偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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A's 14th

「そろそろ、裁判が始まる時間か」

 

「うん。あの子たち、結局何も話さなかったね」

 

 

 次元航空艦、アースラが収容されたドッグにて二人の人物が会話をしていた。

 

 

「なのはの兄である高町総司の行方は不明」

 

「ついでにあの銀髪の女性もね」

 

 

 女性はため息を吐きつつ、手に持った水を飲み干す。

 思い浮かべるのは闇の書に関する事件。

 突如現れた闇の書の暴走体に守護騎士の一人と少年。暴走体を無力化し、それに対して出てきた怪物すらも消滅させた存在。

 

 

「まあ、正直八神はやてちゃんには弁護の余地もあるしそこまで大きな罪に問われないと思うよ」

 

「八神はやてよりも問題はグレアム提督とリーゼ達だ」

 

「闇の書への復讐心……ね。責任問題は免れないわね」

 

 

 今回の事件、闇の書の暴走には少なからず管理局に所属する者が関わっていた。八神はやてという一般人よりも責任という面では重い罪に問われることになるだろう……

 

 

「だけど、何で彼女達は何も言わないのかな」

 

「わからないさ」

 

 

 二人の男女、クロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタは裁判が行われているであろう場所へと視線を向けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「(何でこんなことになったんやろ……)」

 

 

 心中でそう呟く八神はやては思わず視線を上に向け、まばゆく彩られた天井を見つめる。

 とんでもなく高い天井に現実感を覚えることが出来ずに今の現状が夢であるように感じられるほどであった。

 

 

「(わかりません。ですが、恐らくは総司が関わってるとは思われます)」

 

 

 背後に控えるのは彼女の使い魔である守護騎士の4人。

 周囲にいるのは見たこともない大人たち。

 

 

「(にしても、あたしらどうなるんだろうな)」

 

 

 彼女達は現在頭を抱えたくなる問題に直面している。それは闇の書事件についての裁判なのだ。

 あまりわけもわからない状態で管理局に連れられ、詳しい事もわからないままこの裁判所のような場所に立たされている。

 

 一番状況を把握していそうな少年、高町総司は闇の書の管制プログラムであるリインフォースとともにナハトヴァールが消滅したと同時に姿をくらませてしまった。勿論、闇の書ははやてが持っているが……

 だが、問題はそれだけではない。今回夜天の一派を護送したのはアースラの搭乗員であり、情のある彼らならば八神はやてが説明を乞えばある程度の事は教えてくれるのは間違いない。しかし、それは叶わなかったのだ。

 

 現在夜天の一派は言葉を話すことが出来ない。相手に伝えようと体を動かすことも出来ないし、筆談すらも行えなかった。出来るのは誘導に従った移動と夜天の一派のみでの念話だけであった……

 

 このようなあり得ない状況を作り出せる人物は彼女達の中では一人しかおらず、その真意を理解することは出来ない。

 

 

「(だが、安心しても良いだろう。あいつは私達の王であり、配下を見捨てるような奴ではない)」

 

 

 夜天の一派の中でも総司を一番理解しているザフィーラがあまり緊張もせずにいることが彼女達の警戒心をほぐしていることは幸いではあるのだが……

 

 しかし、そうは言ってもただ黙している現状、はやて達は管理局の検事に罪を並べられていくのを聞いているのはフラストレーションが溜まるものであった。別に闇の書が過去に起こした罪を守護騎士達と共に償うのは構わない。だが、ここまで一方的に言われるのは性格的に合わないのだ。文句の一つも言いたいのだが、肝心の彼女達の弁護士はどうにもやる気を感じることが出来なかった。

 

 

「(一体、総司は何を考えてるんよ……)」

 

 

 

 やれロストロギアの不正所持やら、闇の書が危険やら、危険な闇の書を所持したやら、闇の書を暴走させたやら……

 正直はやてにとっては堪ったものではない罪状ではあった。いきなり叩きつけられる罪状には思うところがないわけではない。だが、言い返せないのだ……

 

 と言っても自分は既に欲しい物……守護騎士という家族を得ることは出来た。二人ほどこの場にいないのだが、全員が一緒でいられるのであればはやてはある程度の罰は受け入れることは出来る。

 過去に守護騎士達が犯した罪は知っている。それを一緒に背負うのは家族である以上構わないと覚悟している……

 

 そして、とうとう判決が下されようとしていた……

 

 

 

 

「では、検事側の主張を認め、被告には10年の……」

 

 

 

 

 

 

 しかし、それを良しとしない者がいた。

 

 

「異議あり。と言っておこう」

 

