偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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A's 11th

「随分と惨めな格好をしているな。ザフィーラ」

 

「………ほっとけ」

 

 

 少年は倒れ伏す男に目をやり、少し嘲笑った後左手を振るって男の傷を治した。

 まるで何事もなかったかのように男の傷は塞がり無くなったはずの左腕までもが再生している。

 

 

「もう、済んだのか?」

 

「ああ。存外詰まらぬ連中だった」

 

 

 つまらなそうに呟く少年にザフィーラは視線を向け、己の身体を確かめていた。

 

 

「さて……」

 

 

 背後から何やら叫び声を上げている少女と感動したかのように見つめている少女の2人を少年は見向きもせずに闇の書へと向き合う。

 その不敵な笑みを浮かべた顔に闇の書は一瞬気圧されたが、すぐに頭を冷やし現状を確認した。

 

 何故炎の巨人が消されたのか。あれは魔法陣によってその存在を固定化した魔術であったのだ。いくら炎の巨人を吹き飛ばす攻撃を行おうが魔法陣が無事であるならば消えることがない……つまりは魔法陣を破壊されたということにほかならない。

 

 

 ちらりと背後に視線をやる。宙に魔法陣が浮かび上がっていた場所には電信柱が突き刺さっていることが分かった。物理的にかき消され、その後に炎の巨人が消えるまでのラグを待つこともなく打ち消しに来たというだけのこと。

 それを自分に気付かされずに行った少年に闇の書は戦慄した。

 

 少年はたじろく闇の書を見つめ、更に口角を上げる。

 

 

「お前は少しやり過ぎだな。力を得て反抗期を迎えた引きこもり風情が」

 

「引きこもり………?」

 

「ああ。そんな本に引きこもるなど私の配下として情けない。教育してやる」

 

 

 

 

 

 そう言い放つと、少年は七輪と網を取り出し、その上にサンマを乗せ、今度はうちわを取り出して仰ぎ始める。

 

 

 

 

 

「……………何をしている?」

 

 

 突拍子もない少年の行動に怪我が治り立ち上がったザフィーラが呆れた顔で問う。

 少年は煙を闇の書へ送りながら少し自慢気に笑った。

 

 

「はやて曰く引きこもりは匂いで釣るべしとのことだ」

 

「……………」

 

 

 先程まで感じていた頼もしさは微塵も感じれぬ少年にザフィーラは深く、それはもう深くため息を吐き闇の書へと目をやる。

 

 当の闇の書も少年の行動を理解できずに攻撃してもいいのか戸惑っているようで、先程までの険悪な空気とは一転してしまった事にザフィーラは頭を抱えた。

 

 

「日本神話においても引きこもりの天照大御神を宴の音をきかせて誘いだしたという……」

 

 

 普段は博識で切れ者なのだが偶に意味のわからぬ行動を取る少年、これがザフィーラにとっての王になるのだが……選択を間違えてしまったのかと真剣に悩むのはしかたのないことだろう。

 

 いや、このような行動を取る原因を作り出したのは間違いなくザフィーラの主である八神はやてなのだが……

 

 

「………とりあえず、今はあいつは引きこもってはいないぞ」

 

「……………盲点だったな」

 

 

 少年はザフィーラの言葉にそそくさと七輪とサンマを消すと闇の書へと視線を向ける。

 

 

「仕方あるまい。話の聞かぬわがままにはげんこつをするものだとこれまたはやてが言っていたしな」

 

 

 ようやく始める気になった様子の少年にザフィーラは一度息を吐くと闘志を燃やしていく。

 

 魔力は治療とともに完全に戻った。今も使い尽くせば身体が消滅するということには変化はない。だが、隣に並び立つ者がいるだけで負ける気など起こらなかった。

 

 

 

 

 

「な、何で総司君が!!」

 

 

 

 闇の書の後方、ザフィーラが吹き飛ばされる前にいた方向から魔導師たちが飛んで来る。

 到着が遅れた理由として恐らく何かしらの手段で足止めでも食らっていたのだろう。

 

 

 

「うるさいぞ」

 

 

 

 しかし、少年はそんな魔導師達を背後の少女の隣へと移動させると隣にいるザフィーラへと目配せをする。

 

 顎で少女たちを指すその意味は………案にザフィーラに閉じ込めておけと言っているようであった。

 

 

「はぁ…………」

 

 

 何故か邪魔が入り続ける事にため息を吐きつつもザフィーラは少女たちの周囲を二重の結界で覆う。

 一つは外からの衝撃からの防御用。一つは中から出られないようにする捕縛用……

 

 

「さて、仕切りなおしといこう」

 

 

 何度目になるかは分からないがやっと闇の書と少年は対面する。

 闇の書は少年の雰囲気に飲まれつつも、一度目を閉じることで精神を落ち着かせ少年へと視線を向けた。

 

 

