偽悪になった少年 R   作:茶ゴス

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A's 16th

 少年は少女の雰囲気が変わった事に気がつく。普段から任意で他人の思考や感情を読み解いていた少年だからこそ感じる機微。思考を読まなくても分かる。少女は今怒りの感情を抱いたのだ。

 

 ――世界を滅ぼした

 

 その一言がきっかけだったのだろう。あの場において管理局という組織に釘を刺すために行った行為。それが少女の怒りの琴線に触れてしまった。

 

 

「殺したんか」

 

 

 その一言に含まれる言葉、声が震えているのはそれだけ激怒している事を示している。今にも叫びちらしてきてもおかしくない様子である。

 

 

「言うまでもないだろう?」

 

 

 少年はあえて断言しなかった。それがどうなるのか、目の前の少女が傀儡となるか、自分の配下となりえるのかを見極めるためである。

 

 

「無論、元には戻した。あの組織にはまだ消えてもらっては困るのでな」

 

 

 その言葉が更に少女の怒りを煽る。

 元に戻したら何をしてもいいのか。生き返らせるのであれば人を殺してもいいのか……と。

 

 

「……あかんで、それは間違ってる」

 

「…………ほう?」

 

 

 少女は怒りを必死に押し殺し、小さな声で呟いた。それは少年の予想とはまた違った結果となったわけだが、少年はそれに不快感を持たなかった。

 寧ろ傀儡になることを選ばなかった少女に少しだけ安心していた。

 

 

「………」

 

 

 守護騎士達はただ、少年と少女を見つめていた。過去に闇の書の主を守るために人を殺めたり。闇の書が暴走し、結果的に世界を滅ぼしたりもした……

 故に口出しなどが出来るはずがない。目的のために人を殺める事は守護騎士達にも出来るからだ。それに対して少年を咎めることなど彼女達には出来ないのだから……

 

 

 

 

 しかし、ザフィーラだけは少年の真意を理解していた。

 手に持ったドッグフードをスナックのように食べながらため息を吐く。ここで彼が少年の真意を話してしまえば全てが丸く収まる話なのだが、ザフィーラは口を閉ざしている。

 良くも悪くも高町総司という少年は異端なのだ。物事を解決する術を持っていながらも思考の方向が普通ではない。それにより、多くの誤解を生むのだが、高町総司を王とするのであれば、それらを理解できるようにならなければならない。

 

 王とは孤高であり孤独な生き物であると誰かが言った。

 しかし、それは王という存在が孤高であることを決めつける妄言である。

 

 孤高の王がいる。仲間とともに歩む王がいる。力を持たずとも民を導く力を持った王もいる。

 王とは一面性を持たない存在であり、それを支えるのは配下の役目なのだ。

 

 故に口を閉ざす。ザフィーラだけが総司を理解しているだけでは意味が無い。高町総司という少年がどのような存在であるのかを主自らが理解できなければならないのだ。それには口答よりも実感するほうが手っ取り早い。

 ドックフードの袋の口をゴムで閉め、戸棚に片付ける。ザフィーラから口を開くことはない。彼はただ、主の歩む道についていくだけなのだから……

 

 

 

 

「……その方法だけは認められん」

 

「ならばどうする?」

 

 

 少女の言葉に少年は腕を組み問いかける。

 普通の人であれば論争し、少年を口答で矯正しようと考えるだろうが、少女はそんな考えは持たない。

 

 目の前の少年がどれだけ頑固なのかを理解しているからだ。いくら口で言ったとしても少年が聞くはずもない。しかし、力ずくで話を聞かせようにも目の前の少年は規格外なのだと理解できている……

 

 

「……でも、これしかない。力ずくで認めさせるで」

 

「よかろう」

 

 

 力量差など知っていようとも関係がない。少年と真正面からぶつかることが一番手っ取り早いのだ。

 怒りを抑えていようと殺人だけは許容してはいけないという考えが誰の目にも見て取れる少女を見た少年はゆっくりと立ち上がりリビングの扉へと向かっていく。

 

 

「一時間後。神社裏手の山へ来い」

 

 

 少年は外へ出て行ってしまった……

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 少女はソファに座り込む。足が動くようになったといえど、長時間立っているのは些か辛いものが有る。足が震えているのはそのためだと自分の中で言い聞かせながらも守護騎士達へと視線を向けた。

 

 

「はやて……」

 

「ごめんな。でも、殺しだけはダメや」

 

「わかっています……しかし……」

 

 

 シグナムの言いたいことは理解できる。少年は結果的といえど少女達のために世界を滅ぼしたのだ。更に元に戻した。それについて責める事などは出来るはずがない……しかし、それでも許容できないものがあっただけにすぎない」

 少女は深くため息を吐き、少年から渡された黒いチョーカーを握りしめる。

 

 大きく姿を変えてしまったが、これは夜天の書なのだ。自分はこれがなければ少年と戦うことすら出来ない。

 

 

「皆は別に戦わんでええで。これは私の我儘みたいなもんやし」

 

「いえ。我らは主とともにありますから」

 

 

 シグナムの言葉に守護騎士達が頷く。

 少しだけ気持ちが軽くなった少女はなれない手つきでチョーカーを首につける。何度か首を動かしてみるが特に邪魔だとは感じない。無駄に高性能であるのに腹が立つも、はやては昨晩の感覚を思い浮かべる。

 

 魔力は感じることが出来る。しかし、あまり魔法を行使する自信はなかった。故に彼女を探す。

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた……」

 

 

 そして見つける。チョーカーの中で座っているような感覚。銀髪の女性を思い浮かべ、彼女を現世に顕現させる。

 

 これで手札は全て集めた。少女には5人の騎士と魔法がある。対する少年は摩訶不思議な力を秘め、それこそ無数に手札を持っているだろう。

 

 

 改めて感じるこの戦いの無謀さに少し笑いがこみ上げてくるも、少女は自分達の騎士へと問いかける。

 

 

 

 

 

「どうやって勝とうか」

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