 

 突如と現れた少年。はやての目の前にある机に腰掛けた状態の総司は無表情で裁判官へと視線を向ける。

 ざわざわと裁判所内が騒然となる。本来であれば少年の言葉は弁護士が言うべきの言葉。それをいきなり現れた少年が述べたのだ。仕方のないことだとは思われる……

 

 

「い、いきなりなんですか!貴方は!ここは神聖なる裁判の場所なんですよ!そもそもどうやってこの場に……」

 

「そんな些細なこと、この際どうでも良いだろう。私の異議は聞き入れないというのか?」

 

 

 ふっと目を細めた少年に言い知れぬ威圧感を感じ、裁判官は身じろぎしてしまう。

 

 

「大体貴様等は何様のつもりだ」

 

 

 少年は言葉の節々から苛立っているのだと誰にも理解できる。そして、少年の正体を知らないものでも感じる覇気や言動、物腰からも強者であると理解できた。

 

 

「一体、何を……」

 

 

 裁判官が気圧される中、総司は一度チラリと自分の後方、はやて達を見た後、机から飛び降り、ゆっくりと裁判台に向かっていく。

 その一挙一動から目を逸らすことが出来るものはいない。何故かは分からない。だが、総司の存在がこの場において空気を支配していると肌で感じることが出来る。

 

 

「まず、一つ問おう。貴様等は八神はやてを闇の書を所持し、暴走させたとして罪に問うたな?」

 

「え、ええ。そのような危険なロストロギアの所持など認められるはずもないでしょう?」

 

 

 総司は少し震えた声で話す裁判官を見る。彼は何を思っているのかはわからないが、少なくとも喜びなどのプラスの感情を抱いているわけではないのはひと目で分かる。

 彼の目つきは敵と相対した者の目であった……

 

 

「何故そのような罪を問う権利を貴様等が持っている?」

 

「い、一体何のことですか?」

 

「何故、八神はやてという人間を裁く権利を貴様等が持っているのかと聞いている!!」

 

 

 その言葉は裁判所に響き渡った。その真意を理解できたものはいるのだろうか……総司はこの裁判に対して異議を宣言した。判決に対する物でもなく、罪状に対する物でもなく……この裁判に対する物であった。

 

 総司は一つ息を吐くと、何処からか取り出したのかはわからないが、椅子に座った。

 足を組み、冷めた表情で裁判官を睨みつける。

 

 

「八神はやてという人間は地球に住む一市民だ。それを違う世界の法が裁くのはどういう了見だ?」

 

「ロストロギアを所持している時点でそのようなものは関係がないでしょう!」

 

 

 検事から反論が飛ぶ。チラリと視線を向け、少しだけ口角を上げつつ、総司は話を続ける。

 

 

「と、いうことはだ。貴様等は地球に流れ着いたロストロギアを八神はやてが所持したことに責任を追求するのか」

 

「え、ええ!!」

 

 

 ニタリとした笑みを浮かべる総司に言い知れぬ恐怖を感じる。口は笑っていても彼の灰色の瞳は一切の感情を含んでいないのだ。

 そして、ここまできてようやくはやては総司が何をいいたいのかを理解した。

 

 八神はやてという少女はある日偶然手に入れた闇の書を持っていたために罪に問われているのだと。ここ管理局、いやミッドチルダではそれは罪に問われるのかもしれない。だが、地球で本を所持しているだけで罪に問うことなどは出来ない。それが盗品であれば別なのだが、闇の書が盗品なわけでもないのだ。

 

 

「八神はやてという少女が闇の書を暴走させたことの責任を追求すると?」

 

「その通り!」

 

 

 総司はゆっくりと立ち上がり椅子を消した。

 この場においてその思惑を察することが出来たのはどれだけいるのだろうか……

 少なくとも断言している検事やそれに頷いている裁判官は理解していない。

 

 

 

 

 

 

「つまり、貴様等は地球に対して管理局の法を押し付けるというわけだな?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、裁判所の天井が消し飛んだ。

 

 破壊されたわけではない。ただ消し飛んだのだ。瓦礫が落ちてくることもなく、青空が突如として現れている……

 何が起こったのか、何故天井が消えたのか。

 

 

 

 

 

 

「理解しているか?その行為は我々に対する宣戦布告なのだと」

 

 

 

 

 

 

 少年の一番の理解者であるザフィーラは目を伏せ、心中でため息を吐く。

 この状況は全て総司の掌の上にすぎないのだ。そして、少年の心が昂ぶっていることを感じつつ、現在の状況が茶番であると察し、再度ため息を吐くのであった。

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