを聞かなかった。

 今の一撃を見てしまったのだ。高町なのはやフェイト・テスタロッサならばあるいは防げるかもしれないが、クロノ・ハラオウンではバリアジャケットで受け止めきれる気がしない。男が障壁を貼らなかったのも防げないとの判断をしてのことだろう。あれほどまでに戦いに長けた男が下した判断は無下にするにはあまりにもリスクがありすぎる。

 

 あの攻撃がもし自分達に向いてしまったらと考えると足が竦んでしまうのは仕方ないと言えた。

 

 

「お前の覚悟はそれ程……というわけか」

 

 

 闇の書は悲しげに呟き、ゆっくりと飛行高度を上げていく。

 男はそれをただ見つめているだけだ。

 

 

「ならば、せめて圧倒的なまでに潰してくれる。お前は守護騎士だ。消えれば一緒に同化するだけのこと……」

 

 

 闇の書の周囲に幾つもの魔法陣が浮かび上がった。

 男にとってその魔法陣が描く物は見たことのある物だった。そして、直ぐ様魔導師達の前に強固な障壁を貼り、魔力を高め、騎士甲冑を強固にしつつも鋼の軛で魔法陣を撃ちぬく。

 

 

「無駄だ」

 

 

 しかし、闇の書が放つ小さな炎に遮られてしまう。

 男は仕方ないと言わんばかりに更に魔力を放出する。

 

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

 

 

 男は自分の体が薄れていくことを感じる。今の己は魔力が形成した存在に過ぎず、魔力を失ってしまえば掻き消えてしまうことは間違いがない。

 本来であれば主から供給される魔力で補えるが、主が取り込まれている現状、供給の術がないのだ。

 

 

「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」

 

 

 故にある程度魔力の放出はおさえていた。

 一秒でも長く闇の書と戦うために……

 

 

「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」

 

 

 しかし、それでは足りない。今から現れる攻撃に耐えることが出来ない。

 数度己の身に受けたことがあるが、その衝撃は凄まじく、一撃で消し飛ぶかと思うほどであった。

 その時よりも幾分かは威力が下がっているだろうが、間違いなく直撃すれば戦闘不能になってしまうであろう。

 

 

「その名は炎、その役は剣」

 

 

 周囲の温度が上昇していく。

 その光景に男は内心である少年へと毒を吐いた。厄介なものを創りだしてくれたと、厄介な役目を押し付けてくれたと。

 

 

 

 

 

===================

 

――貴様が真に忠誠を誓う者とは誰なのかを聞いている

 

===================

 

 

 

 

 思い出すのは少年からの問い。男の返答により、主の宿命が決まってしまうその詰問。

 

 

「顕現せよ、我が身を喰らいて力と成せ」

 

 

 目の前の闇の書が発動している術を前に己でも驚くほどに冷静でいられるのもある意味少年のせいなのだと。

 そう、内心で毒を吐きながらも男は少年へと真の意味で答えを返した。

 

 

===================

 

――ザフィーラっていうんや。よろしくね

 

――私、犬欲しかったんよ

 

――これ、ザフィーラのドッグフードやで!

 

――今日は奮発して缶詰や!

 

===================

 

 

 

 

 

 

「私の主は、八神はやて唯一人だ」

 

 

 

 己を創りだした者ではない。

 己と戦おうとした者でもない。

 己を解き放とうとした者でもない。

 己へと詰問する少年でもない。

 

 夜天の守護騎士、盾の守護獣であるザフィーラにとって、真に忠義を尽くすのは………

 

 

 己の家族となろうとした少女であった。

 

 

 

「イノケンティウス!!!」

 

 

 

 炎の巨人が迫ってくる。体長は優に5mはあるだろうか……

 振りかぶったその一撃の当たる箇所、そこに障壁の魔力を集中させる……

 

 

 

 

「グッ!!!」

 

 

 

 障壁は壊され、男は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

【ザフィーラ】

 

 

 

 意識が朦朧とする。

 身体の前面部分に酷い痛みと熱を感じる。それがまだ自分が消えていないという証拠の一つなのだ。

 

 魔力を確認すれば闇の書の管制プログラムはこちらへと向かっているようであった。

 

 私は建物に突っ込んだ形で吹き飛ばされたようだな。

 目を少し開け、左腕へと視線を向ける。

 

 そこには何もない。既に炭化しかけていた状態であれだけの攻撃を受けて無事で済むはずもなく、消し飛んだようだ。

 幸いにも右腕や両足はまだ力が入る。

 

 

 

 しかし、腹部は駄目になっていた。

 

 両腕でガードしたものの守りきれなかったようだ。これでは痛みで集中出来ずに魔法もろくに発動できないだろう……

 

 

 

===================

 

――ほほう、面白いことを宣うな……

 

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 思い出すのはあの無表情な少年との問答。

 私は少年を主とは言わなかった。それにより主を救う手を貸してくれないと理解しながらも……

 

 

 

 

 

「まだ、消えていないのか」

 

 

 

 身体を起こし、ゆっくりと道の中央へと這って行く。

 血が滲み、地面に触れた傷が痛むがそんな事はどうでも良かった。

 

 目の前の存在と向き合わねばならないのだ……

 

 

 

===================

 

――貴様の感じたその意思は正しい。真に主は八神はやてであろうな。

 

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「お前の忠義見事だった」

 

 

 

 背後で何かが動く気配がする。

 チラリと視線を向ければそこには少女が二人いた。主と同じくらいの歳頃だろうか……魔力を感じれない所から一般人か……

 

 管理局……一般人を巻き込むなど正気の沙汰とは思えないな。

 

 

 精一杯の障壁を少女たちの前に貼り、闇の書の管制プログラム……それと炎の巨人と対峙する……

 

 

 熱がここまで伝わってくる程だ。今度こそ私は消えてしまうだろう。

 

 

 せめて、一般人に攻撃が行かぬように……

 

 

 

 

 

===================

 

――ならば、改めて問おう

 

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 いや、その必要もないか……

 

 炎の巨人が迫る中、思わず口角を上げてしまう。

 

 その存在感は一ヶ月も共に過ごせば嫌でも察することが出来る。

 

 

 

 

 

===================

 

――貴様の王とは一体誰だ?

 

===================

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったな。夜天の王」

 

「ふん、待たせたな。夜天の騎士」

 

 

 

 

 炎の巨人を消し飛ばすその少年の背中は凄まじく頼もしいものと感じ取れた。

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