偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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Prologue 3rd

 

――たださ、当たり前の事を思い出した。それだけだったんだよ。

 

 

 英雄が紡ぐ言葉、多くを救い得た英雄の言葉。

 

 

――他のどんな方法を使ってでも世界の混乱を止められるなら挑戦する。

 

 

 世界のための献身者はその身を犠牲に何を得る?富か?名誉か?

 

 

――否、英雄が得たものは、一人の女の笑顔だった。

 

 

 人は誰しもが英雄になり得る。しかし、誰もが悪魔を身に宿している。

 

 世界が望むものは英雄だ。人々が望むものも英雄なのだ。

 では、英雄の望みとは何だ?

 

 争いのない平和な世界。成る程それは聞こえがいい。

 人の笑顔に溢れる世界。いかにもそれは素晴らしい。

 

 だが、本当に英雄が望むべきは、悪という存在なのだ。

 

 悪とは英雄の対局に位置する者。しかし、見方を変えれば英雄も悪になり得るのだ。

 勝者は英雄に、敗者は悪に、その形こそ世界が、英雄が望むべきものである。

 

 

 

 

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 意識が浮上する。微睡みの中、既に見慣れた天井を見る。

 夢を見ていた。一つの英雄譚を……その姿は大衆にとっては輝かしく見えるのだろう。しかし、違う。私にとっての理想とはあのような歪なものではなく、ただ悪そのものなのだ。

 

 この世界全てが私が悪と成るのを拒んでいる気もするが、それは気のせいではないのだろう。私の成す悪事を許容し、善意で返すことにより逸らせようとしている。そうはいかないぞ。情けは人のためならずという言葉通り、他人への行いは自身へと帰ってくるのだ。私はそれを理解し、私が起こす悪事は全て、私にとっての苦痛、即ち善意として帰ってきているのだと気付いている。

 

 つまり、私のしていることは無駄ではなく、大衆にとって苦痛を与えているに違いないだろう。

 

 

 

 

 

 体を伸ばしベッドから降りる。時刻は午前5時30分、家の中では物音が聞こえず静寂が支配している。

 部屋の扉を開き、音を立てずに階段を降りる。この行為も悪事の一つだ。些細な事ではあるが、これにより少しでも長く眠らせ、一日の始まりを遅くし活動する時間を少なくしてやっている。気づきにくいだろうが、これを積み重ねれば総体的にかなりの時間を損することに成るだろう。偶に自分自身が怖くなるほどに素晴らしい悪事だと思う。だが、悪の道はまだ険しい。

 

 

 台所に入り、冷蔵庫の中身を確認する。ふむ、少しばかり卵が余っているな。よし、朝食から手抜きとしてハムエッグ程度の料理をしてやろう。高町桃子の仕事を取るだけでなく、ただ焼くだけという手抜きをするという悪事だ。

 米は……既に炊いているようだが、あえて使わないでおいてやろう。手抜きで食パンだ。

 

 冷蔵庫を手早く閉める。わざわざ家の温度を下げて過ごしやすくしてやる必要などはない。秋といえどまだ若干の暑さは残っている。朝から快適ではない空間を作り出すことで今日一日のやる気を下げてやる。

 

 む、クリームコーン缶……良いことを思いついた。

 直ぐ様冷蔵庫から牛乳とバターを取り出し、鍋に投入する。少し火が通った所でクリームコーンを入れ、ついでに固形コンソメも入れておいてやろう。あとは煮詰める。これで朝からスープによって暑くなり、苦しむだろう。

 

 なるべく料理は熱い状態で喰わせるため、まだ他の料理は作らない。

 今の間に他の悪事を考えなくては……

 

 

 よし、冷たいサニーレタスのサラダをメニューに追加しよう。これ程熱い食べ物が続いた中で冷たいもの。少し快適になるかもしれないが、間違いなく腹を壊すだろう。ふっふっふ、今日一日トイレで苦しむのだ。それに高町なのはくらいの年齢であれば野菜が嫌いなはず。いつも無理して食べているだろうが、苦しんでるに決まっている。

 

 

 はっ!高町士郎はコーンスープを飲まない!

 

 いや、まだ手はある。熱い物を飲ませるのが目的なのだ……よし!コーヒーならば飲むだろう!そうと決まれば早速やかんに水を入れコーンスープの横で火を付け沸かす。

 現在時刻は6時30分。そろそろ高町なのはを除いた4人が起きる時間。クッ!忌々しくもこの一家は時間を有効活用している。折角私が時間を睡眠によって浪費させているのにこれでは効果が薄いぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1時間後》

 

 

「今日もありがとうな、総司」

 

「美味しかったよ!総司君!」

 

「こらなのは、まず食器片付けてからね」

 

「はーい」

 

「………」

 

 

 相も変わらず人の悪意を善意で返してくるな。素直にその姿勢は賞賛してやろう。

 だが、いつか耐え切れなく成るのはわかっている。その時を覚悟するのだぞ。

 

 

 

「ああ、そうだなのは、総司。二人共来年からは聖祥大付属小学校に通うことになるからね」

 

「うん!」

 

「……わかっているぞ」

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