「何故、永遠の眠りを拒む?」

 

「永久の時に生きる事が素晴らしいとでも言うのか?」

 

「何故、私に近づく?」

 

「配下の不始末をどうにかするのが王の勤めだ」

 

「何故、お前はここに立っている?」

 

「決まっている。お前を倒すためだ」

 

 

 少年の行動理念は一つに集約された。

 それを理解するものはいないのかもしれない。それを共感するものはいないのかもしれない。

 

 だが、一つ言えることはある。

 

 

「行くぞ、ザフィーラ」

 

「心得た」

 

 

 少年は力を行使する。その身に秘めし力を最大限に使えばこの事件など一瞬にして解決してしまうであろう。誰もが笑うハッピーエンドを迎えることも容易いだろう。

 

 だが、しない。

 何を思っているのかは誰にも理解されない。何を考えているのかは誰にも思いつくことはない。

 

 少年が行使する力はザフィーラに向けてのものであった……

 

 

「フォース――コネクト」

 

 

 歯車がかち合う。

 ザフィーラの意識、知識、思考、様々な物が織りなし、一種の個体としてそれは生まれる。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 少年とザフィーラは同時に駆け出す。

 

 

「なっ!!」

 

 

 その速度は人体の出せる速度を超えていた。無論ザフィーラの動けるであろう速度を優に超えていることは闇の書だからこそ理解できる。

 

 ザフィーラが踏み込み、掌底を闇の書へと叩きこんだ。

 闇の書は身を捻りながら寸でのところで躱す。

 

 しかし、ザフィーラの影に隠れたように近づいた少年が足を振り上げている姿が見えた。

 

 避けることは困難と判断した闇の書は腕を上に交差させ少年のかかと落としを受け止める。

 

 

「グッ!!」

 

 

 おおよそ人間の力と思えない脚力で叩き込まれたかかと落としに闇の書は声を漏らしてしまうも地面に着地し、傷らしい傷もないままやり過ごせた。

 

 しかし、これで攻撃が止むはずがない。

 

 

 闇の書が着地したと同時にザフィーラの足が視界の隅に過ぎる。とっさに頭を下げることで躱し、続いて落下してきた少年の両腕での振り下ろしを地面を転がって躱した。

 息も付くことが出来ない状態で闇の書は顔を上げ、目の前まで迫ってくる少年へと右腕を振りかぶった一撃を繰り出す。

 

 少年に当たる直前に意識が加速する錯覚を思いうかべた。

 

 右肩を引くように回転した少年は闇の書の右ストレートを半身の体勢で躱しつつ、そのままの勢いで裏拳を繰り出してきた。

 

 左手で右腕と交差するように構えて少年の裏拳を受け止める。

 

 

 しかし、衝撃が来ない。

 少年は慣性を感じられない動きで行動をキャンセルし交差された闇の書の腕をサマーソルトキックで蹴り上げる。

 必然的に闇の書は両腕を上に弾かれ、胴体ががら空きとなった闇の書の懐へ……そう、丁度少年が飛び上がった下からザフィーラが飛び込んでくる。

 

 ザフィーラは背後に鋼の軛を出現させ、魔力を込めた掌底を闇の書の腹部へと打ち込んだ。

 

 

「ガッ!!!」

 

 

 闇の書が吹き飛ばされるとほぼ同時……サマーソルトキックの跳躍からくるりと回転し、ザフィーラが唱えた鋼の軛に足を着けた少年はザフィーラに触れ、闇の書が飛んでいった方向。丁度闇の書の向こう側になる場所へと移動させた後、まるで発射されるように闇の書へと向かう。

 

 右手に刀を出現させた少年は吹き飛ばされる闇の書に追いつくと同時に納刀した状態で振り下ろした。

 闇の書は両掌で刀を受け止め、少年の攻撃を防ぐ。

 

 

 だが、それが悪手だと少年の顔を見て気付いた。

 

 

 

「なっ!!!」

 

 

 

 背後からの掌底。

 少年により背後へと移動させられていたザフィーラが繰り出した一撃に闇の書は息を吐き出す。

 

 的確に撃ちぬかれたその一撃は身体を硬直させるには十分で……少年の納刀された刀での打ち上げを躱すことなどは出来るはずもなかった。

 

 

「………七閃」

 

「………鋼の軛」

 

 

 地に立つ二人は闇の書へと同時に放った。

 少年は鋼糸による物理的な拘束。ザフィーラは魔法による魔力の拘束。

 

 少年は力を行使する。

 発現するのは電気。他人の頭を媒体に能力を作用させる。

 

 ザフィーラは魔法を行使する。

 少年により与えられた力を上乗せした一撃。

 

 

 

「雷獣裂鋼牙!!」

 

 

 

 電気を帯びた魔力砲。

 青白く光る閃光が空中で拘束される闇の書を撃ちぬいた。

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